20話 ファラウェイ試乗会 ―3―
「アキタカさんが元気になったら出発ですね」
「あぁ。今のうちに村でやること済ませとけよ。特にキティは」
「平気。特にない」
ヴァンガード村の面々は、今日この後、村長のジョージを含む偵察部隊が村の状態を確認しに行き、早ければ明日にでも村へと戻る予定でいる。
掃除やその他、住めるようにするための準備がかなり手間取りそうではあるが、それでもやはり生まれ育った村に帰りたいと思う者が多いようで、なるべく早く村へ戻りたいのだそうだ。
にもかかわらず、キティはさっぱりとしたもので――「引っ越しの荷物はパパに任せておけば問題ない」――と、小さな木箱に自分の荷物を詰め込んでジョージに託したのみだった。
キティは、もともと平穏な小さな村で満足出来るタイプの娘じゃなかったかもしれないな。冒険を目の前に、表情に乏しい瞳がきらきらしている。
むしろ、平穏な村に閉じこもっていたせいで表情が抜け落ちてしまったんじゃないかと思えてくるほどだ。
「本当にいいんですか? なんなら、村で少し過ごしてからでも……」
「いい。早く出発しなければ、パパの気が変わってしまうかもしれないから」
うまく言いくるめてその隙に村を飛び出すつもりのキティは、一秒でも早く出発したい様子だ。……まぁ、決してうまくはなかったけどな、あの説得は。
「巻きで撮影してくる」
「なぁキティ、キリッとしてるとこ悪いんだけど……どこで覚えてくるの、そういうの?」
「あぁ、あれですね! お尻キッチン!」
「ケツカッチンだな、お前が言いたいのは」
アミューよ。お尻キッチンはきっと卑猥なサービスのお店か何かだ。
知らないなら黙っていればいいのに。
「じゃあ、二人ともよろしくね。あたしはアキタカを見ているから」
ビデオ片手に村人の元へ向かいかけていたアミューとキティに手を振るマーサ。
マーサは残るつもりのようだ。
「マーサさん、行かないんですか?」
「あたしが行ってもすることないでしょ?」
確かに、ビデオの操作はアミューが出来るし、村人との円滑なコミュニケーションならキティがいれば十分だ。
マーサは手持ち無沙汰になるかもしれない。
「病人のそばにいるのが、あたしの本分だからね」
「いや、俺……病気じゃないんだが?」
「なに言ってんのよ。ふらふらで立てないんじゃ、病気と一緒でしょ。もしここで魔獣に襲われたらどうするの?」
そんな非常事態に陥ったら……マーサがいても助からないと思うんだが。
「それに、体力が落ちている時は誰だって不安になるものだし。そばに誰かがいてくれるだけで救われることだってあるでしょ?」
風邪引いた時とか、誰かが看病してくれたらなぁ~……なんてのは独身男のお決まり妄想の一つだけど。
そばにいてくれるだけで、か。それは確かにそうかもな。
「じゃあ、頼もうかな」
「よろしい。センセイにど~んと任せておきなさい」
張った胸をドンと叩いて、マーサが会心の笑みを浮かべる。
と、その背後からキティが忍び寄り、マーサの顔をなめるように覗き込みつつ前へと回り込む。すなわち、俺とマーサの間に体を割り込ませてくる。
「…………じぃ~」
「ぅへいっ!? な、なによ、キティ」
「………………二人っきり?」
「なっ!? べ、別に、そんな、なんか意味があることじゃないでしょ!? た、たまたま二人になるだけで!」
「…………………………ほぅ」
「なによ、その疑わしいみたいな目は!? い、いいから、あんたたちは早くビデオレターを撮影してきなさいよ! 時間ないんでしょ!」
キティは、何かが気に入らない様子でマーサに突っかかっている。
マーサが来ないのがそんなに寂しいのかよ……子供か。……あ、子供だっけな。
見た目と年齢が逆転している感のあるマーサとキティだが、しっかり者のお姉ちゃんよろしくマーサはキティの背中を押して立ち退かせる。
「随分と懐かれたもんだな」
「は、はぁ!? だ、誰があんたに懐いてるのよ!? お、おかしなこと言わないでくれるかしら!?」
え? いやいや。
お前が俺にじゃなくて、キティがマーサに、な?
「だ、大体っ、あたしの方がアキタカより社会人としてしっかりしてるんだから、懐くのはアキタカの方よ! もっと甘えなさいよ、まったく」
「甘える…………抱っことか?」
「な、何言ってんのよキティ!? そこまで甘えさせたりしないわよ! もう、アミュー! キティを連れて早く行きなさいよ!」
「そうですねぇ……キティさんが何か拗ねてしまったようですし……」
マーサに突っかかるキティを見て、アミューがほふぅっと息を漏らす。
「アキタカさんが回復するのを待ってから行きましょうか」
「いや、いいから行ってこいよ。ぽんちゃんがいてくれりゃすぐだから」
俺が横になっている様をお前ら三人に見守られるって、……介護かよ。
あまり時間を食えば出発がまた延びる。
日の高いうちにある程度移動して、今日の寝床を探さなければいけないのだ。
時間は無駄に出来ない。
「アミュー、キティ。俺たちの分まで、しっかりといいコメント撮ってきてくれよ」
「……まぁ、アキタカがそう言うなら」
「分かりました。では、砦の兵士さんの信仰心をかき立てるようなコメントをもらってきますね!」
そうして、アミューが先行し、二人は揃って撮影に向かった。




