20話 ファラウェイ試乗会 ―2―
「それじゃあ、とりあえず一台だけ増やすか」
「そうですね。わたしはあまり乗らないかもしれませんが、故障した際の予備として持っておいた方がいいでしょうね」
他の女神の遺産と違って、外で乗り回す『ファラウェイ・スマート』は故障する可能性が高い。
予備は欲しいところだ。
「それじゃ……『女神の分裂』!」
MP残量はばっちりだ。
『女神の分裂』を発動する。
【女神魔法『女神の分裂』の発動を確認しました。こちらの指示に従って儀式を実行してください】
よぉ~し!
さっさとこい!
こういうのは開き直りが大切なのだ。
幸い、今この場所には俺たちしかいないしな。
このメンバーになら、もう何を言われても平気だ。
【……あの】
ん?
なんだよ。
ほら、呪文を教えてくれよ。
【実は……、前回『次回はもっと面白い感じにします』とか言っちゃったんですが……】
あぁ、言ってたな、確かに。
【変にハードル上がっちゃったなぁ~って、妙なプレッシャーに押しつぶされそうで…………前回から今この瞬間まで動悸息切れが……】
プレッシャーに弱いの!?
自分で言ったんじゃん!
【あの……そのぉ…………普通で、いいですか?】
いいよ!?
むしろこっちは面白いのとか一切期待してないから!
前回くらい普通な感じがベストかな、俺的には!
【ほっ……よかった。…………アキタカって、やさしいのね】
ちょっといい感じになったクラスメイトの女子みたいな反応やめい!
【なによっ、……ぷん。アキタカの……ばか】
幼馴染みか!?
言われてみたかったわ、そーゆーの!
こーゆー場面じゃないところでな!
【では、呪文をお伝えします】
急に事務的!?
まぁ、さっさと教えてくれ。
【『むか~し、むかし。あるところに、桃太郎とおばあさんが住んでいました』】
おじいさんは!?
年齢的にも職業的にも、「何かあったんじゃないかな?」ってはらはらするんだけど!?
【『おばあさんが川へ洗濯に行くと、またしても大きな桃がどんぶらこと』】
もういいだろう!?
家にいたよ、桃太郎!?
それより、おじいさんどこ行ったのかを教えて!
【『そして、なんやかんやありましたとさ。めでたしめでたし』】
おじいさんは!?
おじいさんの安否が確認出来ない以上、ハッピーエンドだとは思えないんだけども!?
【さぁ、どうぞ】
……ちきしょう。
毎回毎回突っ込まずにはいられない呪文を寄越しやがって……
やるよ。
やればいいんだろうが……
「むか~し、むかし。あるところに、桃太郎とおばあさんが住んでいました」
「いや、アキタカさん! おじいさんは!? 年齢的にも職業的にも、『何かあったんじゃないかな?』ってはらはらするんですけど!?」
うん、そうだよな。
そう思うよな、アミュー。
桃太郎を知ってる人ならみんなそう思うよな!?
でもこれ、呪文なんだ。
「おばあさんが川へ洗濯に行くと、またしても大きな桃がどんぶらこと」
「もういらないでしょう!? 家にいましたよ、桃太郎!? それより、おじいさんどこ行ったのかを教えてください!」
ちょっと恥ずかしいくらいに同じこと思ったよ、俺も。
でもこれ、呪文だから。
「そして、なんやかんやありましたとさ。めでたしめでたし」
「おじいさんはぁー!? おじいさんの安否が確認出来ない以上、ハッピーエンドだとは思えませんよ、アキタカさん!?」
ごめんね、これ呪文なんだわぁ!
【女神魔法『女神の分裂』を発動します】
俺とアミューの心にもやもやしたものを生み出して、『女神の分裂』が発動する。
眩い輝きと共に『ファラウェイ・スマート』が二つに分裂する。
……くっ、なぜか二つ並んだ『ファラウェイ・スマート』がダブった桃太郎と重なって、いなくなったおじいさんを一層思い起こさせる……!
「うぅ……もやもやします」
アミューも浮かない表情を見せている。
「このもやもやを解消するためには、あるところにおじいさんとおじいさんがいた昔話を作らなければ……」
「なにその時代劇風味のBL?」
ジジイとジジイが仲睦まじく暮らしている話なんぞ、余計もやもやするわ。
「そこへさらに桃太郎が……」
「獣の中にエサを放り込むような展開しか想像出来ないからやめたげて!」
その道のプロの中に無垢な少年を放り込まないで!
「アキタカさん……もし女神の遺跡でペンタブレットが発見された暁には、わたしに譲っていただけますか?」
「お前、どんな薄い本を描くつもりだ!?」
もしペンタブが見つかったなら、見つけ次第即封印してしまおう。
純真無垢な桃太郎少年のためにも。
――と、そんなアホな会話のせいで、MPに続いてHPまでがっつりと持っていかれてしまった。……もう、倒れそうだ。
「早くレベルアップがしたい……」
最大MPが500くらいあれば、50の消費なんか屁でもなくなるかもしれない。
せめて三桁に届きたい。一秒でも早く。
「が~ぅ~」
「あぁぽんちゃん。可愛いよぽんちゃん。最高だよぽんちゃん」
MPが枯渇した俺の元へ、ぽんちゃんがよちよち歩いてくる。
待ちきれず抱き寄せ、ふわふわした首回りに指を這わせる。あぁ~もふもふする。
「アキタカさんのMPが戻るまでの間、村の方たちにお願いしてビデオレターを撮影してきますね」
「おぅ、頼む」
後日になるが、もう一度砦へと戻り、ヴァンガード村出身の兵士たちに見せてやろうと思っているのだが、それにはある目的が隠されている。……いや、隠してはいないが。
「アキタカに言われたとおり、さりげなく神獣様を信仰するようメッセージに含ませておく」
「頑張りましょうね、キティさん! 思いっきりステマしましょう!」
キティの言うように、村の者たちに神獣信仰を訴えかけてもらうのだ。アミューの言う露骨な感じではなく、あくまでさりげなく。
身内に言われれば、俺たちが訴えかけるよりも効果があるだろう。
ビデオレターで、「女神と神獣のおかげで村が救われたのよ~」とでも言ってもらえれば、信仰心が芽生えるヤツも出てくるだろう。
出来れば、「女神様の力を増大させるために信仰してね☆」とか言ってもらえれば尚効率的かもしれない。
「アミューと協議した結果、『信仰心のない人とは離婚』――と、言ってもらうことにした」
「えげつない! もうちょっとまろやかなステマは出来ないかな!?」
あぁ、俺もステマと認めてしまった……
まぁ、ステマなんだよな、実際。……ステルス感ゼロだからダイレクトマーケティング――ダイマかもしれないが。




