19話 ファラウェイ・スマート入手作戦 ―1―
「ちゅじゅっ……続きましては、こちらの商品でぃす!」
「わぁ、とっても可愛い外套ね。明るい色だし、それにとっても軽くて着やすそう」
「おんなのこならみのがせないいっぴんですねー」
カメラの前で、女子三人がなんともわざとらしい演技で商品を褒め称えている。
笑顔がぎこちない。
ほらほら、もっと自然に笑え~。
「きょにょっ、この外套は! えっと、雨風をしにょぐだけでなきゅ! びょふっ、防寒対策もばっちりで!」
「わぁ、裏地の肌触りが最高! ずっと撫でていたいわぁ」
「おんなのこならみのがせないいっぴんですよー」
……噛みまくりのアミューに、胡散臭さ爆発のマーサ、そして思いっきり棒読みでバリエーション皆無のキティ。
深夜、適当にテレビをつけてこんな通販番組をやっていたら、二秒で消すな。
「どうですきゃ? 欲しくなったでしゃう?」
「う~ん、確かに欲しいんだけどぉ……」
「でも、お高いんでしょう?」
「ところがすっとこどっこい!」
「――『すっとこ』いらないわよ」
「さり気ない自己紹介」
すっとこどっこいなアミューをフォローするマーサとキティ。
……もうちょっと小声で言えな。ばっちりマイクに拾われてるから。
「こちらの外套、なんと今回は――」
「「どるるるるるるる……(ドラムロール。なお、巻き舌は出来ていない)」」
「じゃじゃん! たった1800Dsでのご提供ですっ!」
「「わー、やすーい!」」
「数に限りがありますので、是非お早めにゅっ!」
「「最後に噛んだ!?」」
ん。
なんかオチも付いたのでカメラを止める。
「…………はい、オッケー」
「「「にゃはぁ~…………」」」
俺のオッケーを聞いて、三人娘がその場にへたり込む。相当緊張していたようだ。
「っていうか、アミューは噛み過ぎよ」
「やはは……わたし、女噛みですから……なんちゃって」
「…………」
「…………」
「…………あ、女噛み……とか言っちゃって」
「…………」
「…………」
「せめて何か言ってください!? スルーは一番つらいですっ!」
あがけばあがくほど深みにはまっていく。
アミューよ。滑ったギャグはアリジゴクのごとしだぞ。
「うんうん。面白いネぇ~」
完成した動画を確認しながら、行商人カルロがご満悦の笑みを浮かべている。
カルロにとても懐いている狼たちも、嬉しさが伝染したのか、カルロに身を寄せて甘えまくっている。
さっき聞いたのだが、こいつらは魔獣ではなくこういうタイプの獣なのだそうだ。
魔獣と獣の差が分かりにくいのだが――
「魔王のシモベが魔獣です!」
――と、アミューが分かるような分かんないような説明をしていたのでそうなのだろうと思うことにした。
とりあえず、ここの狼たちに害はない。
ぽんちゃんは物凄く怖がって、ずっと俺たちが借りている家に閉じこもっちまっているけどな。
連れ出そうとしたらすっげぇ拒否された。……MPの回復したいんだけどなぁ。
「くふっ、くひゃははは」
と、何度か笑い声を漏らして、カルロは満足そうに動画の停止ボタンを押した。
「これを馬車に設置して流しておけば、お客さんがたくさん買ってくれるかもしれないネ」
ま、要するにだ。
『ファラウェイ・スマート』を手に入れるために、俺たちは『ファミリー撮っちゃお』を差し出そうというわけだ。
しかも、商品の宣伝動画もつけて。お得だろ?
……いや、実はな。『ファミリー撮っちゃお』は女神の遺産だって説明したのだが、「巨人の糸車は歴史的価値のある貴重な文化財ネ。対等な価値でないと譲れないネ」と突っぱねられてな……イドバシじゃ似たような値段で売っていたんだけどな。むしろ『ファミリー撮っちゃお』の方が数万円高いんだが……
そこはそれ。
この世界の価値観というものもあるわけで。
自分の持っている素晴らしいものを、他人の持っているどこの何かも分からん物と交換するのは抵抗があるらしい。ま、分からんではない感覚だ。
「ねぇオニーサン。これの使い方教えてネ。今後はアタシが撮影しなきゃだからネ」
覚えたての言葉を使って、もう一端のカメラマン、いや、ディレクター気取りのカルロ。
動画だの撮影だのって言葉は初耳だったようだが、すでに使いこなしている。
「操作は簡単だから、実際やってみればすぐ覚えると思うぞ」
「そうネ。習うより慣れろというものネ。じゃあ、やってみるネ!」
習うより慣れろ……というより、もう弄りたくて仕方ないって顔でカルロは言う。
今のうちにあれこれ弄って、分からないことが出てきてから俺に尋ねる方がきっと覚えられるだろう。
そんなわけで、数本の宣伝動画を撮影して見せた後、俺はカルロに『ファミリー撮っちゃお』を手渡した。
「それじゃあ、ウチの商品の宣伝動画を全部撮るネ! これ、物々交換の条件ネ!」
「「「ぜ、全部……」」」
カルロの巨大な馬車に並ぶ数々の商品を見て、アミューたちが揃って顔を青ざめさせる。
本当なら、常に商品が入れ替わる行商人がすべての宣伝動画なんぞ撮る必要はないのだが……まぁ、手に入れたオモチャで遊びたいってのが本音だろう。
カルロが満足すればきっと解放してもらえるさ。
それまでは、みんな――頑張ってくれ!
「はぁあ!? アキタカさんが敬礼して家に帰ろうとしてますよ!?」
「ちょっとアキタカ! あなたも手伝いなさいよ!」
「せめて見守っていてほしい!」
なんだかんだと非難されるが、俺の出る幕なんてないのだ。
なにせ――
「なぁに、宣伝動画なら、アミュネット・バンバにお任せしとけば大丈夫だ!」
「ふぁああ!? 今その名前出さなくてもいいじゃないですか!?」
アミューが付けたこの世界の名前だ。
だから、マーサもキティも、アミュネット・バンバ人なのだ。
な?
俺なんかが手を貸さなくても、お前らそーゆーの得意そうな人種じゃん。名前からしてさ。
「く……なぜそんな名前にしてしまったのか……今さらながらに後悔の念が……」
おそらく思いつきで付けたのであろう名前を悔いる女神。
なかなか見られる光景じゃないよな、うん。
……すったもけの女神も盛大に反省していてくれることを願うぜ、マジで。
「それに、アッチはアッチで早くやってやらないと暴動が起こりそうでな……」
ぞくりと背筋を冷やす悪寒を感じつつ、『アッチ』へと視線を向ける。
そこは、先ほどまで和気藹々と可愛らしいネコ動画鑑賞会が開催されていた場所であり、現在は「……は? 『ファミリー撮っちゃお』あげちゃうって、私らになんの相談もなく決めていいと思ってるわけ? え、なに? 私らからネコ動画を奪おうって、そう言うわけ? へぇ~、すごい勇気だねぇ…………刺・斬・突・折・粉砕のどれがいいか選んでくれる?」みたいな殺気を放ちまくっている系女子がたむろしているエリアだ。
う~っわ。深夜のコンビニの前よりも治安悪そうだな、あそこ。すっげぇガン飛ばしてくんだよなぁ、ここの女子たち。
必要があって、一時的に『ファミリー撮っちゃお』を引き上げたのだが、それ以降ずっと睨まれっぱなしだ。
キティ曰く……
ヴァンガード村の女子たちは、かーなーりー根に持つタイプらしくて……国をまたいだくらいじゃ逃げきるのは不可能なんじゃないか……ということらしい。
……そんなことで復讐とかされちゃたまらんよなぁ。
それに、俺たちだって折角手に入れた『ファミリー撮っちゃお』をみすみす手放すわけにはいかない。
というわけで、今現在カルロが手にして弄くり倒している『ファミリー撮っちゃお』は、つい先ほど俺が『女神の分裂』で増やした二台目なのだ。
……えぇ、実は今倒れそうです。
なんとか踏みとどまりましたが。で、ぽんちゃんを膝に抱いてMP10程度までは回復させましたが。
で、なぜ今になってもなお睨まれ続けているのかと言えば……村の女性たちのためにもう一台『ファミリー撮っちゃお』を増やすためだ。
実は先ほど、アミュー、キティ、それにマーサと協議した結果、俺たちと村の安寧のために特例として、『ファミリー撮っちゃお』をもう一個増やして置いていってあげようという結論に至ったのだ。……でないと、夜道で狙われかねないからな。
というわけで、現在『ファミリー撮っちゃお』は俺の手の中にあるのだけれども……そんな睨むなよ。エサの準備してやってるのに「早く寄越せ!」ってスネあたりをバシバシ攻撃してくる飼い猫か、お前らは。もうちょっと待ってろよ、ったく。……とは、怖くてとても言えないのだけれども。
だがいかんせん、『女神の分裂』はMPの消費が激しい。
なので、ヴァンガード村用のはあとで――ということになっているのだが…………「早くしろよ」的な圧迫感がハンパないのだ。……早く増やして楽になりたい。
「だから、ぽんちゃんとこ行ってMPを回復してくるよ」
「ぽんちゃん、連れてくればいいじゃないですか!」
「いや、マジ泣きするから。狼が怖くて」
……ウチの神獣、肝っ玉小さいんだよなぁ。
そんなわけで、俺は宣伝動画の撮影には立ち会えない。
さくっとMPを回復させて、まず『ファミリー撮っちゃお』を増やし、その後『ファラウェイ・スマート』に『女神の加護』を使用しなくてはいけない。
そして、可能であれば『ファラウェイ・スマート』も増やしておきたい。
とにかく、MPが必要なのだ。
ホント、倒れてもおかしくない労働条件だ。
……さっき『ファミリー撮っちゃお』を増やした時も、よく倒れなかったなと、自分で自分に感心したくらいだもんな。
「それじゃ~ネぇ。お胸の大きくなる怪しい薬の宣伝をネぇ、メガネの娘をビフォー、お胸の大きいオネーサンをアフターとして撮影するネ」
「誰がするかー!?」
「わたしもお断りですよ!?」
ビフォーとアフターが猛抗議を入れる。
つか、それじゃあ詐欺じゃねぇか。
販売員として、詐欺動画は見過ごせない。
正々堂々、商品をよく見せるレベルまでの工夫で動画を撮影するように申しつけておく。そうでなければ、女神の遺産が詐欺被害を生み出すことになりかねないからな。
とはいえ、注意は出来ないんだけどな。話題的に。
「アキタカ」
俺の顔をじぃ~っと見つめて、キティがとんでもないことを呟く。
「もしかして、『コレがコウになるわけないだろう』……と、言いたいの?」
「ななななななななにを言い出すんだ、キティ!?」
「へぇ……アキタカ…………この世に未練とかないんだ……へぇ~……」
「待て待て待て! 俺は言ってない! 言ってないったら言ってない!」
確かに言いたかったけど!
でも言ってないならセーフだろうが!
地雷原でオクラホマミキサーを踊りまくりながら、目についた地雷を手当たり次第放り投げてくるキティ。それが無自覚というか、悪意による行為じゃないのがまた……あいつはなんて危険人物なんだ。
危険といえば身に纏った暗黒のオーラをこちらへ向けてくるマーサもだが……うん、俺はここにいない方がいいだろう。よし、逃げよう!
「じゃ! 俺、ぽんちゃんと仕事してくるから!」
『ファミリー撮っちゃお』待ちの女子たちを含め、危険人物しかいないその場所から撤退する。戦略的撤退だ。命あっての物種だ。
楽しいショッピング~、とはかけ離れた殺伐とした雰囲気の充満するその場を離れ、俺は安全な室内へと駆け込んだ。




