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家電転移~永久名誉店員になった俺は家電の能力(チカラ)で異世界を救う~  作者: 宮地拓海


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18話 行商人と掘り出し物 ―1―

 馬車を見ると客足は落ち着いていた。今ではほとんどの女子が動画に釘づけになっている。……すごいな、ネコ動画。年に数回しか来ない稀少な行商人に勝っちゃったよ。

 おかげでスペースも出来ているし、ゆっくりと店の商品を見せてもらうことにしよう。


「あ。でも俺、金持ってねぇな」

「え!?」


 驚きの声を上げたのはマーサだった。


「どうやって旅してるのよ?」

「いや、王様から馬車借りたり、食料分けてもらったり」

「ヴァンガード村の皆さんにお裾分けしていただいたり、ですね」

「はぁ…………あんたたちさぁ…………」


 眉間を摘まんで首を振るマーサ。

 なんか、すげぇ呆れられてる。


 いや、だってよ。

 俺は会社に勤める以外に金を稼ぐ方法なんか知らないし、こっちじゃフリーターみたいなもんで、給料が発生する組織に入ったことがないんだよな。

 女神の遺産を使えるようにしているのは、あくまでアミューへの信仰を集めるための人助けだから金を取るわけにもいかないし。


「いいわ。あたしがサスーンポーションの売り上げの一部を提供してあげる」

「いや、いいよ。そんなことしてくれなくて」

「お金も持たずにやっていけるほど、世の中甘くないのよ!?」


 おぉう……めっちゃ怒られた。

 そこまで世間からズレているつもりはないのだが……

 じゃあなにか? 冒険者ギルド的なところに行って仕事でももらってくればいいのか?


「お金を稼ぐ方法は、追々あたしが考えるわ。最悪の場合あたしの薬を売り歩けばいいとして……アキタカとアミューに出来ることでお金を稼げるようにするのが理想よね」

「な、なんだか、お母さんみたいですね、マーサさん」

「あんたたちが頼りなさ過ぎるのよ」


 マーサが呆れて嘆息する。

 小柄なマーサが頼もしく見えてくる。身長だけなら小学生にしか見えないのに。


「……今、何か失礼なこと考えなかった?」

「はは、まさかぁ……」


 しかも鋭い。

 マーサには逆らわない方がいいかもな。


「とりあえず、行商人の店で珍しいものがあったら安く仕入れて、別の街で転売しましょう」

「きしゃー!」

「なっ、なによ!?」


 逆らわないと決めた直後だが、ついつい威嚇してしまった。

 これはもう職業病だ。


「悪い、マーサ。職業柄、つい転売ヤーは敵だと認識してしまって……」

「てんばいやーってなによ? 交易は極当たり前の商売でしょう?」


 あぁ、そうだ。

 分かっている。

 交通手段が発達していないこの世界では、街から街へ物資を運ぶだけでそれが商売となる。

 ネットでワンクリックすれば商品が届くような世界ではないのだ。

 だが…………だがっ!


 転売って言葉がど~~~~~~にも好きになれないのだ。

 俺たちが必死に勉強して知識を蓄えて、毎日何時間も立ちっぱなしで接客してさ、それ以外でもレイアウト考えてポップ考えて、来る日も来る日も笑顔でご相談やクレームに対応して、それでやっと買っていただける電化製品を……ネットオークションで軽々しく転売しやがる連中を、どうして好きになれようか!?

 商品の説明とか、公式HPからコピペしてきただけのくせに!

 相容れない!

 商品とは、お客様の顔を見て、心に触れてお届けする物なのだ!

 安く仕入れてワンクリックで出品とか、そーゆーんじゃないんだ!


「よし、こうしよう。売るなら定価で売ろう」

「それじゃ利益出ないでしょうが」


 販売店の立場も考えろー!

 高く売られるのもこっちの企業努力を否定されているみたいで癪だし、安く売られるのもお客様を取られて癪なのだ!

 要するにネットオークションは敵だ!


 最新版を、店舗で買ってください!


 ……はぁ、はぁ……失礼。興奮し過ぎてしまった。


「アキタカには、心のケアが必要なのかもしれないわね……」

「いや、そこまではしなくて大丈夫だ、もう落ち着いた」


 ちょっとした職業病だ。

 お医者様でも草津の湯でも、この病ばかりは治せはしない。


「とにかく店を見てみましょう。金になりそうな物を見繕ってあげるわ」


 マーサの瞳がお金の色に染まる。『$』とか浮かんできそうだ。

 ……そういえば、この国の通貨って、単位なんだろうな?


「なぁ、マーサ。この国のお金ってなんて単位なんだ?」

「そこから!? えっ!? 本気で!?」


 すげぇ驚かれてしまった。

 いや、そりゃな、二十歳もとうに過ぎた大人が、「日本のお金って単位なに?」とか聞いてきたら「あ、こいつやべぇ!」と思うかもしれないけどさ。俺ら他所から来た、いわば外国人だからさ。つか異世界人だし。

 そういう基礎知識とかないんだって。


「アキタカさん。ここは正直に話した方がいいかもしれませんね。アキタカさんのことを」

「そうだな。この二人は信用出来る。何より仲間だしな。信じて告白してみるか」

「はい。では」


 アミューがマーサたちに向き合い、すっと息を吸う。

 正直に話しておけば、変な心配をかけることもなくなるだろう。

 俺は黙って事の成り行きを見守る。


「キティさん、マーサさん。実は……アキタカさんは、異世界の人間なんです」

「大丈夫!? アミュー、あなた、何か心に闇でも抱えているの!?」

「アミュー……いよいよ深刻な状態に……」


 逆に心配されたぁ!?


「い、いえ、嘘でも酔狂でも末期症状でもなくて、本当にアキタカさんは異世界人なんです! すったもけ人なんです!」

「そんなふざけた名前の人種がいるわけないでしょ!?」


 おぉ~っと、俺の故郷の神様が完全否定されちゃってるな。

 愛着もない名称だが、それはそれでショックだぜ。


「本当です! すったもけという世界では、すったもけの女神を崇めるすったもけ祭りが開催され、集まった高位生命体が輪になってすったもけ踊りを夜通し踊り続けるという風習が!」

「それは俺も初耳だけど!?」

「人間が認識出来る領域を超越した超高々度思念体なんです。アキタカさんの脳で理解しようとすれば一瞬で脳みそがカニ味噌になります!」

「カニ味噌にはならねぇだろ、何があっても!?」

「それくらいに高度な生命体なんです!」

「そんなヤツらが夜通し踊るのか、すったもけ踊り!?」

「オールナイトでフィーバーフィーバーです!」

「バブリーだな、オイ!?」


 今明かされる世界の真実。……知りたくもなかったが。

 そんなやりとりをする俺たちを見て、キティは静かに涙を拭い、マーサは怪しげな薬を調合し始めていた。


「…………二人のことは、忘れない」

「まだ間に合う……あたしが二人を助けるの……幻と言われた奇跡の調合を完成させて……っ!」

「ちょっと待ってください! そんな深刻な話じゃないんです! ギャグでもなんでもなくて、事実なんですってば!」


 いやいや。

 超高々度思念体が出てきたあたりからほぼギャグにしか聞こえなかったぞ。


 まぁ、とりあえず、なんだ……

 異世界人だなんだって話、いきなりしても信じてもらえないよな、普通に考えて。

 ……こっちはお前らを信じて話したつもりなんだが、向こうはこっちを信じてくれない。そんなこと、よくあることさ…………ふん。


「アキタカとアミューの病気は追々カウンセリングするとして……」


 こらマーサ。勝手に人を心の患者にするんじゃねぇよ。


「今は行商人のお店を見せてもらいましょう」

「アキタカ。迷子にならないように手、つないであげる」


 おいキティ。どっちかっていうと、迷子になるのはお前の方だろうが、年齢的に。

 人を世話の焼ける弟みたいな扱いしやがって。


「アキタカさんが異世界人なばっかりに、わたしまでイタイ娘扱いを……理不尽です」

「要所要所で言ってるけどさ、お前だからな、俺をここに連れてきたの!」


 頼まれてここに来たんですけどねぇ!?


「はいはい。ケンカしないの二人とも。はぐれちゃダメよ」

「お前は母親か、マーサ……」


 だがしかし、キティとマーサは比較的真面目な様子で、俺はキティに、アミューはマーサにしっかりと手をつながれて、行商人の店へと連れて行かれた。

 ……子供か、俺ら。


「アキタカさん……わたしたちって、……なんなんでしょうね」

「めげるな。正義が無条件で信用されるなんてのは思い上がりだってことだ。不遇の立場から逆転する系の主人公だっていっぱいいたろ? それなんだよ、俺たちは……きっと」


 人は、真実ほど信用せず、多少の嘘を交えた「本物っぽいニセモノ」こそを信用しがちなのだ。

 もしどこかの製薬会社が、本当に飲むだけで痩せる薬を開発したら、人々はこう思うだろう。「危ない薬に違いない」と。

「どうせ効かないんでしょ?」くらいの胡散臭さがある方が、人々はその商品を手に取るものなのだ。……悲しいかな、それが人間という生き物なのだ。


 けれど、いつか信じてもらえる日が来る。

 ……今は、そう思って強く生きよう。



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