16話 仲間に加わった、仲間に加わった ―5―
「アミュー殿、マーサ殿。いつまで外におるのだ。早く中に入って話を……おぉ、アキタカ殿! 気が付いたのか!」
噂をすれば――ではないが、ジョージが顔を覗かせた。
村を救った功績を認められたのか、俺たちそれぞれに『殿』が付けられている。
「あ、ジローさん」
「ん? ……じろー?」
アミューの出した謎の人物の名に、ジョージは他の誰かがついてきているのではないかと後ろを振り返り確認する。
悪いな、ジョージ。それ、お前のことなんだ。
「パパ、いや、ジロー。話がある」
「言い直すな。パパでいいだろうが。で、ジローでは絶対ないから」
キティが真剣な顔でジョージの前に立つ。
ふざけた発言とは裏腹に、鬼気迫るほどに真面目な表情だ。
「私、アキタカたちと一緒に旅に出たい」
「なにを言っておるのだ、キティよ。お前はまだ子供ではないか」
「それは違う……ここ数日、アキタカと一緒にいて……、私はもう大人になった」
「なにぃ!?」
「そういう意味じゃないからこっちを睨むな、親バカ! そしてキティ、誤解を招く言い方をするんじゃない!」
「ヴァンガード村で、馬車の上で、森の中で、私たちはいろんなことをした。あんなの、初めてだった」
「誤解に拍車をかけないで、キティ!?」
「初体験だった!」
「サンバライダーとか、ヤミとの遭遇とか、そういうのがだよね!?」
「冒険した!」
「違う意味に聞こえちゃうんだ、この流れだと! いい加減理解して!」
くっそ!
なんで俺がこんな一気に突っ込まなきゃいけないんだ。
俺のHPが尽きたらお前らのせいだからな!
「もう、決めたの」
「勝手は許さん。お前の人生を導くのは、父であるワシの役目だ。子供は親の言うことを聞いていればいいのだ」
「そんな考え方だから、パパは年々加齢臭がキツくなる」
「なっ!? そ、そこは関係ない……はず…………だよ、ね?」
「いや、俺に聞かなくても分かるでしょうに! そんなわけないって」
ほっと胸を撫で下ろすジョージ。
あんたはちょっと素直過ぎるよな。キティの悪言に踊らされ過ぎだ。
「そんな考え方だから、パパはやがて毛根が死滅する」
「はぅっ!? ……す、少し、考える時間をくれないか……」
「揺れ動くな、そんなことで! 毛根も関係ないから!」
こいつら親子は、今までもこんな感じで娘のわがままを聞き入れてきたのだろうな。
……だからキティがこう育っちゃったんだよ。
「いや、しかし! 危険な外へと娘を行かせるわけにはいかない。どこの世界に、最愛の娘の命を危険にさらして平然としていられる親がいるものか」
それは、親としてまっとうな意見だ。
愛する家族には、いつまでもそばにいてもらいたい。
危険な場所になど、行ってほしくはない。
これは、さすがのキティも覆すことは出来ないだろう。
どんな屁理屈をこねようと、親としてはそれが真理なのだから。
「行かせてくれないと、パパ嫌い」
「ぐっ! ………………き、嫌い……でもっ! ダメなものはダメだ!」
おぉっと、乗りきった!
正直、この切り札を使われるとジョージなら折れるかと思ったのだが、ここを乗りきれば、もうジョージは何にも揺るがないだろう。
キティの負けだな。うん。やっぱお前は村に残った方がいいよ。
――だが、キティはそんな生半可な少女ではなかった。
「行かせてくれたら、パパ大好き」
「ほぅっ!?」
揺れ動いてるぅ!
「大きくなったら、パパのお嫁さんになる」
「行ってこい! 行って、大きく成長して、そしてパパのもとに帰ってくるのだぞ!」
オッサン、陥落ぅー!
……ダメだ。このオヤジはつくづくダメなオヤジだ。
「というわけだから、ぽんちゃん共々よろしく」
「アミュー……」
こいつらがこんなこと言ってるぞと、アミューに視線を向けると。
「アキタカさん。しっかり面倒を見てあげてくださいね」
完っ全に丸投げされてしまった。
……薄情者め。
「私がいないと、アキタカたちには戦闘力が皆無」
「まぁ、確かにそれはそうなんだが……」
RPGで言えば、俺たちは魔法使いと僧侶と遊び人みたいなパーティだしな。
戦士であるキティがいてくれると心強いことはたしか、か。
ん? 遊び人? アミューだが?
「アキタカさん」
少し諦めたような、でもどこかでほっとしたような、そんな微苦笑でアミューが言う。
「連れて行ってあげましょう」
まぁ、そういう結論にたどり着くよな、そりゃ。
「そして、キティさんの戦力に期待しましょう。アキタカさんが片手で魔王を倒せるようになるその日までは」
「こねぇよ、そんな日は!?」
「いや、でもですね。わたしたしか、『アブマッソー』を買った記憶があるんですよね」
「あぁ、あのEMSダイエットの腹筋パッドか」
「1秒間に12万回の伸縮――とかいうヤツで、寝ながら腹筋がバッキバキなるそうですよ」
「うん、ならないけどな」
「いや、でも広告の外国人モデルの方は、それはもうバッキバキで!」
「とりあえず、腹筋を『バッキバキ』で表現するのやめてくれるかな?」
なんか、アミューの口から聞きたくないな、バッキバキ。なんとなくな。
念のために言っておくと、『アブマッソー』というのは、深夜の通販番組でお馴染みの、電気信号によって腹筋を強制的に伸縮させるEMSを使用したダイエット器具だ。
効果は……まぁ、個人差がある――ということにしておく。
流行り物なのでイドバシにも置いてはいたが……買ったのか、こいつ。
「確かに、すったもk……日本です、日本! 顔が怖いです、アキタカさん!」
こいつは、油断するとすぐ『すったもけ』の名を出そうとしやがる。
……こんな、他人を弄り倒すことしか考えてないような連中の前でその名を出すな。
「こほん……確かに日本では効果は薄かったように思いますが……ここでは女神コンボがあるんですよ」
…………うわぁ……すげぇ利きそう。
つか、腹筋もげるんじゃねぇの、それ?
「必ず見つけて、アキタカさんをバッキバキにしましょう!」
「うん、それだと俺の背骨的なものがバッキバキになってるようにしか聞こえないな」
恐ろしい言葉だよ、バッキバキ。
「ですので、それまでは。ね?」
なんだかんだと、アミューも同じなのだ。
キティや、マーサと。
「分かったよ」
折角仲良くなったんだから、もっと一緒にいたい。
そういうことなんだろ?
「じゃあ、二人とも――あと、ぽんちゃんも――、これからもよろしくな」
「任せなさいって」
「大船に乗ったつもりでいるといい」
「がぉ!」
こうして、俺たちはある程度バランスのよさげなパーティを組むことになった。
性格面に問題のあるヤツが若干多い気がするけどな……
そして、旅への同行が決まったキティがそっと俺にこんなことを言ってきた。
「これで、いつでも看病してあげられるね」
……こいつは。
まぁ、あれだな。思春期の娘ってのは好奇心が旺盛になるもので、背伸びをしたがるものなのだ。だからまぁ、俺は大人として、青少年の健全な育成のために模範的な回答を返しておくに留める。
「そう何度も寝込みゃしねぇよ」
……うん。
大人の余裕って、……難しいな。




