14話 黒い美少女 ―5―
「アキタカさん!」
力が抜け、額は痛く、俺は再び地面へ寝転がった。
足を離すと、斜めになっていた『爽やかエアー』は再び転倒し、電源がオフになる。
風が止んで静かになったところへ、アミューが駆け寄ってきた。
逃がしちまったが、なんとか追い払えたぞ――そんなことを言おうと思った矢先。
「最低の勝ち方ですね」
「いや、褒めろよ!」
そして労えよ。
結構命の危険だったろうが、今!
「アキタカ……助けてくれてありがとう」
やはり骨を痛めたのか、キティが胸を押さえながら近付いてくる。
「……方法は、この上もなく下衆かったけれど」
「狙ってやったわけじゃないからな!?」
「わざと女神の遺産を倒し、近付かせて、ベストポジションに来たところで女神の遺産を起こし、絶妙の角度でスカートの中へと風を送り込んで、特等席で美少女のパンツをガン見する…………なかなか出来る芸当じゃない。アキタカは、その道のプロ」
「違うわ! 全部が全部偶然なの!」
「偶然は、二度も三度も重ならない」
「それが重なったんだよ! 偶然な!」
こんな切迫した状況でパンツ見たさにそんな危険な賭けが出来るか!
一歩間違えば死んでたかもしれないっつうのに。つか、額がいまだにじんじんしてんだよ、こっちは!
「私のパパと、いい勝負が出来るかもしれない……」
「お前んとこの父親が心底心配になってきたよ! まったく好意的ではない意味で!」
とんでもない下衆野郎と誤認されている状態の俺といい勝負って……大丈夫なのか、そんなヤツが村長やってて?
あぁ、念のためもう一度言っておくが、誤認、だからな?
「しかし、恐ろしい敵でしたね……パンツは可愛かったですが」
「そこ、言及する必要なくね!?」
魔王の使者。
俺の、ライバル……に、なるのかな?
強さに差があり過ぎる。
あんなヤツに、これからずっと対抗していかなきゃいけないのか?
やりにくいな……
「……けど、少しだけ」
キティがアミューを見つめて言う。
「アミューに似ていた……ように思えた」
「え? どこがですか?」
「どこがというか…………ここぞという時に締まらない感じとか……?」
「キティさんの中で、わたしってどんなイメージなんですか!? ちょっとショックですよ!?」
年下の女子から痛い子を見るようにしか見られていないアミュー。
しかし、キティにはヤミがアミューと似ているように見えたのか。
「アキタカさんはどう思いますか? わたしとしては、何もかもが正反対な人だなと思ったんですが」
雰囲気や言動から、ヤミという存在を黒とするなら、アミューは確実に白だ。
正反対という意見も頷ける。
「似てるところと正反対のところ、その二つを併せ持った存在って感じだな」
「そうですかね……」
アミューはなんだか不服そうに言う。
「あの人は、口調も、考え方も、服装も、下着も、何もかもわたしとは正反対だったんですよ? 似てないですよ、やっぱり」
魔王の使者と似ているところがある。もしかしたら、そういうのが生理的に受け入れられないのかもしれない。
アミューは少しムキになって否定をしている。
……の、だが。
「…………『下着も』?」
「へ? …………はぅっ!?」
この娘、なに口滑らしてんの?
「先ほどのヤミという女の下着は、お子様っぽいかわいい系だったから……つまり、アミューの下着はその正反対の…………」
「そ、そそ、そんな目でこっちを見ないでください、キティさん!?」
キティに向かって吠えた後、ちらっとこちらへ視線を向け、即逸らす。
……おい、やめてくれ。そーゆーの。…………照れる。
「…………セクシー系?」
「こっ、答えませんからね!」
「………………穿かない派?」
「そんなわけないじゃないですか!?」
「…………黒?」
「う…………、ノ、ノーコメント、です」
「………………すけすけ?」
「のっ、……ノーコメントで…………」
いや、アミュー。
それもう、認めちゃってるようなもんだろ、もはや。
「……………………エロい」
「そんなことないですもん! 普通ですもん! アキタカさんのパンツだって透けてますもん!」
「透けてねぇわ! 巻き込むな!」
「きゃああ!? なんで話を聞いてるんですか!? 耳塞いでてくださいよ! セクハラですよ!?」
「巻き込まれ事故も甚だしいな、この状況!?」
意外なとこで意外な事実を知ってしまった。
…………しばらく、まともに顔が見られないじゃねぇか。
まったく…………
ギャーギャー騒いで、魔王の使者もとりあえず追い返して、ちょっと怪我はしちゃったけどみんな無事で。
だから俺は油断していたんだ。
すぐそこに、魔獣の死骸があるってのに。
セミの死骸か何かだと勘違いしていたのかもしれない。
そいつが本当に死んでいるのかどうか、確認もしないで。
魔獣って生き物のしぶとさを、知りもしないで。
無防備に立ち上がって、完全に背を向けて……
突然腹部に走った激しい痛みで、俺はようやく事の重大さに気が付いたのだった。
「……が…………はっ」
口から薄く血液が漏れていく。
俺の腹部に、穴があいていた。




