13話 ヴァンガード村の清掃 ―4―
「アキタカ。サンバライダーがこっちに来てくれた。協力してくれるみたい」
ぽんちゃんの影響か、サンバライダーが俺たちの前へと集まってきてくれた。
つか、キティ。お前もサンバライダーって呼ぶんだな。俺、口には出してないはずなのに。発想が近いのかねぇ。
「『サンバ』のダストタンクはここにあるから、そっと開けて、こうやってゴミパックを取り出してくれ」
キティに説明しながら、一台の『サンバ』からゴミの詰まったゴミパックを取り出してみせる。
すげぇパンパンだ。どんだけ胞子まみれだったんだよ、この村。
「パンパンに詰まってるから気を付けろよ」
と、忠告した矢先、ばふっと、キティの取り出したゴミパックから紫の煙が吹き出す。
「毒素っ!?」
「キ、キティさん、大丈夫ですか!?」
「……平気。マスクがあるから…………ただ、アキタカが私に嘘を教えたことが、ちょっとショック…………くすん」
「違う違う違う! 持ち方! 持ち方よく見てて! もう一回やるから」
どうやら、キティは袋を持つ力が強過ぎたようだ。
パンパンに詰まったゴミパックを強く握れば中身が「ばふっ」しても仕方ない。
……危うく責任転嫁であばらがなくなるところだった。
「……難しい」
「あの、キティさんには火をおこしてもらって、わたしとアキタカさんでゴミパックを外しませんか? 筋肉量の違いで、どうしても力が入っちゃうんですよ、きっと」
アミューの言うことには一理ある。
キティは細く見えるが、全身引き締まった筋肉に守られているソルジャーなのだ。
逆に、これくらいの年齢だと手加減が難しいのかもしれない。
アミューの言った分担で作業を進める。
ヴァンガード村の前で火をおこし、たき火を作る。
「アキタカさん。換えのゴミパックはどうしましょうか?」
「そうだな……」
増えてしまった『サンバ』、全部に新たなゴミパックを装着するべきかどうか……
「とりあえず、一回村の中を見てみよう」
「そうですね。胞子、もう全部狩り終わったかもしれませんしね」
「キノコ狩りみたいなノリで言うなよ。胞子は食えないからな?」
「ですよねぇ……これがキノコだったら……」
「食う気にはならねぇな、こんな毒素をまき散らすキノコなんだったらな!」
きっと、国民的ゲームの赤いヒゲオヤジでも食わないだろう。
まぁ、さっさと終わらせよう。そんな何気ない感じで取り出したゴミパックを焚き火へと放り込む。
すると、突然炎が大きくなり、うねりながら天を突くように燃え上がった。
……びっくりしたぁ。
バチバチと、炎の中で胞子が爆ぜる。
よく燃えるとは聞いていたが、ここまで燃えるとは……つか、爆発してるし。
「よかったな、村の外でやっといて」
「そうですね。村の中だと、確実に大火事になってましたね」
「パパたち村の男衆が建てた木造家屋なら、この程度の炎ごとき根性で跳ね返せるはず」
「根性論で火事は防げないからな」
胞子入りのゴミパックをくべる度にごうごうと燃え上がる焚き火。
アミューは完全に怯え、炎から遠ざかっている。
……おいおい、さっきの「一緒に」的なちょっとした感動はどこいったんだ? すげぇ離れちゃってるな、おい。
つか、こういうのこそ映像に残しておけよ。いや、残さなくていいけど。
「しかし、これは時間がかかりそうだな」
「では、こういうのはどうだろうか。一気に投げ込んで、全力で逃げる」
キティが恐ろしい案を寄越してくる。
……大パニックしか想像出来ないんだが、その後の展開。
「いや、やっぱそれは危険だから、時間がかかっても一個ずつ……」
「アキタカ、走って!」
「話くらい聞いてからにしろよ!?」
止めようとしたのだが、時すでに遅し。
大量にあった胞子入りのゴミパックたちは一斉に炎へとくべられ、俺は人生の中で一番かもしれない全力疾走を余儀なくされた。
直後、背後から凄まじい爆発音が轟いた。
打ち上げ花火を打ち上げずに地上で破裂させたのかと思うような爆発音と、原付に追突されたのかと思うような強さの爆風が爆心地を中心に広がっていく。
事故に巻き込まれた気分だ……いや、巻き込まれたのか。
「……キティ」
「…………反省はしている。まさか、こんなことになるとは」
爆風が収まり、俺たち全員の髪がもれなくぼさぼさになった後、キティはようやく事の重大さに気が付いたようだ。遅いけどな。
「まぁ、怪我がなくてよかったよ」
「…………ごめんなさい。胞子の力を侮っていた」
反省しているなら、まぁいいか。
キティは、森の中で満腹になる赤い木の実を食って自滅したり、結構注意力に欠けるところがある。
しっかりしているように見えて、まだまだ子供なんだな。その行動が後にどんな結果をもたらすか、そこまで想像が追いつかないようだ。
こういう失敗を重ねて、いろいろ学んでほしいところだな。
「次は、あんな突風ごときには、負けない」
「反省するベクトルが違う!」
こいつ、またやらかすな。
きっと親の躾が行き届いていないせいだ。……まったく、あの親バカ。
「完全に燃え尽きたな」
荒れ狂っていた炎が収まり、火の勢いが弱くなる。
焚き火を確認しに行くと、先ほどの業火によって薪が燃え尽きていた。火が消えるのも間もなくだろう。
もっと時間がかかるかと思ったが、胞子はみんな炭となり、そして灰と化していた。
突いてみても、もう毒素は吐き出されない。
「よかった……」
消し炭になった胞子を見下ろし、キティがぼそりと呟く。
長らく村を苦しめてきた胞子の最後を見届け、思うところがあるのだろう。
「……イラッてして、そこらのキノコに火を点けたりしないで、本当によかった」
「火を点けてたら大災害になってたところだな……」
意外と短気。
この娘、いまだにキャラが掴めない。
それもこれも、全部あの親バカのせいだ。まったく、バカ親め。
「それにしてもパンパンでしたね」
乱れた髪を整えて、アミューが言う。
確かに、『サンバ』のゴミパックは「これでもか!」というほどに胞子が詰め込まれていた。
本来の『サンバ』なら、あんな状況になる前にお取り替えアラームが鳴ってゴミ捨てを促すはずなのだが。
「村の人に似て、根性で詰め込んだんですかね?」
「いくらなんでもそれはないだろう………………ない、よね?」
ないと言い切れないところが怖い。
この国で育った『サンバ』は、やはり野生に目覚めてしまうものなのだろうか。
筋肉と根性論のこの国では。
「じゃあ、空気洗浄機にも、根性で村一つの空気を洗浄してもらいましょう!」
「いや、家電に根性を求めるのは酷だろうって」
そう。
家電は家電。
家電に心なんてものはないのだから、根性論など通用するはずもない。
だから、そこまでの能力アップは期待出来ない。たとえ、俺の称号【永久名誉店員】と『女神の加護』のパワーアップを考慮しても。
きっと、限度があるはずなのだ。
空気洗浄機一つで村一つを丸ごと洗浄するなんてことは、現実的に考えて不可能だ。
それが、常識だと思っていたのだが……
結果として、空気洗浄機はとても、とっても頑張ってくれました。
根性論。今一度見直されるべきなのかも、しれないなぁ……はは。




