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家電転移~永久名誉店員になった俺は家電の能力(チカラ)で異世界を救う~  作者: 宮地拓海


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13話 ヴァンガード村の清掃 ―3―

 そうこうしているうちに、馬車は速度を落とし、やがて停まる。

 ヴァンガード村へ到着した。

 村の手前、およそ200メートルの位置へ。


「相変わらず煙ってますね」

「あぁ。だが……」


 心持ち、ほんの少しだけ、僅かにだが、毒素が薄らいだように見え……なくもない、か?


「毒素が薄らいでいる」


 キティが村を眺めて断言する。

 あまり大きな変化の現れない表情ながら、微かに嬉しそうな顔をしている気がする。


「きっと『サンバ』が毒素を吐き出す胞子を吸い尽くしてくれたんだろうよ」

「『サンバ』……偉い子。」


 言いながら、キティはぽんちゃんを撫でる。

 セットじゃねぇからな。

『サンバ』の手柄は『サンバ』に言ってやれ。返事はないだろうけれど。


「アミューとキティはサンバを集めて、中のゴミパックを回収、後に焼却してくれ。くれぐれも毒素に注意してな」

「アキタカさんは?」

「少し村の中へ行ってみる。よさそうな場所があれば空気清浄機を設置してくるよ」

「一人では危険ですっ。一緒に行きましょう。ね?」


 俺の身を案じてくれるアミュー。

 しかし。


「マスクは長時間の使用に耐えられないらしいからな。毒素除去と同時進行の方が危険を回避出来るだろう」


 一人でいようがみんなでいようが、毒素はお構いなしに襲いかかってくる。大勢いれば防げるというものでもない。


「時間との勝負だ。別行動でいこう」

「アキタカさん……」


 それでも、不安げな目で俺を見てくるアミュー。

 そんなに心配すんなよ。……ちょっと、嬉しいけどさ。

 礼くらい、言っておくか。


「アミュー。あり――」

「アキタカさん。サスペンスだったら早い段階で殺されるタイプですよね」

「――にたかられて、遠目で見ている人に『うわっ、黒っ!?』って言われろ」

「ほゎっ!? な、なんでアリに集られなきゃいけないんですか!? 虫、そんなに好きじゃないですのに!」


 誰がサスペンスで二番目あたりに殺される「殺人鬼なんかと一緒にいられるか。俺は一人で行動させてもらうぜ」系の被害者か。

 礼を言ってやろうと思っていた感謝の心が一瞬でカッサカサに乾ききったわ。


「それに、あの……アキタカさんは覚えていますか?」


 面白い感じでわめいた後に真面目な表情を見せる。その落差に、軽く背筋が冷える。


「初めてこの村に来た時に見た、無数の光る瞳……」


 そいつは俺も鮮明に覚えている。

 初めてこの村を訪れた際、村の中にいた無数の『何か』。

 そいつらの瞳が、妖しく光りながらこちらを見つめていた……


「アレはきっと、魔獣の瞳…………か、ちょっと大きめの蛍です」

「魔獣の方じゃないかな!?」

「いえ、でもこんくらいの蛍がいれば、もしくは」


『こんくらい』と、両手で輪を作りコンビニで売っているたまごドッグくらいの大きさを示す。

 デカいわ。そのサイズの蛍がいたら、さすがに「ひぃっ!?」って言うわ。


「とにかく、この村には……何蛍かまでは分かりませんが……何かが潜んでいるかもしれないんです」

「蛍前提で話を進めるな」

「キティさん、この村に蛍はいましたか?」

「ほたる……という生き物に心当たりがない」

「なら、毒素と共にこの村に来た悪い蛍の可能性が高いですねっ!」

「いや、だから。蛍の可能性が限りなく低いんだって」


 こんな呟きみたいなツッコミでも、地味にHPって減ってるんだろうな。……すげぇ釈然としない。


「アキタカ……謎の蛍……怖い」

「大丈夫だから! つか、蛍じぇねぇから!」


 無意味に恐怖心を植えつけるなっての。


「アキタカは、筋肉がほとんどないから、きっと蛍に瞬殺される」

「そこまでひ弱じゃねぇわ、さすがに!」

「自分を買いかぶらないで」

「買いかぶらせろよ、自分のことくらい!」

「けれど、私はアキタカと腕相撲をすれば、折る自信がある」

「そんな自信持たないでくれる!?」

「たぶん、……瞬殺」

「そりゃ、お前の方が強いんだろうけど……」

「湯浴みなんかを覗かれたりすると、きっと私は恥ずかしくて手加減が出来ないだろうから……アキタカのあばらは二本くらいしか残らないと思う」

「怖っ!? 物凄い減ってる!?」

「左に、二本」

「一対ですらないのか!?」


 それはもはや、人間としての大切な機能が機能しなくなっている状態ではないのだろうか。

 そんな恐ろしい事実を告げた後、キティは顔を背け、横目で俺を見ながら呟く。


「だから……絶対、覗いちゃ、……ダメ」

「言われなくても、覗きなんかしねぇよ」

「……むぅ」

「なんで不服そうなんだよ?」

「…………いくじなし」

「意気地なんぞ出るか、そんなあばら消失の危険性を聞かされた後で」


 そもそも、中学生の風呂を覗く趣味など持ち合わせていない。

 俺はノーマルなのだ。


「アキタカさん、単純所持でもうアウトに……」

「だからねぇっつってんだろ!」


 学習しろ、お前も。

 ハラハラした目で見てんじゃねぇよ。

 あと、所持するつもりもねぇから『ファミリー撮っちゃお』をギュッと抱え込むな。


「とにかく、アキタカを一人にするのは危険」

「はい。アキタカさんは危険です」

「二人の意見の内容が若干違って聞こえるんだが!?」


 キティの言う危険は、俺が軟弱だからだろうが、アミュー、お前は違うだろう。

 いいから『ファミリー撮っちゃお』を俺から遠ざけるな!


「とにかく、マスクの耐久時間が限られている以上、時間はなるべくかけない方がいいだろ」

「でも…………いえ、そうですね。わがままを言っている場合ではないですよね。分かりました。納得します」

「悪いな、アミュー。そういうわけでキティ、アミューを守ってやってくれ」

「任せて」

「頼む」

「アキタカも」

「ん?」

「私が守る。何かあったら、すぐ呼んで」


 自分よりもずっと年下の女の子だというのに、なんて頼もしい一言なんだ。


「あぁ、いざとなったらそうさせてもらうよ」

「うん。そうするのがいい」


 頼られるのが嬉しいのか、キティは珍しく、にっこりと笑った。

 こんな顔をすると、普通の中学生にしか見えない。

 少なくとも、あばらキラーには見えない。


「よし、行くか!」

「はい!」

「うん」


 三人で気合いを入れ、ネコの面をかぶる。

 その瞬間――


「ぁうぅぅううぅ……ゴム臭いですぅ……」

「お前じゃねぇよ、ピックアップしたかったの! 『その瞬間』の無駄使いしてんじゃねぇよ!」


 注目すべきは、タイミングよくえづいたアミューではなく俺たちを取り巻く空気の方だ。

 空気が、変わった。

 ざわりと、微かに波打ったような、そんな気がした。

 マスクを外し、辺りを窺う。すると。


「がぁ~おぉ~ぅ」


 不意にぽんちゃんが鳴き始める。

 俺の肩から飛び降り、四肢で大地を踏みしめ、プライドロックの頂上で猛々しく吠える大獅子のような格好で、非常にゆる~く力の抜ける感じで鳴く。


 ぽんちゃんの声が、誰もいない、毒素の蔓延する静かな村へとこだまする。

 そして次の瞬間、反響するぽんちゃんの声に交じって、微かな物音が地を這うようにして広がり、こちらへ向かってきた。


「なんだ……?」

「これは……モーター音、でしょうか?」


 音のする方へと視線を向ける。

 目を凝らす。

 すると、そこに無数の光る瞳が浮かび上がった。


 昼間だというのに、蔓延する毒素のせいで薄暗くなった村の中で、その一対の光る瞳は爛々と輝いていた。

 それも、複数。

 あの時――初めてこの村を訪れた時に見た、あの光る瞳だ。



 その正体は――



「なぁ~お」

「みぁああ」

「にゃっ」


 ネコ。

 ネコの群れだった。

 それも……


「ア、アァァアア、ア、アキタカさん……あの、あのあの、あの子たち………………『サンバ』に乗ってますよっ!?」


『サンバ』に乗って水平移動を行う数十匹のネコの群れが、こちらに向かってニャーニャーやって来るではないか!

 なぜ『サンバ』に?

 っていうか、『サンバ』増え過ぎっ!

 どんだけ俺のMP奪い続けたんだ!? そりゃ三日も眠り続けるわ!


 増えるだけ増えた『サンバ』の群れが、まるで魚鱗の陣のように並びネコを乗せて前進してくる。

 なんじゃ、この光景!?


「はぁぁああ! ファインダーチャンス! ファインダーチャンスです!」


 アミューが炎のごとく燃えている。

 ハンディービデオを片手に、時には上から、時には地面に這いつくばって、迫りくるサンバライダー(ネコ)を撮影している。

 ……つか、シャッターチャンスのビデオ版って、ファインダーチャンスなのか? 初耳もいいところなんだが。


「それより、あいつら毒素の中に入ってて大丈夫なのか?」

「平気。この村に住むネコたちは、神獣の眷属と呼ばれる特殊なネコたち。魔力が高く、毒への耐性も我々人間よりはるかに高い。それ故に、どんな猛毒を持つ魚であっても盗み食いが可能っ!」

「悪用されてねぇか、神獣の力!?」


 ここのネコたちはフグでも平気で盗み食い出来るようだ。

 凄まじい食い意地だ。


 しかし、神獣の眷属か。

 だから、ぽんちゃんの呼びかけに集まってきたのか。


「あの子たちは、人間が住めなくなったこの村をずっと守っていてくれた」


 だから、キティたちはあの時も――俺とアミューが初めて毒素の薄闇に浮かぶ光る無数の瞳を目撃した時も――取り乱したり緊張したりしなかったんだ。

 こいつらの瞳が見えていなかったわけではなく、その瞳の正体を知っていたから。

 ってことは、俺たちが初めて村に来た際にずらりと並んでいたネコの瞳は、村へやって来た不審者(俺たち)を見張っていたってわけだ。

 だから、二度目の訪村の時には見かけもしなかったのか。


「ってことは、ぽんちゃんも毒には強いのか?」


 寄ってきたサンバライダーたちに駆け寄っていったぽんちゃんを目で追う。

 毒素の中へと迷いなく入っていく様を見るに、ぽんちゃんも毒素は平気なのだろう。


「…………がぉう……」

「あれ、なんかめっちゃ弱ってる!?」

「神獣様が毒に強いという話は聞いたことがない」

「ヤバいヤバいヤバい! 早く戻ってきてぽんちゃん!」


 なぜ自分の限界を弁えずに危機へと飛び込んでいくのか……っていうか、眷属の持っている能力くらいは持っとけよ……


「がぅ……」


 戻ってきて、ぷるぷる震えているぽんちゃん。

 少しでも楽になればと背中をさすってやる。

 キティ曰く、これくらいならしばらく新鮮な空気を吸っていれば自然と回復するとのこと。

 なので、馬車に寝かせておくことにする。ぽんちゃんは留守番だ。ぽんちゃんにマスクをつけるわけにもいかないしな。


 毒に強いのは、あっちのネコたちだけのようだ。


「この防毒マスクも、毒に強い神獣の眷属の顔を模して造られている」

「あぁ、それでネコの面なのか」

「ただし、パパの使用しているマスクのモデルである大獅子は、特に毒に強いわけではないので、たま~に村の女子から『なんで獅子のマスク着けてるの?』『しっ! ……言っちゃダメ』などと陰でこそこそ囁かれていたりもする」

「知ってるなら止めてやれよ、実父の悪評!」

「村の若い娘に噂されるパパは、ちょっと素敵」

「それが悪評でなければな!」


 キティは父親が好きなのか嫌いなのか、ちょっと分からなくなる時がある。

 たぶん、悪意等はなく好意的に見ていて、その結果がちょっと残念なことになっているだけなのだと思うのだが……


「はぁぁ……素敵過ぎました」


 大量にカメラを回し満足げなアミュー。

 つやつやした表情をしている。


「ネコさんたちが『サンバ』を持ってきてくれましたので、別行動はなしでも平気そうですね」


 ほっとしたような顔をして、にっこりと微笑みかけてくる。

 そんなに心配だったのかよ。俺を一人にすることが。

 謎の瞳の正体も分かったってのに。……まったく、心配性だな。


「へいへい。じゃあ、さっさと片付けて、一緒に空気清浄機を設置しに行こうぜ」

「はい。一緒に」


 まったく。

 そんなに嬉しそうにされると、……さすがにちょっと照れる。


「じゃあ、作業してるところ撮りますから、お二人ともなるべく笑顔でお願いします!」

「いや、手伝えよ!? 学校行事じゃねぇんだから記録とかいらないから! つかネコの面かぶって作業するのに笑えるか!」


 ……あいつ、まさか。

 単純に作業するのが面倒なだけなんじゃ……

 教育が必要かもしれないな。



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