12話 ぽんちゃん効果 ―4―
ステータス石版から下りて、地面へと座る。
楽な体勢でいるとMP回復量が上がるのかという実験だ。――結果は、変化なし。
先ほど、立って抱っこしていた時とほぼ同じ、十二秒ほどでMPが1回復した。立っていても座っていても、抱っこでも膝の上に載せていても、回復量は変わらない。
膝の上でくつろぐぽんちゃんを見ながら、これ以上の速度アップは無理かなぁ~なんてことを考える。
まぁ、回復してくれるだけありがたいと思うべきだろう。
「ありがとな、ぽんちゃん」
「ごろごろ……」
感謝の気持ちを込めて喉の辺りを撫でてあげると、ぽんちゃんはネコのように喉を鳴らした。
その瞬間。
MPがグングン回復していった。
二~三秒でMPが1回復するほどの速さで。
「アキタカさんっ、MPがにょりにょり回復しています!」
「あぁ、そうだな。その擬音はちょっとどうかと思うが、回復しているのは本当だな」
アミューの中では、MPというものがどんな素材で出来ていることになっているのか。どんな肌触りならにょりにょりなんて音になるのやら……
それよりもMPだ。
ぽんちゃんが喉を鳴らした途端に回復速度が跳ね上がった。五倍から六倍ほどに。
そういえば、ネコ科の動物は、骨折したりすると喉を鳴らすのだという。あの「ごろごろ」には、傷の回復を早める効果があるとかなんとか。
有名な野球選手が骨折した際に、あの「ごろごろ」の周波数の音波だかを使って治療したというニュースを子供の頃に聞いた記憶があった。
そういう感じなのかもしれない。
「すごいですね、ぽんちゃん。最強の助っ人じゃないですか」
「あぁ。ぽんちゃんさえいれば、女神魔法が使い放題だ」
女神魔法は人々を困難や苦境から救い出す力を秘めている。
さすが神獣。女神の意思を汲み取った素晴らしい能力を持っているようだ。
「これなら、完全回復もすぐだな。アミュー、今どれくらい回復してる?」
「はい…………あ、画面が消えてます」
「なにぃ!?」
「一分間何も操作しないと、自動で電源がオフになるんでした」
「くぅ……っ、消し忘れ防止の便利な機能めぇ!」
家電というものは、便利になると逆に不便を感じる不思議な物である。
昔の、ちょっとアナログな『なぁなぁ感』が使いやすかったのに……なんてことはままあることだ。
俺もお客様に「この機能外せ!」と、何回言われたことか……
どこかのメーカーが何かの最新機種を作るたびに「前の方がよかったのに!」というクレームをもらっていた。
その気持ちはよく分かる。が、店員に言われても対応のしようがないことも分かってほしい。
そんな店員の悲哀や憂鬱もすべて理解した上で言わせてもらう。
「余計な機能をつけやがって!」
ずっとつけっぱなし出来ればいいのに!
いらなくなったら自分で消すからさぁ!
……起動するまでの時間って、使用頻度が高いとどうしても煩わしくなっちゃうんだよなぁ。そういうとこ、メーカーの人は分かってくれないんだよなぁ。
「えっと、最後にチラ見した時は、残りMPが40ちょっとでした」
「40ちょっとか」
「アラフォーです!」
「いや、言い直さなくていいから」
それじゃあ俺が四十代のオッサンみたいじゃねぇか。まだ二十代だよ。
まぁとりあえず、40以上は回復しているわけだ。
なら、20ほどMPを消費しても倒れることはないだろう。……たぶん。
「アキタカ。馬車の準備が完了した」
こちらの検証が一通り終わったタイミングで、キティが戻ってくる。
実にナイスなタイミングだ。この娘はとても空気の読める子だ。何かとタイミングが合う人間といるのは非常に心地よい。好感度が無条件で高くなるね。
「よし。アミュー」
「はい」
「もし俺が倒れたら、馬車に放り込んでぽんちゃんを腹の上に乗せておいてくれ」
「へ? 倒れたら?」
女神の使者は、この世界の人間の悩みを解決するためにここへ呼ばれたのだ。
あんな、泣き腫らした目をした女性たちを放っておいていいわけがない。
俺にも、女神の使者としての自覚が芽生えつつあるのだから。
「『女神の装具』っ!」
ごっそりとMPが持っていかれ、体が極端に重たく感じる。
が、意識が飛ぶほどではなかった。
なんとか堪えた。
ようやく……少しは、慣れてきた……かな。
「これで、また動画が撮れるぞ。……今度は、計画的に撮影しろよ」
激しい疲労感のなか、その苦労と引き換えに手に入れたSDカードをアミューに手渡す。
『ファミリー撮っちゃお』での動作保証がされている最大容量、512GBのSDカードだ。1TBがきちんと反応してくれるか、自信がなかったからな。
「ア、アキタカさん……そんな、ぼろぼろのくたくたのぷにゃんぷにゃんな体で……」
「なんかお前の擬音、ちょいちょい『半生』っぽさが出てくるよな?」
「すごく嬉しいです……けどっ、やっぱり受け取れません!」
「受け取れよ! 出すだけ出して使われないって、ただのムダ骨だから! お願いします、使ってください!」
変なところで遠慮すんじゃねぇよ。
「アキタカさん…………ありがとうございます!」
SDカードを大切そうに両手で握りしめ、勢いよく頭を下げるアミュー。
そして、SDカードを握った拳を天高く突き上げて声高らかに叫ぶ。
「これでネコ動画が保存出来るぞぉー!」
「「「「ネコ動画ー!」」」」
SDカード内容量飽和危機対策委員会のメンバーが声を揃えて吠え、天を仰ぎ見る。
大地に膝をつき、手を組んで、女神に祈りを捧げるように――
で、神獣のことはやっぱネコ扱いなんだな、そーゆー認識なんだな、お前ら全員。
「アキタカ……」
歓喜の声を上げる村の女性たちを見やりつつ、キティが困惑したような顔で俺に注意を寄越してくる。
「あの……、この村には神獣様信仰が根付いているから、新興宗教の流布は控えてほしい。争いの火種になりかねない……から」
「あぁ、うん……一応、アレ神獣様信仰なんだよ。……そのはずなんだけどな」
古来より村に伝わる伝統の信仰が、明らかにおかしな変貌を遂げて新時代へと広まりつつある。
そんな時代の狭間を目の当たりにしつつ、当たり障りないところで切り上げさせて、俺たちは馬車に乗った。
うまくいけば、今回の処置で村が蘇る。
ぽんちゃんを膝に抱き、MPを回復しながら、俺たちはヴァンガード村を目指した。




