11話 おいコラ、システムボイス ―3―
「アキタカさん。何か、まずいことでもありましたか?」
「あぁ、いや……『女神の分裂』で『サンバ』を大量生産して、ヴァンガード村の胞子を根こそぎ除去してやろうと思っていたんだが……」
「それはいいアイディアですね!」
「女神の遺産を増やしても、『女神の加護』の使用回数が限られているから動かせる台数が限られてしまうんだ」
「あぁ~……それは盲点でした…………誰が使用回数とか決めたんでしょうね……」
お前だけどな。
たぶん、現在この世界を創っているっていう方のお前。
「では、この二台だけで掃除しましょうか?」
「いや。今取りに行ってもらっている空気清浄機にも電源が必要だから、使えるのは一台だけだ」
「……あんまり、進まなそうですね、胞子の除去作業」
「…………だな」
折角、まったく同じ家電が複製出来たってのに、電源がないんじゃ宝の持ち腐れに………………まったく同じ?
目の前にある二つの『サンバ』を見比べる。
当然、同じ製品だ。色も同じ。そして……
「ぽんちゃん、ちょっと見せてくれな」
「がぅ」
盗らないと態度で示すと、ぽんちゃんは『サンバ』から降りてくれた。
その代わりとばかりに、俺の体によじよじとよじ登ってきて頭の上にちょこんっと乗っかってきた。
……『サンバ』代わりかよ、俺は。
とにかく、『サンバ』をあけてくれたので、元となった方の『サンバ』の背面を覗き込む………………やっぱり。
「製造番号が同じだ」
「へ? それって、みんな同じなんじゃないんですか?」
「いや。型式番号は共通だが、製造番号は一台ごとに異なるんだ」
もちろん会社によるのだが、製造番号は大抵いくつかの情報を組み合わせた番号となっている。
たとえば、とある会社では――二桁が製造年数で、その次が製造月(1~9と、10以降は10=『X』、11=『Y』、12=『Z』で表記される)。その隣に製造した工場のナンバーが記され、そこから先が一台ごとに振られる番号――というような感じになっている。
具体的に言えば、『18Y0812345』という製造番号の場合、『18/Y/08/12345』と分けることが出来、それぞれに『18(2018年)/Y(11月)/08(東京板橋区工場)/12345(12345台目の製品)』という意味を持っていたりする。
なので、販売店では製造番号を見ただけでどこへ問い合わせればいいかが分かるのだ。また、データの検索も一発だ。
「つまり、製造番号が同じ商品は絶対に存在しない、してはいけないんだ」
「それがここに二つあるということは?」
「『女神の分裂』は、元となった物を完璧にコピーしている……可能性が高い」
つまり……
「『女神の加護』を使用してからコピーすれば、バッテリーを持った女神の遺産が複製出来るかもしれない」
俺の考えが正しければ、ヴァンガード村は救われる。
「すごいです! では、早速やってみましょう!」
「MPが回復したらな!」
「あの、アキタカさん。すったも……」
じぃ~……
「に、日本のゲームで、『ふしぎなおどり』を踊ってMPを吸い取るモンスターいましたよね?」
「あぁ、国民的RPGでな」
「……踊ってみては?」
「踊るか! つか、吸い取れないから!」
それが出来たらスキルに【ふしぎなおどり】って入っとるわ!
けれど、だ。
『女神の加護』を使った『サンバ』に『女神の増殖』を使うとして――ん? 『女神の分裂』はもう使いませんが? えぇ、絶対に――今のうちに『女神の加護』を使ってしまう方が効率的なのは確かだ。
この後眠ってMPを回復するにせよ、今のMPの残りを無駄にすると、明日『女神の加護』と『女神の増殖』を使うことになる。……結局しんどい思いをするなら、今のうちにやってしまった方がいいだろう。
「じゃあ、『女神の加護』を使っておくか」
アミューとしゃべったおかげか、精神的に随分楽になっているし。
気が紛れたのかもしれないな。
「がぁ~ぅ」
頭の上でぽんちゃんが鳴く。
まさか、動物の癒やし効果でMPが回復してるなんてことはないんだろうが、気分的には効果がありそうな気がする。
人間というのは、思い込みの生き物だからな。
試しに、残りMPを調べてみるか。
ステータス石版に乗って……
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アキタカ・ホンジョウ
27歳 男
職業:女神の使者
レベル:5
HP:29/80
MP:21/68
力 :30
体力:21
魔力:55
敏捷:22
幸運:17
スキル:【女神魔法】【ツッコミ】【ふしぎなおどり】
称号 :【永久名誉店員】【ふにゃ筋】【餌付けの達人】
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女神魔法:『女神の加護』消費MP:10(使用制限あり 残数/2回)
:『女神の加護(バッテリー用)』消費MP:10(使用制限あり 残数/2回)
:『女神の装具』消費MP:20
:『女神の分裂』消費MP:50
:『女神の増殖』消費MP:55
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MPがちょっと増えてる!?
っていうか、ツッコミ過ぎてHPめっちゃ減ってる!?
それより何より、スキルに【ふしぎなおどり】が増えてるっ!?
「えぇい、くそ! 何から驚けばいいんだ!?」
あぁ、またHPが減った……
しかし、なぜMPが回復してるんだ?
まさか、本当に【ふしぎなおどり】の効果が……
あるわけないとは思いつつも、スキル【ふしぎなおどり】の詳細を見てみる。
もし本当にその通りの効果があるのであれば、MP回復の手段として活用出来るかもしれない。
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【ふしぎなおどり】:周りの人から冷ややかな視線で見てもらえる。
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メリット皆無!?
『見てもらえる』ってなんだよ!? 見てほしくねぇよ、冷ややかな目で!
なんの役にも立たないスキルだな。
で、これを覚えたのは、やっぱ『女神の分裂』が原因か?
使い続けるとそのうち【ふしぎなおどりマスター】とかいう称号を押しつけられそうだな。……もう使うものか、『女神の分裂』など。
ともかく、【ふしぎなおどり】はMP回復とは関係がなかった。
ではなぜ……?
「がぅ」
やはり、癒しが微量のMPを回復させてくれると考えるのが妥当か。
いや、確証がないうちは「その可能性がある」程度に留めておく方が無難だな。
期待して効果がないと困ることになるだろうし。
謎が解けるまでは、MP回復手段は睡眠のみだと思っておこう。
「MPが21残ってるから、『女神の加護』を使っても気を失うことはないだろう」
「ですね。まぁ、気を失ってもあとはもう寝るだけですから問題ないですし」
「……うん、精神的にしんどいのは、結構嫌なんだけどな」
ゲームじゃないんだから、数字だけ見てセーフだアウトだ言ってられないんだよ。
「HP1残るからセーフ!」って、それ瀕死の状態だからね!
一般的に瀕死はアウトだからね! 「死ななきゃセーフ」って、ブラック企業も真っ青の所業だからね!
「とにかく、『サンバ』を一台起動するぞ――『女神の加護(バッテリー用)』!」
充電式の『サンバ』にバッテリー用の『女神の加護』をかける。
すると「ぴろろっ」という愛嬌のある音を鳴らして『サンバ』が動き始めた。
進んではくるっと回って、回っては進んで、現在の位置と周囲の情報を各部のセンサーカメラで把握し始める。
その動きに、神獣に夢中だった女性たちが「かわいい~!」と声を上げる。
「これは、いい物!」
キティがぐっと拳を握る。
家電、好きなんだなぁ、ホントに。
そして始まる『サンバ』の動画撮影。……撮るな撮るな、そんなもん。
「がぅ!」
とんっと俺の肩を蹴り、ぽんちゃんが地面へと飛び降りる。
動き始めた『サンバ』が気になるのか――と、思ったら、元となった『サンバ』の上に飛び乗った。そっちはバッテリーが空で動かないのだが……
「……えっ!?」
思わず声を上げる。
『女神の加護』を使っていない、バッテリーが空の、動くはずのない『サンバ』が……
「がぁ~う」
ぽんちゃんを乗せて動き始めた。
先に動き出したコピー『サンバ』――『サンバ2号』の後を追うように、元となった『サンバ初号機』が移動を開始した。
「アキタカさん……これは、どうなっているんでしょうか?」
「分からん……が、もしかしたら」
『女神の加護』は、女神の力で魔力を電力に変換する魔法だ。
そして、ぽんちゃんこと神獣は女神の眷属――
「――ぽんちゃんは『女神の加護』と似た力が使えるのかもしれない」
「生きるコンセント……」
ぽそっと呟かれたアミューの言葉は、もしかしたら真意を突いているのかもしれない。
とにかく、ぽんちゃんが乗った『サンバ初号機』はバッテリーなしで動いている。それが現実だ。
楽しげにランデブーを続ける二台の『サンバ』を眺め、神獣の可能性を考えていた。
この世界には、アミューですら知らないことがたくさんありそうだ。
ぽんちゃんはじっと『サンバ2号機』を見つめ続けている。
まるで、使い方を学習するように。
「むっはぁ~! 可愛過ぎ~!」
「カメラ! カメラ回して!」
「あ~、いいねぇ! ぽんちゃん、こっち、笑顔ちょうだい!」
そして、『サンバ』に乗って移動するネコという、王道ど真ん中の動画が、異世界でも記録されていった。
賑やかだな、この村の女性たちは。
SNSが普及したら、あちこちで写真撮ってアップしまくりそうなバイタリティを感じる。
「アキタカ、アミュー。お願いがある」
出会った当初はおどおどしていたものの、結構な時間を共に過ごし、すっかりさん付けをやめてしまったキティが、これまでに見せたこともないようなきらきらした瞳で俺たちの前に詰め寄ってくる。
頬が薄く色づき、おねだりしたい少女のようなもじもじとした表情で唇をむにむにと波打たせている。
こちらを見つめる視線が、ちらちらと『サンバ』へ寄り道している。
「MYサンバが欲しくなったのか?」
「な、なぜそれを!? アキタカは……魔術師?」
大袈裟に驚いて仰け反るキティ。
いや、分かるわ。分かりやすいし。
「ヴァンガード村の清掃が終わったら、村長に言ってもらえばいいんじゃないか」
「じゃあ私も!」
「ウチも!」
「あたしも!」
「おいどんも!」
「そんなたくさんはねぇよ! あと最後の女子、『おいどん』はどうだろう!?」
挙手しながら詰め寄ってくる女性多数。
お前ら、俺に『女神の増殖』を使いまくれとでも言いたいのか?
精神ボロボロになるわ。
「とにかく一度寝て、明日『女神の増殖』を試してみるよ。うまくいけば、バッテリー付きの『サンバ3号機』が作れる」
「あの、アキタカさん。どうせなら、紙パックもセットしてからにしてみませんか? 紙パックも増えるかもしれませんし!」
確かに、付属品も一緒にコピー出来ればお得だが……
「『女神の装具』使うのにMP20必要なんだけど?」
「しっかり睡眠をとれば、明日の朝には完全回復してますよ!」
「今の最大MP68で、『女神の増殖』はMP55使うんだけど?」
「仮眠を取りましょう!」
「お前は鬼か……」
「いいえ、女神です」
こそっと耳打ちされた。
なんて無邪気な笑顔。
……いかん。ちょっと殴りたい。
が、……今のツッコミでHPの方にも限界が来たようだ。
やはり生身の人間は、データで生きているゲームのキャラクターとは違い、HPやMPが減少するに従って弱っていくのだ。
HP1でドラゴンと戦ったりなんて出来ないのだ。死ぬ寸前まで体力全快の時と同じパフォーマンスを発揮することは出来ないのだ。
今の俺はHPもMPも半分以下になっているわけで……
「アキタカさん!? 今から寝て、夜中に一回起きるという方法も……!」
そんなアミューに「お前がやれ!」と突っ込む気力もなく、意識を手放してしまった。
この世界を旅する以上、もう少し体を鍛えなきゃいけないかもしれない。そんな反省をしつつも、やっぱり、朝になったら一発殴っておこう――そんな決意を、俺は夢の中でしていた。




