11話 おいコラ、システムボイス ―2―
【女神魔法『女神の分裂』の発動を確認しました。こちらの指示に従って儀式を実行してください】
突如、システムボイスが脳内に響く。
……儀式?
【まず、軽く膝を曲げ中腰になり、両手で両膝を包み込むようにして持ってください】
え?
ポーズとかあるのか?
なんか、面倒くさい匂いがしてきたんだが……
とりあえず、言われたとおりにする。
【そして、円を描くように膝をさすりながら呪文を唱えます】
呪文?
魔法の発動に呪文が必要なのか。なんだか本格的だな……格好はアレだが。
【呪文は正確に発音してください。『オイラの膝は国宝級~。膝のお皿は有田焼~』】
「ちょっと待って!?」
【練習時間の申請を受理します】
そうじゃねぇよ!
練習したいから待ったをかけたんじゃねぇよ!
「本当にそんなことしなきゃいけないのか?」
【魔法とは、とてもデリケートなものですので、正確に、『全力で』、恥を捨てて儀式を完遂してください】
「恥を捨てて」って……
マジか……
「アキタカが独り言を、あんなに元気よく…………まさか、アキタカの方こそが『危ない人』だったのでは……!?」
キティが不審者を見るような目で俺を見てくる。
いや、違うからな!?
「そうだったのか!?」みたいな顔してるけども! 違うから!
システムボイスは他のヤツには聞こえないからなぁ……アミューにすら聞こえないんだもんな。
「なんとなく、そんな気配は感じていたけれど…………やっぱり」
感じてんじゃねぇよ、そんな気配。醸し出した記憶ねぇから。
で、「やっぱり」って言うな。
いらんスキルのせいで軽く小馬鹿にされているらしいな、どうやらマジで。
「あ~……えっと、つまりだな。魔法を発動するのに、儀式が必要らしいんだ」
「儀式?」
「あぁ……。だから、…………変な目で見ないでくれると、助かる」
顔を背けてしまった。
システムボイスがあぁ言うのだから、きっとそうなのだろうが……人に見られながらやるとか、軽く死ねる……っ!
なるべく、キティの目は気にしないように、システムボイスの指示通りの儀式を開始する。
……よかったよ、他の女子たちがみんなぽんちゃんに夢中で。
膝を軽く曲げ、中腰になって両手で膝をさする。円を描くように。
そして――
「オイラの膝は国宝級~。膝のお皿は有田焼~」
――唱えてやったさ、全力で!
これでいいんだろ!?
【…………】
なんとか言えよ、システムボイス!
なんで無言なの!?
【練習、終わりましたか?】
練習じゃねぇわ!
今の、全力!
【では、本番を始めましょう】
もう一回やらせる気!?
【先程のセリフの後、両手を開いて頭の上に載せ、ひらひらさせながら『あ、こりゃこりゃ』と】
地獄か!?
【それで、二番なんですが――】
二番あるの!?
【先ほどの膝をヒジに置き換えて『あ、こりゃこりゃ』まで】
ヒジには皿ないんですけど!?
【ヒジのお皿は備前焼でお願いします】
お願いしますってなに!?
お前の好みなの!?
【では、ミュージック、スタート】
伴奏あるの!?
とか思っていると、脳内に陽気なメロディが流れ始めた。
……もちろん、俺以外の誰にも聞こえてはいない。
これに合わせて儀式をするのか…………とか思っているうちに、いかにも「歌い出してくださいね~」的な雰囲気のカウントが始まった。
3、2、1――
「オイラの膝は国宝級~。膝のお皿は有田焼~。あ、こりゃこりゃ。オイラのヒジは国宝級~。ヒジのお皿は備前焼~。あ、こりゃこりゃ」
あぁ、やったさ!
やってやったさ!
全力でな!
【…………ぷっくく】
「笑ってんじゃねぇよ、システムボイスっ!」
はっは~ん、さてはお前も俺を小馬鹿にしてやがるな?
上等だ! 顔を見せやがれ!
――と、ふと辺りを見渡すと。
「アキタカさん、あの…………何を、しているんですか?」
ものすご~く引き攣った顔で、アミューがこっちを見ていた。
なんで見てんの!?
「ひそひそ……」
「ひそひそ……」
「ひそひそ……」
「ひそひそ……」
「そして、あんなにぽんちゃんに夢中だった女性たちまでもが、今だけ俺をガン見!?」
めっちゃ大勢の人に見られていた……なぜ、このタイミングで……っ!?
「あ、あの……アキタカさん」
辺り一帯を包み込む不穏な空気をかき分けるように、アミューがゆっくりと俺に近付いてくる。
そして、そっと肩に手を触れて、慈しむような声で語りかけてくる。
「アキタカさんの膝のお皿は、有田焼じゃないですよ?」
「分かってるわ! 言わされたの!」
そんな、「大丈夫、怖くないからね」的な優しいニュアンスで俺を励ますな!
大丈夫! ちゃんと理解してるから!
俺の膝の皿が有田焼じゃないことは、他の誰より俺がよく分かってるんだよ!
そして、ヒジに皿がないこともなっ!
「いいか、今のは女神魔法の……」
と、説明をしようとした時、全身から一気に力が抜け落ちていった。
体内の血液を一気に吸い取られたような、そんな脱力感に襲われる。
これは……魔力がなくなる感覚だ。
我慢出来ずに、俺は膝から地面へと倒れ込んだ。
「アキタカさん!?」
慌てた様子で、アミューと周りにいた女性たちが駆け寄ってくる。
「た、大変です! どなたか、代わりになりそうな有田焼をお持ちの方はいませんか!?」
なんの代わりにする気だ!?
――と、突っ込む元気もない。
く……っ。魔力がなくなる感覚は、慣れていないせいか抗えない。
視界がかすみ始める。
ぼやける世界を、眉根を寄せて凝視する。
すると、アミューの向こうに『サンバ』が二つ並んでいた。
やっぱり、この魔力欠乏は、『女神の分裂』によるものか。
そして、これで成功したってことは……あの謎ダンス、毎回しなきゃいけないってことなんだな…………キャンセル出来ないかなぁ、アレ………………ん?
そこで俺はひらめいた。
そうだ!
オート!
オートってのは、この謎ダンスをしなくてもいいってことなんじゃないのか?
そうに違いない。
だって、『女神の分裂』を使ったヤツがいるなら、そいつらはもれなく同じ事を考えただろうから。
「こんなアホなこと、毎回やっていられるか!」ってな!
消費MPが5増えるが、あのダンスを行う精神的ダメージに比べれば屁でもないだろう。
使ってやるさ、MP5! 余分にな!
【報告:『女神の分裂』発動のための呪文は、全128種存在します】
「いらんわ、その報告!? つか、そんなあんのか!? 考えたヤツ暇だったんだろうねぇ!」
「あ、あの、アキタカさん!? どうしました急に!? 発作ですか!?」
お前がこしらえたシステムボイスのせいだっつの……くそ、今のツッコミで完全に精神力が尽きた。もう顔を上げるのも嫌だ……
「アキタカさん」
ぐったりとする俺に、アミューが声をかけてくる。
心配して呼びかけてくれているのだろう。
「計算上、MP10以上残ってるはずですので、眠る前に『女神の加護』を使うと無駄がなくてお得ですよ!」
「……鬼か、お前は」
確かにMPは残っているだろうが、もう魔法は使いたくない。心が痛い……
MP0になったらどうなるのか、考えるだけで怖い。
「…………あっ!」
アミューの言葉を聞いて、俺はあることを思い出す。そして、焦る……
「アキタカさん? どうされたんですか、顔色が悪いですよ?」
「……サンバ」
「へ?」
「サンバッ!」
「お、踊れということですか!?」
「違う! 『サンバ』の電源!」
アミューを押しのけて、つい今し方分裂した『サンバ』を手に取る。
背面を覗き込み、側面を眺め、トップパネルを見つめ……ダメ元で電源をオンにする。
…………シーン。
「んぬぁあぁ…………だよなぁ」
凄い脱力感が襲ってきた。
世の中、そんなに甘くないってことか……




