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1話 女神の遺産と女神魔法 ―3―

「恐れながら国王陛下」

「よい。かしこまることはない。ワシのような戦えぬ国王が女神の使者の前で威厳を放つことなど滑稽。どうか、普通に接してほしい」


 そういうわけにもいかないと思うんだが……

 周りにずらりと並ぶ怖そうな男たちに視線を向けるが、誰も何も言わない。


 どうしたもんかとアミューを見ると。


「いいでしょう、別に」


 かるぅ~い言葉が飛んできた。

 責任取れよ? その無責任な発言の。

 じゃあ、まぁ……固くなり過ぎない程度の敬語で。


「では、陛下。いくつか試していただきたいことがあるんですが、構いませんか?」

「試す? なんだ?」

「まずは、足首を内側から回して外へ向けてみてください」


 右足の爪先を右回りに回転してもらう。が――


「くっ! ヒザが痛むな……これが限界だ」


 足は全然回らなかった。


「では、ヒザを伸ばした状態で上体を倒してください。こう、床を触るように」


 立位体前屈だ。

 お辞儀させるような格好だから怒られるかと思ったのだが、国王は素直にやってくれた。

 しかし、体は全然倒れない。

 手がヒザに触るかどうかというレベルだ。


「では、両手を横に広げて頭の上へ持ってこられますか?」

「ぐぅっ! これ以上は上がらぬっ」


 肩より少し上で、国王の腕は止まっていた。


 うむ。これはアレだな……


「ふぅ……今の動きに何か意味があるのか?」

「あの、陛下。陛下は出来ることならまだまだ最前線で戦いたいと、そう思ってらっしゃるんですよね?」

「ん? うむ、出来ることならワシが先頭に立ち、騎士たちを、そして民たちを導いてやりたいと思っておる」


「分かりました。少しお時間をいただけますか? 従者と話がしたいので」

「うむ。好きにするがよい」


 というわけで、アミューを呼ぶ。


「なんとかなりそうなんですか!?」


 きらきらと、期待の込められた瞳で俺を見つめるアミュー。

 なんとか……ならなくもない、かもしれないが……


「この世界って、魔法とかあるのか?」

「ありますよ」

「それをなんとか電気に変換出来ないか? 出来れば日本と同じ100Vで50Hzか60Hzの」


 アミューが持ち込んだ家電はイドバシで購入した日本向けの電化製品。最近の電化製品にはほぼすべてにインバーターという周波数変換装置が組み込まれているので、関東の50Hzでも関西の60Hzでも使用が可能だ。

 つまり、電気が供給出来さえすればアミューが持ち込んだ『女神の遺産』は使用が可能になる。

 そうすれば、国王の体は治る。その可能性が高い。


 要するに、国王の体はあの膨れ上がった筋肉のせいで全身肩こり状態なのだ。

 腕が上がらないのは四十肩だろう。

 ヒザや腰も同様に酷使された体が悲鳴を上げている状態なのだ。


 それらは、上質のマッサージで改善出来る。

 素人が行うなんちゃってマッサージではなく、プロが持てる技術のすべてを注ぎ込んで生み出す最高のマッサージであれば。


 そして、その最高のマッサージを提供してくれるものがここには存在している。

 それが、『極みリラックス』だ!


「女神の力で、雷の魔力を電力に変換とか出来ないか?」

「そういうのは無理っぽいです……」


 くそ。出来ないのか……

 家電を気に入ったのはいいが、動力がないことを忘れるとは……とことん残念な女神だ。

 宝の持ち腐れとはこのことだ。


「どうにかして電力を確保出来れば……」

「魔法を変換することは出来ませんが――」


 ぱっと開かれたアミューの手の平には、コンセントが載っていた。

 壁に埋め込まれている、電化製品のプラグを差すための、ご存じの長方形が二つ並んだ、あの穴だ。


 そのコンセントが目の前に。


 壁にくっついていない状態のコンセントを見る機会もなかなかないよな。

 なんとも不思議な感じだ。


「『女神の加護』という女神の使者専用の『女神魔法』というものを生み出しました。これを使用すれば、この世界のいろいろな物理法則をねじ曲げて、日本と同じ条件の電源が確保出来ます」

「ねじ曲げちゃっていいの、そこら辺の法則!?」

「わたしがいいと言えば問題なしです」


 こんな軽く決めていいのか?

 こいつがトップの世界って、すげぇ怖いな。


「じゃあ、これを使えば……」

「はい。マッサージチェアは稼働します」


 ただし――と、アミューは声を潜めて言葉を続ける。


「これは魔法の一種ですが、かなりの裏技ですので、悪用されないように制限を付けてあります」

「制限?」

「まず、最初に差し込んだプラグしか認識しません。そして、このコンセントから電力を吸い出そうとしても出来ません。ですので、アキタカさんが『これは必要だ』という場面でのみ使用し、必ずアキタカさんがプラグを差し込んでください」


 つまり、俺が認めた家電しか使えない……ってわけか。


「それで、これを取り付ける場所は?」

「どこでも構いません。が、持ち運べる物には付けない方がいいです。床か壁か天井辺りが無難かと。樹木や崖にも取り付けられますが」


 なるほど。そうしておけば盗難防止にもなるな。


 それじゃあ、まぁ……使ってみるか。


「あ、でも。さすがに世界の法則をねじ曲げる行為を乱発されるのは困りますので、『女神の加護』は一度しか使えません。もう一度使うには、アキタカさんのレベルアップが必須となります」


 レベルアップって……ゲームみたいだな。


「分かった。とりあえず、レベルアップとかはあとで聞くとして、今はここにコンセントを設置しよう」

「はい」


 アミューからコンセントを受け取る……と、コンセントは俺の手の中へと溶けて染み込んでいった。

 頭の中に抑揚のない涼やかな女性の声が聞こえてくる。



【女神魔法『女神の加護』を習得しました。使用回数:1回】



 わぁ……ゲームだ。


「お待たせしました」

「話は済んだのか」


 俺の体が、何やら面白おかしくいじくられているっぽい現実から目を背けるために、国王との話に戻る。

 目先のことに一生懸命。俺はそうやって生きてきた。


 ……面倒なことは後回し、とも言うけどな。



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