9話 神獣の森探検隊 ―4―
「キ、キティ……あの、えっと…………聞いて、た?」
「あぅ……あの…………だ、大丈夫。安心していい」
さすがに寝たふりは続けられないと悟ったのか、キティが体を起こす。ばつが悪そうに俯いてぽそぽそと弁明らしきものを始める。
「あの……と、途中から、会話は聞こえていたけれど、……その、子供が見てはいけないものは、見ていない」
そう言って、じ~んわりと耳を赤く染める。
えっと…………なに?
こいつは何を言っているんだ?
子供が見てはいけないもの……?
「わ、私が見聞きしたのは、『アキタカが、他の人には知られてはいけないアミューの何かを知り、アミューは嬉しそうに照れ笑いをしていた』という感じのことなので……、き、きっと私が寝ている間に『子供が見てはいけない何かしらの情事』があったのではないかと推察している」
「違うわ!」
「な、何もないですよ!? そういうお話ではないですから!」
なんでキティが眠った隙に、すかさず俺がアミューに襲いかかるんだよ!? それもこんな森の中で!
おまけにお前が寝てたのほんの数分じゃねぇか。
さすがにもうちょい時間かけるよ、そーゆー時は! ……いや、違う。これはツッコミミスだ。そういうことじゃない。落ち着け、俺!
「昔、パパがこんな話をしていた……『男とは、露な谷間を見ては雄大なる二つの山の息吹を感じ、まだ見ぬ頂へ思いを馳せる生き物なのだ』と」
「ジョージさん、あんな渋い声で娘さんになんの話をしてたんですか!?」
「具体的には、女性の胸部。言い方を変えるとおっp……」
「言わなくていいです! 分かってますので!」
……あぁ、そうか。
人の顔を踏んで「喜んだ?」とか聞いてきたのは、あのバカ親の悪影響だったのか……アホだろ、ジョージ。
「その、まだ誰も見たことがない雄大なる頂を、アキタカに…………見せた、のね?」
「『のね?』じゃないですよ!? そんな事実はありませんし、お見せ出来るようなものじゃないです!」
アミューの顔が真っ赤に染まる。
うっすら桃色のキティを一気に追い抜いていったな。
というか……キティ。お前は恥ずかしがり屋なのか羞恥心をかなぐり捨てているのかどっちなんだよ。掴みどころがなさ過ぎるぞ。
「とにかく、そーゆーお話ではなくてですね! 実はわたしは女神なんですけども、この世界を創った時のこととか、時間の概念的な神々と人間の相違についてのお話をしていて、それを知ってもらえて嬉しかったと言っていたんです!」
なんかさらっと素性バラしちゃったぞ、あの女神!?
いいのか、それで!?
「女、神……アミューが?」
「はい! この世界の創造主です!」
「す……すごい」
キティの瞳がきらきらと輝きを放ち始める。
あんなに表情に乏しかった娘が、アミューの正体を知ってここ一番の輝く瞳を見せている。
「初めて見た……まさか、アミューが……」
高鳴る胸を押さえ、食い入るように見つめ、キティがアミューから……一歩遠ざかる。
「噂に聞いた『危ない人』だったなんて!」
「違いますよ!?」
「『我は神なり……』とか言う危ない人には気を付けるように、子供の頃から言われていたが、今日、初めてその危ない人に出会えた。ずっと会ってみたいと思っていた」
「会ってみたいと思っちゃダメですよ、その手の人に! そして、わたしはそのカテゴリーじゃないですから! 本物! モノホンの女神なんです!」
「『神獣の怒りを鎮めたければ金を寄越せー』って言ってみて」
「言いませんし、そんなわくわくした顔でこっち見ないでください!」
「『神様の言うことはぜったーい!』でもいい!」
「その神様もどき、明らかに婦女子に不埒な行為をしでかそうと目論んでますよね!? 『じゃあ、3番が神様とチュー』とか言うタイプですよね!?」
「す、すごい……本物だ。本物を聞いちゃった……!」
「違いますし、喜ばないでくださいと、さっきからずっと言い続けてますよ、わたし!? そしてアキタカさんも、見てないでなんとか言ってください!」
いや~ごめん。
ちょっと関わりたくなくて、その面倒くさいやりとりに。
そうかそうか。
なまじ、神獣を信仰している村として有名になると、そういう『危ない人』が寄ってきちゃうのか。『危ない』というより『怪しい』なんだろうけど。
「パパに、『危ない人と口を利いちゃいけない』と言われているので、アミューとは、ここで……」
「待ってください! ここで置き去りにされたら、わたし生きて帰れる自信が一切ありません!」
訴えるべきはそこじゃないぞ、アミュー。
「キティ。アミューは本当に女神なんだ。そして、苦しんでいる人々を救うために俺と一緒に旅をしているんだよ」
「……本当、なの?」
「あぁ。本当だ」
秘密にしなきゃいけないんだろうけれど、アミュー自身がバラしたことだし、それにこのままアミューが『危ない人』扱いを受け続けるのも看過しがたい。
キティにはきちんと話して納得してもらおう。
「……アミューは割と、残念な人なのに?」
「あぁ、うん。しばらく一緒にいるとうすうす気付いちゃうよな、こいつの残念さには」
「わたし残念じゃないですよ、お二人とも!?」
「けど、この国の人を救いたいってこいつの気持ちは本物なんだ」
「ア、アキタカさん……(うるうる)」
「著しく残念な仕上がりではあるけども!」
「その一言が余計です!(むきー!)」
「……こんなに感情表現が豊かで、威厳も神聖さもまったくないのに……女神」
百面相のごとく表情をころころ変えるアミューを見て、日に数度しか表情が変わらないキティがしみじみと呟く。
「頑張って、いるんだね……アミューなりに」
おぉっと、物凄い上から目線だ!?
「私……応援する」
「へ? あ、分かってくれたんですか、キティさん! アキタカさん、キティさんが分かってくれましたよ!」
「頑張れ、頑張れ、アミューならきっと出来る」
「あ、あれ? なんでしょう。肯定的なことを言われているのに一切敬われている気がしません」
うん。だって敬われてないもん。
どっちかって言うと、小さな子供の頑張りを見守る大人の目線だ。
「な、なんだか釈然としないです……あ、そうだ! 美味しい果物をあげれば、きっと好感度が上がって敬ってくれるはずですね☆」
なんか、「すごくいいことを思いついた」みたいな顔をしているが、その手段、女神としてどうなのよ?
「キティさん、とっても美味しい果物を差し上げます!」
そう言ってアミューが差し出したのは……例の真っ赤な果実だった。
ついさっき食い過ぎて、そのせいで余計なタイムロスを喰らわされた悪しき思い出の果実。
「なんで持ってきてんだよ!?」
「い、いえ! とても美味しかったので、あとでこっそり食べようかと……!?」
「反省って言葉知ってる!?」
「電子辞書で調べたことあります!」
「電化製品大好きか! いつもご利用ありがとうございます!」
いや、ほら。
一応、長年勤めた店員としての性っての? つい、ね。
「アミュー。めっ!」
「はぅっ!? 怒られました! 物凄くアホの娘にするような感じで、ちょっときつめに怒られましたよ、わたし!? 敬われてませんよね、これ!?」
だから、敬われてねぇっつのに。
「とにかく没収だ! お前が持ってるとろくなことにならないだろうしな」
「あぁっ! ポッケが小さくて一個しか持ってこられなかったのに……っ!」
「お前……手提げカバンでも持ってたら大量に持って帰るつもりだったのか?」
「えへへ……」
「アミュー。めっ!」
「はぅっ!? またしてもっ、少ないバリエーションで二度も!?」
この一連で、俺たちの関係性が決定づけられたようだ。
まず、俺は『女神の遺産について情報を持っている人物』で、キティは『それを護衛しつつ森を案内する戦士』で、アミューは『自称女神のアホの娘』……女神は本当なんだけどな。




