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家電転移~永久名誉店員になった俺は家電の能力(チカラ)で異世界を救う~  作者: 宮地拓海


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7話 筋肉の防衛ライン、離脱 ―1―

 まぶたを開けた時、目に映ったのは……知らない筋肉だった。


「おっ! 気が付いたか、若いの!」

「……この世には神も仏もないのか」


 砦の中の一室らしき場所に寝かされていた俺の顔を覗き込みながら、ボディービルダーが好んでやっていそうなポージングを決めていた筋肉の塊こと兵士。

 寝覚めになんちゅう暑苦しいもんを見せつけやがるんだ。


「アミューはどうした?」

「ん? あぁ、連れのねぇちゃんか! それなら、ほれ、そこに」


 と、筋肉むっきむきの指差した先は、俺だった。というか、俺の後ろ?

 振り返ると、オッサンから身を隠すようにベッドの陰に蹲っているアミューがいた。俺を盾にするように。


「ぐすっ……ひ、独りにするなんて、酷いじゃないですか……えっぐえっぐ……」


 号泣だ。

 ゾンビが徘徊する洋館に独りで取り残されたかのような怯え方だ。

 そんなに怖かったのかよ。


「とにかく気が付いてよかった。何か困ったことがあればなんでも言ってくれ」(むきっ!)

「……えっと、じゃあ…………とりあえず出て行ってくれるかな?」

「心得た! 病み上がりだ、もう少しゆっくりしていくといい!」(むっきむき!)

「……それ、いちいちポーズ変えないとしゃべれないのか?」

「はっはっはっ、そんなわけないだろう」(むーっきむきん!)


 とか言いつつ、フロント・ダブル・バイセップスをキめる兵士、いや、筋肉の塊。

 こいつはもう、筋肉の妖精かなんかなんじゃないだろうか。大きなくくりで言えば、うん、悪い妖精だ。


「あぁ、そうだ。騎士団長殿のお話にあった『女神の遺産』というものだが、それではないかと思われる物が一つあるらしいのだ」

「女神の遺産が!? どこに?」

「うむ。外の森へ魔獣の調査に行っていた者が、森の中で不思議な洞窟を見つけてな。その中で発見したと聞いている」


 洞窟の中ってのも、これまで発見された女神の遺産と合致している。

 おそらく、その洞窟は女神の遺跡なのだろう。


「見せてもらえるか?」

「分かった。では……、これがバック・ラット・スプレットだ!」

「あぁ、ごめん! お前らには文脈を汲み取るとか無理なんだったな! 『女神の遺産を』見せてくれるかなぁ!?」


 これでもかと広背筋の盛り上がりを見せつけられて、アミューが「ぴぃぃいっ!」と泣き声を上げ、直後に口を押さえて蹲る。

 もう、許容量を超えているのだろう。……吐くなよ。

 俺が見たいのは『女神の遺産』であって『女神の胃酸』じゃないからな。


 一応フォローしておくと、アミューは筋肉を否定しているわけでは決してない。

 筋肉の押し売りに辟易しているのだ。

 なので、全国の筋肉自慢のメンズ&ウィメンズはアミューを責めないでやってほしい。


 っていうか、この砦に来て有象無象の筋肉に取り囲まれて、人間とは思えない奇妙な動きをするこの謎生物を小一時間見せつけられ続ければ、きっと誰もが今のアミューの心情を理解してくれることだろう。


 悪いのは筋肉じゃない。

 筋肉の押し売りだ。


「では、女神の遺産を持ってこさせよう」(むきんっ☆)


 爽やかに片手を上げて、暑苦しい笑顔を残して部屋を出て行った筋肉兵士。

 ……部屋の空気が淀んでいる気がする。


「空気の入れ換えがしたい……」

「ダメですよ、アキタカさん! …………外には、もっと多くの、無数の、夥しい量の筋肉がうごめいているんですよ……っ」


 えぇ……外の方が空気淀んでるのか…………魔窟かよ、ここは。


「マーサさんが、『いいなぁ、羨ましいなぁ、あたしも一度行ってみたいなぁ』なんておっしゃっていたので、どんなに素晴らしい場所なのかと期待しいていたのに…………この裏切りは、あんまりです……っ」


 俺の服の裾をぎゅっと握りしめて、アミューがさめざめと泣いている。

 まぁ……筋肉フェチのマーサにとってはパラダイスなのかもな、この筋肉の楽園は。


「アキタカさんは、これ以上大きくならないでくださいね……っ! ねっ!」


 俺も、そこそこの筋肉は付いているのだが……まぁ、人に見せるほどもない程度といえばそうか。

 魅せる筋肉は今のところ必要としていないので、筋トレに勤しむ予定はない。

 ……っていうか、アレらの仲間入りをする予定は今後もない。

 アミューの心配は杞憂に終わることだろう。



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