5話 騎士団長の責務 ―1―
俺たちはベシーロが担ぎ込まれたという治療室へと駆け込んだ。
「センセイ! 早く治療を!」
「分かったわ! アキタカ、アミュー! 手伝って」
マーサがベッドに寝かされた傷だらけの男へと駆け寄り、てきぱきと体の状態を確認していく。
手伝えったって、何をすればいいんだよ?
「お名前、分かりますか? ベシーロさん、聞こえますか?」
アミューが傷だらけの男に駆け寄り、耳元で声をかける。
なるほど。そういう手伝い方もあるのか。テレビで観たことがあるな、そういうの。
ナースたちが綺麗な布を用意したり、サスーン・コアから作られたライムグリーンの薬を準備したりと、慌ただしく走り回っている。
そんな中で、俺は冷静にその傷だらけの男を観察する。
血に染まっていない場所がないのではないかというほど、男が身に着けている服は汚れていて、あちらこちらが破れている。
比較的損傷が少ない胸の部分は、きっとベッドの下に転がっている鎧に守られていた部分だろう。
頭部を損傷しているのか、夥しい血液が固まりこびりついて顔がはっきりと認識出来ない。
それに、足があり得ない方向へと折れ曲がっている。
細かい傷を挙げれば切りがなく……こんな重篤な怪我人が、本当にあんな薬で治療出来るのかと思ってしまう。
「少し、沁みます」
短く言って、マーサがライムグリーンの薬を男――ベシーロの顔へと塗りたくる。
その後から、ナースたちが純白の布を持ってベシーロの顔をごしごしこすり出す。
えぇぇええ!?
雑っ!?
えぇ!? そんな荒っぽい感じなの!?
軽く触れるだけでも激痛が走りそうな満身創痍なのに!?
だが、ナースが拭き取ったそばから、ベシーロの顔の傷が次々と消えていく。
まるで、頑固にこびりついたレンジフードの油汚れを、電解水の洗剤でこすり落としていくように。
「……なに、あの薬…………怖っ」
効き過ぎる薬は驚異だ。俺たち地球人にとっては。
「アキタカ、布を大量に持ってきて! 体の傷を残らずこすり落としてやるから!」
「お、おう!」
タイミング悪く、ナースの半数が休憩という名の睡眠に入ってしまっていた。
立っている健康体はあごで使えということわざでもあるのか、マーサは当たり前のように俺に指示を出す。
まぁ、人助けになるならそれくらいはやってやるけどな。