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蟷螂の艦隊  作者: まにまに提督
提督
9/12

音信不通

はい

2025年6月13日


「おい!」

バンッ!ととんでもない勢いで執務室もの扉が開いた。扉が軋む音すら気にならない程の大声を出して入ってきたのは白露形二番艦「時雨」だった。見掛けによらず男張りな性格で、気に入らない奴はじっちゃんの名に懸けて成敗していく、お掃除大好きの根は良い娘が、普段なら絶対にやらないような勢いで扉を開けてきた。驚きすぎて怪訝そうな顔も浮かべられずおどおどしていると

「白露が何処にもいねぇんだ!」

「はぇ?」

思わず情けない声を漏らす。突っ込みどころが多過ぎて思考が追いつかなかった。白露は手の施しようが無い位に人間に対する不信感を抱いていた。彼女は基本的に提督のみに不信感を抱くようだが、最近は私にかかわった、長門や赤城、神通など、私と結構な頻度で会っている霊宿にも不信感の目が行っている。しかし、定期的に行われる検診の結果では、彼女のメンタルは非常に安定しており、よもや行方不明になろうとは誰が思ったことでしょう。誰も思ってなどおりません。だからこそ動揺するのだ。

「動揺しているだろ。俺も、俺以外の白露型はだいたい、いや全体が動揺してるんだ。何故かって?昨日寝る前に見せてくれた笑顔が、いつもどおりだったからだ」

私は怪訝の視線を向けた。

「ねえさんはいつも寝る前には笑顔を見せるんだが、その笑顔が少しでも引きつっていればその日に何かが当たってことだ。ちなみに提督が着任した日も引きつった笑顔をしていたぜ。んで、少しでも明るければその日に何か良いことがあったってことだ。少し前、お前が摩耶に部屋に連れて行かれていた日があったろ?そん日がさっき行ったとおりの笑顔だった。理由は確か「摩耶があんなに楽しそうにしているのは久しぶりに見た」ということだとよ」

「それには俺もかかわってるじゃないか。摩耶とかも疑い飲めはかけられなかったのか?」

私がそう聞くと時雨も、困った表情をし

「俺も詳しいことはしらねぇ。だがねえさんはあんたの違和感?とか何とかに気づいたとかいっていてな」

私はその話を聞いて少し頭痛がした。大脳の端が痛くなる現象。これは侵食現象によく起こる副作用で、脳に多大な付加をかけるため、脳の端の部分にある血管が、軽くふくらみ、神経を圧迫することで起こる現象。本来普通の人間であらば死にいたることもあるこの症状。霊宿だからこそ耐え切れるんだなと。ん?霊宿?誰が?

「ねえさんがいうにあんたからは俺たちと同じ霊宿のにおいがするらしい。詳細情報を展開しようとすればNo Dataとして表示されることも姉さんが、その前に赤城さんが見つけている」

赤城は少し前に侵食現象に蝕まれたが、”何故か”侵食現象が収まり、変わった雰囲気にこそなったが、我が艦隊に復帰してくれた。

本来、侵食現象は宿主を蝕み始めると歯止めが利かなくなる。が、時折、水を打ったように症状が静まり、消えていくことがあることも報告されている。その報告書、”何故か”私が書いたことになっているから驚きで、私にはそんな技術も頭脳も、IQもない。正直底辺コースを辿って来た人生だったはずだった。

「私が霊宿?いやいや、たぶんというか絶対ないって。」

怪訝そうに時雨が問うてきた。

「そうなのか。今俺はあんたの机の後ろにかけられてる刀が、霊宿の艤装を装備するときのものと変わらない光を発したように見えたが?」

私は何故か焦りの色を浮かべる。今時雨が言っていたことを私は心のどこかで隠そうとしてきていた気がする。私は軽くあしらってごまかすと

「白露から発信される自動通信は接続できるか?」

すると時雨は首を振りながら

「いんや。つながらないし、つなげようとしてもモールスじゃない何か別の音...声にも聞こえたといえばきこえた音がするだけ。」

私は表情を沈めた。

「わかった。白露の行方については私が何とかする。」

すると時雨は少し怪訝そうにこちらを見て

「提督はただの人間なんでしょ?探すとしたら海を渡らなきゃいけないよ。」

時雨がその台詞を言い終わったところで

私の艦艇使っていきますか?」

不意に時雨の後ろに立っていた霊宿が声を出した。

その声に過剰に反応した時雨は勢いよく執務机に飛び込んできた。

「のぉ!」」

「きゃぁ!」

時雨の情けない悲鳴が聞こえた。あともう一人誰かの悲鳴も。

がたごととととととと!...すごい音を響かせて私とし時雨が倒れた。少し時間が経ったころ。意識が完全に戻りきらず、とりあえず起き上がろうと手を動かそうとしたとき

(ん...?)

手にやわらかいものの感触をかんじる。すぐ横からは呼吸音が聞こえてくる。そこでハッと我に返った。

その手で時雨をぐっと押し上げた。

意外と軽い。筋肉をしっかりつけてるのかと思ったらそうでもなく、やわらかいところが多い。だが駄肉はついていないらしい。腹筋は硬かった。

「おう。わるいな。提督。」

時雨は私が押し上げたことで、時雨は今私の骨盤あたりに座っている。騎上位の体制であるおかげで私はすこし苦しい。

「お前が女じゃなかったら今頃は塵だぜ」

ああなるほどさっきのことか。と思っていると、少しの間その存在すら忘れていた霊宿が少し声を掠めていった。

「はぁぁぁあ....英国でもそんなに大胆に感情表現をすることは無いですよぉ...」

そこに居たのは先週着任したばかりのロイヤルネイビーの栄光ことアドミラル級一番艦「フッド」だった。 

フッド、というとザ.イギリスのお嬢様っていう印象しかないが、実際フッドとしての彼女を見ていると、かわいいが救いようが無いくらいにドジっ娘の英国生まれのお嬢様だ。非常に紅茶が好きで、ティータイムを忘れるようなことだけは絶対にない。紅茶を飲む彼女の姿は優雅なのだが...一応これでも我が艦隊随一の頭脳の持ち主。のはず。

「おうッ!?お前俺の後ろにたって突然声出すなよな!」

あわてて何度もぺこぺこするフッドを見て時雨は戸惑っていた。時雨が振り向いてどうにかしてくれよ見たいな顔をしようとした瞬間

「じゃ、私は白露の件について調べることにするからいくよ。」

と、めんどくさい現場から逃げるようにすたすた歩いていった。



------------



灯台が夜でもないのに光を灯している。それもそのはず。ここはもう人の管理を離れてなおも、電気が通りひとりでに動いているだけだからだ。太陽光発電はかなり昔からあった技術で、灯台にその太陽光発電用のパネルが乗っていることと、いたるところの塗装がはがれてることが年期の古さを伝えてくる。

私が居るのは鎮守府、横須賀基地と呼ばれる海軍艦艇倉庫兼司令部の構造地からかなり離れた孤島。私たちの鎮守府は工廠、船渠、給糧所、赤煉瓦、の四つの建物で構成される。何処の技術をとってもいいとはいえないが何時までたっても整備がされないあたり、大本営からしたら捨て駒と変わらないのだと思う。だがそもそも私たちの鎮守府は最前線で、もっとも戦火を上げていて、世界でも最も艦艇数がある必要不可欠な場所なのだ。確かに最近の鎮守府は未来化しすぎて不便なところもあるとか妹がいってたから、分かりやすい旧式の物が使われていると考えれば筋は通る。

妹たちには悪いことをした。せめて事情くらい話してから出て行ったほうがよかっただろうか。といまさらそんな事に後悔していたらこれから起きることに絶えれるはずが無い。

私は大本営に送られることになった。

大本営は私の機能に見られる不具合を発見した。しかもそれはメンタル面の問題なのだから修正するすべが無いと見て、提督以外誰も知らないように手はずをまわし、今こうしてこの孤島で、本営の回し者が来るまで待たなくてはいけないことになった。

それから少し待ったころだろうか。突然砲撃音が波を揺らし、空気を伝い響いてきた。砲撃は私の後方50m、角度48度のところに着弾した。爆風が頬を強く叩く。砲撃元方へ向く。居たのは一隻の巡洋戦艦の姿だった。

「フッド...さん...」

大和クラスの大型戦艦。イギリスで生まれた霊宿で、そもそも霊宿であることを隠していたらしいのだが、ある男性に見抜かれて数年前から霊宿として活動しているという私の先輩に当たる霊宿。性格は穏やかでおっちょこちょい。任務や演習以外で人には絶対に攻撃的にならないとてもやさしい人だ。

そんな人がなぜ私のところへ来て、なぜ砲撃するのか、理由はすぐに分かった。

甲板に乗っていた女性がフッドの空砲で一気に崖の上まで飛んできた。そして一言

「私が本営からの回し者って言えば理解してくれるかな?」





いい感じに湿れた気がする今日この頃

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