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蟷螂の艦隊  作者: まにまに提督
抜錨!横須賀鎮守府!
3/12

南雲機動部隊、旗艦赤城!抜錨する!

おうふ...

2025年4月22日 〇六〇〇 横須賀鎮守府 霊宿寮室


「ん...んむぅ...朝...だね」


重い瞼を無理やり開くと、私はカーテンを一気に開けた。刹那、起きたばかりの目を焼く勢いで入ってくる日光を手で遮る。目が痛いくらいに強い日差しの中、普段は一切人を見ることのなかった中央広場に人影があるのに気が付いた。


「ん?珍しい、、というか初めてかな?広場に人がいるのって。って...あれ、新しい提督?何してるんだろ...そういえば今回の提督って変わった人だよねぇ...」


私は目を細めた。何か裏があるんじゃないかと。そう思い凝視していると「おわぁぁぁあ?!」という声とともに、凝視していた対象が盛大にこけた。私はとりあえず窓を開け、倒れた提督に声をかける。


「おーい。だいじょーぶ?」


イテテテテ、と尻をなでながら何故か上体をふらつかせる提督は気づいていないのか、返事を返す気配がない。また大声で呼びかけようと思ったが、どこか馬鹿らしくなりやめた。ふと後ろを振り向くとすぐそこに私と同じ部屋で寝ていた加賀が居た。


「おわぁぁぁぁっぁぁぁぁ!?」


これが私のいつもの日課なのである



・・―・・ ・・・  



「ほんともー。毎日いってるよね?私すぐ真後ろにいるのやめてって。意外と怖いんだから。」

「大げさやなー赤城ぃ。あれやな?大好きなうウチの顔が近いから興奮してまうんやろ?」


んなわけあるか!と加賀の頭にチョップをくらわす。頭を抱える加賀をよそに私はふと提督の事を考える。

私が提督を疑ってしまっている理由が何なのか?

あの提督。本当に信用して大丈夫なのだろうか?と。とても変わった人で、普段は格好よく決めているが、たまに盛大にこけたり、どこかあどけないところもある。そんな彼女が何かをするとは思えないが、前提督が提督だ。完全に信用しきれないのも無理はない。理由の人彼女、私たちにはまだ隠していることがあるような気がする。これ一つ目の疑ってしまう理由だ。数日前、私は普段も時折軽巡から電探を借り遊んでいることがあるのだが、今回の提督は執務室を通るたび、提督の座っているところにだけ敵でもない、味方でもない、見たことのない表示がされるのだ。敵艦だとしっかり読み込もうとすれば艦種が分かる。だが提督の場合、艦種が表示されず、「NO DATA」と表示されてしまう。これも疑う理由だ。そして最後は、人間離れした知識、力、速度、反射、そして圧倒的に違うのは...



私たちなんかとは練度も、そして経験してきた戦場も、何もかもが私たちとは違う。提督が着任して数日、皆この話題で持ちきりだ。どれだけつらい世界を見てきたのか。もちろん提督だ。私たちの知らないこともあるだろう。だがあれはそんなちゃちな物じゃ断じてない。いまだ私たちがまだ経験したこともないような世界を見ているような気がすると。同乗なんかじゃない。同じ気持ちを知っているからこその反応を。私は彼女を疑いたくない。疑ってはいけないと思う。疑ってしまっては示しがつかない。

呪いに近い感覚が胸を締め付ける。息遣いが荒くなる。視界が歪む。ふと新提督とした会話がフラッシュバックする。




『私たちの移り変わりは激しく、時に非情で、なぜ...私たちがなぜこうして生まれてきたのか、考えたことはある?』


『雲壌月鼈じゃないか。』


『分からないならいいんだ。確か一番最初に見つかった艦の霊宿は赤城だったはずだよね』


『?...そうだけど?』


『....いつかわかると思うから言わさいでおくよ』


『?まぁいいや。いまは聞かないけど、いつか絶対聞くから。』


なるほどそういうことか。艦としての記憶の侵食が始まった。記憶の侵食が始まった霊宿に以前の霊宿の記憶が残っていたものは誰一人いないそうだ。私は、私の自我はここで死ぬ。加賀が何か言っているが聞こえない。過去の事がどんどん消えていく。もう何も見えなくなりそうなくらい視界が歪み始めた血のように朱く染まり始めた。頭の中を這いずり回る言葉の、記憶の渦が私を締め付ける。時間がたつにつれどんどん強くなって行く。加賀が読んだわけでもないのに提督のようなシルエットの人間が私のもとへ来た。最期に会いたかったからか、幻覚が見えているのだろう。単純に本人にあの言葉の意味を聞きたいだけでない。何故か心の底から提督の事を好きだと思っている。今まではなしたことも殆どなかったのに。ハハ...私もついに壊れたかな。

ああ...こんな最期なんてあんまりだよ...まだやりたいことだってあんのに...せめて来世は戦争に行かなくて済む方がいいな...




「扶桑?甲鉄艦と言われたあの?」

「そうだ。昔の俺の名前だ。今もそうだな。一応扶桑とよばれているな。姉も。やっぱり忘れててしまったな。俺が教えたことも。」

「侵食現象は完全に記憶を消せるわけではないのでしょうか?提督にその話をされたような記憶があります。でも消されてしまったので聞きき直しますね。姉なんていたんですか。」

「ああ。名前は東。甲鉄艦として姉妹として国から決められた。凄い優しいやつだよ。戦時では俺の倍近くの活躍を見せた。俺じゃ相手にならないほど強い」

「貴方で太刀打ちできない相手なのでしたら、今の私たちでは相手にすることもできないでしょうね。」

「ハハ。なあ---」

「はい?」

「記憶の侵食はどうなった?」

「...現在も続いています。後一ヶ月もすれば記憶は完全に消失....すると」

「そう...か。なんでこうなるのだろうな。」

「この鎮守府にはもう、記憶の侵食が進み切ってない人は私しかいませんものね」

「なんで寄りにもよって---なんだ...!」

「次の出撃...生きて帰ってきてくれ。新しい記憶のお前と頑張っていきたいから。」

「...!...はい!」








「なんで...なんでだよ。なんで死んじまうんだよ。帰ってくるって、約束したじゃねぇか...」

「提督...」

「なぁ加賀。」

「?」

「もしまた---が記憶の侵食を受けたら俺にこう電信を送ってくれないか。」

 


・・─・・ ・・・


??4?年水無月六日... ... ... 


深く、深く沈んで行く。真っ暗闇で、何も見えない。ただただ、深海に沈むような感覚が、私の背筋を凍らし、体をつぶし、現実から意識を引き剥がしていく。今にも号哭しだしそうなほど、孤独感と数々の悲しみが込み上げてくる。

ナンデ...ナンデ...

脳にそんな言葉が響く。時には「キエロ」と。

カエレ...カエレ...

どこか寂し気に聞こえるその声は次第に強く私のもとに届くようになった。強くなるたび、優しくなる声。そして強くなる思い。提督への思い。私の中での思い。そして、私への罪悪感。昏い意識の海の底で、私に刺しこむ一筋の光。それはやがて私に近づき、私はその光の正体を見て驚愕した。

私...?いや、こんなにきれいな人が私なわけがない

だが直感が、全身が、脳が、彼女は私だと訴えかけてくる。

ココニキテハダメ...カエッテ。アノ人がマッテル...から

!?

私を呼ぶ声とともに光があふれる。名前、私の名前を呼びながら私の体を揺する加賀と、それを皆がラ少し小さな声で、?名前、私の名前、のはず。聞きなれない、聞き覚えがない、でもなぜか懐かしい名前が。

「...城...あ...ぎ...赤城!」

「っは!...」


一気に光が目に差し込んでくる。痛む目に入り込む加賀の泣き顔。提督が立っている。泣くまではいかないが、少し心配そうにしている。この提督の事だから相当心配してて抱き着くくらいまでしてくるのかと思ったが、そんなことはなく、淡々とした感じで今までにない優雅さを醸し出している。その風格は私たちとは比べ物にならないほど深く、悲しく、美しい。

「やっと起きたね。なぎs...じゃなかった。赤城」

「記憶の侵食があったんでしょう?なぜ私は今のままの姿で...」


口調が変わっていた。自分では気づかなかったが、提督に言われて気づいた。


「赤城。」

「はい」

「君、しばらく休暇」

「え..」




・・―・・ ・・・ 


2025年4月22日



ナンデ私に突然休暇が課せられたか、提督にきくと

「君は少し休んでいて。」

「なぜでしょうか?」

「記憶の侵食が起こった後は一週間は出撃することはできないの。理由は侵食現象起こったとき体調が極端に悪くなったでしょ?」

「はい」

「その体調の急激な変化が短時間で激しく行われたせいで多分今あんまり手に力が入らないと思うんだけど、まあそんなこんなでろくに体、言い換えて己の化身ともいえるでしょう船。んで船のままじゃろくに戦えないからってよく艤装を自分の体に合うように変形させて自分に装備させて戦う、アレ。あれが使えなくなるからっていうのと、あとは」

「あまり過剰に動きすぎると」

「魂が消失してしまうと。」

何故かその先の答えが分かった。私は提督が答える前に答えた。記憶の片隅にずっととどまっていた記憶。知らない人の記憶。私の記憶。その記憶の中には...提督....

「その様子じゃ、記憶の競合ができたみたいだね。」

聞き覚えがある。過去の記憶を自分の記憶と重ねて、お互いに邪魔しあわないように保存される、霊宿の特性だ。だがたいていの場合でそれは失敗し、霊宿の記憶が消えてしまう。だが記憶は消えたのではなく

飲み込まれた状態にあるから、次の世に記憶を流すことができるという、自然に反するようなもの。それが、そんなものが今私は成功させた。

「うん。記憶の競合が成功してるなら...」



「二時間は何もしないでじっとしてて?」

「は?」

「その状態でまた動くと記憶の侵食の倍酷い症状が出るよ。記憶は消えたり侵食されないけど。」

いうのが遅すぎた。聞いた直後症状が、発生した。

「あが....あ」

「あちゃー....」



..-.. ...



特に何もすることなく二週間が過ぎた。

「退院おめでとう。お疲れ様。動かなかったから少し体が動かしずらいんじゃない?」

私が久しぶりに日光を浴びた時、一番最初にあったのは提督だった。敬礼で出迎えてくれた。それに返事をするように私も敬礼をした。

「退院そうそう悪いんだけど、早速演習に出てもらっていい?」

私は極限まで深いため息を吐いた。そして提督の顔を見て

「病み上がり早々にハード過ぎませんか?」

私はぽろっと笑顔をこぼした。


















????年夜長月二十五日




「今までありがとうございました...提督....」








きゃは!

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