第一巻 序章その4
それは、知らない金髪の若い女性だった。
ああ。
やっぱり現実は突然だ。
「えっと、どちらさまでしょうか。」
脳内フル回転させて検索をかけるが、ヒットしなかったので、たずねてみた。
「え、あたしだよ、あたし。覚えてない?」
新手のオレオレ詐欺だろうか。さすがにここまで特徴的な髪色の人が知り合いにいたら、忘れないと思うが。
「ごめんなさい、分からないです。」
「そっか。亮華クン、小さかったしね。あと、あたしの髪もこの色じゃなかったし。」
どうりでわからないと思った。こんな金髪の女性に会ったことがなかったから。
それも相当な美人である。ちょっとやそっとの事では忘れないだろう。
「あたしの髪、そのとき確かピンクだったし。」
「!?!?」
僕と以前会った時、勝手に、黒髪か茶髪なのかと思っていた。
というか、普通はそう考えるだろう。
まさか、ピンクとは………。
「まあ、いいや。久しぶり。亮華クン。
君のお母さんの妹、橋本京です。」
そういえば、母さんから聞いたことがあった。
自分には十歳年下で、不良の妹がいると。
なんせ、岡山の暴走族の総長をしているそうだ。
そのうえ、異様に賢くて、一度も捕まったことがないという。
まさに、鬼才不良らしい。
そう考えてみてみると、母さんの面影が感じられる。
母さんの若いころの写真に似てなくもない。
勿論、母さんはしっかりとした黒髪だが。
これが噂の鬼才不良か………。
話し方だけだと賢くは見えないんだけどなぁ………。
などと、失礼なことを思いつつ見ていると、彼女の携帯が鳴った。
「どうぞ。」
というと、彼女はそそくさと部屋の隅に行き、目にもとまらぬ速さで携帯をいじった。
メールの着信だったらしい。
あっけにとられている間に彼女は返信を終え、僕に話しかけてきた。
「っていうことだから、これからよろしくね。」
え………どういうことかわからない。
「あれ、言ってなかったっけ?」
何のことだろう。
「君、これからはあたしと一緒に東京で暮らすんだよ。」