第一巻 序章その1
「それでは、皆さん。今日でお別れの古宮君からの一言です。」
教室が静まり返り、ほぼすべての目線が、僕に集中する。
「えっと、短い間でしたが、ありがとうございました。まだ入学して3か月で、もっと仲良くなりたかったです。また会える日を楽しみにしています。」
当たり障りのない文。面白みに欠ける反面、問題は起きない。でも、それで十分だ。僕は一般ピープルとして生きていくべき人間なのだから。
小さいころからそうだった。
大きなリーダーについていく。
時には副リーダーを引き受けることはあるが、決してリーダーにはならない。
自分から目立とうとせず、おとなしい子だった。
ただ別に、僕自身がそうなろうとしていたわけではなく、僕の性格が僕をそうさせただけだ。
そんなこんなで高校生になってしまったので、現在彼女いない歴15年という状況である。
まあ、彼女を作ったとしても恐らく結婚までは行きつかないんだからまだいいだろう。という童貞理論を展開し、自己完結させている。
というわけで、
「どうせ東京に行くなら、超絶可愛い彼女をゲットして見せるぜ!」
みたいな野望を持つこともなく、
「僕なんて、田舎から来た転校生だし、友達2、3人出来れば十分だなぁ………。」
と思っている。
実のところ、僕の住んでいる広島市は、別に田舎ではない。
どちらかというと都会に分類されるだろう。
ただ、戦う相手が悪い。東京相手だと、どうあがいても田舎である。
そして正直、都会は好きではない。
僕の性格上、あまり騒々しいのは好みではない。どちらかというと、田畑が広がる農村地域で優雅に自給自足生活をする方が性に合っている。
しかし、東京には行かなければならない。それも一人で。
時は二週間前に遡る。
僕は、週末を利用し、父さんと母さんと一緒に大分別府温泉へ出かけた。長期休暇ではないので、予想よりも観光客が少なく、ゆっくりと楽しい時間を過ごすことができた。
帰るころ、ぽつぽつと小粒の雨が降り出した。車で来ていたので雨に濡れることはなかったが、それでも雨の日の車内というのは何とも空気が悪い。
車の中では、雨音をかき消すように、ちょっと大きめの音で父さんの好きなインディーズのなんとかというアーティストの曲が流れていた。
温泉で火照った体も、徐々に冷えてきたころ、僕は眠気に襲われる。
僕はいつものように助手席に座っていたが、少し横になりたかったので、パーキングエリアで止まったついで、後部座席の母さんと席を変わってもらった。
上半身だけでも横にすると、何とも楽なもので、すぐに眠りの世界へと誘われた。
そして起きた時には、父さんも母さんも死んでいた。