天使のような天使
コンビニ前で佇んでいた少年はまるで天使のようだった。夜なのに反射するような白い肌に輝く金髪。少年の姿は夜の中で誰よりも目を惹いた。
「あれ。お姉ちゃん、君の好みじゃない?」
出鼻をくじかれた私は少々驚いたけれど、これはこれで新鮮だ。新しいパターンだ。ますます興味が湧いたぞ、少年。
「ううん、そういうわけじゃないよ」
「何か忙しいの?」
「ううん、特に何にも」
「じゃあ、いいじゃん」
「うん、じゃあいいかも」
何この子。さっき駄目って言ったじゃん。
「何か笑える所あった?」
「うん、笑える。だって君すっごく変だもん」
なんだかますます気になった。
「じゃあこれ聞いたらもっと笑うかも」
「なになに?」
「僕の名前」
「あ、もしかしてキラキラネーム?」
「結構ぶっとんでるよ」
「あ、待って! 当ててあげる。あれだ。ミカエル君」
「違うよ。いい線いってるけど」
「ヨハネ君!」
「悪くない」
「うーん、正解は?」
「エンジェ」
「うええ? それって、もしかして」
「そう。天使と書いて、エンジェ」
「ぶっとんでるね」
「でしょ?」
「うん、でも」
「ん?」
「悪くない」
「そうかなあ」
エンジェはちょっとだけ笑った。
「ハーフとか?」
「うーん、クォーター。でもだからぽい名前をつけた訳じゃないんだって」
「天使っぽいから?」
「うん、まさにそれ」
親にとっての子は天使みたいなものだろう。でもそれを直球でつけちゃう親なんてのはなかなかいるもんじゃない。でも彼はエンジェで正しいと思う。
「おじさんになっても天使でいれる自信ないけど」
「いやいや、きっと深みのある天使になれてるわよ」
出まかせではなく本当にそう思った。彼はきっとずっと、地上の天使で居続けられる。その見た目が劣化していく様を、まるで想像出来なかった。
「ねえ、お腹すかない?」
エンジェともっと話していたいという口実と、空腹を満たしたいという欲求がちょうどよく重なった。
「ごめん、もう食べちゃった」
「あらら、残念」
うまくいかないもんだ。
「ねえ、連絡先教えてよ」
「必要?」
「やっぱり好みじゃない?」
「そんなんじゃなくって、あんまりそういうのに縛られたくないんだ」
「やっぱ変わってる」
「またどうせ会えるでしょ」
「へ?」
「だいたいここらへんにいるからさ」
「あら、そう」
「名前だけ教えてよ」
「綾乃」
「じゃあね、あやのさん」
さらっとエンジェが去って行く。
「なんだあの子」
夜の街に行く理由が変わった瞬間だった。