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夜回り女子

 人生が退屈だからとか、刺激が足りないとか別にそういうわけじゃない。

教師や友達や社会に不満や鬱憤を抱えて、やり場のない思いの捌け口が欲しくてみたいな非行少女になりたかったわけじゃない。


「え、ごめん。大丈夫? 痛かったの?」


 中三で初めて付き合った未来みらい君との初めてのSEX。全部が終わった後に彼は私におろおろししながらそう言った。

 初めては痛いって聞いてた。確かにちょっと痛かった。不安や怖さもあった。でもそうじゃない。彼が怯えたように私にそう尋ねたのは、私の目からボロボロと涙が零れていたからだ。


「ううん、違うっの……ずえぇんずえんちぎゃう……そうじゃなぐってえ……」


 声が上ずって全然うまく喋れない。彼はひどい誤解をしている。

 痛さなんてどうだっていいし、大丈夫だ。いや、大丈夫ではないかもしれない。でもそれはネガティブなものではない。むしろその真逆だ。


 幸せ。

 あー、幸せだ。底なしの幸せ。ハッピーライフ。

 その頃の私はまだSEXってものに対して、汚らしさを感じる部分もあって、生理的に一歩引いてみたりしながらも燻るような憧れもあって、せめぎ合うような複雑な乙女心に揺さぶられていた。

 

 そして今その気持ちが完全に解き放たれた。私は彼に抱きつきえんえん泣いた。彼は訳も分からず、それがとりあえず私の為の優しさになるかな、なんて戸惑いがありありと溢れたぎこちない手つきで私の頭を撫でた。

それもいいけど、私はその時もう十分お腹いっぱいなのでした。


 それが始まり。リミッターの解除。実際に完全に私が解き放たれたのはそこからもう少し先の話になるが、間違いなくそこが私のターニングポイントだった。彼の名の通り、私の未来は彼をきっかけにしておそらく大きく変わった。


 高校に入った私はとにかく会話より何より、その点を大事にしたかった。そこでしか見えないし測れないもの。もっと世界を広げたいと思った。直感が大事。直感に勝る人生の道しるべはない。赴くまま。自分のアンテナを信じる。正しい正しくないは重要じゃない。正しいものにするかどうか。そう考えた時、学校の中だけじゃ狭すぎると思った。

 

 もちろん学校の中でもこの人がいいっていう直感は度々働く。同級生、先輩、果ては教師。この人とはどんな対話が出来るだろうか。

 ただあまりに学校での暴飲暴食が過ぎると周りがややこしい。人の男に手を付けて、とかそういう面倒はさすがの私も嫌だった。まあ向こうから言い寄ってきたらそこは別として。幸か不幸か、私の顔立ちは自分でも言うのもなんだかまあまあ悪くはない。何度か告白された実績もある。


 そんな私はハッピーライフの為に街へ繰り出した。放課後、休日。私にとっては部活という感覚が一番近いかもしれない。


「何してるんですかー?」


 ちょっと甘めの声で顔を覗けば、悪い顔をする人は少ない。むしろチャンスじみた好奇の目線が返ってくる事の方が多い。

 そう、ナンパだ。逆ナンだ。この逆ナンっていう響きが男性に一歩先を行かれてしまったが故の悲しき後続車感があってあまり好きじゃないけど、私がやっている事を表現するならやっぱり逆ナンになる。


 まさに直感。直感と本能が赴くままに私は街を歩き、声をかける。基本的には歳の近そうな人に声をかける。そして互いに求め合う。

 私の想いと相手の想いは、入口の時点ではおそらく全く違うはずだ。違う目的や欲なのに、それらは混じり合って一つになる。不思議なものだ。そして事を終えた時に、やはり奥深いものだな、なんて哲学的に思ったりする。


 そんな事を繰り返していた。夜の街を歩き若者に声をかける姿は、少年少女を助ける夜回り先生みたいだななんて思ったりもしたが、質も信念もまるで違うので並べて比べるのは失礼か。でもやってる事は似てるかも。


 そうやって、いろんな人といろんなコミュニケーションを取って過ごす毎日。

 それで自分が汚れていくなんて感覚はなかった。

 だからその日も、自分の感覚を信じるがままに動いた。


「うわあ」


 感嘆の声。抗えない引力だった。私は迷わず声を掛けた。


「何してるの? 暇ならちょっとお話しない?」


 ちょっと馴れ馴れしく声をかけたのは明らかに年下に見えたからだ。そういえば、年下の子って声掛けたの初めてかも。

 少年は私をちらっと見た。


「んー、やめとく」


 こんなはっきりと断られたのも、初めてだった。


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