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スキーボードの物語  作者: はるパンダ
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第二十七話 心の楔

 翌日、レイとじゅんは午前中のうちに自宅を出るとバスや電車を乗り継ぎ晴子の自宅まで来ていた。



「晴子ちゃん、お洒落なところに住んでるんだねー」



 じゅんが晴子の住むマンションを見上げながら感嘆を漏らす。


 晴子の住むマンションは私鉄沿線の中でも比較的大きな駅の徒歩圏内であるにも関わらず、大きな通りから外れた閑静な住宅街であった。この静かでゆっくりと時間が流れているような閑静な住環境はレイたちが住む八王子と似てるとも言えなくはないが、決定的に異なるのは住宅の多くが所狭しと並び立ち、自然をあまり感じることが出来ないと言う点であろうか。


 緑と言えば途中にあった公園や通り沿いに植えられている樹木しかないが、十分程度歩いたところには奥多摩から流れる大きな川がある。この川原にはサイクリングロードや公園などが設けられており、この地域の住民の憩いの場となっているようである。総合的に言えば駅などの商業施設が近く、交通の便もよく、更に程よく自然もある良好な居住環境と言えるような場所であった。



「ウチは田舎だから、何か羨ましいねー」


「どっちがいいかなんてのは住めば都なのよ。ほら、行くわよ」



 辺りをキョロキョロ見回すじゅんに声を掛けると、そのまま晴子の住むマンションへと進んでいくレイ。それを慌てて追いかけるじゅんと言う構図は場所が違えどいつもの姉妹のやり取りであった。



◇◆◇◆◇◆



 ピンポーン



 晴子の自宅前まで来ると、躊躇なく呼び鈴を押す。家の中から人が動く気配がすると、インターホンから慣れ親しんだ声が聞こえてくる。



「はい、どなたですか?」


「レイです」


「私!じゅんもいるよ!」


「レイ!?じゅん!?ちょ、ちょっと待って!!」



 二人の声を聞いた晴子は、その声に驚きを隠すこともなく慌てた様子でインターホンを切る。暫くドアの前で待つこととなるのだが、その間、ドアの向こうから慌しい気配が伝わり続けていた。


 そして待つこと数分、ようやく目の前のドアがガチャリと開くと、上下藍色のジャージと言う普段からは想像も出来ないようなラフな格好で晴子が顔を覗かせた。



「どうしたの、二人して突然」



 その声は辛うじて平静を装っているが、あきらかに動揺した雰囲気が伝わってくる。



「まぁ立ち話もなんだから、とりあえず入って」



 そう声を掛けるとドアを大きく開け放ち二人を招き入れる。



◇◆◇◆◇◆



「ここが晴子ちゃんちなんだ、何か大学生って感じの部屋だねー」



 晴子は二人を部屋にあげると、『ちょっと待ってて』と言い残し台所へと消えていった。その間じゅんはキョロキョロと部屋の中を見回し、本棚に納められている難しそうな本を眺め、感心しきりであった。



「あっ、晴子ちゃんのスキボだ!」



 本棚の端のほうに立てかけられているスキーボードを発見すると、じゅんは思わず駆け寄り手を伸ばす。



「じゅん、あまり勝手に色々見るんじゃないわよ」


「いいわよ、別に」



 レイがじゅんを嗜めていると、台所から飲み物を乗せたお盆を持った晴子が姿を表す。テーブルの前に腰を下ろしお盆を置くと、レイの前にはお茶を、自分の前にはコーヒーを、そしてじゅんの前にはコーヒーとお茶を並べると、そのままテーブルを挟んで二人の前に座り込む。



「何で私だけ二つあるの?」


「じゅんはどっちが好きだったか分からなかったからよ」



 そう言うと目の前の自分のコーヒーに牛乳を注ぎ、美味しそうに口をつける。



「自宅ではミルクじゃなくて牛乳なんですね」



 出されたお茶に口をつけながら晴子に微笑みかけるレイの口調は、いつもの会合の時のそれとなんら変わらない。



「お店にあるようなポーションミルクは意外と高いのよ。それにこっちの方が気分に応じて濃さを変えられるしね」



 答える晴子も同じようにいつものように言葉遊びを楽しむ口調である。


 レイと晴子は勉強会と称して毎週のように会っていることは聞いていたが、実際にその空気に触れると、わずかなやり取りだけでじゅんが想像する以上にこの二人が分かりあっているであろうことを感じさせられる。


 その優しい会話と時折混ぜられる言葉遊びは、会話に入れずとも聞いているだけで楽しいものであり、じゅんは沈黙を貫きながら出されたお茶とコーヒーを交互に飲みながら二人のやり取りを傍聴役に徹していた。


 いつまでもこの優しい空間に包まれていたいと思ってはいるものの、今日の来訪の趣旨は会話を楽しむことではない。二人の気の利いた言葉のキャッチボールに割り込むことは非常に憚られたのだが、意を決して会話に割り込んでいく。



「あ、あの!晴子ちゃん!」


「ん?どうしたの、じゅん」



 突然会話を遮るじゅんに、特に不快を感じた様子もなく穏やかに晴子が答える。



「メールの返事のことなんだけどもね・・・」


「ああ、そのことね」



 じゅんの僅かな言葉に言いたいことを察し、穏やかな笑みを浮かべたまま特に悪びれることもなく答える。



「メールで返事した通りよ。ちょっと暫くは滑りたくない気分なの。ごめんね」


「何で滑りたくないの?」


「随分ストレートに聞くのね」



 じゅんの反応をからかうように答えると、ふと視線をレイに移す。先ほどまで自分と言葉遊びをしていたレイは、表情はそのままにただ黙って晴子のことを見つめていた。



「そうね・・・。この間の大会のスキボへの対応ってひどいものだったでしょ?それに対して何だか空回りと言うか、無力感と言うか・・・。とにかくそんなものを感じちゃってね。疲れちゃったのよ」


「そんなの晴子ちゃんにだけじゃなく、あそこにいた私たち皆に向けられたものだよ。晴子ちゃんだけがそんなこと感じなくてもいいんじゃない?」


「そうかもしれないわね。でも私はそう感じちゃったのよ」


「でも・・・」


「でも別にね、滑りたくないわけじゃないのよ」



 晴子は変わらぬ笑みを浮かべたままじゅんの反論を遮るように言葉を続ける。



「滑りたくないわけないじゃない。ううん、きっと滑りには行きたいのよ。でもスキボを履いて滑ってる時に周りからあんな風に思われているかと思うと・・・」


「そんな・・・」


「だからね、気持ちが落ち着くまではちょっと自粛しておこうかなって思ってるの。ごめんね」



 じゅんは晴子に直接伝えたいことがあってここまでやってきた。そこで見たものは笑みこそ浮かべているものの、いつもの快活なリーダー的存在の晴子ではなかった。今の晴子は過去の出来事に怯え、その感情に再び飲み込まれることを恐れ、それを笑みと言う仮面で誤魔化している。普段の晴子を知っていればすぐに分かることである。


 しかしそれを安易に否定することはじゅんには出来なかった。猪突猛進と言われるじゅんでも、やってしまったことを後悔することはいくらでもある。その失敗を恐れて萎縮し、可能であればその事を避けようと言う気持ちは自身にも心当たりがある。


 それを無責任に言葉で否定するのは簡単である。目を背けたい原因が分からなければ実際にそうしていたかもしれない。しかし今回はその場に居合わせ、実際にその雰囲気に触れている。あの場の雰囲気は晴子たちと知り合うことが出来たスキーボードそのものを否定するような空気ですらあった。自分たちがマイノリティであることを改めて痛感させられ、そこで感じた無力感や疎外感は今でも忘れることが出来ない。


 その雰囲気によって今の晴子のような状態に自分がならなかったのはたまたまとしか言いようがない。もしかしたら自分が今の晴子のようにスキーボードを遠ざけるようになってしまったかもしれない。


 そう思うとじゅんは何も言えなくなった。



 晴子の言葉の後、部屋の中を沈黙が支配する。部屋にいる者が手に持つティーカップや湯のみなどをテーブルに置くと、後は窓の外から僅かに聞こえる喧騒だけが耳に痛いほど飛び込んできた。



「そうやって・・・、逃げるんですね」



 沈黙を破ったのはレイであった。



「・・・逃げる?」



 レイの言葉に浮かべていた笑みは掻き消える。しかしそれは一瞬のことであり、直ぐに晴子の表情に笑みが戻るのだが、それは先ほどのそれと異なりどこか冷たく薄っぺらいものであった。



「そうですよ。ちょっとスキボがないがしろにされたくらいでスキボを遠ざけるなんて、逃げじゃないですか」


「別に逃げてなんかいないわ。ただちょっと冷静になりたいだけよ」



 口調こそ普段とさほど変わりはないが、二人の会話にはいつものように優しい空気はない。一食触発、とまでは行かないが剣呑とした会話がゆっくりと繰り広げられていく。


 じゅんが切り込むことによって、それまでの穏やかな空気は掻き消え、そして今度はレイによってそれは更に張り詰めたものに変わっていく。じゅんはただ黙って二人のやり取りを見つめていた。



「晴子さんは自己嫌悪に陥っているだけじゃないですか?」


「自己嫌悪?何で?」


「自分であの場の空気を変える事が出来なかったことを悔やんでるってことですよ」


「あの場はじゅんが変えてくれたわ。だからこそそこから空気が変わったじゃない」


「でもそれは本来は自分がやるべきだった。そう思って自分を責めているじゃないですか?」


「そ、それは・・・」



 レイの指摘に晴子が始めて動揺の色を見せる。



「晴子さんからスキボの団体の話をしてもらった時は凄く嬉しかったです。晴子さん達を通じて知ったスキボの魅力を伝える団体。受験を控えていたから何もお手伝いが出来ないって言っても、それでもって声を掛けてもらったことは本当に嬉しかったんですよ」


「そうね、私もレイを誘って正解だったと思ったわ」


「だからこそ悔しかったんじゃないですか?」


「悔しい?何に?」


「じゅんに対してですよ」



 突然自分の名前が挙がったことに『うん?』と呆けるじゅん。晴子とレイの視線が集まる中でまばたきの回数を増やし、二人の視線を受け止める。そんな妹の様子を眺めながらレイの言葉は続く。



「じゅんは自らスキボのイベントを考えて、それを実行しました。周りからの評判も上々で、参加してくれたスキボダの皆さんはスキボの楽しみを再確認してくれたようですし、ゆきはイベントの様子を見ていた人からスキボについて色々聞かれたと言ってました」


「あれは楽しかったわね」


「そんなじゅんの資質を見抜きつつ、敢えて見守る姿勢を貫いていたのは知っています。でも今思えば見守っているんじゃなくて、それしか出来なかったんじゃないですか?」


「・・・」


「じゅんのように目標に向かって猪突猛進、全力でそれに向かっていくと言うのはなかなか難しいし、簡単に出来ることではないと思います。それが出来るじゅんに嫉妬しながら、それでも何とか自分でもスキボ普及のために動きたいと思い、先日の大会に皆で行こうと声を掛けた。でも・・・」


「確かにその通りね」



 レイの言葉を肯定すると、参ったと言うように両手を挙げる。


 一度遠くを見るように視線を漂わせ、それから目の前のコーヒーに少し口をつけると寂しげな表情を浮かべ、自身の気持ちを零していく。



「団体を立ち上げるだなんて言っておきながら名前すらなく、実際に行動も出来ない。スキボの魅力を皆に知ってもらうだなんて言っておいて、いざ自分自身で行動してみたら、知ってもらうどころか皆に疎外感を味あわせてしまった。楽しむために始めたスキボなのに、考えれば考えるほどどんどん苦しくなるのよ」



 少しずつ本音を吐露しだす晴子の瞳の奥にはうっすらと光るものが見える。それを見つけたレイはこの場にそぐわないとは思いつつも、何だか綺麗だなと感じてしまっていた。



「私たちの滑りを見てレイとじゅんが声を掛けてきてくれた時は嬉しかったわ。元々私たち三人でスキボを始めたけども、もっと仲間が増えればいいなって思っていた矢先の出来事だったから、私たちの滑りをきっかけにレイたちがスキボを好きになってくれたことは何とも言えない充足感があったわ」



 そこまで話すとそっと顔を背け、目尻に溜まったものをこっそりと拭い落とし、それを誤魔化すようにもう一度コーヒーに口をつける。そこで一息つくと、再び語りだした。



「レイたちとの出会いをきっかけに兼ねてより考えてたスキボの団体の話を実行に移そうと思ったわ。それでレイに声を掛けて動き出そうと思ったけども、いざ動こうと思っても何をしていいのか分からないのよ。それでもオフシーズンの間は良かったけど、いざシーズンが始まり、私が足踏みをしている間にじゅんは自らの力でイベントを開催してスキボを大いに盛り上げたわ」



 晴子はじゅんに視線を移すと、優しく微笑みかけた。しかしその微笑みは今までに見たことない程弱々しいものであった。



「で、私はと言うと・・・、相変わらず何もない。先日の大会での出来事もさっき話したとおり。今でもスキボは好きだし、その気持ちは誰にも負けない自信はある。でもね・・・、考えれば考えるほど・・・苦しく・・・なるのよ」



 最後の方は搾り出すような言葉となり、ようやく全ての言葉を紡ぎ終えると部屋の中を再び沈黙が支配する。先ほどよりも重苦しい沈黙はこの場の全てを奪い去っていく。音も温度も色さえもない、ただ重さだけを感じる世界であった。



 晴子の表情に大きな変化はない。ただ明らかに無理をしているのはレイはもちろん、じゅんでも容易に分かる。恐らく二人がいなければ瞳から溢れる雫はとどまることを知らずに流れ出すであろう。自責の念で自分自身を打ちのめしてしまうことであろう。


 レイは何も言えない。晴子の気持ちが痛いほど分かるからだ。自身もじゅんに対して秘密があったとき、その想いに押しつぶされそうになり、自らスキーボードを遠ざけていた。レイの場合には晴子によって救われたのだが、今の晴子に対してはどのような言葉も晴子を救う手段となり得そうにないと思い、そう思うとレイは紡ぎだす言葉が見つからなかった。


 しかし三度沈黙は破られる。



「晴子ちゃんはさ、スキボが好きなんだよね?」



 今度の沈黙を破ったのはじゅんであった。



「え?」


「だからさ、スキボが好きなんだよね?だから団体まで立ち上げてスキボをもっと楽しみたいって思ったんだよね?」


「そ、そうよ」



 じゅんの突然の問い掛けに言葉を詰まらせながら答える。



「それならそれでいいんじゃない?」


「そう言うわけにはいかないわよ」


「何で?」


「何でって、それは・・・」



 じゅんは晴子を真っ直ぐに見つめ質問を続ける。その瞳はじゅんの行動力を示すかのようにどこまでも真っ直ぐで、まるで晴子の心の奥を射抜くかのようであった。



「だってほとんど行動をしていないとは言えスキボの団体を立ち上げたわけだし、それに対して無責任なことは出来ないわよ」


「無責任なことって?」


「それは・・・」



 じゅんの追求に言葉を告ぐ事が出来なくなり、思わず途中で発言を止めてしまう。じゅんの視線は変わらず晴子を射抜き続け、それが何とも居心地の悪さを醸し出していた。



「私、今から晴子ちゃんにすっごく失礼なこと言うよ」


「失礼なこと?」


「何でさ、晴子ちゃんがスキボの代表みたいになってるの?」


「じゅん!」



 じゅんの言葉に思わずレイから叱責の言葉が飛ぶ。しかしそれを意に介さずじゅんは言葉を続ける。



「別に晴子ちゃんが何もしなくたって私やおねーちゃんはスキボを続けるよ。それはエリやゆきだって同じだよ。自分が何も出来ないからってスキボ自体が蔑まれているみたいに思われたくないよ」


「じゅん!それは言いすぎよ!」


「おねーちゃんは黙ってて」


「じゅん・・・」


「私がエリやゆきにスキボを勧めたのは楽しいと思ったから。この間の大会でのこともスキボの魅力を知って欲しいと思っただけ。ゲレンデジャックだってそう。私は楽しいと思ったからしているんだよ」



 そこまで告げて一息つくと、じゅんは晴子の表情を伺う。その表情は色を変えてはいないものの、その目は明らかに沈んでいた。



「でも私が楽しいと思うスキボを始めたきっかけは間違いなく晴子ちゃんなんだよ」


「・・・!?」


「あの日、晴子ちゃんたちが私たちと同じゲレンデにいなければ、あそこでスキボを私たちに勧めてくれなければ、今の私たちはいなかったと思うの。スキボを始めるきっかけと、スキボの魅力を伝えてくれたのは晴子ちゃんたちなんだよ」


「スキボの・・・、魅力・・・」


「でも今の晴子ちゃんとは正直言って滑りたくない。おねーちゃんはどう?」


「え?私?」



 急に話を振られて戸惑うレイであったが、数秒の沈黙の後、意を決して質問の回答を口にする。



「私も・・・、今の晴子さんとは滑りたくないです」


「レイ・・・、そうよね。仕方ないわよね」


「きっと今の晴子ちゃんと滑りたいと思う人はあまりいないと思うよ。なんでだと思う?」


「・・・」



 矢継ぎ早に晴子を責め続けるじゅん。その視線は変わらず晴子から外されることはなかったが、レイだけはその視線の奥にある心の痛みに気付いていた。



「今の晴子ちゃん、楽しそうじゃないもん。スキボを楽しんでいるように見えないもん」


「・・・最初はね、私だって楽しんでいたのよ。でも団体を立ち上げてからはスキボの魅力を伝えなきゃ伝えなきゃって思って、それがプレッシャーになって」


「何でさー」



 晴子の発言を最後まで聞くことなく、じゅんは言葉を被せる。



「何で晴子ちゃんが全部やろうとするの?」


「えっ?」


「さっきも言ったけども、エリやゆきにスキボの魅力を伝えたのも、ゲレンデジャックのことも、大会のことも、私が晴子ちゃんに会えて、晴子ちゃんからスキボを教えてもらったから出来たことなんだよ。それじゃダメなの?」


「それは・・・、責任が・・・」


「責任って何?全部自分でやらなくちゃいけないなんて、そんなの責任でもなんでもないよ。それじゃ私たちは何なの?」


「そうですよ。何で頼ってくれないんですか?私たちがそんなに頼りないですか?」



 じゅんの言葉に思わずレイも意見を重ねていく。そして思わぬところからその意見に便乗する者が現れる。



「そうだな。私もそう思うぞ」


「春美?」


「さっきからノックしていたけども、返事がなくてさ。ドアを開けてみたら空いてたから勝手にお邪魔しちゃったよ」


「無断進入の非礼を詫びておく」


「葉流?どうして・・・?」



 突然現れた春美と葉流。その唐突な登場に驚愕を隠せない晴子であったが、二人の後から更に声が続く。



「あのー・・・、私たちもいます・・・」


「お邪魔するのー」


「エリ!?ゆきまで?」



 二人に続き遠慮がちに顔を覗かせたエリとゆきが現れたことで晴子の驚愕に拍車が掛かる。その驚愕は晴子だけでなく、レイも同様であったようだ。



「春美さんたち!?それにエリたちも!?どうして?」



 晴子とレイは思わずじゅんを見るが、『違うよー』と首を振るじゅんの表情は晴子たち程ではないものの、同じような困惑の色に染められていた。



「じゅんから相談を受けた」



 いつものように唐突に話し出す葉流。最初から部屋にいた三人が葉流に注目すると、その横で春美が状況を解説する。



「私や葉流がじゅんから『晴子が滑りに行かないって言ってるんだけど、どうしよう』って相談を受けてな。心配だから見に行こうって話になったんだよ」


「私もじゅんから同じように相談されまして。心配だから様子を見に行こうと思っていたのですが、晴子さんの家が分からなかったので春美さんに連絡したんです」


「そしたら今日春美ちゃんたちが晴子ちゃんの家に行くって言うから一緒に行く事にしたのー」


「そうだったの?私、ちっとも知らなかったよ」


「じゅんはきっと居ても立っても居られず晴子のところに行くと思っていたからな。連絡するまでもないって思ったんだよ」


「それって私もですか?」


「レイも同様。じゅんと一緒だと確信していた」



 一気に人口密度が増す部屋の中で、口々に晴子を労り、心配する声が掛けられるが、当の本人であるこの家の家主だけが状況に追いつけず呆けていた。



「晴子を心配しているのは私たちだけじゃないぞ。他にも・・・、ほれ」



 そう言って春美が取り出したのは自身の携帯電話。画面を見ると誰かと通話中のようであった。全員がその電話に注目する中、電話口の誰かは何か話をししているようであったが声が小さくて聞こえない。そのことを指摘すると、『いっけね!』と春美は電話をスピーカーモードに切り替える。改めて電話を皆に向けると、電話口からは聞いたことがある声が室内に響き渡る。



『あー、晴子さん。聞こえるか?』


「もしかして・・・、しずく?」


『ああ、その通りだ。今日はバイトがあってそちらに行けず、こんな形になってしまって済まない。しかもそろそろバイトが始まる時間だから時間がない。私から伝えたいことを手短に伝える』



 電話の向こうから聞こえてきた声の持ち主はしずくであった。これで奇しくも晴子を囲むスキーボード仲間は全員揃ったことになる。思いもよらない方法で登場した最後のメンバーの声に、その場に居る者たちは電話から発せられる声に耳を傾ける。



『敢えて歯に衣を被せずに言わせてもらう・・・。晴子さん、自分に自惚れるな。そこに居る皆を見ろ。それは誰が作った縁だと思う?』



 しずくの言葉に晴子は集まった皆の顔を見渡す。それぞれが晴子を見つめ返すと頷きを返す。



『それこそがスキボを通じて晴子さんが作ったものだ。それは見えないものかもしれないけれども、何よりもはっきりしているものだ。私は晴子さんたちとはまだ付き合いが浅いけど、それでも私だって仲間だと言う自負はある』


「・・・」


『だからもう一度言う。一人で何でも出来る自惚れるないでくれ。一人で出来ることは少ない。だから一人よりも二人、二人よりも三人。三人よりも大勢。それがスキボの楽しさだと聞いている。だから一人で何でも背負うな』



 そう言うと、電話口の更に向こうからしずくを呼ぶ声が聞こえる。



『はい、今行きます!・・・済まない、時間だ。私から伝えたいことは以上だ。またゲレンデで会えるのを楽しみにしている。それじゃ』



 言いたいことを一方的に伝えると電話は切れ、残された部屋の中はツーツー音が支配する。この場にいる誰もが今のしずくの言葉を噛み締める。誰からともなく、隣に居る仲間を見つめ、微笑みあう。


 しかし晴子だけがバツが悪そうにゆっくりと俯いていた。


 その晴子に向かって室内の静寂をかき消すように声を掛ける。



「私だってエリやゆきの助けがなければ何も出来なかった。ゲレンデジャックだなんてイベントをやりぬくことなんて出来なかった。大事な仲間がいたからこそ色んなことをやってこれたし、大事な仲間に囲まれているから今が楽しいって心から思えるんだよ」


「・・・」


「それを繋いでくれたのはスキボ。そして晴子ちゃんたち。私はそれに凄く感謝をしているよ。でも一人で悩みを抱えるのはやっぱり間違っていると思う。一人よりも二人、二人よりも三人、三人よりも大勢。そう教えてくれたのは晴子ちゃんだよ。それなのに全てを一人で抱え込んで、一人で苦しんでさ。バカみたいだよ。初めて私やおねーちゃんが晴子ちゃんたちの滑りを見た時はあんなに楽しそうだったのにさ」


「そうですよ。晴子さん、最初に私をスキボの団体に誘ってくれた時に言ってくれたじゃないですか。自分たちが楽しんで、その楽しそうな様子を周囲の人に見てもらうって。その楽しそうな様子を見てスキボの魅力を知ってもらうって。それなのに今の晴子さんは・・・」



 レイは思い出していた。初めて晴子たちが踊るように滑っている光景を目撃した時を。それは凄く優雅で、凄く力強く、凄く不思議で、そして何よりも凄く楽しそうであった。思えばスキーボードに魅了されたと言うよりも、その楽しそうな滑りに魅了されたのかもしれない。



「私は晴子ちゃんが悩む理由は理解できても、どうしたらそれを解決できるかは分からない。でももっとスキボを楽しんで欲しい。周りにスキボの魅力を伝えるなら、まず自分が楽しんで欲しい。今みたいに悩み苦しむのも必要だと思うけども、私が始めてスキボの滑りを見て、スキボに惹かれたのは晴子ちゃんたちの楽しそうな滑りを見たからなんだから」



 晴子は思い出していた。父親とスキーを遠ざけるために上京したにも関わらず、不思議とゲレンデが恋しくなってしまった感覚を。たまたま見つけたスキーボードと言うギヤが今までのスキーとは違う世界を広げてくれたが、結局は滑ることが好きなんだと言うことには代わりがないんだということを。



「もしかしたらさ・・・」



 今までの勢いを突然失い、ふと何かに気付いたように口篭るじゅん。突然の様子の変化に話をしていた晴子やレイだけでなく、部屋にいる者たち全員がじゅんに注目する。



「いや多分、なんだけれども・・・」



 じゅんはそう言うと一呼吸おく。皆の視線が自分に集まっていることを確認するとゆっくりと口を開く。



「晴子ちゃんのお父さんもきっと悩んでいる晴子ちゃんを見て苦しかったんだと思う」


「じゅん!」



 じゅんの発言に咎める様に声を掛けたのはレイである。それは人のプラベートにたやすく踏み込んではならないと言う戒めをこめた声であった。しかし晴子から『いいのよ』と言われて、引き下がらざるを得なかった。



「じゅん、聞いていたのね」


「うん、あの時はテンションがあがりすぎて目を瞑っててもなかなか寝られなかったからね」



 流石にバツが悪そうに答えるじゅんであったが、力なく微笑む晴子にそのことを咎める様子がないのを見ると、ほっと安心する。



「そうだったの・・・。で、私の父が苦しかったってどういうこと?」


「だってさ・・・、同じなんだもん」


「同じ?何が?」


「検定になかなか受からずに自分を責めている晴子ちゃんを見守るお父さんの気持ちと、スキボのことに悩んでいる晴子ちゃんを心配する今の私たちの気持ち」


「・・・!!」



 じゅんの言葉を聞いて晴子は表情こそ変えなかったものの、内心では父親に対する歪な意地と言う塊に大きな亀裂が入る音を聞いた。


 確認するまでもなくじゅんや春美たち、先ほどまで電話で繋がっていたしずくも含めて、皆は晴子にとってはかけがいのない仲間である。今この場に来てくれたことも、今までの発言も全て晴子を想ってくれてのことであるのはひしひしと伝わっており、その皆の想いを思うと胸が熱くなっていくのを感じる。


 一方晴子の父親は、それ以上でもそれ以下でもない。確かに身内ではあるがそう言った想いとは別の次元だと思っていた。晴子の中での父親の印象は、検定に受かった時の大きな笑顔と、検定に落ち続けた時の落胆した顔であった。


 しかしあの父の表情が晴子に落胆した顔でなかったとしたら?


 父親の期待に答えられず落胆していたのは父親ではなく晴子自身であったとしたら?


 父親のあの顔は晴子に落胆しているのではなく、落胆している晴子を想って心配していたのだとしたら?


 父親が今この場に集まってくれたかけがえのない仲間と同じ想いを抱いてくれてたのだとしたら?



 周りを見るとじゅんとレイ、そして春美と葉流。皆が同じような表情で晴子を見ている。その表情にはそれぞれ差はあれど、共通しているのは自分自身に対する労りの気持ちである。目は口ほどに物を言う、などと言うのは使い古された諺であるが、今ほどそれを痛感したことはなかった。


 レイとじゅんからきつめではあったが晴子のことを想った言葉を受けた。春美と葉流は晴子の心境を心配し、それを憂いて様子を見に来てくれた。エリとゆきはわざわざ春美に場所を聞いてまで駆けつけてくれた。しずくは自身の都合があるにも関わらず自分の身を案じてくれた。


 一人で走り続け、思い悩んでいた晴子であったが、そこまでしてもらってようやく自分が仲間たちにどれだけ想われているのかを感じることが出来た。


 晴子が感じていた空回り感は文字通りの空回りであった。何故なら晴子は一人で悩む必要など何もなかったからだ。こんなにも良い仲間に恵まれているのに一人で悩み、一人で抱え、そして一人で苦しんでいたのだ。それがどれだけ仲間たちに心配を掛けているとも知らずに。



「そっか・・・、そうかもしれないわね」


「だからさ、滑らないなんて言わないで・・・」


「でも・・・」



 晴子がじゅんの言葉をやんわりと肯定すると、それをスキーボード自粛の撤回と解釈したじゅんが期待を込めた言葉を口にする。しかし晴子はじゅんの言葉を遮るように呟くと、再び表情に影を作る。



「でも、やっぱりちょっと考えさせて」


「晴子・・・、どういうことだよ!?」


「明確な説明を求む」



 じゅんの言葉を肯定しつつ、それでもまだ尚考えたいと言う晴子に対して春美と葉流が明らかな非難を込めて詰め寄る。それに動じることもなく晴子はゆっくりと口を開く。



「じゅんとレイが言ってくれたこと。皆が来てくれたこと。それともう電話が切れちゃったけどもしずくの言葉。その全てにとっても感謝してる。皆の想いはしっかりと伝わったわ。それを踏まえて確かに私は考え方を改める必要があると思ったわ」


「ならどうしてですか?」


「そうなの、それならそれでいいと思うの」



 晴子の言葉に疑問を隠さないエリとゆき。それでも臆することなく晴子は続ける。



「でも今まで悩んでいたのだって私自身を作る大事な一部だわ。それを簡単に否定することは私自身を否定することにもなると思うの。だから色んなことをじっくり考える時間が欲しいの」


「晴子ちゃん・・・」


「お願い、私に時間をちょうだい」



 晴子の言葉が部屋の中に再び沈黙を作り出す。この沈黙は先ほどまでの重苦しいものではなく、触れたら壊れるシャボン玉のように、破ろうと思えば簡単に壊せるものであったのかもしれない。しかし晴子の言葉がそれを壊すことを皆にためらわさせていた。


 沈黙が支配していたのはおよそ一分程度であった。しかしここにいる誰もがその沈黙を永遠のように感じていた。しかしその沈黙は突然破られた。



「それなら」



 沈黙を破ったのはレイであった。一言言うとにっこりと微笑み、続きの言葉を紡ぎだした。



「来週末、ゲレンデで待ってますね」



 晴子と二人、いつもの勉強会での言葉遊びのように自然な雰囲気で一方的に約束を口にすると、そのまますっと立ち上がる。晴子は思わずレイから目を背け俯いていた。



「さあ、じゅん。帰るわよ」



 声を掛けられたじゅんは突然の展開についていけず、狐につままれたような表情でレイに続き立ち上がる。



「さあ、皆も帰りましょう」


「ああ、そうだな」


「そ、そうですね。晴子さん、失礼します」


「失礼する」


「バイバイなのー」



 レイに促された他のメンバーも皆似たような表情を浮かべつつ、晴子に声を掛けてゆっくりと部屋を後にする。残されたのは部屋の主である晴子と皆を促していたレイだけであった。皆が退室したのを見届け、レイも『それじゃ』と声を掛けて晴子に背中を向ける。


 玄関で靴を履き、ドアノブに手をかけたところでいまだ部屋で俯いているであろう晴子にドアの方を向いたまま声を掛ける。



「それでもやっぱり私は晴子さんと滑りたいです!」


「・・・」



 レイの呼び掛けとも独り言とも言える言葉に、晴子は誰もいなくなった部屋で一人顔を上げる。



「だから・・・、ゲレンデで待ってますね!」



 そう言うと、レイは晴子の答えを待たずにそのまま出て行ってしまった。残されたのは晴子一人。嵐のような来訪を受けたと思ったら、その去り際もまた嵐のようであった。残された部屋は先ほどまでの爪あとを晴子の中にくっきり残していた。


 晴子はそのままベッドへ突っ伏し、ぽつりと呟いた。



「私は・・・、どうしたいんだろ・・・」



 じゅんたちの想いと自分が悩んでいたこと、それとじゅんから指摘された父の想い。さまざまなことに揺れ動きながら枕に顔を埋めていた。


 晴子の想いが台風一過となるまでは、まだ先のことになるようであった。



◇◆◇◆◇◆



 その日の夜、どうにも気になって晴子にメールをしてみたのだが、翌日になっても返事が返ってくることはなかった。今までこのようなことがなかっただけにどうしたものかと心配するも、自分たちの行動が原因であるのは明白であり、そのため積極的に何度も電話やメールをするのは自粛していた。


 しかし連絡が取れないのはレイだけではなく、春美や葉流に対しても同様であったらしい。流石に心配になった春美がレイと相談した結果、その日のうちに晴子の家に様子を見に行ったのだが、いくら呼び出しても応答がなかった。もしやと思い確認したら晴子の車も無くなっていたので、どこかに出掛けたのかもとその時は結論づけ、ドアに伝言を残しその日は晴子の家を後にした。



 しかし翌日、今度は葉流を交えて再度訪問してみるが、ドアに挟んだ伝言がそのままであったことから、少なくとも昨日から帰宅していないと言う事に気付き、いよいよ心配は加速する。


 最悪の事態も考えなくてはいけないかもしれない。


 三人の脳裏にそんな不安がよぎる。部屋の主がいないドアの前に立ち、静かなマンションの廊下が重苦しい沈黙により淀んでいくのを感じていた矢先、レイの携帯にメールの着信を知らせる音楽が鳴り響く。


 沈黙の中の突然の音楽にビクッと身体を震わすレイであったが、気を取り直して携帯の画面を覗き込むと、今一番連絡を取りたいと思っていた人からのメールが記されていた。



件名:なし

本文:何度もメールや電話をもらっていたのに返事をしなくてごめんなさい。

どうしてもしたいことがあったので返事が出来なかったの。もう少し時間を頂戴。また連絡するわ。



 そのメールの内容から、先日のことを引きずっているのは明らかであった。思わず顔をしかめるレイに何事かと春美と葉流はいぶかしむ。そんな視線に気付いたレイは携帯の画面を二人に向ける。



「春美さん、葉流さん、これ・・・」


「これは・・・、晴子からか?」


「はい。でもこの内容って・・・」


「・・・よく見せて」



 葉流の言葉に何かあるのかと不安げに携帯を手渡す。暫く画面を見つめた後、レイに携帯を返しながら何かを考え込むように遠い目をするが、それも束の間。葉流は改めて二人に向き直り自分なりの考えを告げる。



「晴子は大丈夫。心配ない」


「心配ないって・・・、どういうことだよ?」


「言葉通り。先日のレイたちの指摘により、スキボに対して自分なりに思うことを考え、行動しているものと推測する」


「それって私とじゅんのせい、ですか?」


「誰のせいと言うわけでもない。晴子の性格を考慮すると、遅かれ早かれ晴子自身が向かい合わなくてはいけない問題。それはスキボだけのことじゃない。晴子が晴子であるが故の問題、自分自身の根本について。それに向き合うきっかけになったのがレイたちと言うだけ」



 あの長くない文面からどう読み取ったらこのような考察が出来るのであろう。レイが葉流の考察に目を丸くしていると、春美もどこか納得言ったように頷く。



「そうだな。晴子だって子供じゃないんだ。今どこにいるのか知らないし、どんな形で考えをまとめているかは分からないけども、自分なりに結論を出したらひょっこり帰ってくるだろ」


「そのメールは晴子なりのレイへの気遣い。そこに書いてあるとおり晴子には少し時間が必要。だから・・・」


「そうですね、分かりました」



 葉流の言葉を遮りレイは力強く頷く。


 言葉こそ軽いが晴子のことを信じて疑わない春美。言葉は少ないが晴子のことを理解し信頼している葉流。その二人を前にして改めて晴子と言う人間を考えると、確かにそうだと納得する。



「確かに晴子さんなら心配いらないですよね。だって晴子さんですもの」


「何だそりゃ?」


「でも確かにその通り」



 さっきまでの重苦しい雰囲気が一気に掻き消え思わず微笑みあう。それはここにいない晴子がきっかけとなって生まれ、スキーボードで繋がれた絆がもたらした信頼の証であった。



「全く晴子さんは人一倍ふざけるのが好きなくせに、人一倍真面目なんですよね。もっと軽く考えてくれたら私たちもこんなに心配しなくてもいいのに」


「でも晴子が真面目でいてくれないと困るんだよ。私たちが暴走したときに止める役がいなくなっちゃうからな」


「それは春美自身が少し自重すべき」



 それが出来れば苦労しない、と笑い出す春美。やはり晴子を含めたこの三人は何だかいいなと目を細めるレイであったが、ふと思いついたことがあり手を挙げて発言を主張する。



「晴子さん、もしかしたら私たちの卒業旅行にこっそり来て驚かそうとしているのかもしれませんね」


「どうしてそう思う?」


「んー・・・、特に理由はないですが。ふざけるのが好きな晴子さんならそうするかなって言う、勘です」



 その言葉を聞いて春美と葉流は思わず顔を見合わせる。レイたち繋がるきっかけとも言えるどこかで聞いたことあるフレーズが自分たち以外から出てきたことに軽い驚愕を覚える。


 しかしその結果としてそれまでは何の接点もなく他人同士であったはずの者が仲間となり同じ場所にいる。始まりはただの勘であったはずがこのような縁を作るなどと当時は思いも寄らなかった。レイの発した言葉が当時の再現しているようで、春美の顔には思わず不敵な笑みがこぼれる。



「レイの勘、お手並み拝見」


「そうだな。期待してるぜ」


「え?え?」


 二人のどこか納得したようにレイに期待を寄せるが、当の本人はその意味が分からず戸惑いを隠しきれずにいた。

お読み頂きましてありがとうございました。

誤字脱字等は適宜修正していきますのでご容赦ください。

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