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スキーボードの物語  作者: はるパンダ
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第二十一話 ゲレンデジャック後編

 今年で社会人三年目となる高張 絢音(あやね)と岡 凛香(りんか)はとある会社の同期である。東京西部エリアにある会社に入社後、同じ部署に配属された彼女たちは互いの趣味であるスキーから意気投合して毎年冬になると二週に一度の割合で各地のゲレンデに出掛けるようになっていた。ゲレンデを選ぶ基準は特になく、海鮮などの美味なる物を求めて北の方に足を伸ばしたり、或いは温泉地にあるゲレンデを選び宿泊を伴いのんびりと出掛けたりなど。社会人と言うある程度収入に余裕がある身分と、社会人になってから購入した車、それと互いに束縛される相手がいない(それを二人は利点としている)ことを利用して、自由気ままにスキー旅行を楽しむ日々を送っていた。


 そんな彼女たちが鹿島岳スキー場に来たのはいつものように明確な理由はない。強いて挙げれば鹿島岳スキー場を始めとする長野県白馬エリアのゲレンデにたまたま惹かれたから。その中でも車でのアクセスがたまたま一番良かったから。一言で言えば『何となく行ってみようと思ったから』ただそれだけであった。



---



 ゲレンデに到着すると、着替える前にレストハウスで更衣室の場所を確認しがてら缶コーヒーを飲む。初めて行くゲレンデでのいつもの習慣であった。この時も同じように車を停めて、駐車場から見えるゲレンデの様子を眺めながらレストハウスに向かって歩いていた。


 今日でなければ二人のスキーライフはいつものように幕を開け、いつもと同じようにゲレンデを滑り、いつもと同じように現地の美味しい物を食べて、いつもと同じように家路に着いたはずである。心のどこかではゲレンデでの出会いを期待しなくもなかったが、こんないつもと同じサイクルを二人は心の底から楽しんでいた。しかしこの日の鹿島岳スキー場はいつもとちょっとだけ異なることがあり、それが二人の今後に良くも悪くも大きく影響を与えることとなる。



「あれ?何かしら?」


「どうしたの、絢音?」


「これって・・・、確かスキーボードってヤツよね?何でこんなに沢山あるのかしら?」



 レストハウスに向かう二人の視線に止まったのはスキー置き場に立てかけられている大量のスキーボード。スキーボード自体は普段でも見かけないことはないが、一箇所に大量のスキーボードがある光景はあまり日常的とは言えない。その非日常的な様子は二人に充分なインパクトを与えていた。



「レンタル用のをここに置いている、って訳でもなさそうね」


「まぁいいじゃない。行きましょ」


「あ、凛香!ちょっと待ってよ!」



 絢音の呼びかけに一度は立ち止まってみたものの、印象的な光景ではあるがさほど興味が無かった凛香は綾音に声を掛けるとさっさと歩いていってしまった。並べられている普段は見ない光景に後ろ髪を引かれつつも先を行く凛香を追いかけていく絢音であった。


 いつもと同じようにレストハウスに向かった二人はいつもと同じように缶コーヒーを飲むとのんびりと辺りを見回した。テーブルを三つほど挟んだ先では何処から持ち込んだのか、大量のデザートを並べてワイワイとはしゃぐ女性グループがいる。いつもは見ることがない大量のスキーボードや目の前の女性グループのはしゃぎようなど、日常ではなかなか見ることが出来ない非日常的光景を目にする事が出来るのもゲレンデ特有の高揚した雰囲気のもたらすもの。そんな雰囲気に身を委ね、朝のひと時をゆっくり満喫している絢音と凛香であった。



---



「思ったよりも滑り甲斐があるわね」


「変化に富んだ色んなコースがあるし、たまたま来たけど当たりだったわね」



 二人は互いに小学生の頃からスキーを始めていたので、スキー歴は共に二桁年数に手が届く。特に競技や大会に出たりしているわけではないが、それでも上級コースと言われる斜面がきついコブがあるコースでも滑り降りれるだけの腕前を備えていた。


 そんな二人がまず向かったのは鹿島岳スキー場の山頂。そこからなるべく長く滑れるコースを選んで中腹のレストハウス付近まで滑り降りてきていた。そこから目の前の緩斜面を滑ろうとリフトに乗り込み、ふとゲレンデに目を向けるとそこから見える光景がいつもと違うことに気が付いた。



「ねぇ、凛香」


「どうしたの?絢音」


「このコース、スキーもスノボもいないわよ」



 不思議なことに二人が今から向かうコースにはスキーもスノーボードもいなかった。いや正確にはいないことはないのだが、彼らの存在以上に目立つ存在がスキーやスノーボードの存在感を薄くしていたのだ。



「あれってさっき沢山いたスキーボードよね?」


「こんなに沢山いるって・・・、何かのイベントかしら?」



 目の前には四、五十人はいるであろうか。普段は見ることがない大勢のスキーボーダーがゲレンデ狭しと闊歩していた。二人は生粋のスキーヤーであるため、今日この鹿島岳スキー場で密かに開催されているスキーボーダーが集まるイベントのことは当然のことながら知らない。それでも長年のスキー経験から何かしらが行われていることは何となく察することが出来ていた。



「あ!あれ見て!何あの滑り方?」



 大勢いるスキーボーダーの群れの中、凛香が指差す方向で一人のスキーボーダーが目についた。ヘルメットを被ってはいるものの全体的に小柄なシルエットから恐らく女性と思われるそのスキーボーダーはウェアの背中に大きくプリントされた何かの数字を正面に見せるように後ろを向いていたが、立ち止まっているわけではない。彼女は後ろを向き、上半身を捻るように顔を正面に向けて、そしてなんと爪先立ちをして滑っていたのだ。器用にバランスを取り、背筋を伸ばすその姿は今まで見たことがなく、二人は自然とスキーボードの集団に視線を奪われていた。



「あっちの滑りも凄いわよ!」



 絢音が違うスキーボーダーを指差す。そちらでは後ろ向きのまま、まるで前を向いているかのように綺麗な滑りをしている二人のスキーボーダーがいた。一人は腰に何か小物入れのようなものをぶら下げており、もう一人はストライプ柄のウェアを着た集団の中でも一際小柄なスキーボーダーであった。二人の息のあった後ろ向き滑りはスキーヤーである二人の目から見ても充分に美しいと感じるレベルであった。



「あれは・・・、滑りと言っていいのかしら?」



 続いて視線を奪われたのはゲレンデを走る三人のスキーボーダー。比喩ではなく文字通りゲレンデを走っていた。走っている三人は皆ロング或いはセミロングとも言える長さのようで、ヘルメットからはみ出た長めの髪が走る振動にあわせてふさふさと上下たなびいてた。


 そのコミカルな動きに目を奪われていると三人のうちの一人、スタジアムジャンパーのようなウェアを着たスキーボーダーが豪快に転倒、走っていた勢いで上半身から顔面付近を雪面に勢い良く打ち付けていた。思わずあっと息を呑む二人であったが、転倒したスキーボーダーはすぐに立ち上がると慌ててその場から飛びのく。次の瞬間には周りのスキーボーダーが先ほどまでスタジアムジャンパーが転んでいた場所めがけて盛大な雪飛沫を浴びせていた。



「何だか・・・、凄いわね・・・」



 先ほどまで転倒していた場所を地ならしするように何人ものスキーボーダーが通り過ぎていく。その中には手を繋いで滑るもの、くるくるとその場で回転しながら滑るもの、片足で滑るもの。二人の今までのスキーと言う感覚とはまるで違うさまざまな滑りが目の前で繰り広げられる。



「でも・・・、楽しそうね」



 どちらが発した言葉であるか、二人はリフトを降りるまで同じような気持ちで楽しそうに滑るスキーボーダーたちを見つめ続けていた。



◇◆◇◆◇◆



「さっきのは何だったのかしらね?」


「随分変わったことをしていたけども・・・、ちょっと楽しそうだったわね」


「絢音ってば、ちょっと興味あったりするの!?」



 二人は先ほど見たスキーボードの変わった滑りの感想を言い合っていた。二人のギヤは一般的なスキーではあるが、滑走歴は互いに長いもののバッジテストを受けるほどスキーにストイックなわけでもない。二人のこだわりは『楽しく滑ること』。楽しい滑りであればギヤは何でも構わないと思っているが、今更スノーボードに転向するのも何となく抵抗があり、結局二人は自身のスキー歴を伸ばし続けていた。


 蛇足であるが、あわよくばゲレンデで素敵な出会いを二人とも心密かに目論んでおり、滑り方やウェアなど人から見ても格好よいスタイルであることにもこだわりがあったが、それは互いに口に出さない暗黙の了解である。


 さて、先ほど見たスキーボードの滑りは二人の目指す『楽しい滑り』を感じさせるには充分であったが、スキーボードに対しては『子供っぽい』『怪我をしやすい』などの世間一般と同じように何となく好ましい印象はなかったため今まで興味が無かった。その為、特にスキーボードの滑りを注視した事は無く、二人にとってスキーボードとは先ほど見た不思議な滑りが全てであった。とは言え今のようにリフト上で話のタネとして話題にはあがるものの、二人にとってスキーボードとは、やはりただそれだけのものであった。



 二人はあれから何度か違うコースを滑り、次の目的地をゲレンデ内でも比較的斜度がきつい上級者コースに定め、そこに向かうリフトに揺られていた。楽しい滑りを目指しているとは言えそこは生粋のスキーヤー。ストイックではないものの、ゲレンデを満喫できるよう急斜面であろうと多少のコブ斜面であろうとそこを楽しみながら滑れるだけの技術は磨いてきたいたのだ。その中でも急斜面を速度を上げて滑走することには、一般のスキーヤー同様、二人にとっても楽しいと感じる瞬間であった。その楽しさを全身で感じるために向かった先で、二人は再度先ほどと同じような光景を目にすることとなる。



「ねぇ、凛香。あれってもしかして・・・」



 絢音が指差す方向、そこは今まさに二人が滑ろうとしていた斜度がきつい上級者コースであるが、そこに先ほど見たスキーボードの集団がいたのだ。流石にコースの難易度が高いせいか、先ほど見た集団の半分ほどしかコース内にいないようだが、それでも二十人程度のスキーボーダーが思い思いに難易度が高いこのコースを滑走していた。



「短い板なのに平気なのかしらね・・・?」



 凛香がぽつりと呟く。凛香が思う疑問の通り、斜度がきついと言う事は、すなわち滑れば滑るほどスピードが出ると言うこと。スピードがあがれば上がるほど体幹バランスをしっかり取らないとあっという間に転倒してしまう。板が短いスキーボードであればそれは通常の長さのスキーよりも顕著に出るはずである。しかし目の前にいるスキーボーダー達は気付かないとスキーボードであると言うことを感じさせない程、その誰もが見事な滑りを周囲に見せ付けていた。。



「あれ、本当にスキーボードよね?」



 先ほど見たコミカルに走っていたスキーボーダーの一人、薄いパープルのウェア着たスキーボーダーがコース内のコブ斜面を膝から腰、身体全体を使って綺麗に滑っていた。スキーボーダーであるが故、本来であれば先行動作等の動き全体のバランスを取るために必要なストックは持たず、その分上半身の動きがやや大きくなってはいるものの、それは気にさせないように流れるような滑りであった。更にその後ろからは先ほどは後ろ向きに滑っていた小柄でストライプ柄のウェアのスキーボーダーが続く。こちらも先行するスキーボーダーと同じく基本に忠実な滑りで、見るものを魅了させる華麗な滑りであった。



「あっちの激しい雪煙もスキーボードかしら?」



 別のところに視線を移すと、先ほど豪快に転倒したスタジアムジャンパーのスキーボーダーと先ほどは目に付かなかった濃いカーキ色のウェアに身を包んだスキーボーダーがターン毎に身体を激しく倒しこむようなカービング滑走をしていた。ターン毎に右に左に手を雪面に擦り付けながら滑るその様子はまるでスノーボード。雪面に擦り付けた手とカービングターンにより舞い上がる雪煙を従えて、周りが止まっているかのような速度でゲレンデを疾走していった。



「あっちは今度こそスノボ・・・じゃない!?やっぱりスキーボードだわ」



 続いて二人の視線を奪ったのは先ほどの緩斜面で後ろ向きでつま先立ちをしていたスキーボーダー。このコースでは一見普通に滑っているように見えたが身体が斜面に対して垂直、つまり横を向いていた。良く見ると足がガニ股に開いており、板を百八十度広げた状態で身体を前後に倒し器用にバランスを取りながら滑っていた。その姿はまるでスノーボーダー、二人が見間違うのも無理はないことであった。


 その他、思い思いにパラレルターンやカービングターンをする人もいたが、驚いたのはショートターンの動作であった。板が短いせいであろうか、通常のスキーであれば重心の移動や板の取り回し等である程度腕に覚えがあるものでももたつくであろうその動きを、目の前にいるスキーボーダー達はさほど苦労もなさそうに楽しそうに行っているのである。



「スキーボードでも普通のスキーと同じような滑りも出来るんだ」


「でも何だかさ、普通のスキーよりも簡単そうじゃない?」


「凛香もそう思う?」


「うん、派手に転んでいる人もいないしさ」



 自分たちが行おうとしていた急斜面のでの滑走。それをとても楽しそうに、しかも簡単そうにやってのけるスキーボードの集団を目の当たりにした絢音と凛香は、それ以上の言葉を紡ぐことが出来ず、ただその集団が滑り降りていく様子を見続けていた。



◇◆◇◆◇◆



「気分転換にパークにでも行ってみない?」



 そんな凛香の提案に乗り、二人は鹿島岳スキー場のパークエリアまで来ていた。冬の間に何度もゲレンデに通っているうちにふと見かけたパークスタイル。それは速度をあげて滑るのとはまた違う魅力があった。自然では有り得ない地形や人工物などはそれを経験したことがないものには大きな威圧感となるのだが、そこに出入りする人々の楽しそうな様子はパークアイテムの威圧感を持ってしても二人の好奇心を削ぐことは出来なかった。


 とは言え特に誰に習った経験があるわけでもない絢音と凛香。元々は滑走指向と言う事も有りパークにどっぷり入り浸ると言う程ではないのだが、今日のようにちょっと気が向いた時には初心者向けの小さなキッカーやジブアイテムなどを使って僅かな浮遊感や雪以外を滑る感触を楽しんでいた。


 パークに関しては初心者を自負する二人。初心者は初心者らしくといきなりパークに入ることはせずに、まずはパーク横をゆっくり滑走しながらどんなアイテムがあるのかを観察していた。すると・・・。



「ねぇもしかして・・・」



 二度あることは三度ある。とってつけたような諺が頭に浮かぶ凛香が指差した方向。そこにはまたもやスキーボードの集団がいた。キッカーにエントリーするもの、ジブアイテムで順番待ちをするもの。そんな人たちを写真や動画に撮ろうとスタンバイするもの。さまざまな楽しみ方をしているようであった。



「ほら、来たわよ!」



 本日何度目の遭遇となるか、数えるのも面倒になってきた絢音は、そこにスキーボードの集団がいるのが当たり前のようにジブアイテムの方を指差す。そこにはナローボックスと呼ばれる手の平を広げた程の幅しかないボックスに向かうスキーボーダーがいた。


 腰まである大きめグレーのパーカーを着たスキーボーダーはボックスの手前で勢い良く飛び上がりながら横回転、グラトリやキッカーで言うところのサブロクのような回転をすると、進行方向に対して横を向いた状態で狭いボックスの上に器用に着地し、横向いたままボックスの上を金属の摩擦音を響かせながら滑っていく。その状態を一秒程度も続けないうちにそのボックスの上で再び飛び上がり回転をすると、今度は先ほどとは逆向きの横向きで着地、何事もなかったかのように再度摩擦音を周囲に響かせる。


 全長七、八メートル程度のボックスはあっという間に終わり、ボックスから飛び降りる際、スキーボーダーは飛び上がりながら再度回転をする。しかしその回転は先ほどとは逆方向への回転であった。ボックスの上で先ほどの回転方向に逆らう回転力を生み出したのは一体何が起こったのであろうか?絢音たちがそんなことを疑問に思う間もなく、そのスキーボーダーはサブロク以上の回転を行い、気付けば進行方向を向いて滑り降りていっていた。



「一体・・・、何が起きたのかしら・・・?」


「絢音!見てみて!あっちのキッカーで二人同時に滑ってくるのがいるわよ!」



 凛香の呼びかけに視線をキッカーの方に移すと、今まさにキッカーのアプローチに進入していくスキーボーダーがいた。先ほどから見かけていた腰にパンダの小物入れをぶら下げたスキーボーダーと黄緑色のウェアを纏ったスキーボーダーである。二人は息のあったアプローチ滑走を行うとそのままキッカーの死角へと消え、一瞬の間の後に二人同時に空中高くに飛び出してきた。


 二人は空中高くに飛び上がると足を空中で横座りするように折りたたみ、パンダをつけた方は左手を上げ、右手で左足のスキー板を掴む。黄緑色の方はそれを逆の手で行う。それはまるで鏡があるかのような左右対称ではあった。二人とも板を掴むとそれを軽く引き上げ、やや胸を張る。引き上げられた板は垂直になり、引き上げられていない板とアルファベットのエックスのように綺麗に交差している。二人がその動作を同じタイミングで行ったため、その一瞬はまるで時間が止まったかのようにも見えたが、数瞬後にはその動作を解除して着地、二人は腕と腕をあわせて互いの健闘を称えながらそのまま滑り降りていった。



「最近はスキーでもパークをやる人が増えてるって聞いたことあるけども、まさかスキーボードであんなことが出来るなんて・・・」



 気付けばあちらではジブアイテムで、こちらではキッカーでと至るところにスキーボーダーが溢れていた。華麗にトリックを決めている者もいれば、絢音たちからの見ても初心者と分かる者まで実力の幅がさまざまであったが、先ほどから見ていたスキーボーダーと同じように皆が皆、楽しそうな笑顔を浮かべてパーク滑走を楽しんでるようであった。



「スキーボードってさ・・・」



 目の前でスキーボーダーがおっかなびっくりジブアイテムに進入している様子を目で追いながら絢音が凛香に話し掛ける。



「私のイメージではおもちゃみたいと言うか、あまり本格的ではないと言うか。何かもっとレベルが低いイメージがあったんだよね」


「うん、言いたいこと分かるよ」



 キッカーに挑戦したスキーボーダーが着地地点である傾斜部にまで到達できず、キッカー頂点である台形の上部分に着地した様子を確認しながら凛香が頷く。



「今みたいなパークスタイルはスノーボードやフリースタイルスキーと同じくらいダイナミックなことが出来るみたいだし、一番最初に見たグラウンドトリックは奇妙な動きが多かったけどもとても楽しそうだった」


「そうだね。・・・それにさ」



 凛香は絢音の独り言のような呟きに相槌を打つが、言葉を一度区切り、目の前で繰り広げられているスキーボーダーたちの楽しそうなパーク滑走から目を離し、呆けた様に視線をパークに向けたままの絢音へと向き直る。



「あの急斜面での滑走は私たちよりも上手い人たちも沢山いたよね。そんなに上手くない人たちもいたけども・・・、それでも皆楽しそうだった」



 凛香の微笑み混じりの視線を感じて絢音も凛香の方へ視線を移す。



「ねぇ、凛香。私たちが目指しているスキーって何だっけ?」


「楽しいスキー、よね?」



 二人の中で答えはもう出ているのかもしれない。それでも敢えて二人は言葉遊びを続けていた。



「今のスキーも充分楽しい。けどもそれ以上に楽しそうなものがあったら、凛香はどうする?」


「んー・・・、私ならいきなりは飛びつかないな。でも試してみたい、かな。絢音は?」



 絢音は凛香の問いに答えず、しかし凛香の答えに満足したように再び視線をパークで戯れるスキーボーダーたちに移していた。凛香も答えを求めず絢音と同じように視線を戻すが、やがてどちらからともなくパークに背を向けゲレンデへと戻っていった。


 その後の彼女たちはリフトでこんな会話を繰り広げていた。



「帰ったらさ、ちょっとスキーショップでも行ってみようか?」


「それよりもレンタルしているところを探して見たほうがいいんじゃない?」


「ネットとかでの色々調べて見たほうがいいかな?」


「今日の集団は何かのイベントだったのか調べて見るのもいいよね」


「・・・ねぇ、何だか私たちってさ・・・」


「・・・」



 気付けば夢中になっている二人。ふと我に返り互いが白熱していることに気付くと思わず顔を見合わせてくすくすと笑いあっていた。


 そろそろリフトが終点の到着すると言う頃、二人は示し合わせもしないのに同時に同じ言葉を発していた。



「「とりあえずスキーボード、始めてみよっか!?」」


お読み頂きましてありがとうございました。

誤字脱字等は適宜修正していきますのでご容赦ください。

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