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スキーボードの物語  作者: はるパンダ
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閑話 エリとゆきの想い

 とある日。エリとゆきはアルバイトに行くじゅんと校門で別れて帰宅の途についてた。他愛もない雑談を交わしながらいつもの道を歩いていると、朝の天気予報では全く触れられてなかった突然の雨に見舞われた。



「あ、雨なのー」



 多少の雨であれば濡れて帰るのもやぶさかではないと思ってはいたが、みるみるうちに勢いを増す雨量に、流石に雨宿りをした方がよいと少しずつ足を速める二人。



「ゆき、走りましょう!」



 傘代わりに頭の上に掲げたカバンがすっかり色を変えるほど雨の勢いに、もはや駆け足同然で雨宿り先を探す二人はいつも寄り道をしているコンビニを視界に捕らえる。その途端、特に示し合わせたわけでもないのに、これがラストスパートだと言う勢いでコンビニに向けて走り出す。


 店内に入りようやく雨から解放された二人はカバンの中からハンカチを取り出し、すっかり濡れてしまった手足や顔を拭き取っていく。



「これだけ濡れるのはウォータージャンプだけで充分なのー」


「全くですね」



 ようやく軽口を叩く元気も出てきた二人は、折角だからといつものようにスナック菓子などを購入して、雨が止むまでの僅かなひと時をのんびりとおしゃべりに興じることに決めたのであった。



「今頃じゅんも私たちと同じように雨に見舞われているんでしょうか?」


「でもじゅんちゃんは足が速いから濡れるより早くバイト先に着いているかも知れないのー」


「私たちと一緒に歩いていても一目散にかけて行きそうですものね」


「でもじゅんちゃんのことだから私たちに合わせて一緒に雨に打たれてくれたかもしれないの」



 ホットドリンクで身体を温め、奪われた体力をスナック菓子で補充をしながら、そんな他愛もない話を続けていく二人。女子高生とはどんな時でも雑談に花を咲かせることが出来る人種なのである。



「そう言えば何となく思ったのですが、ゆきのご両親はゆきがスキボを始めることに対して何も言っていないのですか?」


「どういうことなの?」


「ゆきは元々ご両親と基礎系の滑りをしていたわけですよね?これは私の一方的なイメージなのですが、そう言った検定などを意識したスキーをしている方々はスキボに対して良いイメージをもたれていないのではと思っているので・・・」


「そうなのー、だからパパに話した時にはちょっと反対されたの。やるなら勝手にしろ。その代わりもう連れて行かないって言われたの」


「連れて行かないって・・・。大丈夫なんですか?」



 いつもののんびりとした口調で話すゆきからは、それが別に大したことのないように聞こえる。しかしその内容はエリを驚愕させるには充分であった。


 そんなエリの驚きを余所に、ゆきはいつもの柔らかな口調で優しく自己主張を続ける。



「だって、ゆきはスキボがやりたかったの」


「でも、だからってそれが原因でご両親と喧嘩になってしまうと言うのは・・・」


「うん、だからね。いっぱい話し合ったの。それで条件付でオッケーしてもらったの」


「条件?」


「うんとね。まず板は短いのでもいいから解放式のビンディングのものを履くこと」


「あぁ、だからこの間しずくさんに色々確認していたんですか?」


「そうなの。短いのを履きたいならこれを使え!って、パパが突然買ってきたの」


「もう手元にあるんですか?」


「うん。だからこれがスキボなのか不安でしずくちゃんに色々聞いてみたの。ちょっとグラトリしにくい滑走系の板だって言われたけども、でも立派にスキボだって分かったから安心できたの」



 そう言うと嬉しそうに笑いながら目の前に並べられたスナック菓子に手を伸ばすゆき。確かに先日ゆきは自分の持つ板についてしずくにあれこれ質問をぶつけていたが、まさかそんな理由があったとは思いもよらなかった。



「それとね、スキボを履いたとしても基礎的な滑りを忘れないことだって」


「基礎的な滑り?」


「パパが言うにはね、板が短いとそれだけ小回りが利くからターンの時のエッジの使い方や加重のかけ方がとかがおろそかになりやすいってことなの。だからそれを忘れないようにしろって言われたの。今度家族で行く時にはしっかり見てるからって言われたからプレッシャーなのー」



 通常のスキーとスキーボードは似て非なるものである。同じように滑ることも出来るが、スキーボードがその短さ故、ターンなどが簡単に行えるのである。


 それこそがじゅんが最初にスキーボードにハマった理由でもあるのだが、それは言い換えれば、通常のスキーからしてみれば基礎をおろそかにした滑りとも言える。ギヤが異なるので一概にそう言い切る事は出来ないが、それを理由にスキーボードを敬遠する基礎系のスキーヤーが多いことは事実である。


 しかしそれは間違いである。


 確かにスキーボードは基礎的な技術を習得しなくてもある程度までは簡単に滑れるようになるので、そう言った技術は不要であると思うかもしれない。しかし基礎的な技術、例えば加重のかけ方やエッジの使い方、身体の動きなどを理解し、習得するのとしないのでは滑りに大きな差が出てくる。


 それ故、スキーボードであってもそう言ったことを意識すれば、その短さのせいで滑走速度こそは適わないものの、基礎系スキーと遜色ない滑りをすることは可能なのである。


 またそう言った基礎的な滑走技術向上こそがスキーボードにおけるグラウンドトリックやパークなどでの安定にも繋がるのであるが、それはまた別の話である。



「そんなわけでそう言う約束をしっかり守るってことを条件にスキボをしてもいいってことになったの。その代わり今までの滑りを忘れないようにって釘も刺されちゃったのー」


「それでわざわざ解放式ビンディングの板を買ってきてくれるなんて、ゆきのご両親はゆきのことをしっかりと考えてくれているんですね」


「そうなの、かな?パパがゆきと一緒に滑りたいだけだと思うのー」



 そう言ってのんびりと笑うゆき。ゆきの話した内容から想像するゆきの父親は、きっとゆきのことをとても大事にしていると思わせる。だからこそ最初こそは渋ったものの、ゆきの意見を尊重し、ただ許可するだけではなく、今まで培った滑走技術を無駄にしないようにと滑走に趣をおいた板を与えたのだろう。


 そう思うと、思わず頬が緩む思いのエリであった。



「エリちゃんは?元々家族でスノボをやっていたって聞いたけども何も言われなかったの?」


「ウチですか?ウチは驚かれはしましたが、特に問題はありませんでしたよ」


「そうなの?それは羨ましいのー」


「ただ私の家族はスキボはおろか、スキーのことを知っている人がいませんでしたからね。反対はされませんでしたが、スノボと比較して何が出来るか?とかスノボよりも楽しいのか?など、何でわざわざスノボじゃなくてスキボなのかと言う事を根掘り葉掘り聞かれましたよ」


「そうなの?それでエリちゃんは上手く説明できたの?」


「私自身で楽しいと感じていても、それは感覚的な話ですからね。スキボの魅力を知らない人にその魅力を口頭で伝えるのはなかなか難しいですよ」


「それじゃ・・・?」


「だから・・・、そこはじゅんと同じ方法を使いました」


「じゅんちゃんと?」



 エリはそう言うとにやりと笑い、そしてその時のことを思い返すと思わず顔を赤らめる。そんなコロコロと表情を変えるエリをゆきは不思議そうに見ていたが、いつもと違うエリの様子にゆきは思わず話の続きを促す。



「ねぇ、どういうことなの?」


「そ、それはですね。つまり北高に入学当初、私たちに向かってじゅんがスキボの魅力を説いたようにしたわけですよ・・・」



 最後の方は恥ずかしそうに口篭ってしまうエリであったが、それでもまだ合点がいかないゆきは更にエリを追及する。



「入学当初のじゅんちゃん?どんな感じだったの?ゆきは途中からじゅんちゃんとエリちゃんと仲良くなったから分からないのー」


「だから、何と言うか・・・。とにかく内容よりも勢いで伝えると言うか、スキボの具体的な魅力を理屈じゃなくて感覚で伝えると言うか・・・」


「そっか!確かにじゅんちゃんは最初のうちは『ぐいーん!』とか『しゃー!』とか擬音ばっかりで説明していたの。ゆきも意味が分からなかったけども、話している様子から凄く楽しいんだろうなってのは充分伝わったの。だからゆきもスキボを始めようって思ったの。ってことは、エリちゃんもあんな風に説明したのー?」


「つまりそう言うことです・・・」


「そっかー、エリちゃんがじゅんちゃんみたいな説明なのかー」



 ゆきの理解に思わず顔を赤らめ、そっぽを向いてしまう。


 エリは自身では品行方正な優等生であるとは思っていない。しかし決してじゅんのように感覚で物事を話すタイプではないとも思っている。むしろ理路整然と物事を考え、話をするように日頃から心掛けている。


 入学当初、ひょんなことからじゅんとウインタースポーツと言う共通の話題が出来た時、じゅんは自分の感情に任せてスキーボードの魅力を大いに語ってきた。しかしゆきが言うようにじゅんの語る内容は擬音が多く、お世辞にも分かりやすいと言えるものではなかった。


 エリは最初のうちこそじゅんが語るスキーボードの魅力と言うのものが理解が出来なかったのだが、話を聞いているうちにだんだんと自分自身の感覚がじゅんのそれと共有していくのを感じた。それはエリやゆきが時折冗談めかして言っている洗脳と言っても差し支えにないものだったのかもしれない。


 それでもスキーボードが楽しいものなんだろうなと感じていったのは紛れもないエリ自身の感覚であり、実際に始めてみてその感覚が間違っていなかったことを実感していた。


 しかし自身で体感したとは言え、スキーボードの魅力を人に伝えることが出来るほどエリ自身はスキーボードに対して理解は深くない。しかしその魅力を感覚としては理解していると自負している。だからエリは説明の手段として、自分らしからぬ『感覚に身を任せた説明』と言うのものを家族に対して行ってみたのであった。


 その反応はとても分かりやすいものであった。


 最初のうちこそはいつものように物事を整理して分かりやすく話していたのだが、いつの間にか普段からは想像もつかないほど興奮してしまっていた。それがウォータージャンプに行った時の話に差し掛かると身振り手振りを交えて、まるでじゅんが乗り移ったのかと思えるほどの興奮っぷりであった。


 無意識だったわけではない。考えなしで話していたわけでもない。しかし知らず知らずのうちにスキーボードの魅力を身振り手振りを交えて力説していたことを思い返すと、ベッドに頭を突っ込んでジタバタしたくなるほど普段の自分とはかけ離れた自分自身がそこにいたのであった。


 しかしその多大なる犠牲(?)のおかげでエリの家族はエリにとってスキーボードはスノーボードよりも楽しく魅力的であるということを理解することが出来た。何せ、普段は大人しいエリをあそこまで興奮させることが出来るのであるから。


 因みに先日初めてスキーボードで滑りに行った後、家族から感想を求められた際にも初めてゲレンデで滑るスキーボードの魅力を擬音を交えた身振り手振りで力説してしまい、はっと気付いた時には家族から優しくも生暖かい視線で見守られてしまったことはじゅんにもゆきにも言えない秘密であった。もちろんその後は自室のベッドに頭を突っ込んでジタバタしていたのは言うまでもないことである。



「私の家族は今度家族旅行でゲレンデに行く時、私には是非スノボではなくスキボを履いてくれって言っているんです。何だか気恥ずかしいと言うか、からかわれている様な気がしなくもないので複雑な気持ちなのですが・・・」


「エリちゃんの家族はスキボに興味があるの?」


「スキボに、と言うよりもスキボを履いた私に興味があるようです。」


「そっかぁ。いつもは真面目なエリがじゅんちゃんみたいな説明をするくらいだもの。ゆきにも今度スキボの魅力を教えて欲しいのー」


「もう、知りません!」



 ゆきのからかいの言葉にようやく落ち着いた顔を再び赤面させつつ仏頂面を見せるエリ。そんなエリの様子をケラケラと笑うゆきであったが、楽しそうなゆきの笑顔を見て、いつの間にか頬を緩めてしまうのであった。



「スキボっていいですよね」


「ホントなの」


「でも私はゆきの基礎スキー姿も見てみたいですよ」


「ゆきもいつかエリちゃんのスノボ姿を見てみたいのー」


「そのうちスキボ以外でも滑りましょうか?」


「うん!」


「でも今しばらくはスノボよりもスキボを楽しみたいです」


「うん!早く滑りに行きたいのー!」



 外は先ほどよりも幾分か雨足が弱まってきているが、まだ暫くは雨雲が遠ざかる気配はなさそうである。



「そう言えばこの間じゅんちゃんがねー」


「またじゅんですか?どうしたんですか?」



 特に触れることもなかった互いのスキーボードを始めるに当たって抱いていた想い。話題は既に全く違うものに移っていたが、その想いを再確認させてくれた気紛れな天気に僅かな感謝を抱きつつ、目の前のスナック菓子が残っている限りはこのコンビニでお喋りに興じることを決めたエリとゆきであった。



◇◆◇◆◇◆



「くしゅん!あー、二人に噂されてるのかなー」


「こら!ボケッとするなよ」



 二人がスキーボードを始めた想いを語り合い、そして話題がじゅんのことに移る頃、アルバイト中のじゅんはくしゃみをしていた。思わずボーっとしてしまったところをしずくに注意されるのであるが、そんな注意を余所にじゅんはエリやゆきと同じことを考えていた。



「あーあ、早くスキーボードしたいなぁ」


「だからボケッとするなって!」


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