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スキーボードの物語  作者: はるパンダ
13/30

第十二話 いめーじとれーにんぐ

 夏休みも半ばに差し掛かり充実した毎日を送る中、世の女性の多くが日焼けを恐れているにも関わらず、これぞ夏少女だと言わんばかりに真っ黒に日焼けした顔で誇らしげに笑う姿はいかにもじゅんらしい。一緒にウォータージャンプに行く友人、エリとゆきはそんなじゅんのすっかり変わった肌の色を見て苦笑いをするのだが、この二人は炎天下の中で少しでも日に焼けまいと三十分おきに日焼け止めを塗りなおし、果たしてその効果はじゅんと比較すると見事に出ており、多少火照ったような赤い顔をしているもののほぼ日焼けをしないで済んでいた。


 そんな二人を見て『せっかく夏なんだから日焼けくらいしないと』などと言うじゅんに更なる苦笑を重ねるエリたちだったが、言った方も言われた方も大して気に止める様子もなく黒に黒を重ねていく日々を過ごしていく三人であった。


 そんな夏休みも半ばを越えたある日の夜、趣味にバイトにとあまりに根詰めるじゅんの様子を見かねたレイは、その性格を知っているから敢えて止めはしないものの、やんわりと体調を気遣うように日々の様子を伺うのだが・・・



「グラブが安定してきて色んなグラブが出来るようなったんだよ」


「今度は春美ちゃんとウォーターに行く約束したんだ」


「エリとゆきもグラブが安定してきたんだよ」



 と、こちらの心配などどこ吹く風と言った様子で近況報告をしてくれた。


 呆れ半分ながらもじゅんの話を聞いていると、話の様子から随分と上達しているようで、その上達の早さに内心舌を巻く思いになる。流石はじゅん、相変わらずの猪突猛進っぷりである。その上達っぷりに賞賛を与えたい気持ちではあるが、それを口に出すとじゅんの体調を気遣うための話が逆効果になりそうなので、敢えて体調を気遣うことに終始することにするレイであった。



「それは凄いけども、たまには休息も取らないとダメだよってゲレンデでも言ったでしょ。楽しいのは分かるけども、敢えて滑らない日を作ってイメージトレーニングとかをするのも大事なんだから」


「イメージトレーニング?」


「ただ身体を動かすだけじゃなくて、やりたいことのイメージやそれをやっている自分の動きを思い描くトレーニングのことよ」


「ふーん、それをやるとどうなるの?」


「どんなことをするにしたっていきなり出来るようになるわけじゃないでしょ?だからまずはその動きをイメージしてその動きをするための練習をするのよ」


「それってスキボでも役に立つの?」


「もちろんよ。例えばこうやって滑る体勢をやってみて身体を慣らしておけばゲレンデに行ったときにもスムーズに出来るようなるはずよ」



 そう言いながらレイは実際に滑る真似をしてみせる。その様子を見てじゅんは合点が言ったように頷きながら答える。



「そう言う動きならエリやゆきとお昼休みに良くやってるよ。ゆきの動きが一番綺麗で、膝の動きとかはまるでゲレンデにいるみたいだったよ」


「あの大人しそうな子のことよね?確か元々長板をやっていたんだっけ?それなら確かに動きは綺麗かもしれないわね」


「やっぱり分かるものなの?」


「滑り方がしっかりしていれば、滑る真似をするだけでも綺麗な体勢になるものよ。ゆきさんもスキーが好きなら、もしかしたら普段からも何気ない生活の中で滑りの動きを意識してるかもしれないわね」



 イメージトレーニングの話にゆきの話を交えると、身近な友人の日頃のじゃれ合いの中で見せた動きを思い浮かべる。その動きはじゅんの目から見ても綺麗な動きであり、ゲレンデでの滑りを容易に想像できるものであった。そんなことを思うと、じゅんはいよいよイメージトレーニングの大切が分かってきたようだ。



「うーん、滑らなくても出来るトレーニングかぁ」


「まぁトレーニングなんて言い方は堅苦しいかもしれないけども、要は普段から何気なくスキーの滑る動作をする事があるでしょ?それでいいのよ」


「そっかぁ。それならキッカーでも同じかな?」


「そうよ。じゅんはウォータージャンプに行きまくってるけども、実際に行かなくても出来ることはたくさんあるんだから」


「どんなこと?」


「例えば今言ったみたいな日常の中で動きを意識することの他には、実際に滑っているスキーボードのDVDを観てみるのもいいかもしれないわね」


「そんなのあるの?」


「恐らくあるはずよ。春美さんとかにきいてみたらどう?」



 体調を気遣う話の流れが結局はスキーボードの話になるのは、結局レイも好きなのだから仕方ないことであろう。話の流れで飛び出したDVDの話に興味を示したじゅんは、さっそくその場で春美に連絡を取る。雑談交じりに色々話していたようであったが、結果的には翌日には春美からDVDを数枚借りてきていた。相変わらずの行動力に今度こそ感心してしまうレイであった。



◇◆◇◆◇◆



「二人とも、いらっしゃーい!」


「お邪魔いたします」


「お邪魔しますなの」



 春美からDVDを借りてきた日の夜、早速エリとゆきに連絡し、翌日にはDVDの鑑賞会をすることになった。


 お昼を過ぎた頃に倉橋家に訪れた二人とは夏休みになってからもほぼ毎日顔を合わせていたが、ウォータージャンプ以外で会うのは初めてである。エリは水色のシャツに明るめのジーンズ、ゆきは白いワンピースとそれぞれウォータージャンプではない外出を楽しんでいるようであった。


 一方じゅんはと言うと、自宅であると言うこともあり白のTシャツに黒のハーフパンツと言うラフと言うよりも完全な部屋着。寝癖が若干残った頭が久々の休息日に先ほどまで睡眠をむさぼっていたことが伺える。二人ともそんな様子に呆れた顔で苦笑するのだが、頭の寝癖に敢えて触れないのがせめてもの優しさのようだ。


 流石に友人が来てまで部屋着のままではいないようで、二人を部屋に通した後に飲み物を持ってきがてらいつの間にか着替えていた。その服装はベージュに花柄をあしらったキャミソールに水色のハーフパンツと言う部屋着よりもさらに肌の露出が多いもので、元気で一直線なじゅんらしい服装であった。因みに頭の寝癖はいつの間にか直っているのは、やはりじゅんも年頃の女子と言うことであろう。


 エリの差し入れである近所の洋菓子屋で購入したプリンを開けつつ、ようやくDVDの鑑賞会が始まった。借りてきたDVDはスキーボードのハウツーものの他に、フリースタイルスキーのものもあったが、春美が言うには『キッカーやジブなどのパークスタイルにはこれも参考になる』とのことである。プリンを食べながら軽い気持ちで始まった鑑賞会であったが、DVDが流れると食べる手は自然と止まる。初めて見るフリースキーの世界はじゅんたちにとってはそれほど圧巻であった。


 一般的にパークスタイルの滑り方は冬に行われていたオリンピック競技など、テレビ観戦以外では目にする機会はほとんどない。パークに入り浸っている春美であればそんなこともないのであるが、元々ウインタースポーツを始めたばかりのじゅんや、ウインタースポーツをしていたもののパーク経験がないエリやゆきにとっては未知の世界であった。そんな下地がない状態で見るフリースタイルスキーは文字通り飛んだり跳ねたり回ったりしており、自分たちとは別世界のようであった。そんな画面上のライダーたちを口をぽかんと開けたまま食い入るように見続ける三人であった。



---



「春美ちゃんからパークを教えてもらった時に『凄い人はまだまだこんなものじゃないよ』って聞いてたけども・・・」


「ゆきたちもここまで出来るようになるのかなぁ・・・」


「何だか自信がなくなってきました・・・」



 DVD鑑賞後の三人の感想である。三人はイメージトレーニングどころかDVDに映るプロライダーの滑りを見て、あまりの凄さに圧倒されてしまっていた。呆気にとられて言葉もない三人が居る部屋の前をたまたま通りすがったレイが様子を伺い、放心している三人に向かって声を掛ける。



「どうしたの、三人とも。何だかぼーっとしちゃって」


「あっ、おねーちゃーん・・・!」



 今見ていたDVDの凄さに自分たちは到底及ばず、このままキッカーなどのパークを続けていく自信が無くなっていた事をレイに伝える。



「アンタたち、プロのライダーになりたいの?」


「えっ?い、いやそういうわけじゃないけども・・・」


「でしょ?楽しむためにやってるんでしょ?だったら別にいいじゃない、DVDに出てる人たちみたいに上手くならなくても」


「でも、でもさぁ」



 DVDに出演しているのはプロライダーであり自分たちの技量とは比べるべくもないことは分かってはいるのであるが、それでも自分たちのレベルを遥かに超えた数々のトリックを見ると、素直に凄いとひたすら感心するのではあるが、一方で自分たちの稚拙さを改めて思い知らされ自信を喪失していく。すっかり意気消沈しているじゅんたちを見て、その意識を少しでも引き上げるべく三人に穏やかな笑顔を向けてイメージトレーニングに対する心構えを解説する。



「そんなにへこまないの。DVDに出ているのはプロの人たちよ。敵うわけないでしょ?」


「分かってるけども・・・、でもなんかさぁ」


「それに元々イメージトレーニングのつもりで観ていたんでしょ?それなら圧倒されるだけじゃなく上手い人の滑りをよく見なきゃ駄目よ。その滑りをよく見て真似るのが上達の近道、これはどんなことにも通じるのよ。スキーでもスノボでもそう、もちろんパークでも同じよ」


「・・・そうなの?」


「例えばキッカーなら、ただ飛んでるところだけを見るんじゃなくて、やっているトリックごとに飛ぶ前の姿勢や視線、重心、手の位置、腰の落とし方。空中にいるときのグラブに入るタイミング、引き手のあげ方。ランディングに入るときの姿勢や視線。そう言った普段注目しないところに注目して見てみるとかね」


「そ、そうなの?」


「そうよ。そう言った視点で見ていたら身体の使い方やトリックごとの違いなんかも見えてくるはずよ。生で見たなら一瞬で終わっちゃうことでもDVDなら一時停止やコマ送りでゆっくり見れるでしょ?それを見てじっくりイメージを自分に焼き付けるの。もちろんそのポイントだけを見るんじゃなくて一連の動きを見るのも大事だからね」


「そ、そっかぁ。ただ見てるだけじゃダメなんだね」



 レイの説明に三人は素直に頷く。



「ダメってことはないわよ。確かに凄いし楽しんで観るのだって大切よ。パークでは自分が楽しむ以外にも周りで見ている人、所謂ギャラリーの人に見せ付けて楽しむってこともあるからね。どうやったら綺麗に魅せれるかって言う意味では純粋に楽しんで観るべきだと思うわよ。ただイメージトレーニングとして見るなら、見るべきところを意識して見ないとダメよ」


「そっか、そうだよね」


「全く同じことは出来なくてもキッカーとしての基本は同じなんだから、そう言うのをじっくり見て、イメージして、まずは身体に姿勢を覚えこませるのよ。椅子とかに座ってやりたい動きを反復したりするのも効果的よ。それからその動きをゲレンデやウォータージャンプとかで自分の身体で実際に再現してみるの。頭で身体の動きを考える。それがイメージトレーニングよ」


「なるほどなの・・・。ゆきたち、いきなり凄いの見てびっくりしちゃったの」


「まぁ初めてなら無理ないわよ」


「ありがとうございます。勉強になりました」


「最初はよく分からなくても自分で動きを真似しながら見れば何となくでも分かるようになるわよ。頑張ってね」


「はい!でも・・・、レイさんはパークやらないのに随分詳しいですね?」



 エリの鋭い指摘に思わず動揺するレイ。



「ま、まぁこの手のDVD自体は見たことあるし、グラトリやフリーランのイメトレだってやることは同じだからね」


「そうなんですか?」


「そ、そうよ。見なくちゃいけないところをしっかり意識する。受験勉強と同じよ。さぁ、私は勉強勉強っと。じゃね、ごゆっくりー」


「え、あぁ・・・、頑張ってくださいね」



 とってつけたような正論がましい言い訳をするとレイは逃げるように部屋から出て行った。どこかおかしいレイの様子にやや首をかしげるエリであったが、既にリモコンに手をかけてレイのアドバイスに従ってDVDをコマ送り再生しているじゅんに気付くと、自分も乗り遅れないようにと再度テレビ画面に向き直るのであった。



◇◆◇◆◇◆



 長かった夏休みは余韻を残すこともなく終わりを告げ、残暑と言うにはあまりにも暑い秋に突入するのだが、暦上では秋であるとは言えまだまだ夏の雰囲気が世間一般にしっかりの根を下ろしている。そんな夏の熱気に当てられているじゅんは学校が始まってもウォータージャンプ通いは続けていたが、さすがに学校が始まると毎日通うと言う訳にはいかず、また気温は日を追うごとに確実に下がり、それに伴い水温も少しずつ下がっていくため、夏から続いていたじゅんたちのウォータージャンプ通いは十月に入るとようやく終了となった。


 そんな十月のある日の放課後、じゅんたちはいつものコンビニのイートインコーナーでポテチを広げながら先日で最後となったウォータージャンプの感想を言い合っていた。



「昨日のじゅんは凄かったですね。あんなに綺麗にサブロク回れるようになるなんて驚きました」


「最後のウォータージャンプだったからね、気合入れて頑張っちゃったよ!でもまだゲレンデで出来るかどうか分からないよ。昨日春美ちゃんにも言われたけども、ウォータージャンプで飛ぶのとゲレンデで飛ぶのでは気持ちが全然違うんだからしっかりイメトレを続けろって」


「そうなんですか?」


「着地する場所が水と雪の違いってだけだけども、慣れないうちはそれだけで無意識に恐怖感を感じで身体が萎縮しちゃうんだって。だからウォータージャンプで出来たからって安心しちゃだめだって」


「怪我をしては元も子もないですからね」



 じゅんは夏の間に時折一緒に行っていた春美に色々とアドバイスをもらった結果、ウォータージャンプではグラブはおろか、サブロクまで出来るようになっていた。もちろん最初は空中で回転するのに恐怖心はあったが、ここまで至るには持ち前の猪突猛進さに加え、レイのアドバイスによるイメージトレーニングと直接アドバイスをくれた春美の功績によるものが大きい。飛ぶ時の姿勢などを頭でしっかり意識してそれをひたすら実践する。単純なことではあるが自分の思うことを出来るまでやり続けるじゅんにとっては、むしろこの反復練習は少しずつ上達する自分を感じることが出来る楽しい時間であった。



「エリとゆきもいつの間にかあんなに綺麗なグラブが出来るなんてすごいよね!」


「毎日イメトレしてるし、春美さんが丁寧に教えてくれたからなの」


「スノボでもパークに入ったことがなかったのに、まさかスキボでグラブが出来るようになるなんて自分でも驚いています。今思い出しても怖さ半分驚き半分、それと喜び半分ですよ」


「エリちゃん、それじゃ半分が多すぎるよー」



 エリの細かい天然ボケにゆきが優しく突っ込みを入れる。そんな和やかなやり取りはともかく、二人とも春美の的確なアドバイスにより見る間に上達していき、綺麗なグラブが出来るようになっていた。二人とも元々滑っていた経験があるから実はじゅんよりも飲み込みは早いのだが、じゅんの何でも一直線になる姿勢には流石に追いつくことが出来ず、結果的には三人とも近いレベルでそれぞれ上達していっていた。



「ところでじゅん、あっちの話はどうなってるんですか?」


「あっちって?」


「もう!自分で言い出したことじゃないですか!?」



 エリの問いかけに今思い出したかのように答えるじゅん。もちろん忘れていたわけではない。忘れていたわけではないのだが、ウインターシーズンの声が聞こえてこないとなかなか腰が入らないと言うのが本音であった。



「も、もちろん覚えてたよ、ゲレンデジャックでしょ?」


「・・・じゅんちゃん、絶対忘れてたの」


「えーっと・・・、エヘヘ」



 ゆきにまでジト目で突っ込まれて、ポリポリと頭を掻いて誤魔化すじゅん。



「忘れてはないんだけどもね、どうしたら楽しくなるのかなって考えたんだよ」


「で、何か思いつきましたか?」


「えーっと・・・、エヘヘ」


「全くもぅ・・・」


「あ、あのぉー」



 エリの質問に誤魔化し笑いで答えるじゅん。その様子に呆れるように溜息をつくエリであったが、そんな中でおずおずと手をあげるゆき。しかしそれには気付かず二人は議論を重ねていく。



「せっかく集まってもらうんだから、何かこう盛り上がるようなことしたいなって思っているんだけどもさぁ」


「盛り上がるって言ってもゲレンデで出来ることってどんなことがあるんですか?」


「あ・・・」


「集まった後に皆で滑るとか・・・」


「それは当たり前ですよ」


「あの・・・」


「皆で雪合戦とか・・・」


「スキーボードと関係ないじゃないですか」


「あのー・・・」


「レストハウスのスイーツを食べるとか?」


「もはや滑ってすらいないですよ」


「あ、あのね!」



 二人の議論に中々割り込めなかったゆきは、意を決して大声を出し無理矢理二人の会話を中断させる。ゆきの声が耳に入っていなかった二人は突然大きな声を出したゆきをきょとんとした表情で見つめる。



「どうしたの?ゆき」


「そうですよ、突然大声を出して」


「うー、さっきから呼んでたもん・・・」


「そうなの?ごめーん!」


「それは失礼しました。それでどうしたんですか?」



 ゆきの反論に素直に謝罪する二人。ちょっと不貞腐れ気味になるが、二人に宥められて話を続ける。



「あのね、じゅんちゃんの考えたゲレンデジャックって、スキボダさんが沢山集まって皆で滑ろうってことなんでしょ?」


「うん、そうだよ」


「それならね、ゆきはそれが目的でいいんじゃないかなって思うの」


「えっ!?でもそれじゃあ・・・」


「そうですよ、目的もない集まりになんて皆さんが来てくれるなんて思えません」



 ゆきの突然の提案に否定の意を表す二人。しかしそれに構わずゆきは言葉を続ける。



「でもさ、じゅんちゃん、前に言ってたじゃない。集まって滑っているだけで楽しいって」


「そうだけど・・・」


「それなら五人よりも十人。十人よりも十五人。何人集まってくれるか分からないけども、集まってワイワイ滑るだけで充分楽しいと思うの」


「うーん・・・」


「それにね、元々少ないスキボダさんでゲレンデをジャック出来たら楽しいなって言うのが目的なんでしょ?それならそれで、それは立派な目的だと思うの」



 普段は大人しいゆきがここまではっきりと意見を挙げてくれることは珍しい。じゅんは暫く考え込んでいく。



「じゅんちゃんは春美ちゃんたちと滑った経験があるからもっと沢山のことをしなくちゃって思ってるかもしれないけども、ゆきたちみたいなそう言う経験がない人にとっては集まるだけでも楽しいと思うの」



 ゆきの一言のじゅんははっとした。確かに自分はスキボダ五人で滑ると言う経験を経て、もっと多くのスキボダを集めて滑ったら楽しいだろうと思っていた。しかしエリやゆきのようにその経験すらない人は恐らくもっといるはずである。スキーボードの魅力を伝えたい、まだ見ぬスキボダとの絆を作りたいと思っていた当初の想いを忘れてはいないものの、より楽しくなるにはどうしたら良いかと考えるうちに、集まるからには何かしなくてはいけないと言う重圧を自らに課してしまい、当初の目的から脱線してしまっていたことに気が付いた。



「そっか・・・、そうだよね。集まってワイワイ滑るだけでも充分楽しいよね」


「そうだよ、ゆきたちもそれだけでも充分楽しみなの」



 ゲレンデジャックと言うイベント自体は恐らくじゅん一人でも思いつき、実行に移すことは可能であっただろう。しかしじゅん一人であったならば、持ち前の猪突猛進さ故、今のように周りが見えなくなって迷走するあまりせっかく計画したイベントは当初の目的と離れていたものになっていたかもしれない。そんな自分だけでは抜け出せなかった迷路からこの友人二人はあっさりと自分を救い出してくれたのだ。



「二人ともありがとう。私考え過ぎちゃってたみたいだよ」


「いいえ、私たちにとってはじゅんはリーダーですからね。じゅんが決めたことをサポートして行くのが役目ですよ」


「リーダー?」


「そうですよ。だからサポートする代わりに沢山楽しいことを教えてくださいね。それが私たちに対するお礼にもなるんですから」



 エリの言葉にゆきも力強く頷く。じゅんの友人二人はじゅんを友人として見ているのと同時に、自分たちのリーダーとして認識している。


 晴子はじゅんを『違うビジョンを見ている』と評価しその自主性を尊重し、レイは姉ではあるが晴子と同じくじゅんと言う個人の持つ真っ直ぐさを評価している。本人に自覚はないものの、知らず知らずのうちに人を惹きつけ影響を与えていく、そんな魅力がじゅんには備わっているかもしれない。その魅力は一番近しい友人、エリとゆきにも影響を与えていた。



「そんなリーダーなんて柄じゃないけども・・・、でも頑張ってみるからね」


「よろしくお願いします」


「よろしくなの」



 じゅんは今日何度目か分からない照れ笑いを浮かべながら、心の中で二人に深い感謝を述べていた。

お読み頂きましてありがとうございました。

誤字脱字等は適宜修正していきますのでご容赦ください。

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