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自分の『正義』のこと

完結話です。一話目未読の方は、一話目からお読み頂くようお願い致します。

「それでぇ、その子の言うとぉりカツアゲくん達をツブしに来たってぇ?ヘッドも大概だよねぇ」


「気持ちは分かりますよ」


「うるせえ!お前らと一緒にすんな!」


 街の外れにある工場跡地。少年に教えられた不良達のアジトだ。少年も何度か連れられたことがあり、二十人近くの不良に囲まれたこともあると言う。マスミもこの辺りは悪党が根城にしていることを知っており、連中の数を聞いた段階でアンナとウルスラを呼び、今夜中にカタを付けると決めた。


「あたしは、あいつが困ってそうだったから助けようと思っただけで、お前らみたいなショタコンとは違うっつーの」


「あぁ、確かにヘッドはぁ、ハルカくん一筋だもんねぇ」


「ハルカ君、可愛いですよね。ふふ……」


「……お前らには、もう二度と会わせねえからな」


 以前、マスミはこの二人に三歳年下の弟ハルカを紹介した。その時は二人とも大騒ぎして、ハルカを可愛がり尽くしていた。その時のハルカは本気で怯えており、今でも二人の話をするとびくついている。それがまた、マスミには面白いのだが。


 まあ確かに、ハルカは可愛い顔してるし、からかうといちいち面白い反応するし、あたしがいなきゃダメダメだし……。


 弟の顔を思い浮かべ、被害者の少年の懇願を思い出し、マスミは気合を入れなおす。


「おし、そんじゃ行くよ!」


「はいはぁい。可愛い子がいるといぃなぁ」


「テイクアウトは構いませんよね?」


「はあ、……好きにしろよ」


 気勢を削がれるが逆に力が抜けた足取りで、マスミを先頭に敷地に踏み込んだ。


 大きな建屋の前にバイクが停められている。数は二十台弱。聞いていた通りだ。ひび割れた窓からは薄く灯りが見えている。中にいるようだ。搬入用の横開きの大扉の前に立つ。小さな話し声や物音が聞こえてきた。アンナとウルスラに目で合図し、マスミは扉に手をかけ一息に開け放つ。


「おらあ、不良共!成敗に来てやったぞ!」


 体育館程の広い空間の中、マスミの前には二十人を超える不良達が『待ち構えて』いた。誰もが手に武器を持ち、既に臨戦態勢に入っている。


「ひゅう~。本当に来やがったぜ、こいつら」


「さすがリーダー。言ったとーりっすね」


 集団の奥、積み上げたコンテナの上に悠然と座っているのは、路地裏で囲まれていた少年だった。恰好は学生服のままだが、その表情は嘲りに満ちている。


「こんばんわ、マスミさん。わざわざ来てくれてありがとうございます」


「……テメエ、どういうことだ」


 少年からは、先程までの弱々しさは感じられない。あるのは強者の余裕と、どす黒い悪意のみだ。


「まだ分かってないんですか?頭悪いですねぇ。つまり、貴女は騙されてたんですよ。被害者だと思ってた気弱そうな少年にまんまと嵌められて、のこのこ罠の中に入ってきてしまった、と」


「……そういうことかよ」


 少年は嬉しそうに笑う。しかしそれは、路地裏で見せた演技のそれではなく、少年本来の、相手を見下した笑いだった。


「僕、普段は優等生で通してますけど、やっぱりストレスとか溜まるんですよね。そういう時はこいつら使って、色々と憂さ晴らししてたんですよ。なのに貴女達のせいで、最近は全然面白くない。これじゃ僕はストレスで病気になってしまうかも知れません。ですから、僕は自分の健康維持の為に、貴女達を消すことにしました」


「テメエ、喧嘩は弱いって言ってたよな?」


「弱いですよ?だからこいつらを使うんです。金で雇ったり、秘密をネタに強請ったり、恋人や家族を人質に取ったり。やり方は色々ですけど、他人を思い通りに動かす方法なんていくらでもあるんです」


「……もういい、分かった」


 マスミはゆっくりと前に出る。いつの間にか建屋の外にも倍以上の不良がおり、逃げ場は塞がれた形だが、彼女にはどうでも良かった。不良達が武器を構えてにじり寄ってくる。


「あたしの目も曇ったな。こんなクズとハルカを重ねるなんてよ。反省だ、ったく。まあ、とりあえず、そこのクズ含め悪事を働いてることに変わりはねえ。そんなら、テメエら全員同罪だ。だったらあたしのやることは同じだな。いつも通り、まずは、…………全身真っ赤に染めて、後悔しな!!」


「……やっちゃって」


 雄叫びと共に駆け出すマスミに向かい、怒号にまみれた敵が襲いかかる。三人対数十人。圧倒的な数的不利だが、彼女達には関係なかった。マスミが敵の振るうバットを躱し顎に一撃。その敵を前に突き飛ばし、複数人を足止めしている隙に周囲の敵を一撃で沈め続ける。顎に、鳩尾に、金的に、確実に急所を突かれた敵は誰一人、再び起き上がれなかった。マスミの後ろでは、アンナとウルスラがそれぞれに敵を殲滅している。


「お前は可愛くない。お前も駄目。……はぁ、ハズレばっかり。ちょっとアンナ、あんたの抱いてるその子、私にも回しなさいよ」


「やぁよぉ、この子ちっさくてぇ、抱きしめやすいんだもぉん」


「……その子生きてる?私にも楽しませてよね?」


 二人の会話に顔を引きつらせて、不良達は距離を開ける。身長二メートル超の筋肉女に戦意喪失気味だった。端泉マスミの方も、まるで鬼のような強さで、既に半数以上の敵を倒していた。何よりも恐ろしいのが、彼女達の誰も疲労の色を見せていないことだ。拳や服に敵の血を浴びて、舞い踊るように、羽ばたくように敵を蹴散らす姿は、正に『クリムゾン・バタフライ』。


「……おい、やべぇよ」


「こんなの勝てるわけねぇ……」


 及び腰になる者も出始めた。そこに高みからの冷徹な声。


「君達、忘れてない?ここで逃げることは、僕に逆らうことだよ?」


「で、でも、リーダー」


「いいからやれよ。逃げたらこの街で生きられなくするよ」


 暗い、悪意の籠った言葉。はったりではなく、本当にこの街で生きられなくされることを、彼らは知っている。その言葉を聞いた他の不良も、竦んでいた足を無理やり前に出し、マスミに突撃をかける。マスミは突然の強行に一瞬体が止まってしまう。その横から、アンナが突撃兵をまとめて吹き飛ばした。


「ヘッドぉ、だいじょぉぶぅ?」


「ああ、サンキュ、アンナ」


 そして、一息をつき周囲を見渡す。武器を持って立つ姿は無く、倒れた敵達の呻き声だけが聞こえる。


「もぅ終わったかなぁ?」


「……あいつは?」


 その言葉に、建屋裏口の扉からウルスラが応える。


「ヘッド、捕まえました」


 ウルスラが、ぐったりしている少年を片腕に抱えて入ってきた。少年の両手はベルトで絞められている。


「こいつ、催涙スプレーなんて出してきたので、多少痛めつけてから縛りました。確認したら、スタンガンにナイフまで出てきましたよ」


 ウルスラが少年を放り投げると、呻き声を出して少年が顔を上げる。


「……あ、あの、これは違うんです。ぼ、僕も脅されて、仕方なく……」


「……もういいよ、そういうのは。テメエみてえな小狡いヤツには、言葉も拳も意味ねえんだよな。正直あたしには痛めつけて喜ぶ趣味はねえから、まいっちまうな」


 少年はマスミを見上げ、精一杯の弱々しさを『見せる』。マスミはその表情を真っ直ぐ受け止めて、ニヤリと口角を上げ宣告を言い渡す。


「だから、テメエへのお仕置きはこいつらに任せることにするわ」


 背を向けるマスミと入れ替わるように前に出るアンナとウルスラ。その表情は、玩具を与えられた子供のようでもあるし、エサを前にした猛獣のようでもあった。


「二人とも、今日は手加減しなくていいからね」


「わぁい、ヘッドさんきゅぅ」


「ふふ、どこから苛めてあげようかしら、ふふふふふふ」


 壁のように迫り来る二人の巨女に顔を真っ青に染めて、少年は後悔した。この夜、街の工場跡地からは悲鳴が途切れなかった。その後、少年を見た者は誰もいなかった。



 帰り道、深夜の郊外を一人歩き、マスミは考える。今回のこと、これまでの悪党共のこと、自分の『正義』のこと。こんなことはいつまでも続けられないとは、うっすらと思ってきた。街に蔓延る悪党は、表面上は駆逐してきた。治安自体もかなり良くなったように思う。『クリムゾン・バタフライ』の後輩達も大勢いる。今回のような卑劣な手段も、自分以外の人間ならもっと別の形でケリを付けられたかも知れない。有名になるということは、敵が増えるということだ。


「……潮時かなあ」


 街の治安維持という『正義』は後に続く者達に任せ、自分は他の場所で悪を討つべきなのかも知れない。そうだ、何もこの街に拘る必要も無い。世界には、正義を求める場所がまだまだ沢山ある。自分に何が出来るかは分からないが、困っている人がいるなら、何処へだって行ってみよう。憧れの叔父のような、自分を誇れるような生き方をしよう。


「まあ、その前に受験勉強だよな。オヤジもオフクロも、大学くらい出とけ、って言うし。あー、勉強だりー」


 ぼんやりと今後のことを考えつつ、それでもそれを将来の夢と見定めつつ、マスミはのんびりと家路を歩いていった。



終わり

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