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事件の発生、問題の継続

二話目です。前話未読の方は、前話からお読み頂くようお願い致します。

 悪漢達をボロ雑巾にした後、マスミは肩を落として溜息をついていた。被害者の少女からは何度も頭を下げられた。念のため家まで送る、と告げると丁寧にかつ必死に断られた。助けた相手から明らかに怯えられると、流石に少しへこむ。


「別に、感謝されたくてやったわけじゃないけどさ……」


「まぁまぁ、いつもの事じゃぁん」


「ヘッドの素晴らしさが分かるには、時間がかかるんですよ」


 アンナとウルスラに慰められるが、マスミは釈然としない。


「そもそも、アンタらがいつもやり過ぎるからビビられるんだよ」


「ヘッドの方がボコボコにしてなぁいぃ?」


「ヘッドには敵いません」


「うっ……」


 ぐうの音も出ない。しかし、それは仕方ないのだ。始めのうちはマスミも手加減をするのだが、頭に血が上ると抑えられなくなる。特に、暴力を振りかざす輩を前にすると打ちのめさずにはいられないのだ。そう、これは自分の中に流れる正義の血がそうさせるのだ。断じて、自分はただの乱暴者ではない。


 そうよ。ヨシヒコ叔父さんだって言ってたじゃない。「自分をしっかり持って生きろ」って。ハンパなことしてる奴は許せないもの。


「悪を討つのが正義ってモンでしょ!この街でヒトサマ困らす奴らはあたしがボコる!それがあたしの正義よ!」


 背中に負う『絶対正義』を示し、マスミは宣言する。


「わぁお、それでこそヘッドだよぉ」


「ヘッド、素敵です……」


 アンナは笑顔で手を叩き囃したてる。ウルスラは若干頬を染めてマスミに熱い視線を送る。仲間の言葉に、マスミはへこんだ気持ちを立て直した。


 そうだ、これがあたしの『自分』なんだ。決して曲げず外れず、叔父さんみたいにカッコ良く生きていく。



 マスミの休日はパトロールがほぼ定番となっている。流石に特攻服までは着ないが、それでも彼女の顔は充分知れ渡っている。


 チーム『クリムゾン・バタフライ』。1年程前に出来上がった暴走族ではあるが、その活動自体が名を売る大きな要因になっている。即ち、街に蔓延る悪を狩る、というもの。発足当初は他の暴走族を潰してまわり、一時期は戦乱の時代となっていた。群雄割拠を『クリムゾン・バタフライ』が制した後は、街の陰に潜む悪党の討伐に当たっていた。悪党と言っても様々で、恐喝で小銭を巻き上げる小悪党から、青少年に違法薬物をばら撒く組織立った相手まで、彼女達の手で破滅に追い込まれた輩は数知れない。彼女達もアウトローではあるのだが、その活動により街の治安は確実に良くなっており、一部の者達はこの現象をチーム名になぞらえて『バタフライ効果』と呼んでいるとか。善良なる市民からは自警団の如く賞賛され、悪党達からは恐怖の対象として語られる。とにもかくにも、その筆頭の端泉マスミは、今日も街の治安維持に目を光らせる。


 テラス席でアイスカフェオレを飲みながら、マスミは駅前の喧騒を眺める。誰もが気ままに過ごす、平和な光景に満足感を覚えて、また一口カフェオレをすする。


 ……やっぱりこういう時間の方が落ち着くわ。


 今日はアンナもウルスラも連れず単独で行動していた。大して珍しいことではない。彼女達にもそれぞれの予定があり、たまたま合わない時もある。そんな時は適当に街をぶらつきながら、ウィンドウショッピングがてら正義を執行していた。今日も、万引き少年、無銭飲食オヤジ、恐喝不良集団らに制裁を加えてきた。


 ったく、ああいう輩は学習しないのかしら?


 自分が正義を執行し続けてきたこれまでを思い返し、マスミは首を傾げる。潰しても潰しても湧いて出る悪党共は蚊やゴキブリのようだ、と彼女は想像する。立ちはだかる者を拳で撃退できる彼女にとって、不良も暴力団も叩けば駆除できる害虫に等しかった。


 ふと、男の怒鳴り声が聞こえた。マスミの居るカフェの脇、ビルとビルに挟まれた細い路地の奥からのようだ。続いて何かが倒れる物音も聞こえた。


 やれやれ……、平和は長くは続かないのね。


 まだ飲みかけのカフェオレをテーブルに残し、路地の奥へ駆け込む。角を一つ折れると少し開けた空間に出た。工事現場なのか、黒と黄のストライプが張り巡らされている。そこでは案の定、一人の少年が複数の不良に囲まれていた。


「いいからよぉ、さっさと今月分出せっつってんじゃん?」


「も、もう無いんですよ……。これ以上は、両親に怪しまれます……」


「知るかよ。毎月10万ってハナシだろうが。今持ってねぇんなら、テメエの家まで取りに行ってやろうか?」


「っつーかマジで家行って、こいつの親のカードとか貰ってくればいいんじゃね?」


「お前頭良くね!?」


 不穏なことを言って笑い合う不良達にマスミは顔をしかめた。自分の行動に罪悪感すら感じていない様子を見て、彼女は拳を握り込んだ。


「おい、テメエらいい加減にしろよ」


「あぁ?」


 振り返った不良達の表情が一瞬で固まる。この街の大半の悪党がマスミに向ける表情で、先程までの威勢はなりを潜めた。


「お、おい、あいつって……」


「端泉マスミだ……」


「本当に来た……」


 怯えた様子で互いに顔を見合わせる不良達。すぐさま、路地の逆方向へ一目散に逃げ出した。


「あ、おいコラ!待て!……んだよ、とんだ腰抜けだな」


 遠くなる背中を睨み、マスミは舌打ちする。追いかけてもいいが、今は被害者の方が優先だ。少年は腰を抜かしたのか、地面に座り込んだまま見上げている。


「おい、大丈夫か?」


「……あ、はい。あの、ありがとうございます」


 少年は呆然としていたが、マスミに返答し深く溜息をついた。


「……僕、あいつらに脅されてお金を渡してたんです。段々、金額が大きくなってきて……、僕、もう、限界で……」


「そう。……まぁ、ああいうヤツらには自分からビシッと言ってやんなきゃ。男なんだしさ」


「でもっ!あいつら、逆らったら殴るし、僕は喧嘩弱いし、リーダーにはヤクザの兄貴がいるっていう話だし……。明日学校に行ったら、何されるか……」


 少年は不安からか地面に顔を向けて、震えながら頭まで抱えだした。声が涙を含むものになってきている。マスミは、正直に言えばこの少年が面倒に思い始めている。基本的に自分は正義の味方だが、本来なら自分の身は自分で守るのが筋だとも考えている。それが出来ない弱者に対して、強者に立ち向かうきっかけを与えているに過ぎない、とマスミは自分の行動をそう捉えている。だが、しかし、


「お願いします……、あいつらをやっつけて下さい……」


「うっ」


 少年が潤んだ瞳でマスミを見上げてきた。弱々しい、捨てられた子犬のような表情。マスミの情が強く揺さぶられる。何より、少年の見た目が彼女を動揺させる。近所の中学校の制服、柔和な言動、うじうじと悩むその態度。


 こいつ、ハルカに似てんだよなあ……。


 実の弟に似た雰囲気を持つ少年に、マスミの保護欲が刺激される。この少年を守らなければ、という感情が溢れてくる。なおもマスミは考えるが、結局彼女は折れた。


「~~だあ、もう!分かったよ!そいつら潰してやんよ!それでお前は安心できんだな?」


「はいっ。ありがとうございます、マスミさん」


 若干の釈然としない気持ちを抱えつつも、少年の朗らかな笑顔にホッと息をつく。マスミは、その後の少年の表情を見逃していた。

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