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色々と戦ってみよう

 街道を歩くのは1日ほどで終了、間道に入っていく。

 アンナはさすがに慣れているのか、道無き道をずんずんと歩いて行く。これだけ道が悪いなら『悪路走破』の技能でも欲しいところだが、何故か欲しい時に技能はつかない。本当にどういう条件付けになっているのだろう。


「今日はここらへんで休みましょうか」


 アンナが止まったのは他と変わらぬ森の中。

 それなりに日は高いので、もう少し野営に向いた場所を探したほうが良いと思うのだが……。


「水場か洞窟でも探したほうがいいのではないか?

 こんな所で野営するのは危険だと思うんだが」


「そう都合よく野宿に向いた場所は見つかりませんから、疲れたなと思ったら無理せず休んだほうがいいんです。魔物の危険度という意味ではどんな場所でも大差ありませんから。

 キサラギ様が魔法をお使いになられますので、お水を出して頂ければ問題ないんですよ」


 アンナに笑われてしまった。この世界に詳しくないのに旅の者だと言ったのは早計だったか?

 この娘、俺が常識はずれな事を言っても不審に思わないのだよな。もの凄く鈍いのか、逆に見透かされているのか。


 それにしても、最下級魔法の技能は取れているので飲水くらいは出せるのだろうか。

 火と違い、水はちょっと意識するだけで簡単に出てきた。

 勢いが全くなく、指の先からちょろちょろと出るくらいだが、飲水の確保には十分だろう。


「では、日があるうちはアンナが周囲を警戒してくれないか?

 私は夜間に備え、少し仮眠を取らせてもらう」


 アンナにそう告げ、俺は短い微睡みに落ちる。

 幸い、日中の襲撃は無かった。


〓〓〓〓〓


 夜になりアンナと交代して警戒に当たる。

 この世界の夜はとても静かだ、僅かに風の音がするのみ。

 不思議なことに、昨夜見た月は同じ月齢のまま。足元を照らす月光も十二分に明るく、特に灯りの必要も感じない。

 アンナがランタン等の灯りを持っていなかった理由はこれなのだろうな。


 あまりにも静かな夜。

 だからこそ、いち早く気がつくことが出来た。そう遠くない場所に、何か居る。


「アンナ、すまんが何かがいるようだ、起きてくれ」


「キ、キサラギ様……。魔物ですか……?」


「いや、まだ分からんが何かが居ることは確かなようだ。

 念のために、木に登っておいてくれ」


 アンナが急いで木に登るのを横目に、俺は残月を抜刀し気配に集中する。


 チキ……チキ……チキ……

 何かを擦るような音、しかも一つではない。周囲四方から複数近寄ってくる。


 ごそっと、闇の奥で影が蠢いた。


「イ、イビルアント!魔物です!」


 敵は巨大な蟻、しかも昆虫ではなく魔物らしい。

 気づかれたからか、イビルアントが飛びかかってくる!


「ッシ!」


 顔に斬撃を浴びせた所、硬質な音と共に弾かれた。

 残月の一閃を跳ね返すとは、相当にこの蟻は固いらしい。チキチキと警戒音を鳴らす顎も鋭く、噛まれたらひとたまりもなさそうだ。


「キャーーー!」


 不味い、アンナが登った木に他のイビルアントが噛み付いている。

 登れないようではあるが、バリバリと響く音からそう長くは持たない。


 硬い相手には関節、蟹を捌く要領だ。

 競り合っていたイビルアントを蹴り飛ばし、首の付根に突き。そして峰に掌を叩きつけ、強引に首を落とす。


「GIIIYAXAXAXAXAXAXA!!!」


 凄まじい悲鳴と共に、イビルアントが絶命した。

 硬い事には硬いのだが、コツを掴んでしまえば強くはない魔物なのだろうか。まぁ顎の脅威は相当だったので、一般人には辛いのかもしれない。


 悲鳴に誘われたのか、他のイビルアントがこちらに向かってくる。

 慣れてしまえばこの蟻、とても対処が簡単な魔物だ。基本的に攻撃は強靭な顎での噛み付き攻撃のみ、距離があると体当たりしようとしてくるが、こちらが間合いを詰めると噛み付きしかしてこないのだ。

 蟹の足を折るつもりでポンポンと首を飛ばしていく。

 倒した蟻を数えるのも面倒になった頃、ようやく襲撃が終わった。


 魔物というから構えすぎていたのだ、終わってみれば実にあっさりとしたもの。

 結局レベルも2しか上がってない所を見れば、1体1体はディールリーダーよりも遥かに格下なのだろう。


 アンナが恐る恐ると木から降りてきて俺に尋ねて来る。


「キサラギ様。イビルアントの顎は採取されないんですか?

 王都に持って行けばお金になりますよ」


 イビルアントの顎は生産素材になり、然るべき所に持ち込めば換金出来るらしい。

 だが、まだまだ王都への道程は長い。たかが首、たかが顎とはいえ相当な数になる。

 今は荷物を増やすより、一刻も早く王都へたどり着くことが肝要だと説明し、素材の採取は諦めることに。


 イビルアントの死体から臭気も漂ってきた。

 仲間を呼ぶ可能性もあるので、危険ではあるが夜間でも移動した方がいいだろう。



 その後の行程は問題なく進んだ。

 想定していたカルジナール一派の接触も無く、間道を進んでいるとは思えない順調具合。

 途中一度山鳥を入手できたのでアンナに振る舞ったら泣いて感謝された。本当にこの世界の料理文化は程度が低いんだな。

 中世程度の文化レベルであれば割りと発展していても良さそうなものなのだが……。ボースの話もある、既得権益やらなんやらが邪魔をして一般レベルまで浸透していないという事もありえるのか。

 あまり疲れも見えないアンナはよく喋った。報酬の一部であるこの世界の常識も色々と聞くことが出来た。

 ただ、それもあくまで村レベルの常識であって、法律等の突っ込んだ話や、魔法のこと、ステータスのことなどは分からないと言われてしまった。これも王都で調べなければならないだろうな。


 そして驚くことに、この世界の神は太陽と月を司る5柱なのだそうだ。

 太陽を司る、この世界の名前でもある『エリューン』、そして月を司る四姉妹。

 エリューンが生命を司る最高神、四姉妹のうち満月から三日月の3柱が過去、現在、未来を司っているそうだ。そして、肉眼で見えぬ新月、死を司る女神『エイラ』。特にエイラは邪神という訳ではなく、生命の輪廻を司る神であり、エリューンの次に重要な神と言われているのだそう。


 おい、栄養神様はどこに消えた?


 間道を抜け、街道に戻ると、遠目にとても高い建物を擁する大きな街が見えた。

 あれが王都だそう。ということはあの高い建物が王城なのだろうか。元世界に慣れた俺には都市というよりも街といったように見えるのだが、この世界においては立派な『首都』らしい。

 異世界に於いての始めての街。カイナ村では出会えなかった異世界ならではの食材や料理にあそこなら出会えるのだろうか。うん、胸が踊るな!


 順調すぎた旅、楽観視したツケを、これから払わせられることになるとは思っても見なかった。



〓〓〓〓〓


「よし、お前は通ってよし。お前は入都を許可できない、帰れ」


「えー」


「駄目なものは駄目だ!帰れ!」


 はい、これは想定外です。

 この帰れと言っているのは門番の兵士。全身鎧を着込んで守衛をしていて、ちょっと動く度にがちゃがちゃと騒音を立ててうるさい。そんな重い装備をしていて大丈夫か? と思うが、門番は威圧の意味が強いので平気なのだろう。確かにフルプレートアーマーと手に持つポールアクスは威圧感たっぷりだ。

 ここまでは割りとありがちな話なんですけど、帰れと言われてるの俺じゃなくてアンナだよ! 武器を持ってる俺が不許可だと言われれば納得も行くんだが、どこからど見ても村娘のアンナが帰れと言われているのは訳がわからない。


「私には大事な用があるんです!入れて下さい!」


 アンナが兵士に食って掛かるが、逆に兵士の機嫌を損ねて頑なにさせてしまっている。

 どうどうとアンナを引き摺って下がらせ、俺が兵士に尋ねる。


「なんで連れが入都出来ないのか分からないのですが、どういうことなんでしょうか?」


「お前は身なりこそ見窄らしいが、旅中の傭兵か何かだろう?王都グランフォートはいつでも旅の者を歓迎する。

 だがな、そこの娘はそうではない。お前とは違って武器も持っているように見えぬし、服装もこの地域の衣装だ。

 現在、カルジナール様のご命令で近隣住人の入都を制限しているのだ。長年この地域に住むものだけに発症する流行病があったとかでな。防疫のためだ、我慢してもらいたい」


 ほぼ迷信というか言いがかりじゃねえか!? いや、防疫のためと言いながらも、この兵士も納得はしていないようだ。カルジナールが裏で何かやっているとは気がついてはいるが、たかが門番兵の分では何も出来ないんだろう。この兵士には申し訳ないが、これは俺が一肌脱ぐしかないか。ブチ切れカウント(偽) 5 4 3 2 1 ファイア!


「ほう、この方を近隣住人の娘と呼ばわるのか?

 貴様!一兵士の分際でなんという不遜!この方を何方と心得る!

 遠く東、ヤパーナの誇る宮廷料理人、アン様にあらせられるぞ!」


「「あうあう」」


 想像通りこの国では料理人の地位が高いらしい。兵士がたじたじになった!そしてアンナさんも盛大にキョドった!アドリブに弱いなぁこの娘……。

 自分で言っておきながらアレだが、ヤパーナってどこだよ。文化レベルを考えて、遠い国だと言えば知らなくても納得するかとデマを言ったんだが、それで正解だったようだな。


「衣装は長旅で酷く汚れてしまったがために、近隣の村で買い求めた物だ。

 名だたるグランフォートに入都するに当たり、汚れた姿ではならぬというアン様のお心遣いが分からぬか!

 ヤパーナより見聞を広めるために旅を続け、貴き方々にその腕を振るおうとする方への無礼!これがグランフォートの礼儀か!?」


 おぉ、兵士の顔色がブルターニュ産オマール海老のようだ(青いんです)。もうひと押しで陥落するな。


「もう宜しい!アン様、参りましょう。こんな国より隣国に行った方が良い見聞が積めるでしょうから」


「ま、待って頂きたい!それが本当ならば大変申し訳無いことを致しました。

 失礼は平にご容赦願いたく……。ただ当方の事情も組んでご寛恕願いたい。

 知っての通り流行病はとても恐ろしい病気、魔物の隆盛に合わせ最近特に広がっているのです。王都は王いまします場所。万が一があってはならないのです」


 アンナの手を取り引き上げる振りをすると、慌てて兵士が引き止めてきた。しかし相変わらず入都はさせてくれないらしい。

 しかし流行病が広がっているのか。目線でアンナに本当かと問いかけ、アンナが一つ頷く。

 思った以上に魔物の被害は多岐に渡るんだな、病気も振りまくとは……。いや、断じてしまうには早いか。中世で猛威を振るった流行病、『黒死病』(ペスト)。感染経路としては鼠から広がったのだが、これが悪魔の仕業と考える風潮もあったらしい。それを考えると『原因不明な事は魔物の仕業』と、この世界の住人が決めつけていてもおかしくはないかもしれない。


 それは兎も角、あちらも強情だな。

 こちらから条件を出してやったほうが話がまとまるかもしれない。


「アン様は寛大なお方です。貴方が謝罪された以上、大事にはされないでしょう。

 しかし困りましたね。

 私は鑑定技能(スキル)を持っていまして、病気に罹患しているかの判断が出来るのですが、それでもご安心はいただけませんか?」


 兵士は顔色は戻ったものの、やはり困った顔は崩さずに言う。


「おお、鑑定技能をお持ちとは。さすが宮廷料理人のお連れの方だけはありますな。

 しかし困りました。貴方様が鑑定技能持ちだという事を鑑定出来る人間がいないのです」


 ありゃりゃ。もっと根本的な話でそりゃそうか、だったな。鑑定でウィルスのキャリアーかどうか分かるなら、最初からその人が鑑定すればいい話だ。


「そうなると困りましたね……」


「そうですな……おぉ、そうだ!

 でしたら証拠に何か料理を作っていただくわけには参りませんか?作って頂ければそれが十分な証拠になりますし、私どもとしましても安心してお通しする事が出来るのですが」


 そう来たか。再度目線でアンナに自由にして良いか? と訪ねアンナが一つ頷く。いや、まさかまだキョドっていて、見られてるから条件反射で頷いているだけかこいつ?

 まぁ黙っている分にはいいか。重要なこと以外は喋らない、高貴な人で押し通そう。


「分かりました、それで宜しいでしょう。

 ただアン様は尊き方に振るう腕はお持ちですが、市井の方に振る舞われるには過分に過ぎます。

 ここは、アン様の護衛兼筆頭弟子である私、キサラギが代行で作るということでいかがでしょうか?

 私が作る料理が貴方が考える水準以上の物であれば、師匠であるアン様はより優れた料理人であると証明できると思うのですが」


「なるほど、そうですな。料理人を騙る事は出来ても、料理の腕を偽ることは出来ますまい。

 キサラギ様が立派な料理の腕をお持ちであれば、それを指導されたアン様の腕を信ずるに十分です。

 大変お手数ですが宜しくお願いします」


 了承して厨房に案内させる。

 さぁ異世界2回目の料理だ。どんな食材があるのかね。

活動報告にて今後、もう一つの連載と合わせてどのように更新していくのかを報告しています。興味のある方はご覧頂けると幸いです。

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