66 異文化交流だー!
転生した、ジャス君がぁ~。
異世界の広場でぇ~。
その国とは別のぉ、異国の文化にぃ~。
出会っ……たぁ。
というナレーションが脳内に流れてきそうな……というか実際に流れて来たんだが。
そんな光景に「おぉー」と感嘆の声を漏らしている俺の鼻に、どこからともなくミルクっぽい匂いが流れて来て、思わず「ぽぅ~」という腹の音を鳴らしてしまう。
ポゥ、って。 マイコーか俺は。
「……ぅ」
「おにぃ~?」
思わずピクリとしてしまう俺。
この人ゴミの中では聞こえてないかなーと思ったが、妹様には聞こえていたようで。 いやん。
「ふふふふ~。 せっかくだから、どこかの屋台で何かいただきましょうか~♪」
「はいっ、そうですねー!」
「北国の料理、楽しみですね」
「わーい! お腹すいてたんだぁー」
小腹が空いていたのはみんなも同じだったみたいで、あっさりと決定。
匂いを頼りに出店の並びに沿って歩きながら、どんどん広場の真ん中の方へ。
中心部分らしい石造りの泉の周囲が広く開けられていて、たくさんの小さな簡易テーブルが並んでいた。 既に八割くらい埋まっていて、泉の石の所で座って食べている人も。
人の流れを目で追ってみると、その先には十軒くらいの屋台が軒を連ねていた。
屋台はどこも十人前後並んでいる。 飲み物だったり、クレープや串のような物を渡している所はさすがに回転が早いが、皿でもらっている所はやっぱり少し遅い。
何より俺には斬新に映ったのが、受け取った木製の食器や串などを、食べ終わった人が店に返しているところだ。 屋台の横に回収係の人がいて、受け取ると同時に小銭を渡しているらしい。
最初に食器込みで料金をもらって、回収時にその分を返して再利用しているんだろう。 とってもエコだ。
「じゃあ、マールちゃん、チャロちゃん。 何を買うかはお任せするから、六人分買ってきてもらえるかしら~。
私はその間に場所を取っておくわね~」
「はい、奥様」
「はーい♪」
二人はお金を受け取ると、軽く話し合ってから分担して買いに行った。
そして、お袋と愉快なキッズたちはテーブルを探す。
四人でキョロキョロと見回していると、四人掛けの丸テーブルが空いていて、更に隣のテーブルの人が食べ終わったようで席を立とうとしている。 これは逃せない!
「ママー、あそこ空くよー!」
「あら~♪ じゃあ行きましょう~。
……あの~、恐れ入ります~」
「エルネたん、あっちのせき取ろー」
「あ、うん!」
小走りで、立ち上がる人達に一人で声をかけに行くお袋。
キッズはその間にもう一つの席を確保だ。
『はい、なんでショッ!?』
『うわっ、チョー美人じゃね?』
『ふぉぉぉぉぉぉ、これはラッキーな予感ですかぁ!?』
うーん。 ヤロー三人が、なんか色めき立っている……。
ガラが悪いようには見えないけど、念のためエルネちゃんにテーブルを取っておいてもらって、俺達兄妹はお袋に後ろから近づいて、それぞれ両サイドから抱き付く。
何も言わなくても、アイコンタクトだけで俺の腕から離れてくれるセーレたんに乾杯。
「ママー!」
「まま~♪」
「このお席を――あらあら~♪」
『え……あ、ああ~。 いいですよ、どうぞー』
『こ、子連れだったのか……』
『それじゃ仕方ないですよねー。 どぞどぞー』
「おーなーかーがーすーいーかー!」
「すいかぁ~!」
「はいは~い、もうちょっと待ってね~。 ……あ、ありがとうございます~♪」
ダダをこねる振りをして、早々にお引き取り願う。
演技がキモイのとネタが古いのは、この際目をつぶってほしい。
『い、いやいや! 気にしないでくださーい♪』
『うはーーーーーっ!!』
『ま、眩しいですっ!?』
さんさんと輝く太陽さえかげって見えるようなお袋の笑顔に、メロメロになりながら退散していく男達。 イス倒すなー。
そして、こっちに手を振りながら、後ろ歩きで去っていく。 おーい、危ないぞ――って、一人つまずいてコケた。
「ジャスちゃん、ありがとうね~」
「へへー」
うん。 知らない人から見たら普通の態度だろうけど、普段の俺を知ってたら絶対わざとだって分かるよねー。
もう今更なので気にしない、素直になでられておく。
「おまたせしましたー!」
ちょうどいいタイミングで、チャロちゃんがやって来た。
木のコップを六つ、両手でまとめて挟んでいる。 そのままテーブルに置く。
「ジャスさま、セーレさま、イスに座りましょうねー♪」
微妙に高くて一人で座れないイス。 脇を抱えてもらい、えいやっとジャンプして、俺とセーレたんがそれぞれ席に着く。
……あれ? テーブルが高すぎるぞー。
俺達の前にコップが置かれるが、目線はテーブルと同じくらい。 中身が見えず、浮いている両足をぷらぷらさせるしかない。
「チャロっ、これ手伝ってー!」
すると、マールちゃんも到着。
いろいろ買ってきたみたいで、両手の上と、ひじから手首までの間に二枚ずつ皿を乗せている。 プロのテクニックだよ!
全部違う料理の皿をゆっくりと下ろしている間に、チャロちゃんが屋台へ走って行く。
まだあるのか? と思っていたが、すぐ戻ってきた彼女の手には取り皿とフォーク。
「じゃあ、みんな座りましょう~」
既にキッズは全員座っているんだが……と思っていると、お袋が俺を一旦イスから下ろして、再び抱えながら座って俺を膝の上へ。
お、ちょうどいい高さになった!
同様に、マールちゃんがセーレたんを膝に乗せて、俺の隣の席へ。
「おにぃ~♪」
「おー!」
何故かはよく分からないけど、妹様が手を挙げてごあいさつしてくるので俺も応える。
高さがいい感じになりました記念?
「エルネちゃーん! この、お皿持ってってー」
「……あっ、はーい!」
その間に、チャロちゃんは向こうのテーブルの上で取り皿に料理を取り分けていた。
エルネちゃんがそれを二枚受け取りに行き、俺達のテーブルへ。 それをもう一度。
「はーい、エルネちゃんはこっちの席ねー」
「うー……はーい」
最後にチャロちゃんとエルネちゃんの分も取り分け、向こうのテーブルに着く。
あっちのテーブル、皿がいっぱいで少し狭そうだな。
「では、いただきましょう~」
『はーい!』
全員で返事する。 ちなみに、お祈りもしないし「いただきます」も言わない。
その席のいちばん偉い人が声をかけて、それを合図に食べ始めるのがこっち流だ。
テーブルに置かれた自分の取り皿にフォークを刺し、さっそく食べ始める。
乗っけられているのは四品。
クリームソースのかかったミートボールと、小さく切ったイモをふかしてハーブを散らしたもの、白くて小さいパン、そしてイチゴっぽい果物をスライスしたのが乗ったクッキーである。
あと、コップの中は赤いジュースのようだ。 ベリー系?
「あむあむ……ふわぁ、おいしいですー♪」
「素朴な味ね~」
「パンのミルクの風味が強いですね……ふっくらしてます」
「んぐんぐっ。 このジュース、ハチミツ入ってるー♪」
なかなか好評のようだ。 どれ。
「――はむ」
うん、味付けはけっこうシンプルだな。 塩コショウとミルク、あとは素材の味を生かしてる。
この国の料理も俺からすれば素朴だけど、これに比べると調味料使うよな。 特にハーブとか。
あまりに普通だったから今まで気にしてなかったけど……この国の料理って、食材豊富だよな。
肉・鳥・魚・野菜・果物・キノコ・木の実。 もちろん旬はあるけど、だいたい一通りある。
そして嬉しいことに、虫を食べない! ……いや、知らん間に調理されて食ってる可能性も、ゼロじゃないけど。
発酵食品やジャンみたいな調味料もあるし、非常に日本人好みだと思う。
パッと思いつく範囲で、ないのは米とカレーくらいか?
「はおちー!」
「あうち~!」
ジャンとか米とか、ちょっとアジアを思い出してつい中国語になってしまったが……セーレたん、それは違う。
そうして異国風の料理に舌鼓を打ち、みんなで食器を返してから、広場の中央から再び小物を売っている屋台の通りへ。
織物や木工細工、あとは動物の骨や金属製のアクセサリーが多いかな? 食品も少しはあるけど、干物系の保存食ばかりだ。
小物はどれも細工が非常に細かく、職人の腕とこだわりが感じられる。 動物や草木、そして武器をモチーフにしたものが多いか。
使節団は陸路で来てるらしいから、かさばる物や日持ちしない物を避けて、少しでも高く売れる細工物を増やしてるんじゃないかなーと思う。
「うっわー、チャロお姉ちゃん! コレすっごいキレイー♪」
「ふわぁ~……デザイン細かーい!」
『どうです? インダルフィア自慢の職人達が作った逸品ばかりですよ』
黒いシートに所狭しと並べられた、アクセサリー。
いろいろ商品を勧めているこの店の人は、見るからにこの国の人だけど……。
確かインダルフィアって、ヘルヴィオールに匹敵する北方の大国だったよな。
春の使節祭で来るのがこのインダルフィアで、秋に来るのは南のヒミングレア。 これが、俗に言う「三大国家」だ。
俺は心の中だけで勝手に「トライステイツ」って呼んでるけど……ちょっと、二年生っぽいネーミングかな?
「こういう髪飾りなんて、セーレちゃんにどうかしら~?」
「ひゃう♪」
「これは陶器……でしょうか。 とても綺麗な青色ですね」
「……」
しかし、こうなってしまうと、女の人ってすごく時間がかかるんだよなぁ。
俺と親父……いや。 俺しか男がいない日の方が多いから、もうこれはウチの宿命みたいなもんだと諦めるしかない。
荷物持ちをやらされる心配がないだけ、マシだと思うことにしよう。
「キャーーー♪」
「キャーーー!」
「あらあら~、これも――」
「きゃあぅん♪」
「これも、セーレ様に似合いそうですね」
ああー。
まだ三歳とはいっても、やっぱりセーレたんも女の子だねぇ。
目の醒めるような、青い星形の飾りがついた髪留め。 それを右側に付けている。
「おにぃ~♪」
「どうでしょうジャス様? セーレ様、とてもよく似合っていませんか?」
おおっと、お呼びがかかったぜ。
「はーい♪ ……あ、それキレイだー!」
「うふふふふ♪ ほら、ジャスちゃんもほめてくれてるわよ~」
「ひゃぅ! にゃ、にゃははは~」
「セーレ様……ひょっとして、照れてます?」
「セーレたん、かわいいよー」
「きゃああ~~~っ♪」
まあ、俺もそれなりに楽しいんだけどな!




