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そだ☆シス  作者: Mie
大会編
742/744

697 哀しい事故であった

挿絵(By みてみん)





「……ふー」


 あー、生々しかった。 推理モノも昼ドラも嫌いではないが、さすがにノンフィクションは心臓に悪い。

 さて……二階で適当に時間を潰そうかとも思ったけど、ココは宣言通りに道場に顔を出すか。

 体育館シューズを持ってリビングを出、そのまま玄関から道場へと向かう。 暖かさに慣れた身体に冷気が吹きつけ、思わずブルリ。

 屋内から直接行けるルートもあるにはある――が、住居部と共有になっているトイレを通り抜けるルートだしな。 そんなお行儀の悪いこと、この俺がやるワケにはいかんでしょ。

 故に正面から堂々と開けっ放しにしてある道場に入り、靴を履き替える。


『やあーーーーーーっ!』


 子供の甲高い、だけどなかなか勇ましい声が聞こえてきて奥の扉を見る。 それと、ドタドタと足音も。 頑張ってるなー。

 だが俺の中では、女子カーリングの映像が頭によぎっていた。

 なんでだろー。


「ははっ」


 靴を入れようと靴箱を見れば、いくつかの大人の靴に混じって、オモチャみたいにちっちゃな靴がいっぱい並んでいた。 その可愛らしさについつい頬が緩む。

 そういや、誰も脱ぎ散らかしたりしてないな。 感心感心。 

 かろうじて空きがあったので、そこに自分の靴を揃えて入れる。


「……」


 ていうか俺の靴も、並べて見るとさして変わらない大きさだった。 むしろ小さい方。

 早く大きくなりたいもんだ……。



「おじゃましまーす」


 自分の道場なんだけど、気分はビジターな俺はこっそりと奥の扉を開けて中を覗く。

 くぐもって聞こえていた子供達の声が途端に大きくなり、俺の鼓膜をバンバン揺らしてきた。

 おおっ、やっとるやっとる――。


「総員、突撃ぃぃーーーーっ!」


『せいやああーーーーーーッ!』

『どるぁああああああーーーーーーッッ!!』

『ぶるぁぁぁぁアアアアアアアアアアーーーーーーーーーッッッ!!!』


「!?」


 大小十人近い子供達がひしめき、鬼のごとき形相で斬り合っていた。

 ま、みんなソフト剣を使ってるからケガはしないだろうけど……。

 でもなにこの関ヶ原。


「はい、やめーーっ!」


『ぷはあああーーーーっ』


 ポカーンと眺めていると、合戦を指揮していた女の子が手を叩きながら大きな声を張り上げていた。 というかエミーちゃんである。 来てたんだな。

 その号令で子供達は斬り合いをやめて剣を下ろし、次々にしゃがんだり座り込んだりする。 大の字に倒れた子もいる。

 だがさっきまでの形相から一変、みんな真っ赤な顔をしつつも達成感に満ちた表情であった。


「ぜえ、ぜえ、ぜえ……!」

「ふへぇ、疲れたあぁぁぁーー」

「ボコボコにされちゃったよお~」


「……」


 まあ、うん。 みんなの真剣(ガチ)っぷりには正直ビビったが、楽しかったんならなによりだ……。

 壁際に座っているギャラリーも拍手してるし。

 ちなみにほとんど面識のない――たぶんこの中の誰かのお母さんだろう人が二人いるが、その人達と一緒にセーレたんとマールちゃんもいた。


「あっ、お兄ちゃ~ん♪」

「ジャス様、ようこそお越しくださいました」


 俺の顔を見ると立ち上がり、ハニーはととと~とこっちに小走りでやってきて、マールちゃんはその場でぺこりと頭を下げた。 エミーちゃんもくたくたに疲れた小さな子供の頭をなでながら、優しい笑みを向けてくれる。

 お母さんコンビが俺の名前を聞くと「えっ!」という顔をして立ち上がるけど、敢えて子供っぽい無邪気な笑顔を先に返すことで深々と頭を下げられるのを回避した。

 俺がココのオーナーであり御使いでもあることは間違いないが、あまり子供達の前でぺこぺこされるのはご容赦願いたい。

 早くも息を整え始めた子達が、俺を見て何やらひそひとと言い合っている。


「こんにちはー、お邪魔するねー」


 やってきたマイシスターに微笑みかけてから小さな戦士達に挨拶すると、にぱーっと無邪気に挨拶をしてくれたり、「誰?」と不思議そうな顔をしていたり。

 だけど遠慮がちに会釈をする子もいて、やっぱり普通の子供相手とは違うリアクションも見られた。

 ま、仕方ないよな。


「……にしても、すっごい迫力だったね」


「そうでしょ~?」


 ハニーに手を引かれ、ギャラリー席の下へと向かいながら話をする。 フローリングの足下には布のシートが敷かれていた。

 マールちゃんが場所を空けてくれたので、二人の間に腰を下ろす。 ほんのりと温かい。


「ケガをしないかと、最初は心配しましたけどね」


「本当だよね……」


 右側に座ったマールちゃんが苦笑気味に微笑む。

 ルール無用の大乱戦のように見えるて、実は「小さい子は狙わない」「顔面はアウト」といった決まりがちゃんとあるらしい。

 ひと様の大事なお子さんを預かってるんだから、当然っちゃ当然なんだけど。


「でも、こうすると大人しい子も参加しやすいみたいです」

「とても楽しいの~」


「へえ」


 ほうほう、そんな効果があるのか。 まあ確かに、遊び感覚で参加しやすいかもな。

 そのわりには、すっげー迫力だったけど。

 壁に背中を預けてお喋りをしていると、指示役を務めているらしいエミーちゃんが子供達に声をかけていた。


「それじゃあ少しだけ休憩にして、身体が冷めないうちに稽古を始めましょう」


『はあーーーーーい』


 全力を出した後で少々不揃いで弱々しい感じながらも、ちゃんと返事をするみんな。

 それにしても……明らかに年上の子も混じっているというのに、しっかりとしたリーダーっぷりである。

 で、エミーちゃんがこっちにやってくる。 ソフト剣の柄を逆手に持ってを腰に添え、スカートを揺らして歩く姿は姫騎士のよう。


「おはよ。 ジャスがこの時間に来るのは初めてね」


「うん」


 貴方がここの道場主(マスター)か――とは、さすがに聞かれないか。

 赤と黒を兼ね備えた服を着た、セイバーさんの問いかけにうなずく。


「セラさんとロザリーさんが来ているって聞いたけど」


「ああ、居住部(むこう)で奥様方とお喋りしてる」


「そうなんだ」


 シートの敷いてある横ではなく、フローリングそのままの俺の正面に腰を下ろすエミーちゃん。 ちょっぴり残念そうな顔をしている。

 ちなみに、ひざの裏に手を当ててスカートを折って座ったので正座っぽく見える。


「ところで、エミーちゃんが教えてるんだね」


「早く来られたときだけね」


 そう言って、チラリと俺の左右を見るエミーちゃん……なるほど。

 マールちゃんは初学校の授業で少しかじった程度だっていうし、ハニーは天才だけに感覚頼りで、人に分かりやすく教えるのは苦手だもんなー。 そもそも剣の扱いは習ってないし。

 それに、この道場は遊び場として提供しているんだから、武術を教える人がいなくても問題はない。


「そっか、お疲れさん」


「あっ」


 手を伸ばす――微妙に届かないなとひざ立ちになる。 緩いウェーブヘアが肩にかかっているので、それをよけてから肩をぽんぽん。 いつもながらしっとりとして手触りのいい髪で、頼りがいのある肩も意外なほど小さい。

 ところで肩はなるべく腕に近いところに触れたのだが、それでもくすぐったがりのエミーちゃんはわずかに身体をぴくんと跳ね上げた。


「……」


 ひざ立ちになって高くなった俺を、エミーちゃんはちょっと首をすくめるような感じで上目遣いに見上げてきた。 まるで頭を差し出してくるような感じで。

 反射的に手を出しそうになるけど、その頭越しに向こうで休憩している子供達の視線に気づき、腰を下ろし直す。

 と、セーレたんと腕どうしが触れ合った。 あれ、そんなにくっついて座ってたっけ?


「……っと、そろそろ行かないと」


 それからしばらくお喋りを続けその話が一区切りしたところで、エミーちゃんが振り返り子供達の様子を確認した剣を手に取って立ち上がる。 さすが子供は回復が早く、既に退屈そうにしている子が複数いた。


「良かったら、ジャスも一緒にどう?」


 まるでダンスに誘うように、そっと手を差し伸べるエミーちゃん。

 で、セーレたんも俺の左腕に絡みつくように手を添えて、横から覗くように俺の顔を見上げる。


「うん、お兄ちゃんもいっしょ~♪」


「いや、僕は――」


 顔を上げて断りの返事をしようとしたところで、エミーちゃんの横からその背後にいる子供達と目が合う。

 そういや俺、幼児園を出てからコッチまともに遊んだ記憶がほとんどないな……。 例外はリソ君と遊ぶときくらいか。

 リソ君くらい小さいならともかく、同年代や年上相手だと何をどうやって遊んだらいいのかよく分かんないんだよなぁ。


「……」


 しかし子供達のほとんどは、仲間になってほしそうな――興味深げな目で俺のことをじーっと見ている。

 隣のマールちゃんも、俺を見てふわりと微笑む。


「……ま、そうだな。 そうするか」


 たまには童心に返るのも悪くあるまい。 つーか今の俺、現役の童子だもんな。 仕事やらなんやらで忘れかけてたよ。

 ここはひとつ、童心とやらを思い出すとしましょうかね~。


「じゃあ、行こ?」

「いっしょに遊ぶの~」


 正面の小さなレディの手を取り、左の手はハニーに取られて立ち上がる。 ……無意識に「よっこらせ」と声が出かけたことに気づき、地味にショックを受けた。

 やべえ、まさかこの歳でメタボや生活習慣病の心配なんてしたくないぞ!


「よっし、行くか!」


 なんだかさっきよりもあちこちから視線を感じるが、今は俺の健康の方が大事だ。

 童心を取り返しつつ体脂肪を返上するため、俺は気合いを入れて立ち上がったのだった。



「――疲れた」


 こ、子供の体力恐るべし。 なんであんなに全力で動き続けられるのか……。

 鬼が二人の鬼ごっこ、しかも手でタッチする代わりにソフト剣を使うというルールは、まるで混沌を極める幕末の京都であった。 ちなみに逃げる側もソフト剣でガード可。

 しかもなんか、俺ばっかりやたら狙われるし。 だから俺も活性化こそ控えたものの、スライディングやバック転まで使って本気で逃げまくった。

 ……そんな俺のなりふり構わないガチッぷりがウケて、かえって余計に狙われた気もするな。


「あー、生き返る」


 マールちゃんに注いでもらったジュースをまた一気に飲み干す俺。 暖房の利いた室内が夏のように感じるわ。

 なお昼の鐘はとっくに鳴り終わり、今はセーレたんとエミーちゃん、それからマールちゃんとセラさんにローザさんの六人。 居住部のリビングでおやつタイムの真っ最中である。

 ココのテーブルは小さいので、すべての席が埋まるとかなりギッチギチだ。 大人数で食事することを考えてないから、軽食でもこうなってしまうのは仕方ないんだけど。

 既に子供達は解散し、お母さん方もそれぞれのお宅へと帰っている。


「そこまで必死だったのね」

「あらまあ……」


 セラさんが肩を揺らし、ローザさんも口元を隠して笑う。 まあ、他のみんながわいわい楽しそうな中で、俺だけ一人ハリウッド顔負けのアクションしてたからな……。

 だって、あっさり捕まったら悔しいじゃん。

 ちなみにハニーとエミーちゃんは、特に小さな子が鬼になると適度に手を抜いて当たってあげて、うまいこと遊んでいた。

 俺、まさに大人げない……。


「そこがジャス様のいいところなんです」

「とってもかっこよかったの~」


 マールちゃんとマイシスターがフォローしてくれ、エミーちゃんもまるでお姉さんのような目差しで俺を見ている。 素直に喜べんけど……ウケてたからまあいいや。 おやつをもきゅもきゅと口に詰め込みながら自分を納得させる。

 と、不意に横から小さな手が伸びてきて、空っぽになったばかりのお皿が交換された。 まだそっちは半分近く残っている。


「え」


 俺の視線に、にこりと微笑むマイシスター。 実際に聞くより先に、そのすべてに対して明確な意志(こたえ)が伝わってくる。


「……ありがと」


 ちょっぴり夕飯が入るかの心配もあったが、たぶん大丈夫だろう。 ありがたくいただき、お代わりも完食。

 終わった直後は大の字にひっくり返っていた俺だが、飲んで食べているうちにいつの間にかその疲れもほとんどなくなっていた。

 若いから回復力が違う……のもあるんだろうけど、今回はきっとおやつのおかげだな。



 食後の小休憩を挟んで、今度はセラさんとローザさんも一緒に道場へと戻ってきた。


「よろしくお願いしますっ!」


「ええ」


 高く、張りのある声が響き渡る。

 個人の所有と考えれば十二分に広い道場の中央で向かい合うのは――エミーちゃんとセラさん。 手にはそれぞれの得物、ソフトハルバードと剣が握られ、エミーちゃんは髪をポニーテールに結わえ上げた完全なバトルモード。

 リビングに入ったときからエミーちゃんがチラチラとセラさんを見ていたから、まぁこうなるだろうなーとは思っていた。

 セラさんも手合わせ(デート)のお誘いを受けた時点で「やっぱりねー」という笑い方をしてたし。

 たぶん、この次は俺の番だろう。 壁際の隣に座るハニーが肩を寄せてきた。


「まあ、あんなに可愛らしいエミーちゃんが……」


 俺のもう片方の隣に座っているローザさんが呟く。

 明らかに運動には向かないロングスカート。 しかもエルネちゃんからのお下がりらしいそれはちょっとゴスロリっぽいデザインで、とても可愛いそんな格好でやるっていうんだからそう思うのは当然だ。

 それはセーレたんも同じなんだけどさ。


 ちなみに午前とほぼ同じ場所に観覧席に作るため、子供達が片付けてくれたシートをまた引っ張り出してきたんだけど、それでもローザさんには硬くて冷たいだろうと、更に運動用のマットを子供三人でえいさほいさと運んできた。 俺とハニーが片方を持ち、もう片方がエミーちゃんが一人で持ってなー。

 その上で体育館シューズがなく下はタイツだけのローザさんには、コートを羽織りストールをひざ掛け代わりにしてもらっている。

 一方で、同じく専用靴のないセラさんは――素足で板の間に上がったとき「うわっ、冷たーい♪」と無邪気にはしゃいでいた。

 ところでマールちゃんも無論誘ったのだが、まだ仕事があるというので向こうに残っている。


「……」


 エミーちゃんは無言で自分の身長ほどのハルバードを腰に構え、対するセラさんは片手にソフト剣を持ったまま自然体。

 始め、の合図がないのはいつも通りだ。

 それでも冷たい空気の中に緊張感が増していくような気がして、思わず息を飲む。


「はあああああっ!」


 おおっと、どちらかというと迎撃狙いの多いエミーちゃんが先に動いた!

 キュッと高い靴音を鳴らし、その音が反響する間にセラさんの下へと迫る。


「わお」


 あのお袋や妹様に格闘術を教えたセラさんは、剣を使わずに半歩下がってわずかに胸を反らした。

 寸前に顔のあった場所を、クッションで形作られた穂先が通り過ぎる。 鼻をかすめそうなギリギリのタイミングだったというのに、セラさんは瞬きさえしない。


「相変わらず、すっごいわね」


 直後、セラさんは身体を反らす動きでそのまま右手のソフト剣を振り上げ、更に横に躱したエミーちゃんに空いた左手で振り向きざまの手刀を見舞い、それも槍を立てて受け止めたところを――。


「そいっ」


「くっ!」


 突き刺すような後ろ蹴り! 勢いの乗ったキックの衝撃に、体重の軽いエミーちゃんは力で押されてしまう。 槍に当たった瞬間、木製の枝が大きく曲がったのが分かった。

 セラさんのセミロングの金色の髪が弧を描き、ひざ丈のスカートが舞い上がる……ことなく、細い生足に張りついている。

 さすがだ。


「どんどんいくわよ!」


 蹴った方のひざを曲げてT字の体勢になったセラさんは、そこから更に軸足で間合いを詰めて蹴り、蹴り、剣の振り下ろし、ひざ、と息つく暇の連撃を見舞う。 オリオール流の円の動きだけでなく、最速の直線の攻撃も多く混ぜてくる剣と格闘のコンボ。

 この辺がハニーやお袋とは違うところだ。


「うっ、やっ!」


 しかしエミーちゃんは、槍をも自覚持って冷静に受け流している。 目の前でバサバサと翻っているセラさんの髪やスカートにも惑わされない。

 これもまたオリオール流のよくある戦法なので、エミーちゃんも慣れたものだ。

 それどこか、エンジンのかかってきたエミーちゃんはカウンターを出し始める。


「やあっ!」


「怖っ!」


 実際に向かい合うと視界の外から飛んでくるような、瞬速かつ見えにくい横殴り。 セラさんはとっさに躱すも、エミーちゃんはそこから巧みに槍を回転させて攻撃を繋げ、主導権を奪い取った。 そしてエミーちゃんはお家芸さえ奪うように、槍を振るう合間に前蹴りさえ繰り出す!

 体重は軽くてもしっかりと踏ん張りの利いた蹴りは、大の大人の男でさえも押し出すほど。 セラさんは当然たまらず、自分から後ろへ下がる。 もちろんスカートは以下省略だ。

 ……だが、それをエミーちゃんは狙っていた。


「はあああああっ!!」


 一瞬で槍の末端を握り直したエミーちゃんの、床ごと叩き斬るような振り下ろし!


「ふわああっ!?」


 親父の超ロング木剣も顔負けの間合いと、超速を兼ね備えた一撃。 穂先の横についたクッションの斧部分が当たったにもかかわらず、まるで雷が落ちたような轟音が轟いた。

 ……離れて座っている俺のシリにまで振動が来た。

 コレにはさすがのセラさんも、焦りの表情を浮かべ横に回避している。


「ひぁっ」


 すぐ隣で、しゃっくりのような短い悲鳴を漏らしたローザさん。 脇を締めて両手を握り、小さく飛び跳ねた。

 ちょっと……可愛らしいと思ってしまった。

 ちなみに、俺もちょっとビクッてなった。 セーレたんは平気そうなのに。


「怖っわぁー。 当たったら頭割れそ……」


 セラさん、思わずといった感じで感想を述べる。 俺も同感。

 もちろん手合わせ中のエミーちゃんは、更に攻撃を続けようとする。


「……でも」


 なんとセラさん――床に叩きつけられた穂先の根っこを踏んづけていた。

 足の指を、可愛らしくきゅっと丸めて。


「っ!!?」


 追撃直前の絶妙のタイミングで槍に体重をかけられ、両手で握ったまま硬直するエミーちゃん。

 そこへセラさんが、残った足も乗せて駆け上がる!


「くはっ!?」


 エミーちゃんがとっさに手を離す。 しなっていた槍がバシーンと音を立て、エミーちゃん側の床を叩く。

 同時に飛ぶように横へ転がった直後、セラさんのハイキックが空を切り。


「とうっ」


「きゃあ!?」


 空中で振り返ったセラさん。 なんとなんと……そのまま内野ゴロを捌くサードのように、ソフト剣を放り投げた!?

 剣先は見事にまっすぐエミーちゃんをタッチアップ。

 ランナーは床に突っ伏した。


「うみゃん……!」


「……」


 び、ビックリした。 よもやおしりに突き刺さ――げふんげふん。

 幸運なことに、剣先が当たったのはギリギリ真上の尾てい骨あたり。 ……だったように思う。 やや勢いを殺された剣はエミーちゃんの長い髪のかかった背中の真上を縦に転がるようにバウンドし、そのまま頭を越えてもう二、三回ほど床を跳ねてからようやく止まった。

 倒れたエミーちゃんは起き上がらず、うつ伏せのまま両手で自分のおしりを押さえた。

 それを見て、気づいた俺はそっと視線を外す。


「ふふっ、これで勝負アリね♪」


 着地したセラさんが、ねこの口で得意げに微笑み髪をかき上げた。

 まさかあそこで、迷わず投げますか……。 いや、俺もわりとよく投げるんだけど。


「……」


 隣に目を移すと、ローザさんは言葉を失っているご様子。

 反対側のハニーも、小さな声で「あにゃ~」と声を漏らしていた。


「こ、こんな負け方、するなんて……」


 いまだ起き上がらないエミーちゃんは蚊の鳴くような声で呟くと、おしりを押さえたままぷるぷると震え始めた。 しんと静まり返ったため、ごく小さな声もかろうじて耳に入ってしまう。

 結わえて上を向いたポニーテールのつけ根が、まさしくしっぽのように小刻みに震えていた。


「……」


 え、えっと……あ、当たり所がちょっとアレだっただけに、なんともコミカルな決着になっちゃったよなー……。

 やがてエミーちゃんはスカートから覗くふくらはぎを上下させ、両脚をバタバタさせ始めた。


「うぅぅ……」


「え、えっと……ご、ゴメンね?」


 本気で恥ずかしがっている様子のエミーちゃんの後ろ姿に、セラさんは近寄ってひざをつき、気まずそうに背中をさすりながら謝り始めた。

 ど、どうしよう? こういう場合って、俺もフォローした方がいいのかな……。 

 かなり迷いながらも立ち上がろうかと床に両手をついたところ、左右から腕を掴まれた。


「ジャス君……後生だから、今は……」


「……」


 ローザさんは目を伏せ、セーレたんも静かに首を振る。

 俺も心を落ち着け、肩の力を抜いた。




 哀しい事故であった。





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