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そだ☆シス  作者: Mie
大会編
740/744

695 息子を訪ねて数10里





 身を切るような冷たい風を、チャンバラのごとく斬り返しつつ石畳を走る。

 さながら、夜明け前の道を照らす魔導灯が光の剣といったところか。


「ジャスちゃん、大丈夫そうね~」


「うん。 ちょっとだるいけど」


 ジョギングに着いてくるお袋へ走りながら振り返り、応える。

 本当に一体どこでどうやって入手してきたのか、トゥキおにーさんのさくらんぼのおかげで翌朝には風邪は全快、ケロッとケロリンであった。 微妙にだるさを感じるのは、単に久し振りに運動をしているからだ。

 それにしても……お袋は相変わらず、ビックリするほど揺らさずに走るな。 ナニがかは言わんけど。

 マグニチュード九クラスにも耐えられそうだ。


「セーレちゃんもありがとな」


「うんっ」


 隣を併走するハニーにも感謝。 早く治ったのは、みんなが看病してくれたおかげでもあることは言うまでもない。

 昨日は大事を取って外出こそ許されなかったものの、午前中は久々にリソ君と存分に遊び、昼前にやってきたステイさんへ原稿を提出。 なんとか綱渡り的なスケジュールを消化できたのであった。

 で、今日はいよいよ外出も解禁となり、お袋とセーレたん、それから頭の上にマイドーターを乗せてジョギング再開だ。

 なお、ニアちゃんが目からサーチライトを出してくれるので、俺は手ぶらである。 ……無論、手で胸を隠しているワケではない。

 隠すモンなんかねぇよ。


「ほっ、ほっ」


 リズミカルに身体を動かす感覚と、冷たく澄んだ空気が心地いい。

 ようやく、いつも通りの生活に戻れそうだ。




挿絵(By みてみん)



 身体を動かしてイイ感じに空いてきた腹を美味しいご飯で満たし、短めのティーブレイクを挟んですぐに支度。 のんびりしすぎて曜日感覚がやや鈍っているけど今日は風の日、勉強会である。

 俺だけは学校のバイトで休んでたから、みんなと顔を合わせるのは久し振りだ。

 病み上がりだから、なおさら久し振りな気がするよ。


「……だいじょうぶ?」


「うん、大丈夫」


「本当に?」


「本当だって」


 マイシスターがガンガン機暖房を利かせてくれた道場の玄関で、幼なじみーズを出迎えた。

 顔を見るなりくりむちゃんとるー君が心配そうに近寄って、俺の全身をぺたぺたと触って確かめ始める。

 まるで巣鴨のとげぬき地蔵である。


「……すんすん」


「ちょ……!」


 わ、わん子ちゃん、首元に顔を突っ込んでニオイをかがないで下さいまし! 鼻息がくすぐったいって!


「少し、しゃがんで? ……あーん」


「あー」


 で、小柄なるー君は俺を若干屈ませてからしばし俺を見つめ合うと、今度は陶磁器のような白い二本の指で俺の両目を広げて覗き込み、しまいには口を開かせて中を調べだした。 鉄のへらの代わりに人差し指を差し入れ、口を広げて中を覗き込んでいる。

 ちなみにくりむちゃんはその間、なんか俺の首元をペロペロしていた。

 もしかして、それでウソをついているか判っちゃったりするのか……?


「うん、はれてない。 大丈夫みたい」


 自分の指をひと舐めして微笑むるー君。 扁桃腺を見ていたようだ。

 いつの間に、そんな診察方法を覚えたの……?


「というか、そこまで確かめなくても」


「だって、ジャス君は無理しそうだから」


 るー君は朱い瞳に俺の顔を映しながら、そしてくりむちゃんは横から抱きついて肩にあごを乗せたままこくこくとうなずいた。

 見上げると、玄関に立っているニコと引率のエルリアさんまで首肯している。


「うん! 僕たちにはダメって言うくせに、自分はムリしそうだもんねー」


「ふふふっ、見破られているわね」


「……」


 実際にそれでブッ倒れただけに、ぐうの音も出ない……。

 出迎える側として廊下に立っているエミーちゃんからもフォローはなく、俺は白旗を揚げるしかなかった。




「倒れるギリギリまでやるなんて……よくやるわねぇ」


 赤ヒゲならぬピンク髪の先生による念入りな診察が終わった後、始まった勉強会の場でニャル子ちゃんがため息混じりに言う。 いつも通り勉強会の準備のためひと足早く来ていたエミーちゃんから来ることは聞いていたが、家の都合で少し遅れたのであった。

 隣にはハカセ君ことラート氏もいて、彼は予定通りにニャル子ちゃんよりも少し早く自分一人でココに来ていた。 マスクをしていたので心配したけど、風邪を引いたのではなく予防のためつけてきたらしい。

 三つ編みちゃんの口調と表情を見る限り、呆れと感心のニュアンスが半分半分といったところか。


「あはは。 みんな、やる気になってくれていたからね……ついつい」


「で、つい熱が入りましたって?」


「おっ、上手いこと言った」


「――」


 うぐっ、テーブル越しに思いっきり冷たい視線を突き刺された。 目の前で問題を解いているエミーちゃんも、振り返って肩越しにジト目を浴びせてくる。

 これは失言だった。 


「ごめん」


「……ま、あんたらしいといえば、らしいけど」


 ニャルちゃんは何かを言いかけて一旦飲み込み、代わりに大きなため息を吐き出した。 俺は苦笑を返し、エミーちゃんの解いたばかりの問題を後ろから覗き込んで確認する。


「ひぅっ!」


 軽く手を置いただけでなのに、両肩がビクッと跳ねるエミーちゃん。 服越しだというのに相変わらず敏感だ。

 バイト中に限らず普段の勉強会でも、エミーちゃんとハニーには何かと他の子の勉強を見てもらうことが多い。 だから今日は、俺がみんなのことを見てあげようと思っている。

 俺自身の受験勉強はとっくに終わってるしな。


「で、どうだったの?」


 ニャル子ちゃんは今は暗記の確認中らしく、教科書を見ながら俺にも視線を向けてくる。 他のみんなも受験範囲のほとんどは終わっているので、ニャル子ちゃんみたいに内容の確認か、ひたすらに問題を解くかのどちらかだ。

 ハニーも今日は高校の勉強は一旦置いて過去問すらすら解いていて、ラート君は持参した青本―― 本自体は青くないけど―― にかじりついている。


「結果はまだだけど、手応えはあったみたい」


「そうなんだ?」


 ニャルちゃんの相づちは後者ではなく、前者の結果発表に対してのものっぽい。 ま、学年トップクラスの彼女には追試なんて最初から念頭になかったろうし、覚えていないのもムリはない。

 なお俺は、おやつを食べたら午後からは学校へ顔を出す予定。 風邪が治った報告と心配をかけたお詫びの挨拶、それから倒れたせいで放置したままの業務報告やらの後処理をしないといけない。

 本当は昨日の内に済ませたかったんだけどな。


「……うん、ちゃんとできてる。 さすがだな」


 バッチリ解答できていたので、持っていた赤ペンで大きな花丸をつける。 こういう目に見える形でほめるっていうのは、けっこうみんなのモチベーションになるんだよなー。

 それは補習を受け持ったクラスメート達も一緒――というか、点が取れなくて追試になってしまった子達だから、なおさら効果的だった。


「……」


 で、次の子を見ようと立ち上がろうとしたら、エミーちゃんは俺の服の袖を摘み、なにやら言いたそうな顔で見上げてきた。

 一瞬なんだろうと思ったが……すぐに気づき、しっとりとした茶色い髪の上から頭をなでる。


「……」


 恥ずかしそうにうつむいて顔を隠すエミーちゃんだが、口元が緩んでいる。

 俺もまた、正解だったようだ。



 みんなは午後ももうしばらく勉強――お喋りの方がメインになるかもしれないが、続けるそうなので先に抜けさせてもらった。

 学校の事務員さん達へ持参するお菓子はアナさんが作って持ってくれたので、それを持って道場を出る。

 日陰の花壇で、久々にオドをあげた雪の花たちが手を振るように揺れていた。


「ずいぶん成長したよなあ」


「うん~」


 予定を話したときから「わたしも行くの~」と満面かつ絶対的な笑顔で主張していたハニーを伴い、家とは反対の方向へと向かう。

 雪の花はその名の通り、雪が降ると成長が早まるらしい。 放射状に葉っぱを広げる一方で中心の茎ががぴゅーっとまっすぐ上に一本伸びて、だんだんタンポポに近い姿になってきた。


「お花、もうすぐ咲くかな~?」


「だといいね」


 先端のつぼみは、まだまだ硬そうだった。 でも遠くない内に、白い花を咲かせてくれるだろう。


「うふふ~ん♪」


「……」


 スキップしそうな軽い足取りで、俺の左側を歩くマイシスター。 とはいっても、ムダにスカートの裾を揺らしたりはしない。 花の方もそうだが、この子も成長してるよな。

 以前はもっと受け身がちだったのに、最近は自分から積極的に行動し、意見を言うことが増えてきた。 今だって、差し入れのお菓子をめぐって俺と満面の笑顔で鍔迫(つばぜ)り合いを繰り広げた後、見事に戦利品(カバン)を肩に掛けている。

 俺の「荷物持ち(こういうの)は男の役目だ」という無言の主張にも、セーレたんには「い・や♪」と花咲くような笑顔で一刀両断。

 ますますお袋に似てきたよ。


 隣でひと足早く咲いた花を愛でながら歩くことしばし、久し振りの学校に到着。

 既に午後の部の授業が始まっていて、校庭には寒い中白い息を吐きながら下級生達がランニングしていた。 上気したほっぺがリンゴみたいだった。

 邪魔にならないよう校門の壁からから校舎伝いに歩き、正面ではなく事務局のある来客用の玄関から入る。

 扉を開けてすぐ、受付カウンターにいたお姉さんと目が合う。


「あら、治ったのね?」


「おかげさまで」


 軽く手を振って元気をアピールする俺の横で、セーレたんがお行儀よくぺこりとご挨拶。 お姉さんもにこやかに「こんにちは」と返す。


「寒かったでしょう? さあ入って」


「ども」


 そう言われ、廊下から事務局へと入る俺達。 室内で昼も回ったとはいえ、やっぱり廊下はそれなりに冷える。

 室内には来客もいたため、目礼やアイコンタクトをしながら職員スペースに入っていく。

 カウンターの外側からは当然見えないが、この時期のお姉さん達にとってひざ掛けは必需品である。 色とりどりで可愛い柄の布もあった。

 俺の使っていた席は、まだそのまま残されていた。


「ジャス君、もう大丈夫なの?」


「はい、もうすっかり。 心配をかけちゃってごめんなさい。

 ……それでこれ、ウチから皆さんにって」


「あら、まあー♪」


 手の空いているお姉さん達が話しかけてくれて、その一人にハニーから差し入れを渡してもらう。

 すぐにお茶淹れるわねーと、嬉しそうに給湯スペースの方へ歩いていった。

 俺が自分の席に座ると、隣に座っているお姉さんが訪ねてくる。


「ええっと、今日は――」


「はい。 風邪が治ったご挨拶と、最後の補習の業務日誌を」


「ああ、そういえばそのままだったわね。 ……別に、よかったのに」


「いえいえ」


 出席簿はつけてあるから、最悪日誌はなくてもいいとは聞いていたけど、やっぱりちゃんと最後まで仕事はしたいしな。 お姉さんからペンを借り――日誌も提出済みだったのをわざわざ持ってきてくれた。

 なんだか、余計に手間をかけさせちゃった気がするが……。

 その間にセーレたんは他のお姉さんに話しかけられ、休憩スペースに案内されるのを断り、空いている近くの席を借りて座らせてもらっていた。

 ほどなくして俺達に温かいお茶が届く。 お茶請けの小皿には、俺達が持ってきたのとはまた別のお菓子が乗っていた。


「はい、熱いから気をつけてね」


「あ、どうも」

「ありがとうございます~」


 ことりとデスクに置かれたコップを手に取り、ふーふーしてからゆっくりと飲む。


『……ふはあ~』


 まったく同じ動作で飲み、待ったく同じタイミングでため息をついたのを見て、周りのお姉さん達がくすくすと笑った。


「さっすが双子!」


「あはははは」


 笑いながらハニーに目を向けると、コップを持ったままイスの上で照れた笑顔を浮かべてくねくねしていた。

 俺もお姉さん達も、その可愛いらしさに心が和む。

 もっと和んでいたいところだが……早く仕事を済ませてしまおう。


「……あれ?

 え、ええっと、何をしたんだっけ?」


 ヤバイ。 かなり記憶が飛んでるぞ……?


「ほらぁ。 あれだけの熱だったんだもの、覚えてないでしょう?」


「ちょ、ちょっと待って! なんとか思い出すから――」


「……」


 額を押さえながら日誌をつけている俺の背中を、セーレちゃんは静かに見ているようだった。




 仕事が忙しそうだったお姉さん達とのお喋りはそこそこに、俺達は学校を後にする。 冬の太陽は既に西へと傾きつつあった。

 道場はもう閉まっているだろうから、そのままスルー。 今日は俺達も……というか、我が家はけっこう忙しい。


「何かすることある?」

「お手伝いするの~」


 手洗いとうがいを済ますなり、台所に立つお袋とアナさんに揃って声をかける。 コンロの鍋からはいい匂いが立ち上り、ぽこぽこと煮る音が聞こえてくる。

 横のテーブルには調理の終わった他の鍋が複数置かれていた。


「それじゃあ――」


 アナさんよりも俺達の近くにいたお袋が指示をくれる。 俺は風呂焚き、ハニーは暖炉の魔力チャージを料理の手伝いだった。

 チャロちゃんはリソ君の相手をしながら部屋の整理、マールちゃんは玄関で俺達を迎えてくれてすぐ二階へ上がっていった。

 親父はまだ仕事、マイドーターもご近所さんに呼ばれて子供の遊び相手……の仕事をしているらしい。 御使いの契約精霊としては、それも立派な地域貢献のお仕事だ。


「来るのは……八時か九時くらい、だったよね?」


「ええ~」


 お袋がうなずく。 ほぼ真下から見上げると鼻から下が見えないが、まーいつものことである。



 ――今夜、定期便でセラさんとローザさんがウチにやってくる。

 親父が出場する、武術大会の観戦と応援をしに、だ。



 開幕まではまだ四日もあるのだが、直前の王都入りは各地からの観戦客で非常に混み合うのと……どうせならもう少しのんびりしたいと、少し早めに来ることになっているのだ。

 この時期だと、発着場に着くのは日が沈んでから。 そこから予約してあるタクシー馬車に乗り換えなので、我が家に着くのはどうしてもそのくらいの時間になってしまう。

 親父も今回は発着場まで迎えに行かない。 大会直前に余計に疲れるようなことはさせられないと、セラさんもローザさんも断ったためだ。

 ちなみにクラお姉さんはあんまり長く休みを取れないという理由から、その大変な開幕直後にひとり別便でやって来る予定。

 俺としては精霊便で飛んでくることを勧めたんだけど、やはり「と、飛ぶなんて絶対無理!」と言っていたそうだ。


「……ふぅ」


 俺はともかくリソ君やセーレたんも起きているか微妙な時間だということで、俺達は先に夕飯と入浴を済ませ、パジャマに着替えて自分の部屋で待つ。

 直接出迎えるのは大人達――親父とお袋、そしてメイドちゃんズ。 着いたら呼びに来てくれるだろう。

 それまでは適当に勉強でもしていよう。 病み上がりの身体を冷やしてはいけないので、上着を羽織り、愛用のひざ掛けに魔導カイロも使って万全の防寒体制。

 俺はニアちゃんを頭に乗せ、物理の問題を解きながら精霊ラジオに耳を傾ける。


『では、次の方はペンネーム……? ええっと、「しょっちゅう超手術中女中注――」って、言いにくいわ!』


「あはははは」


 うんうん、まずペンネームからパーソナリティをイジるのは基本だよなー。 こうやって、ラジオを聞いてゲラゲラ笑いながらでもそこそこ勉強ができるのも、並列思考の利点である。

 ……まー当然、普通に集中した方がはるかに効率はいいんだけど。

 しばらく眠気とお笑い番組と数式とで三つどもえの乱戦を続けていると、やや控えめのノックが聞こえてきた。 もう寝ている可能性を考えたんだろう。

 ドアの隙間から顔を出したのは、まだメイド服を着ているチャロちゃんである。


「ジャスさまー、起きてらっしゃいますかー?」


「うん、起きてるよ」

「やっほー」


 俺はもちろん、俺の髪の毛で遊んでいたマイドーターも顔を上げる。

 そのヘアアレンジがよほど芸術的だったのか、「ぶふっ!?」と軽く噴き出してからチャロちゃんが喋る。


「え、えっと、到着されましたよー」


「分かった」


「ぷっ!」


 フツーに受け答えしただけなのに、また笑われてしまった。 手で触ってみると、いつの間にか俺の頭から大魔王のような角が生えたりしている。

 魔法で髪を固めたようで、それはもうガッチガチである。


「……ニアちゃん、戻そうか」


「ええーっ、カッコイイのにー」


 いや、こんな頭で出迎えたら、思わずノリで「はっはっは! 勇者達よ、よくぞココまでたどり着いた!」とか言っちゃいそうだし……って、言わねえよ。 それじゃ、俺の方がよっぽど勇者だ。

 もしくは、違う意味で「頭大丈夫?」って感じ。

 ……ラジオのせいか、微妙にテンションが深夜モードになっていたっぽいので、軽い深呼吸でリセットしてから立ち上がる。 もちろん、髪は元に戻してもらった。

 鐘の音でおおよそ把握はしていたが、ふと時計を見るとけっこうな時間になっていた。



「いらっしゃい」


 リビングへ行くと、セラさんとローザさんがテーブルについて、親父やお袋と一緒にお茶を飲んでいた。 お茶を出しただろうマールちゃんは、メイドとしてお袋の近くに立ったままである。

 ハニーとブラザーの姿がないところを見ると……二人とも寝ちゃったか、リソ君を起こさないためにセーレたんも動かなかったかのか。

 ということは、ご挨拶は明日だな。

 

「こんばんは。 やっぱり起きていたのね」


「うん。 勉強してた」


 若干疲れたような、緩んだ笑みを浮かべて……コートを引っかけたイスに背中を預けて肩の力を抜いていたのはセラさん。 旅装というと大げさだけど、やはり防寒のしっかりした、厚手で地味な服を着ている。

 それでもカッコイイ感じがするのは、大人の雰囲気を纏っているからか。

 そんなセラさんを見ながら、俺も向かい側に腰かけた。 すぐにマールちゃんがお茶の用意にキッチンへと動き、代わりにチャロちゃんはマールちゃんのいた場所に立った。

 ニアちゃんは挨拶をするとすぐにテーブルへと飛び移り、仕事道具を取るべくシュガーポットに向かっていく。


「あー、お茶が美味しい。 生き返るわ~……」


「……」


 両手でカップを持ち、ため息をついてぽーっとしているセラさんは――。

 ちょーっとだけ、実年齢を感じなくもなかった。


「ジャス君、こんばんは」


「うん、こんばんは」


 片や、同じお茶を飲んでいてもしみじみとした空気を醸し出しているのはローザさん。 セラさんと並んで座っている。

 ローザさんはゆっくりと感慨深そうにリビングを見回し、そして俺や親父――息子夫婦を見て、微笑んだ。


「まさか……こうして、王都にまでこられるなんて、思ってもみなかったわ……」


「……そうだな」


 相づちを打ったのは、俺ではなく親父だ。 ローザさんと同じように、とても穏やかな笑みをたたえている。

 定期便を使うと、セスルームから王都まではほぼ一日がかり。 道は舗装されているとはいえ、腰に持病を抱えた身体では馬車の旅に耐えられないだろう。

 俺の力が役に立てて、本当によかったと思う。


「ゆっくり、していってくださいね」


「ええ、ありがとう」


 お袋からの言葉に、ローザさんは嬉しそうにうなずく。

 他のみんなも、優しい笑みを浮かべていた。



「……」


 初めての王都と、息子の晴れ舞台。

 どちらも、じっくりと見ていってください。





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