675 ゲストとまじめに考査Ⅱ
Q.暗いハズの部屋の中で目を覚ますと、ベッドのすぐ隣にぼんやりと全身を光らせた金髪美少女がいたら、果たしてどう思うだろうか。
「……おはよー」
「おはよ、お兄ちゃん♪」
A.とっくに慣れた。 魔力が見える俺の目のせいで、まるで光っているように映るのだ。
まつげの長い目を瞑り、ベッドに身を預けるようにしてゆっくりと近づいてくる可愛い顔を見て、俺も目を瞑る。
「ふあぁ……外、暗いな」
「くもってるの」
「そっかー」
曇ってるクモかー。 って、どんな語尾だよ。
寝ぼけていても起動を始めた脳の半分が、的確にツッコんでくれる。
「お兄ちゃん、眠いの~?」
「んー……。 ちょっちゅなー」
身体を起こして触手で部屋の明かりをつけると、マイシスターが俺の顔を覗き込んでくる。 今朝もお肌が、新雪のように美しい。
ちなみに舌が回らずに変な受け答えになってしまったが、決して意図したものではない。
学校がないと、寝るのが遅くなっていかんなあ……。 普段あまり時間がなくて後回しにしていたアレコレをやりながら、深夜番組――もちろん精霊ネットワークのだが、それを聴いていてすっかり夜更かししてしまった。
「リスナーハガキ」ならぬ、リアルタイムで番組にメッセージを送れる、前世のデータ放送もビックリな参加型トーク番組。 いつの間にか、ついつい作業の手を止めてネタ作りに没頭してしまった。
はっはー! なんと、二つも採用されちゃったのだ!
パーソナリティさんとゲストさん、それにスタッフさんらしい人まで大爆笑!
「……」
俺は、いつからハガキ職人になった?
寒ーい冬の日は、暖かーい部屋でもてなそう。
ということで、今朝はハニーと共にいち早く道場へ向かい、手ずから暖炉に魔力を入れた。
昨夜、寝る前に家の暖炉をフルチャージしてくれた妹様は、寝て起きたらすっかり回復して「わたしがするよ~?」と言ってくれたが、たまには俺がやりたいと言って押し切った。
「ふわ、あったか~い♪」
「いや、そんなにすぐあったかくならないって」
「えへへ~」
ごまかし笑いをするセーレたんも、またかわゆす。
俺の心が温まった。
今日は精霊の日だけれども、前回の勉強会でるー君がお休みだったため、卒業試験の模擬テストをすることになっている。 今日しないと、明後日には登校日――いよいよ本番である。 当然、武術や魔術の稽古はお休みだ。
そして、もうすぐしたらお袋がリソ君を連れてココにやって来るので、二人のためにも早く家の中を暖かくしてあげたい。
こうして台所にいても、吐く息がうっすらと白くなるほど寒いからな……。
「お茶、いれるね~?」
「うん」
すっかりお手伝いが板についたセーレたんは、お立ち台を使ってお湯を沸かし始めた。
「じゃあ、カップを出したら、僕は外の花壇へ『オドやり』に行ってくるよ」
「はあ~い」
食器棚から触手でニョキニョキとカップを出して振り返ると、コンロの前で踊るようにおしりをフリフリしていたハニーもまた振り返る。 長い髪がふわりと広がり、部屋の明かりを受けて金色の輝きを振りまいた。
子供二人がやっているとまるでオママゴトのようだが、コレはまぎれもない現実。
この家だって自前である。
ほどなくしてお袋とブラザーが来て、みんなに先駆けてエミーちゃんも手伝いに来てくれた。
俺は二階に上がってテストの準備を始め、ガールズは昼のおやつの準備をしながらリソ君の相手をしていると、やがていつものメンバーがやって来る。
今日は試験官となる俺は出迎えには下りず、勉強部屋でみんなを待つ。
「お邪魔する……わよ?」
「失礼する」
最初にドアを開けて顔を見せたのは、ニコでもくりむちゃんでもるー君でもなく――。
ニャル子ちゃんと、ラート氏であった。
俺は黒板の前に座ったまま二人に返事をする。
「うん、よく来たね」
いやー、本当に久し振りだなー。 二人も元気そうだ。
滅多に頭にも浮かべないので、ちゃんとした名前が「イニャルドちゃん」と「コンラート君」だと忘れてしまいそうなこの二人。
学校ではいつも強気なニャル子ちゃんは、ココに来るときは借りてきた猫のように若干おとなしめ。 緩く編んで前に垂らしている、濃い金髪の先をしきりにいじっている。
一方、ラート氏は「ショタっ子精霊」ことアーンさんよりもバリバリのビジネスマン、あるいは役人か銀行員のような格好。 白い髪もバッチリとセンター分けにして、白手袋をした中指で黒縁のメガネをくいっと持ち上げた。
そして相変わらず、女の子であるニャル子ちゃんに決して触れないよう、ビミョーに距離を取っている。 あの手袋も、もしかしたらソレの対策を兼ねているのかもしれない。
模擬テストを延期したのは、るー君が欠席だったのもあるけど……その休みの日、エルリアさんからこの二人も受けたがっていると聞いたからでもあるのだった。
だが――。
「うむ、おはよう」
「え……」「ん?」
迎えたのは、俺だけではない。 壁際にある荷物置き用の棚に背中を預け、アズミーリ先生も座っていたのだ。
サプライズなゲストに、二人だけでなく、続々と顔を見せる幼なじみーズも目を丸くした。
「あっ、アズミーリ先生」
「お、おはよう、ございます……」
「まーす……」
「うむ」
武術などの合同授業で見慣れている、赤ずきんちゃんみたいなフードを被っているるーちゃんは、それを取ってぺこりとご挨拶。 対して、滅多に会う機会がないであろうわん子ちゃんとニコは、少々ぎこちなくお辞儀をした。
みんなが来るまでは少しリラックスしていた先生だったが、来た瞬間にはしゃんと背筋を伸ばし、クールな笑みをみんなに返す。
今日、俺達が模擬テストをすると聞いて、たまたま連休だった先生が見に来たいと言っていたのだ。 なお残念ながら、シャルちゃん先生は仕事である。
もうすぐ誕生日らしいのに、その日も仕事なんだってね……。
「皆で試験対策とは、感心な事だな」
「うおおおー……」
「……かっこいい」
「……」
俺もいつか、そう言われてみたいもんだ。
セーレたんやエミーちゃんは、ときどき言ってくれるけどさ。
「みんな~、お茶なの~」
「寒かったでしょう?」
そんな二人が温かいお茶を運んできてくれて、本日の参加者全員が一堂に会したのであった。
「ということで、これからテストしまーす」
「ええええーーーー!?」
本番さながらに、開始まで少しだけ勉強時間を取ってから、わざわざテスト用紙を持った俺が部屋の外から入ってくる。 ニコがお約束通りのリアクションをしてくれて、ちょっと嬉しい。
実はわりと本気で、もう少し教科書を見たがっているようにも見えたけど。
「先生、ボクももう少し勉強したいなぁー♪
……ダメ?」
「ダメ」
可愛らしいうさ耳少女がウィンクでハートを飛ばしてきたが、俺は即座に中指でピンと弾き返す。
その手には乗りません。
「……」
ふと荷物棚の方を見ると、先生は絨毯に視線を落として魔眼をブロックしていた。
石のように動かないけど、たったそれだけでガードできているんだから、さすがの精神力である。
「ぐふっ」
だって、ラート氏はさっそく鼻に詰めたガーゼを赤くしているのだから。
ハンカチじゃなくてガーゼを使っているあたりは、鼻血対策としてより経済的になっているが……ぶっちゃけ、鼻に詰め物をしてキリッと真面目な顔をしているのを見ると、こっちが笑いそうになる。
実際、テーブルを挟んでいるニャル子ちゃんとエミーちゃんは彼を見る度に笑いそうになってるし。 ニコは隣だから、逆に真正面から見ずに済んで平気そうだけど。
「はいはい。 じゃあ筆記用具以外はしまってー」
みんなが指示に従うのを見てから、俺は大きなテーブルを一周しながら問題用紙を裏向けで配り、簡易のつい立てを間に立てていく。 直前になって気づいて、大急ぎで紙とのりを使って工作したのだ。
なくたって誰もカンニングなんてしないとは思うが、視界の隅っこで他の人がペンを走らせているのが見えると気になってしまう子もいるだろうから。
ちなみに、先生にも予備の問題用紙を手渡す。
「時間は二〇分だから――」
部屋の時計を基準にして、黒板に時間割を書いていく。 科目は算数・社会・生活と、魔術&武術で四つとなる。
二年では国語は科目としては扱わず、魔術と武術は、たとえ資格を取らない子でも一般常識として六級相当の基本知識が問われる。 資格がないと魔導具は使えないし買うこともできないとか、職業によっては何級以上の資格が必要だとか、そういった内容だ。
特に魔術の方は、在学中に合格できなくて卒業してから練習を重ねて取る子もいるらしい。 魔導具が使えないと、日常生活にも困るもんなあ。
前世でいうと、パソコンどころかケータイ並みの必須スキルだ。
「……」
絨毯に座っているニャル子ちゃんから、ジト目っぽい視線をジリジリと受ける。 テストは本番とまったく同じように、合間に五分間の休憩を挟んで立て続けに行う。 試験時間も授業と同じなので、開始が遅い以外は普段の学校と同じスケジュールだ。 つまり、けっこう長時間に及ぶ。
その、みんなが頑張って解いている間、試験官である俺だけはすることがないワケで……。 ニャル子ちゃんからは「あんたもやりなさいよ」と言われたが、俺が作ったのだから解けて当たり前。 むしろ反則である。
だが、てっきり適当にどこかの問題集から寄せ集めてきたんだと思っていたらしい彼女は、「……は?」と目を点にしていた。 多少参考にはしたけど、本当に全部自作だからな?
……いくつかは問題集からほとんど流用したものもあるけど、その本の著者は俺なのだから「自作」には違いない。
「では、始め!」
時計の針を見て、開始の合図を出す。
エルネちゃんなど何人かの経験者に聞いてみたところ、「たぶん、本番とそれほど変わらない難易度」だとお墨付きをもらったので、模擬テストとしてはそれなりに仕上がっていると思う。
さて、みんなはちゃんと合格ラインを超えられるか、どうか――。
「――はい、それまで」
『はああぁぁぁぁぁーーーーー……』
終了を告げると、大なり小なりいくつものため息が聞こえてきた。 いちばん大きかったのは誰かは、言うまでもない。
さすがにほぼ半日にわたるテストは疲れたようで、エミーちゃんやニャル子ちゃんも、ほっとした表情で自分の肩を揉んだり回したりしている。 マイシスターもわん子ちゃんも、ふにゃりとしている。
お疲れさま。
「はぁん……♪」
「げふぅ」
「……」
だから、るーちゃんはわざとセクシーな吐息を漏らさないように。 ハカセ君の鼻の周りが赤くなってきてるから。 すっかり赤鼻だよ。
クリスマスは先月とっくに過ぎているってのに……実は彼の誕生日って、ちょうど俺達が里帰りをした日だったらしい。 もちろんさっき、おめでとうは言った。 プレゼント代わりと言ってはなんだが、後で俺のおやつを少し分けてあげようか。
血を補うのに。
「じゃ、一旦用紙を回収しておやつにしような」
「おおおおおおおおーーーーー!」
俺がそう言った途端に、ぐったりしていたニコが復活して雄叫びを上げた。 開始が遅かったため、五時の鐘はかなり前に鳴り終わっている。 で、代わりに鳴っていたのがニコの腹であった。
まあ、俺もけっこう空いてるし、仕方がない。 みんなも我慢していたみたいだし。
なお、今回はアズミーリ先生が持ってきてくれた――作ってくれたのはシャルちゃん先生らしいけど、差し入れもあるからな。 乞うご期待である。
「じゃあ」
「うっす!」
エミーちゃんとニコのやり取りを皮切りに、すぐにみんなもアイコンタクトを交わし合ってすぐに筆記用具を片付け始める。 それからテーブルの上をキレイにする班と、おやつやジュースをもらいに行く班とに分かれた。 あんまり廊下の広い家ではないので、みんなでゾロゾロと取りに行くと逆に効率が悪いのだ。
ちなみに前者の班がるーちゃんとニコで、他のみんなは後者。 しかし、ジュースとカップを運ぶのはエミーちゃんとハニーの役目となっている。 いつからか自然とそうなった。
いつもの流れなので、ゲストの二人はどうしていいか戸惑っている……かと、思いきや。
「それじゃ、あたしも行くわ」
「そう? だったらお願い」
さすがに家で手伝い慣れているらしく、ニャル子ちゃんはエミーちゃんに話しかけて立ち上がった。
「む? 僕はどうすれば……」
ハカセ君の肩に、ぽんと手を置いたのは俺。
そして、おもむろに口を開く。
「取り敢えず、台所で鼻を洗ってこようか」
「……そうしよう」
横に置いてあるゴミ箱を持って、な?
中身、まるで運動会の玉入れみたいになってるから捨ててきてくれ。
赤組の圧勝である。
「先生もこちらへ」
ずーっと部屋の隅に座って、先生はテスト問題を見ながらみんなの様子を静かに眺めていた。 途中からは本棚に置いてある本や問題集などにも手を伸ばしていたが、退屈そうな感じではなかった。
むしろ口元に笑みを浮かべていたくらいだ。
「……ああ、すまないな」
「いえいえ」
俺がお礼を言いながら手を差し出すと一瞬だけ動きが止まったが、すぐに「ありがとう」と言って微笑み、手を取ってくれた。 そして俺を引っ張らないように気を遣いながら、でもちゃんとエスコートされたおやかに立ち上がる。
いつもパンツスタイルで格好よさの際立つ先生だけど……そういや、実はご親族はけっこう位の高い貴族だったっけ。 城のパーティに出ていたくらいだし。
今の微笑み方も、カッコイイというよりはキレイだった。
そんな先生は残念ながら、定員いっぱいのため下のダイニングでお袋やリソ君……それから、いつもお昼前くらいには手伝いに来てくれるエルネちゃんと緒に食べてもらうことになっている。
そっちはそっちで楽しそうだけどな。
「ところで先生」
「ん?」
入口に近い方のドアはセーレたんとエミーちゃんがお茶を持って帰ってきたので、先生には廊下側のドアから出てもらう。
俺も一緒に出たところで、感想を聞いてみた。
「試験の問題、どうでした?」
「実際の試験と比べて、という意味では答えられんが――」
「え」
うわわっ、そういう意味じゃなくって!? 慌てて両手を振ろうとして……先生がちょっぴり意地悪な笑みを浮かべていることに気づく。
ニクイお人だ。
「見事な出来だった」
「……」
本職の先生に褒められてしまった。
しかも、ものすごーく優しい目差しと微笑みと、頭なでなでのオマケまで付いて。
さすが――。
「……女の子にモテるハズだよなぁ」
「それを言うな」
「あうちっ」
こつんと叩かれた。
余計な一言であった。
おやつのテーブルを囲み、ニャル子ちゃんとるーちゃんが揃って首を捻る。
「あたしは、あんまり覚えてないなあ」
「ぼくも」
「そりゃ、るー君はなぁ」
楽しい食事時にまた勉強の話か、っていうワケじゃあない。 どうせこの後で答え合わせをするんだから、今はさておき、である。
だんだんお腹が大きく目立つようになってきた、というくりむママの話からの繋がりで、みんなは弟や妹がお母さんのお腹にいたときのことを覚えているか? という話をしているのだ。
ちなみに、リリちゃんとるーちゃんはニコ違い――すんごい勢いで食べまくっているヤツのことではなく、二つ違いだからな。
しかもるーちゃんの誕生日は年明けなので、今はひとつしか変わらない。
「わたしは覚えてるの~」
嬉しそうに小さく手を挙げるマイハニーに、俺も同意してうなずく。 セーレたん、よくお袋のお腹をなでなでしてたもんなー。
「私も、なんとなくだけれど覚えているわ」
うん、エミーちゃんも一緒になでていたよな。
まるでお姉さんのような微笑みを見せている。
「……よく覚えてるもんね」
と、ため息混じりのニャル子ちゃん。 だがその方が普通の反応かもしれない。 もう三年前になるし。
ニャル子ちゃんは俺達よりも――誕生日の関係で追いついている子もいるけど、一つ年上だ。 聞くと弟くんの歳もリソ君の一コ上らしいから、お母さんのお腹にいたときは同じく三歳。
覚えていなくてもムリはない。
「おふぁ、おぼぉへへ――」
「食べてから話せって」
ニコ、お前は末っ子だろうに。 あーあ、口からケーキの欠片が……と、隣のわん子ちゃんが拾ってくれた。
グッジョブ! と親指を立てたらしっぽを振って喜んでくれる。 いい子だ。
それにしても、この国での出生率はすげーよなあ。 この中でひとりっ子は、もはやラート氏だけである。
「ということは、そろそろつわりが治まってくる頃かな?」
「ん。 ママもそう言ってた」
「そっか、それはよかったねー」
どうやら安定期に入ったようだな。 でも人によっては腰や背中、足なんかが痛くなりやすくなる時期だったハズ。 もしそうならすぐ横になって、軽く揉んであげると喜んでくれるかも。
重心のバランスが変わって足元も見えにくくなるから、転ばないように要注意だ。 特に下りの階段とかな。
あと、そろそろ赤ちゃんがお腹を蹴ったりするのが分かるようになるかもよ?
「ん、分かった」
「む、ムチャクチャ詳しいわねあんた……」
「それはもう」
教科書にはそこまで詳しくは書いてないけど、育児書を読みましたから。 おかげで、妊娠中の過ごし方の参考になった。
まさか、そーゆー意味で自分の役に立つとは思ってもみなかったが。
ところで……とても穏やかな表情で自分のお腹をさすっているハニーは、もうお腹がいっぱいになったのデスカ?
「ふふふ。 ジャス君がいてくれれば、ボクのときも安心だね♪」
「……」
いや、君は性別的に産めないからな?
俺が言っても説得力ないかもだけど。
「ふむ? ……いや、るー様ならあるいは」
「いやいやいやいや」
魚じゃないんだから! 亜人種でも聞いたことないよ!
だからハカセ君、そんな真剣な顔をして恐ろしい考察をしないでくれ。




