657 とにかくビジュアル重視です
毎朝だいたいはマイシスターに、でもときどきマールちゃんとかに起こしてもらっている俺。
今日はセーレたんがやってきていつも通りに起こしてもらうと、暗い部屋の中でベッドの端に座り、しぱしぱとした目が完全に覚めるまでぬぼーっと過ごす。
足元はちょっとひんやりしているけど、空気そのものは適度に暖かい。
「ぬぼー……」
「えへへっ♪」
寝起きの調子がイマイチのときは大抵こんなもんで、真っ暗な部屋の中、ゾンビみたいな顔をしてまぶたをピクピクさせているだろう俺を、ウチの妹様は何も言わず静かに待っていてくださる。
間違いなく一日で最もキモイ表情を晒しているハズなのだが、なぜかこの子はそんな俺を見るのがけっこう好きらしい。
よく分からん。
「ぬぼー……《ニアちゃん、アレー》」
「ほーい」
喋るのも億劫なので、自力で俺のお腹から這い出してきたサダ……ニア子さんに頼んでネットに繋いでもらう。
なぜか「ぴーががー」と大昔のモデムみたいな効果音を出してくれるが、ゾンビ化している今の俺にそれをツッコむ気力はない。
《――では早速、本日未明に結果が解禁されました中央議会選挙の……》
「んぉ?」
頭の中に入ってきたニュースの声に、俺の脳みそがちょっと反応した。
どうやら開票結果が出たらしい。
《まずは第一区から――》
「ぬぼー」
キャスターの人、というか精霊さんが名前を読み上げてくれるものの、ココじゃない区だし有力候補や現職議員なんかもほとんど知らないので、淀んだ脳みそはテキトーに聞き流す。
だけど、声と一緒に当選者した人の顔のイメージも頭に入ってくるので、それを見ながら「へー」「ふーん」と思っているとだんだん目が覚めてきた。
《これで、氏は連続三回目の当選――》
「ふーん」
頭の中には大ベテランだというおじさんの顔が映っているが、字幕に書いてある歳のわりにはやっぱり若い。 ……おデコの「境界線」は多少アレだけど。
この世界の人は老化がずいぶんと緩やかなので、前世のテレビショッピングで見たような「この肌ツヤでまさかの!!」みたいな人がごく当たり前である。
さすがに、スッピンで街をブラブラしても十代の男の人にナンパされるような、実は孫どころか精霊のひ孫までいる女の人――なんてのは、他に聞いたことないけど。
言うまでもなく、現在セスルームにお住まいのとあるお姉様のことである。
《次は――》
「おっ」
またナンパされちゃった~♪ とニヤニヤしている誰かさんの顔を想像していたら、いつの間にかウチの選挙区の番が来た。
俺も一応は一票と投じた身として、それなりに結果が気になるところである。
マーヤさんと予想もしたしなー。
《――氏が二期目の当選。 そして二位が――》
「……ま、マジか」
浮かんできた顔のイメージに、思わず目が覚めた。 選挙新聞にイラストを投稿していた例のメイドさん、通っちゃったよ……。
書いてあった「議員になったらやってみたいこと」が意外とちゃんとしていたので、俺も実は応援のつもりで投票していたのだ。
「お兄ちゃん、どうかしたの~?」
「あ、いや……」
ゾンビからハニワへと変化した俺を見て、セーレたんが可愛らしく小首を傾げている。 暗い部屋でも金色の髪が明るく見えて、まさに天使である。
当然ながらこの子にネットTVは見えていないので、当選のことを教えてあげた。
「そうなんだ~。 お兄ちゃん、よかったね~」
「うん、ありがと」
もちろん俺の一票が結果を左右したワケじゃないし、例のメイドさんとは縁もゆかりもないのだが、それでもちょっと嬉しい気持ちになる。 セーレたんに「よかったねー」と言ってもらえれば、なおさらである。 投票した甲斐があったってモンだ。
ちなみにマーヤさんが大穴だと言っていた人も当選していて、キャスターの人が驚いていた。
さすがお姉様である。
――朝イチで取れたピチピチのニュースを朝食の場で親父達に披露し、俺達は白い息を吐きながら家を出る。
結果を伝える号外の新聞はまだ来ていないので、本当にネット様々、ニアちゃん様々である。
日が昇り始めた空はうっすらと金色に染まりつつあり、こちらもまたひさびさのお天道様が見られそうだ。 薄絹のような雲もまた、隅っこ青みがかった闇の色から金色へと変わっている。
頬をなでる空気は相変わらず冷たいが、今年最後の学校の日にふさわしい天気であった。
「おはようございまーす」
「ございます~♪」
子供達の流れに乗って、俺達も学校の門を通る。 やはり最終日だからか、身体の大きな熊さん校長と、秘書みたいな教頭先生が立っていた。
もちろん、俺達だけでなく他のみんなも元気よく声をかけて通り過ぎていく。
「はい、おはようございます」
「……」
例によって、シャイな校長先生は喋ってくれないけどな。
真夏でも汗ひとつかいているところを見たことがない教頭先生は、やっぱり真冬でも見事な直立姿勢。 対して校長先生は、やっぱり熊さんだからか……ちょっと寒そうだった。
よーく見ると、小刻みに震えている。 ずっと立っているんだろうか……。
けど、それに気づいた一年生らしき小さな子達が数人、先生をわーっと取り囲んで抱きついた。
「うわーっ!? こーちょーせんせ、ちめたーいっ!」
「ねーねーせんせー、あったかいー?」
「あったかい~っ?」
「……」
こくこくとうなずく校長先生。 ふさふさのおひげで顔が見えにくいが、ちょっぴり照れているようだ。 クールな表情の教頭先生も、わずかに口元を緩ませている。
朝からとっても微笑ましい光景であった。
俺とセーレたんも身体を寄せ合い……というか昇降口付近はいつも混雑するので、必然的に寄せ合って教室を目指す。
レディをエスコートするのは紳士の役目である。
「おはよー!」
今日が最後ということもあって、気持ち大きな声でクラスメート達に挨拶をする。 特に俺達は少し離れたところから通っているから、次に会えるのはほとんどが年明けになるもんなあ。
すると、みんなからも気持ち大きな声で返ってきたので嬉しかった。
「……あ、そうだ」
「んぅ~?」
いつものように席のところまで行こうとして、ふと気づいて立ち止まる。
手を繋いでいたハニーも同時に止まり、蒼い瞳で「どうしたの~?」と聞いてくる。
「ほら、この前……」
言葉にしなくても伝わることの多い俺達とは言っても、さすがにコレは言わなければ伝わらない。
俺はとある男子生徒へ視線を向け、いくつかのフレーズで端的にその理由を話した。
同時に運よくその男子生徒が俺達の視線に気づいてくれたので、こっちから声をかける。
「ええっと……レオー君」
「んんっ!?」
メガネをかけた生真面目そうな彼は、俺の呼びかけに目を大きく見開いた。 ……そんなに珍しかったか?
確かに、それほど頻繁に話をするほどの仲じゃないんだけど……それでも挨拶くらいはするし、一緒に食堂でおやつを食べたこともあったハズなんだが。
まあとにかく、言うべきことを言っておこう。
「ええっと……叔父さん? 伯父さんだったっけ? おめでとう」
「おめでとうです~♪」
俺の隣で、小さな手をぱふぱふと合わせるマイシスター。
大きくなるにしたがって、いろんなところがますますお袋に似てきたよなー。
「んん? ……ああ!」
俺の言うことにしばし首を捻っていたレオー君だったが、すぐに意図することに気づいたようだ。
「か、感謝する」
「ううん」
こっちこそ、親父がお世話になっているらしいからな。 ……そういやチャロちゃんも、彼の本屋にはときどき通っているんだったか。
どっちだったか忘れたけど、彼のお父さんの弟だったかお兄さんだったかが、俺の親父の部下の人だそうで。
要するに、この前わざわざウチへ報告に来てくれていた新婚さんの「おめでた」について、改めて祝辞を贈っておこうと思ったのだ。
「や、やっと、向こうから話しかけ……」
「?」
なんか急に俺に背中を向けて、ブツブツ言いながらグッと手を握っているっぽいんだけど……どうかしたんだろうか?
ま、喜んでくれているみたいだから、いっかー。
俺は一瞬ハニーと顔を見合わせ、もう一度おめでとうと声をかけてから席へと向かった。
「おはよ。 ……通ったね」
「ええ、おはよう。 意外と上だったわ」
この学校でいちばん黒セーラーが似合うお姉様ことマーヤさんが、俺のわずかな単語から正確に意味を読み取って返してくれる。 どうやら、お姉様は当落境界線のギリギリくらいを予想していたらしい。
それにしても、まだ号外も出ていない最新情報をサラッと答えているあたりはさすがである。
「はーい! そろそろ席に着きましょうねー!」
マーヤさんとお喋りに興じていると、先生ズがやってきた。 シャルちゃん先生はいつものようにフリル多めの服を着て大きなしっぽをぴこぴこさせ、アズミーリ女史は細身の黒いスーツ姿にバネ状のポニーテールを揺らしながら入ってくる。
既に授業はすべて終わっているため、「おはようございまーす」と挨拶して席に着いた生徒達を見渡し、アズミーリ先生が口を開く。
「さて、今日で今年の学校は終了だ。 だが連絡事項が多いから、よく聞くように」
『はあああーーーーーーい!』
俺達の返事を聞いた先生がうなずく。 そしてアイコンタクトを受けたシャルちゃん先生がとことこ歩いて、各最前列の生徒にプリントを配っていく。 もちろん俺もセーレたんもそうなので、受け取って残りを後ろに渡す。
書いてある内容は、これからの年休みと、年が明けて年度末までの大まかなスケジュールだ。
「まず年休みだが……まあ居ないとは思うが、卒業試験を忘れないようにな」
『あははははー』
アズミーリ先生が軽いジョークでみんなを笑わせ、教室の空気が軽くなったところでスケジュールの説明や補足をしてくれる。
年休み中に行われる卒業試験の結果が年明けに発表され、生徒達はそれによって今後の予定が大きく変わる。 授業はなくても、大事なことばかりでけっこう忙しいのだ。
当然ながら学校自体もバタバタするので、一般開放どころか学生でも学校には入れない日があるみたいだな。
試験にパスできた生徒は、それぞれ行きたい進路によって進学の手続きや仕事探しなどを始めることになる。 学校の説明会や、受験対策の特別教室もあるようだ。 正式に願書を出すのもこの時期。 受験生としてはここからが本番である。
就職については……成人の年齢になるのはまだまだ先の話だが、職人などの場合は格好の修行期間になるので本格的な求人も多いようだ。 こちらもやはり、近隣から職場紹介や説明会をするのに担当の人が来るようになるらしい。
まだ、みんなの歳は一ケタ。 マーヤさんでさえやっと十歳だというのに、既にこういった話が出てしまうのはやはり「早いな」という印象が拭いきれない。
「残念ながら、試験に落ちてしまった場合だが――」
「落ちる」という単語を聞いただけで、背後のどこかから「うぐっ」と呻くような声がいくつか聞こえてきた。 コレも受験生の「あるある」だな。
頑張れよー。
ダメだった場合も追試があるため、取り敢えずはリベンジを目指して再び試験勉強というコトになる。 対策授業の教室も開いてくれるらしい。
それも落ちてしまうと留年決定――三回目だったら退学になってしまうので、崖っぷちの子は本当に正念場である。
一月で卒業の成否が確定すると、いよいよ二月は受験シーズン。 仕事を探す場合も、たぶん山場を迎える時期になるだろう。
進学も就職もしない……あるいはできなかった子は、ここから実質的な春休みになるけどな。
同時に、この初学校でも次の新入生の受け付けが始まり、飛び級入試も行われることになる。
「……」
つい去年のことなのに、やたらノスタルジックな感慨が湧いてくる……。
子供の頃の一年はとても長く感じるというけど、まさにその通りだ。
……まあとにかく。 その頃には、ココにいる全員の進路が決まっているハズである。
年明けからもう個別に動き始めることを考えると、こうしてクラスのみんなが一堂に会するのは、たぶん今日が最後になるんだろうなあ。
もうちょっと、みんなと初学生らしいこともしておけばよかった……なんて気もしてくる。
「――説明は以上だ」
一人でしんみりしていると、先生の話が終わった。 大掃除もなければ終業式もないらしいので、これで今年の学校もおしまいということになる。
けっこう長い話になっていたので、あちこちから小さなため息が聞こえてきた。 かなり密度の濃い話だったし、仕方ないか。
でも前世と違い、立ったまま長々と聞かされて貧血で倒れる心配はないので俺にとっては安心であった。
「では、これにて終わりとするが――」
教室にはそわそわと落ち着きのない空気が流れ始め、廊下からも別のクラスの賑やかな声もだんだんと聞こえてきた。 チラッと時計を見ると、ちょうど一時間目が終わったくらいか。
だけど先生達が俺達と向かい合っている間、みんなはちゃんと大人しくしている。
あとは挨拶をして解散――と思っていると、先生から意外な言葉が飛び出した。
「では、ここから午後の部との入れ替わりの時間まで、各自自由時間とする」
『わあああああーーーーーーっ!!』
「……ぉ?」
いかにも「いよっ、待ってました!」という声に、俺は目を瞬かせる。
一年生の頃を知らない俺にとっては初めてだが、周りの様子を見るとコレはお約束らしい。
他の教室と同様、ワイワイと騒ぎ始める中でシャルちゃん先生が小さな手を叩く。
「はーい! どこで何をしてもいいけど、部屋を散らかしたり走ったりしちゃダメだからねー?
時間になったら、部屋を片付けて帰ってねー!」
『はああああああーーーーーーーい!』
かなりテンションの高い返事をするクラスメート達。 普段の学校は午後の部との入れ替わりがあって忙しないため、考えてみるとコレはかなり貴重な自由時間――あるいは「放課後タイム」である。
そう考えると、みんながはしゃぐのも十分に理解できる。
「では解散!」
『わあああああーーーーーーーーーーー』
アズミーリ先生が柏手のように手を打つと、みんなが一斉に立ち上がった。 授業がなくてカバンの中身が軽いから、みんな早い。
いつもの友達グループで集まるところもあるし、先生ズのところに飛び出していく女の子達も多い。 誘い合って教室を出て行く子達は、他の教室へ行くのかな?
いつの間にか教室の入口に集まっていた他のクラスの子達も入ってきて、まるでちょっとしたお祭り騒ぎのようになっていく。
「おーいジャス! お前もたまには付き合えよ」
「あ、うん」
俺も男子に誘われ席を立つ。 隣のセーレたんは、既に友達に引っ張られて先生ズのところにいた。
なぜかシャルちゃん先生と抱き合う格好をさせられ、女の子達からきゃーきゃー言われている。
……確かに、ものすごーくメルヘンチックで可愛らしい。
「なあ、今からなんか食いに行こうぜ!」
「えっ、今から?」
首に腕を回され、わりと仲の良い男子グループに引っ張り込まれた俺。
なんだか食べに行く空気になっているのだが……さすがに早くないか? さすがは男子、普段も休憩時間になると購買へ走っていくヤツがいるだけのことはある。
「まあ、お茶くらいなら……」
「いいじゃん、食えよ! 食わねえと大きくなれねえぞ?」
やたら食え食えって、なんで久し振りに正月に里帰りしたみたいにそこまで勧められるんだ……。
田舎のオッサンか。
「そうだよ、いいじゃん!」
「まあ、うん」
他の子達からも誘われ、取り敢えずはうなずいておく。 ま、テキトーに喋りながら何か摘むとするか。
先生ズに群がる女の子達の隙間から蒼い瞳が見えたので、「後でココで落ち合おう」とアイコンタクトを送って出口に向かう。
「よしっ、大食い大会だあーッ!」
「おおーッ!」
「マジで!?」
そんなに食えねえよ!? っていうか、なんでいきなり大会なんだ!
意味不明な大会に巻き込まれ、俺は廊下へと引きずり出されてしまったのだった。
「もぐもぐ~♪」
幸せそうにおやつを頬張るステイさんの前で、俺は静かにハーブティを口にする。 そこそこ時間が経ったとはいえ、学校でたらふく食わされた今の俺にとっては既に「ごちそうさま」である。
ニアちゃんを身ごもっていたときにも経験したことのないようなお腹を抱えてハニーと帰ってきた俺は、申し訳ないながらも食べるのは辞退して、ステイさんやお袋達と我が家のおやつタイムを共にしているところであった。
なお辞退した俺の分は、現在すぐそこのスタッフさんが美味しくいただいている最中である。
その横でリソ君も嬉しそうーに自分でおやつをもぐもぐしていて、見ているとほっこりした気分になる。
……食欲は湧いてこないけど。
「もぐもぐぅ♪」
本当に美味しそうに食べてくれるので、作ったチャロちゃんも満足げだ。
朝の大食い大会に出ていたら、間違いなく優勝だと思う。
「……はぁ。 ごちそうさまでした!」
「はぁ……うらやましいです」
お茶を飲んで満足そうにしている新妻編集さんの様子に、セーターを着たマールちゃんが対照的なため息をついている。 ステイさんは、並外れて「後のことを気にせず食べられる」体質なんだそうだ。
ちなみにマンガの原作の仕事はコンスタントに進んでいるため、ここんところはこうしておやつタイムと雑談の方に比重が寄り気味である。
「あっ、そういえば」
「ん?」
いきなり手をぽんと叩いたかと思えば、ステイさんは隣の椅子に置いていたカバンを取って中を開き始めた。
腰を捻った際に「うっ」と低い声を漏らしたことについては、聞かなかったことにしておこう。
「どうしました~?」
リソ君のお口を拭き拭きしながら、お袋がたずねる。
「ええ。 実はこの前、営業で書店に行ったときに面白いものを見つけまして……」
「ほう」
そのステイさんの返事に、相づちを打ったのは俺だ。
俺の隣にいるセーレたんは、自分でお口を拭き拭きしながら可愛らしく首を傾けている。
ステイさんがカバンを探っているのをみんなで見ていると、やがて一冊の本を取り出してテーブルに置いた。
「こ、これはっ……!」
視線が本に集中する中、チャロちゃんがちょっぴりわざとらしくシリアスな声を上げる。
なんかTVショッピングのようなノリだ。
しかし、コレは――。
「……類似本?」
「はい」
俺の呟きに、ステイさんがメガネを指で直しながらうなずく。
本の表紙にはキャラクターのイラストが描かれ、「よいこのさんすう」というタイトルがつけられている。
早い話が、俺のテキストの手法をマネした本であった。
「出ちゃいましたか」
「はい、出ちゃいました」
前に、たぶん出るだろうなーと話をしていたけど、ついに出てきたらしい。 視線で尋ねて許可をもらい、テーブルでシュガーのお仕事をしていた我が娘に、本を担いで持ってきてもらう。
それを手に取ってめくってみると、横からマイシスターも興味深そうに覗き込んでくる。
ややアメリカンな雰囲気の漂う、髪のツンツンしたキャラクターが、なんだか悪人らしき敵キャラを次から次へとぶっ飛ばしている絵が載っていた。
「やっつけてるね~」
「そうだね」
うん、やっつけているな。 ……文章を見ると「何人やっつけたか、足し算してみよう!」ということらしい。 他のページも見てみると、いろんな敵キャラがやっつけられていた。
最後の方は、なんかボーリングみたいに群れの中に飛び込んで蹴散らしている。 いわゆる無双系ってヤツだ。
少々バイオレンス一辺倒な気もするけど、小さい男の子にはウケがいいかもしれない。
「ジャスちゃん、ママにも見せてくれるかしら~?」
「うん、いいよー」
お袋にそう言われ、まだ見ていたセーレたんに確認をしてから本を渡す。 リソ君にもそれを見せると、「わあああーーー!」と嬉しそうに両手を挙げていた。
ニアちゃんも絵のマネなのか、本を見ながらワンツーパンチをし始める。
「あと、こんな本もありましたよ」
「どれどれ」
更にステイさんがもう一冊出してきたので見る。 すると、なんか胸元を大胆はだけさせた、やたらセクシーな……。
「……」
美少年が表紙に描かれていた。
そんな美少年が背中を預けている背景はブロックの壁で、しかも赤いペンキみたいなので落書きされているのが、なんともアレっぽい。
「え、えっと」
これって、女の子向け……って、言っていいのだろうか? 対象の年齢層がかなり上っぽいんだけど。
パラパラページをめくってみると、すべての美少年がすっごいカメラ目線、かつ流し目である。
「にゃ? 眠たいのかな~?」
セーレたんの表情を見てみると、どうもこの子にはイマイチっぽい。
だけど試しにと、俺も流し目をやってみる。
「……フッ」
「はうんっ!?」
あれ? なぜかのけ反られた。
「あふっ!」
そしてマールちゃんも、なぜか横を向いて震えていた。
……そんなに面白い顔だったんだろうか。
ちなみにお袋は、いつものようににこにこしている。
「じゃ、ジャスさまっ!」
「な、なに?」
背中を向けて震えているマールちゃんの隣で、チャロちゃんがしっぽをビンビンに立てて身を乗り出してきた。
そして俺に対して手を伸ばしてくる。
「そ、それっ、見せてくださいっ!」
「あ、うん」
ねこ耳をぴくぴくさせるチャロちゃんにの勢いに気圧されながら、俺はおずおずと美少年本を手渡す。
「ぐはああっ!?」
「……」
大ヒットらしい。
なんとなーく、そうだろうなーとは思った。
「こ、このポーズの意味不明さがたまりませんっ!」
「……え?」
えっ、そっち?
いやたしかに、よく解らない手のポーズとかしてるけど。
結局チャロちゃんは、その本をステイさんから定価で譲ってもらっていた。
……なぜか二冊持っていたステイさんもステイさんだと思った。




