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そだ☆シス  作者: Mie
離別編(つづき)
600/744

563 どちらに転んでもオイシイ?

挿絵(By みてみん)





 薄い上着を一枚羽織れば、適度に涼しい午前のひととき。

 窓枠と隣家の屋根によって四角く切り取られた小さな空に、やや厚い雲がゆっくりとフェードインしてきた。

 ポコ太とでも名付けようか……って、どーでもいいな。


「二人とも、頑張ってるかなぁ」


 ペンを回しながら誰にともなく呟く。

 すると。


「ぼーっとしてないで、ちょっとココ教えてよ」


「すみません」


 隣のニャル子ちゃんに袖を引かれ、すぐにノートへと目線を戻す。

 もうひとりのハカセ君に至っては、俺の指定した問題集のページを黙々と解いていて気づきもしていない様子。 いや、それだけ集中しているってことだからほめるべきなんだが……ちょっとさみしい。

 ジト目の三つ編みちゃんにペコリと謝り、指さされている箇所に目を通して問題を把握する。


「あっ。 ほら、ココで引っかかってるんだよ」


「へ? ……あ」


 列車がホームに着くのは何分後、という典型的な引っ掛けだ。 計算式に列車の長さを入れていないことを指摘すると、ニャル子ちゃんはすぐ気づいて式を直した。

 ちなみに王都の列車は、二、三分程度の誤差はよくあると聞く。 こっちの時間単位での話だから、前世(むこう)で言うなら更に倍。 それでもおおむね正確と評判らしいけど、向こうだったら延着証明が乱れ飛んでいるところだな。

 正しく解けたのを見てうなずくと、ニャル子ちゃんはかすかに微笑んでお礼を口にした。


「……で、どっちの?」


「えっ?」


「ほら、頑張ってるのかーって」


「あ、ああー」


 そこで話に乗ってくれるとは思わず、一瞬何を言っているのか分からなかった。

 まっすぐ見つめてくる碧色の瞳から視線を外し、指で頬をかきながら答える。


「どっちも……かな?」


 俺の部屋で開催中の勉強会。 しかし、いるのはこの三人だけであった。



 ――今日は、ニコとくりむちゃんの武術試験の日である。

 それが終わったら二人が顔を出しに来てくれる予定になっていて、先週の勉強会でそのことを聞いたマーヤさんが「だったら、できたてのお菓子で迎えてあげましょう」と、ココでおやつを作ってくれることに。

 なんと、マーヤさんのできたておやつが食べられる! と俺のテンションが赤マル急上昇になっていたところ、更にエミーちゃんも「そ、それならわたしも作るわ!」と申し出てくれたのである。

 まあ、それだけならいいんだけど……気がつくと、二人は一緒に作るのではなく別々に作ることになり、ちょっとしたお菓子対決みたいな様相になってしまった。 ……といっても、別に勝敗を競うワケではない。

 なぜか勝っても負けても、俺が両方のほっぺをなでなですることになっただけで。


 なお、さすがに二人が別々のお菓子を同時に作れるようなスペースも設備もウチにはなく、わざわざお隣さんの台所までお借りする事態へと発展。

 ということで、現在マーヤさんがウチのキッチンでお菓子作りの真っ最中。

 そしてエミーちゃんは、いつも持ってくるおやつは一緒に作っているというエルネちゃんと姉妹タッグを組み、お隣さんちでクッキングに勤しんでいるのであった。

 もちろん、エルネちゃんにもなでなで追加である。


「どうしてこうなったんだろうか……」


「あたしに聞かれても分かんないわよ」


 いや、そうなんだけどさー。

 以前はセーレたん以外の子にもたまにやっていた「ほっぺなでなで」だが、さすがにそろそろ気恥ずかしい歳になってきたので今はめったにしない。 マッサージの後で、効果を確かめるのにする分はともかく。

 それを年上の女の子に……って、なあ? される方が恥ずかしくない?


「あたしも、るーちゃんのほっぺはよく触るけど。 ……すっごい、すべしべしてて気持ちいいし」


「あ、それ分かる」


 いくらまだ子供でタマの肌っていっても、アレはスゴイよな……。 まさに真珠のようで、マッサージ後のみんなにも引けを取らない。

 それに……なでなでしていると頬がほのかなピンク色になってきて、くすぐったいのを我慢して全身をぷるぷると震わせているのが、コレがまた凶悪に可愛いのだ。


「そうよね! アレは卑怯よね!」


「だよねー!」


 しかも妹のリリちゃんもまったく同じ反応をするので、二人同時にやると、ハカセ君ではないがマジで鼻血モノである。


「あ、あんた、そんなうらやましいコトを――」

「くふっ!?」



 二人で盛り上がっていたら、突如そのラート氏が鼻血を噴いてテーブルに沈んだ。

 ノートが赤く染まっていく。


『あーあ……』


 俺達の声が重なる。 身もだえるるー君の姿を想像してしまったようだ。 これまた同時に「ごめん」と謝る。

 幸い、メガネは(たお)れる直前に横に落ちて助かっていた。 問題集もセーフ、被害は今のところノートだけだ。 あとは……彼のほっぺくらい。

 ニャル子ちゃんはメガネや周りのモノを中心から遠ざけ、俺はその間に彼の元へ行って、彼のカバンの中からタオルを取り出す。 血がノートから外へ流れ出る前に対処せねばならない。


「ほら急いで」


「おーい、頭を持ち上げるぞー」


「ふご……」


 両目が「3」になっているハカセ君の下にタオルを敷く。 血はもうほとんど止まっているようだ。

 俺とニャル子ちゃんもだが、彼もすっかり慣れたものであった。




 間もなくラート氏は復活し、昼の鐘が鳴ったところでニコとくりむちゃんもやってきた。 二人も無事に合格したようで、みんなでお祝いをした。

 その後しばらくして、お菓子ができたと呼ばれた俺達。 公平を期するためか、マーヤさんの使っていたキッチンではなくリソ君の部屋へ通された。

 ひとつしかないソファーは部屋の隅に寄せられ、少し大きめのテーブルには清潔なクロスがかけられていた。 真ん中にちょこんと乗せられた、一輪差しの花瓶と花が可愛らしい。


「うふふふふ~。 こちらにいらっしゃ~い」


 既に絨毯に座って待っていたお袋が、(なま)めかしい手つきで手招きをしている。 お袋の背後にある窓から射し込む光が波打つ髪を明るく照らし、それがたとえ三途の川の向こう岸であったとしても喜んで水面を駆けて渡りそうなくらいに神々しい。 そのお膝元に大人しく抱かれているリソ君も、金髪がキラキラしていて天使のようだ。

 だがまさかテーブルを跳んで越えるワケにもいかず、靴を脱いだ俺達は手のひらで示された、お袋の斜めに位置するテーブルの一辺へと順番に腰を下ろす。 その際ハカセ君が再び血を噴かないように、俺が真ん中に座って彼をお袋から遠ざけておく。

 ニャル子ちゃんもぽ~っとした顔でお袋とリソ君を見つめていたが、ほどなくして我に返り首を左右に振っていた。


 なお、主賓であるニコとわん子ちゃんはそれぞれお袋の左右に座った。

 くりむちゃんはリソ君をなでなでし、頬を緩めている。


「おやつ、楽しみだね」


「おー!」


「うわあー。 すごーい……」


 ニコよ。 気持ちは分かるけど、横からお袋の胸を見すぎだ。



「何が出てくるんだろう。 楽しみだなー」


「うふふふふ~」


 こんなお母さん、卑怯すぎよ……と顔を赤くして震えているニャル子ちゃんと、さっそく用意周到に新しいタオルをテーブルに置くラート君に挟まれ、俺はなりそうなお腹を押さえながらお袋に話しかける。

 お袋はアナさんと一緒にお隣の方へ行くと言っていたから、エミー・エルネちゃんコンビが作っている様子を見ているハズだ。

 ちなみに、ニコも「ひきょーだよねー」と目を離さない。 チョップしてやりたいが、あいにくと手が届かない……。


「それは、ナ・イ・ショ♪」


 小さな息子の頭をなでながら、ものすごーく嬉しそうに微笑んで小首を傾げるお袋。 さほどエロい感じを含んでいないからだろうが、ニコの視線など気にも留めない。

 それにしても、紺色のセーラー服を着ていてもまったく違和感がないよな。 我が母親ながら、チョー可愛いいんですけど……なんで着替えたんだろう?

 ところで、いちばん遠いはずのラート氏が「ぐふっ」と咳き込んだが大丈夫か?

 お袋の似合いっぷりをほめてから彼の背中をさすっていると、ドアがノックされた。


「お茶を持ってきましたー」


 先に入ってきたのはチャロちゃん。 お盆に人数分のコップを乗せている。

 続いてマールちゃんも入ってきたが、今日はオフなのでメイド服は着ていないし空色の髪も解いて下ろしていた。 マーヤさんのお菓子作りに興味があったようで、今日は出かけずにチャロちゃんと一緒に見学していたのだ。

 ところで、両手にティーポットを持っているのはいいとして……なんでセーラー服?

 いつの間に買ってきたんだろうか。


「そ、そういう気分なんですっ。 ……に、似合いませんか?」


「んーん。 髪との色の相性がバッチリですごく可愛い」


「あ……あ、あり、ありがとうごじゃいまひゅ」


 顔の赤いマールちゃんが噛んじゃったが、そこは流す。 チャロちゃんもサラッと流して「お姉ちゃん、よかったねー」としっぽを揺らした。

 隣で三つ編みちゃんが「よくそんなほめ言葉がスラスラ出てくるわね……」とジト目で睨んでくるが、気にしない。

 二人はコップを並べてポットを花瓶の近くに置くと、俺達の向かい側に腰を下ろした。

 この人数で食べるとこのテーブルではちょっと狭いけど、何品も並べるわけじゃないので大丈夫だろう。


「そういえば、ニアちゃんとアナさんは?」


「そろそろ帰ってくると思うのだけれど……」


 俺の疑問の声にお袋が応えてくれる。

 ニアちゃんは、お隣さんのキッチンを借りる代わりに貸し出されると聞いていたんだが……まだなのか?

 マダムの超高速なでなでによって、磨り減っていないといいのだが。

 と思っていると、またもやノックの音がしてドアがかすかに開いた。


「マ――お、おに~ちゃあ~ん……」


 羽を広げた我が娘が、へろへろ~と不安定に浮き沈みしながら飛んできた。

 目が完全に鳴門(なると)の渦潮と化している。


「だ、大丈夫っ!?」


「へにょ~……」


 スカートを見ないようあさってを向いたラート氏の前を通り過ぎ、俺のあぐらの上に不時着したマイドーター。

 頭のてっぺんにあるハズのアンテナがなくなっていたので焦ったが、見ると単に倒れていただけだった。 ほっと胸をなで下ろし、頭をなでながら摘んで立てようとして……あ、ダメだこりゃ。

 本人と同じように、ぐんにゃりしてしまっている。


「に、ニア、がんばったよ……」


「よ、よくやったぞニアちゃん!」


「い、いったい何があったの……!?」

「ニア……」


 ニャル子ちゃんとわん子ちゃんが心配そうに覗き込んでくる。 俺は我が娘のあごの下に手を差し入れ、枕の代わりに――と見せかけて、三頭身の頭の陰で触手(ごはん)を食べさせる。

 すると、へんにょりしていたアンテナっ毛が少しずつ立ち始め、やがて本体も立ち上がった。


「ふー、生き返ったよー♪」


「本当にお疲れさん」


「ニア、煙が出るかと思ったよー」


「煙ってナニ!?」

「……けむり?」


 目を丸くして三つ編みが跳ねるニャル子ちゃんと、首を傾げるくりむちゃんに説明をすると「た、大変だったわね」「そうなの……」と、二人で長い髪や羽の引っ込んだ背中をなでさすってくれた。

 ちなみに我が娘の髪を横にどけると、レオタードがけっこう大胆に開けているのが見える。 羽を出すためらしいのだが、最近になってハッキリと分かるようになった、肩甲骨っぽいでっぱりも露わになっている。

 初めはなかったんだけど、誰かさんに――。



『聞くところによれば、此処(ここ)も色気の出る重要部分らしいぞ?』



 と言われ、作ることにしたんだとか。

 ……誰に聞いたんだろうな、あのお方は。




 教育方針について親同士で語り合う必要性について考えていると、開けたドアから半身を出したままのアナさんが困った顔をしていた。


「もう運びたいんだけど、いいかしら?」


「ええ、いいわよ~」


 この場のトップであるお袋が返事をし、下座に座っていたチャロちゃんが手伝いに立ち上がる。

 一旦ドアが閉まったが……すぐにまた開く。 既に廊下まで持ってきていたようだ。


「今回は……ちょっと、頑張ったかも」

「ふふーん、けっこう自信あるからね?」


 そうして順番に姿を現したのは、ちょっと末広がり気味な茶色い髪がキレイな美少女姉妹。

 エルネちゃんも今日は仕事ではないので、二人揃って赤と黒の服にエプロンをつけている。 いつもながら、とても印象に残りやすいビジュアルだ。

 だけど、今日に限っては……。


『ふわあああああーーっ』


 女性がほとんどを占める場で、耳に心地よい嘆声が部屋に広がる。

 でもそれ以上に、部屋を覆うのはとても甘い、そして香ばしさをも含んだ美味しそうな匂い。



『秋の木の実と、フルーツのパンケーキですっ♪』



 姉妹のキレイな声が重なり、お菓子の名前を歌い上げる。

 縁をカリッと焦がし、ふっくらと焼き上げた二枚重ねの丸いパンケーキ。 その上に薄く切った旬の果物と細かくしたナッツをパラパラとまぶし、更にその上からコハク色のシロップをふんだんにかけてある。

 しかもそれだけではなく、それらの頂点にはいかにも舌触りの良さそうな、白いホイップクリームのベレー帽を乗せていた。

 光るように白いお皿とのコントラストも見事で、思わずのどを鳴らしてしまう。

 わん子ちゃんはちぎれんばかりにしっぽを振り、さすがのニコも目を皿にしてツバを飲み込んでいた。


「……ムチャクチャ本格的だ……」


 目の前に並べられていく逸品の見事さに、誰もが静かに手を叩き始める。

 どこかの有名店にでも行って列に並ばなきゃ、とても口にできなさそうなスイーツ。 だがかすかに立ち上る湯気が、決して買って来たものではないよと微笑むように語っている。

 そして、恥ずかしそうに上目遣いを向けてくるエミーちゃんと、とても誇らしげな笑顔で見つめてくるエルネちゃんが配膳している背後で、母親のアナさんがとても優しい笑顔をたたえていた。

 それを見ても、アナさんが手を貸していないのは明らかだった。


「二人とも、すごいわね……」

「これはビックリですー!」


 作る課程を見ていなかったメイドちゃんズが、丸くした目を輝かせている。

 甘く香ばしい匂いはお皿が目の前に来るとより顕著で、これが美味しくなけりゃ他の一体ナニが美味しいんだ! と鼻から脳までを揺さぶってくる。


「……っ!?」


 控えめに鼻から息を吸っていたニャル子ちゃんが、慌てて口元を手で押さえている。 彼女が俺の視線に気づく前に、自分の皿へ目を戻す。

 ひざの上からテーブルへとよじ登った我が娘が皿のすぐ横で、食べられない代わりに嗅覚でいち早く味を楽しんでいる。

 反対側のハカセ君も言葉がないようで……少しメガネがズレていた。

 いい加減に調整したらどうだとも思うんだが、いざというときに都合良く飛んでいってくれる理由にもなっているので指摘しづらい。


 しばらく自分の皿を鑑賞していたものの、お袋は声を発しない。

 見るとウィンクされてしまったので、僭越ながら俺が二人のパティシエールへ声をかける。


「えっと……食べて、いいのかな?」


「うん。 でないと、冷めちゃうから」

「もう、早くっ! クリームも溶けちゃうよー」


 それもそうだと、思い出したようにナイフとフォークを手に取る俺達。 フォークを使って少しずつトッピングをケーキの隅に取り分け、そのすぐ脇へ慎重にナイフを入れる。

 想像していた通り、わずかに引っかかったのは縁の焦げ目だけで、そこを切るとすーっとナイフが下まで通った。 これまたさっくりとフォークを突き刺し、ナッツが落ちないようにもう片手を添えながら口へと運ぶ。

 お袋もリソ君用のパンケーキを切って食べやすくしてあげてから、自分のを切り始める。



『――――っ!?』


 柔らかなパンケーキを口内に入れた次の瞬間、全員が呼吸を止めて顔を上げた。

 見ると、リソ君まで同じ顔をしているのが面白い。


「んっんーーーーーーーっ!?」


 うんまーーーーーーーっ!?

 しっとりクリームとふわふわのパンケーキの食感と、シロップの甘みとの相性は抜群。 更にアゴを動かして噛んでみれば、また種類の異なる果物の甘みと、ナッツの歯ごたえと風味がそこに加わる。 薄くバターでも塗ってあったのか、かすかな塩味が感じられるのもいい。

 男だと、人によってはちょっと甘すぎると感じるかもしれないが、俺にはそんなコトは全然ない。

 確かに……これだけをバクバク食べていると、美味しさがじょじょに下がっていくかもしれない。 だが紅茶を飲んで口の中をリセットすれば、またゼロからこの甘みを楽しめるだろう。


「んんんーーーーっ!」「んーーーーっ♪」


 口を閉じたまま黄色い絶叫を上げる子もいれば、とろけそうな笑顔を見せている人もいる。

 ニコはフォークを咥えたまま震えてるし、くりむちゃんはしっぽの振り方が半端ない。 二人とも大喜びだ。

 コレはもはや、複雑な甘みと風味が層をなす、スイーツ界の活断層だと言っても過言ではないな……。

 俺もちょっと震えてるし。


「いやあ……これは、スゴイね」


「やった……」「やったああーーーーっ♪」


 心からの賛辞を贈ると、小さなパティシエール姉妹が抱き合って喜ぶ。

 そんな二人の喜びようもまた、パンケーキに彩りと美味しさを添えるのであった。




 ――全員が完食を果たし、テーブルの上を片づけてひと息。

 もう少し食べたいところだが、このちょっと足りない具合もまた良しである。

 なぜなら、もう一品控えているのだから。


「少し、出来上がりを遅らせて良かったわね」


 上品なノックの後、黒髪をなびかせてマーヤお姉さんが顔を出した。 黒っぽい紫の服がアダルトな雰囲気を醸し出している。

 先に対戦相手のケーキを食べた彼女は、俺達に自分のできたてを提供するため、仕上げをギリギリまで遅らせていたらしい。 ……この時点で、既にタダモノではない。

 エミーちゃんとエルネちゃんも先に食べさせてもらったようで、輝いていた笑顔を一転して引き締めていた。

 主賓の二人は、ますます目を輝かせている。


「エリアナさん、お手伝い願えますでしょうか」


「ええ……」


 マーヤさんが穏やかに微笑み、呼ばれたアナさんと一緒に扉の外へと消えていく。

 いったい、何が出てくるのか……。

 あのスイーツを口にしていてなお、あそこまで落ち着いていることに戦慄を禁じ得ない。

 この場で唯一その理由を知っているハズのお袋は、ただ優しく微笑んでいるだけであった。



 ――身震いを隠しながら、待つことしばし。



「さあ、どうぞ?」


『なっ……!?』


 どれだけ凝ったモノが出てくるのかを思いきや、意外とシンプルな外見。

 いや。 並んだお皿の数だけを見れば、先程よりもずっと多い。 しかしその多くは、メインにそれぞれの好みの味をつけるための、フレーバーでしかない。

 形状こそ二種類用意されているものの……メインディッシュは恐らく、どちらもほぼ同じ素材を、ほぼ同じ製法で調理しているハズなのである。

 だが、その「調理方法」そのものが――。


「な……」


 その値段の高さと危険性、そして後始末などの理由から、一般家庭ではまず行われない調理法。 ……(いな)。 それだけなら、まだいい。

 そんな調理法を用いた食材がよりにもよってアレであり、それらが巨大な砲弾となって俺のハートのド真ん中を貫いたのだ。




「う……切った芋の油揚げ料理(フライドポテト)だとおおおおおおおーーーーーーッ!?」




「おうっ!?」『きゃっ!?』


 思わず、ひざ立ちになって絶叫してしまった……。 みんなをビックリさせてしまって悪いが、こっちでは生まれて初めてなんだよ。

 いや、ないワケではないんだよ? 通りに行けば、揚げ物屋の屋台もあるのだ。 ……でも、高い。

 フライパンに薄く引くくらいなら少しで済むけど、揚げるとなると鍋一杯分の油が必要になるからな。

 前に調べたことがあるけど、揚げ物を作るには資格がいるんだぞ?


「ま、まさか……!?」


 チャロちゃんもマールちゃんも目を大きくし、たぶん法律繋がりで知っているんだろうラート君も目と口を全開にしていた。

 ニコはヨダレを垂らしかけては飲み込むのを繰り返すのみでどっちかよく分からんが、くりむちゃんは首を傾けて何度も瞬きをしている。

 驚愕したまま、俺は恐る恐る尋ねてみた。


「ま、まままままま、マーヤさん……?」


「何かしら?」


 澄ました顔を見せているけれど、目元が微妙に笑っている気がする。


「資格……持ってるの?」


「ないわよ?」


「ブッ!?」


 だ、ダメじゃん!? 違法じゃん!

 イリーガルですよ、アウトローですよ……。



「資格は必要ないのよ。

 だって、ほとんど油を使っていないもの」



「へっ?」


 アブラナーイ?

 思わず外国人口調になってしまったが……そんなコトができるの?


「ええ。 こっちの方は油を引いて蒸し焼きに、こっちは薄く油を塗ってオーブンに。

 それで作れるのよ」


「そ、そうなんだ」


 知らんかった……。

 そういやお袋達も、ごくたまーに表面がパリパリ系の焼きもの料理を作ってくれるよな。 揚げ物っぽいのにサッパリしていて、俺も好きなんだ。

 メイドちゃんズも驚いていたのは最初だけで、今は感心顔でうなずいている。 ……ていうか、たぶん俺のリアクションにビックリしただけだろうな。

 ちなみにエミーちゃんとエルネちゃんは、アナさんと一緒に並んで苦笑いをしていた。 さすが親娘、よく似ている。


《誰にでも、知らないことはあるもんねー?》


《ニアちゃん、ありがとうなー》


 優しい我が娘がテレパシーで慰めてくれた。 いい子だよー。

 ……だから、さあ。



「ひっひっひっひっひ……!」


「……」


 ニャル子ちゃんも。

 お腹抱えて、涙こぼしながら笑わなくってもいいじゃない……?




 ――マーヤさんの作った、二種類のイモ料理。

 外側に皮を残した、リンゴを食べるときのような切り方をしているのが蒸し焼きか。 なるほど……厚みがあって、見た目にもホクホクしていそうだ。

 そして、薄くチップ状に切ってある方はなんとオーブン。 だけどこっちも一、二ミリくらいの厚さがあり、イモらしさの残るカリッした食感がありそう。

 更にはフレーバーとして、普通の塩やミント系の刻んだもの、ペースト状のトマトなどが用意されている。

 そのまま食べてイモの味を堪能するも良し、自分の好みのフレーバーを探してアレコレつけてみるも良し。


「ええ。 きっとカプティーニさん達はケーキを用意してくると思ったから、私のは軽く摘めるものがいいと思って」


『……』


 そこまで読んでいましたか……。

 最後の発言には、アナさんを含めた一家三人もそろって目が点になっていた。




「……うまっ、うまっ」

「さっき食べたのに、止められない……」

「揚げもの、ヤッパリおいしいーっ♪」


 俺はもちろん、エミーちゃんもエルネちゃんも。

 みんな、ひたすら食べました。





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