42 愛するわが子のためならばっ
盛りを過ぎた夏の朝。
「ちょっとらけおー」
正面でじっと見守っているマールちゃんにウィンク。
……しようとしたが、両目を瞑ってしまった。 むむむ。
「あんらもすきねー」
ニヤリと笑いかけながら作業を進める俺。
マールちゃんが「ぷっ……!」と笑いを漏らす。
「うふーん」
床に座って両脚を浮かせ、脚に絡みつく布を腰まで上げれば作業完了。
「くすくす……! も、もう、ジャス様っ、いつの間にそんな事を覚えたんですかぁ……!」
肩を震わせながら必死で笑いをこらえようとしているマールちゃん。かなりツボに嵌ったらしい。
偉大だねぇ、○トちゃんは。
「はい、できらおー!」
すっくと立ち上がって万歳ポーズ。
「は……はい、よ、よくできましたぁ♪」
目尻をそっと拭いながら撫でて褒めてくれた。
涙出る程ウケましたか……身体を張った甲斐がありました。
「あぅ~! ぅなあ~!」
その横では、セーレたんが頭からすっぽり被るタイプの上着を頭に絡ませてもごもごしている。
おおぅ、胸から下が丸見えですぞ、いやん♪
「セーレさまー、もうちょっとですよー!」
「にゅわ~~! おにぃ~っ!」
顎かどこかに引っかかっているようで、よたよたしながら奮闘している妹様。
だが、ここは手伝いたくなる気持ちをグッと抑える!
……着せるのはともかく、妹の服を脱がせるというのは少々抵抗が。
「せーれたん、がんわれー!」
「ぁ、あぃ~!
……ぅ、う~~~っ!」
服で視界と手が塞がれている中、ぴょんと軽く跳ねて返事をしてくれるセーレたん。
おっ、顎が見えてきた! 峠は越えたな!
「ぷひゅ~」
「はーい♪ よくガンバりましたー!」パチパチ。
「よくできましたねー♪」パチパチ。
「ないす、しぇくしー♪」ぱちぱち。
全員で拍手。
……ちょっと俺のコメントだけが浮いたので、このまま拍手で流すぜー。
この後はチャロちゃんが手伝って、無事に着替えが完了。
大概の事は自分でできるようになってきたので、こうしてメイドちゃんズは見守ってくれる事が増えてきた。
セーレたんも俺のしている様子を見ながら、頑張って同じようにやろうとしている。
ここで俺が手を貸すのはセーレたんの為にならないので、俺も基本的には応援だけだ。
この後も、部屋のドアは開けてもらうが、リビングへ行くのは自分の足で。
部屋を出てすぐ左へ、朝日で明るい廊下を小走りで行くと突き当たりにドアが三つ。
右は、俺達はまだ使えない―― まだ身体が小さいから、座るとスポンと「填る」らしい―― トイレがあり、正面は風呂場。
そして左が所謂LDK、台所に繋がっているリビング兼ダイニングである。
よし、折角だから俺は左の扉を選ぶぜ!
椅子は高いので座らせてもらい、とっくに離乳食を卒業した俺達はお袋達とほとんど同じ朝食を食べ終わってコップでミルクを飲んでいると、お袋が今日する事を教えてくれた。
「今日はお勉強をしましょう~」
「はーい!」
「あぃ~!」
聞きまして奥さん? お勉強ですってお勉強!
今までは本を読んでくれても大体聞いているだけだったので、「教えてくれる」というのは大きなステップアップである。
ではでは、早いこと部屋に戻って勉強だー! 目指すはコロン○ア大・合格っ!! 立派な聴講生になるぜ?
「じゃあ、次は……『あか』~」
「あかー!」
「あゃ~♪」
いろんな色の物が散らばっている部屋の中をてけてけーと走り回り、俺は床に置いてある赤い三角の積み木を取りに行き、妹様はお袋の座っている傍に置いてある赤いカバーの本にタッチ。
「よくできましたね~♪」
「へへー」
「ままぁ~」
――うん、セーレたんはともかく、精神年齢以下略の俺が一体ナニやってるんだ? というツッコミはごもっともだ。
でもな、残念ながら、二歳児にいきなり社会の事やら計算やらを教えてくれる訳がなく。
まあ、これはこれでセーレたんの教育にはとても良いと思うし、ぶっちゃけ俺もやってて楽しいので素直にエンジョイすることにした。
どんな事でも褒めてもらえれば嬉しいのである。
お袋に撫でてもらいながら、それを実感する。
「じゃあ、次は……『しろ』~」
「しろー♪」
「しぃろ~」
目の前のお袋の胸に飛び込む俺達。 だって、服白いんだもーん♪
「うふふふふっ、よくできました~♪
じゃあ、次はね~……『みずいろ』~」
「みじゅいおー?」
「みう~」
急に難易度上がった!?
「みじゅ~!」
おっと! セーレたんはオモチャ箱の近くにあった水色のワニ? のぬいぐるみを取った!
個人的には、やっぱりワニは白い方が……げふんげふん。
「セーレちゃん早かったわね~、えらいわ~♪」
「きゃ~ん」
なでなでされている妹様を尻目に、俺はまだまだ捜索中。
「えっと、えっとー」
ヤバイ、青はあるけど水色が見当たらない!
このまま負けるのは兄としての威厳が……おっ? あれは!
「くびちょっぷー!」
ソファーの下に潜り込んでいる水色発見!
謎の掛け声と共にスライディングを決め、腕を突っ込んでなんとかGET!
僅かに温かいそれを掴んで引っ張り出してみると、するするーっとヒモ状に展開して三角錐形の布が二枚……?
「……ってぐはぁ!?」
これ、○ラジャーだろ!? 何故に女性下着がこんな所に!!?
しかもこのカップの大きさ……間違いなく、お袋のじゃねーかっ!!
「あ……あったおー」
発見した場面はお袋にモロ見られてるし、仕方なくふらふらとお袋の元へ持って行く。
いやいや! 見なかった事にできないって意味で、決して持って行くのが勿体ないとか、そんな意味じゃないんだからねっ!?
そこまで堕ちてはおりません。
「あらあら~、そんな所にあったのね~」
片手を頬に当て、のほほーんとしながら俺の手からブツを受け取るお袋。 いや、絶対あんたが仕込んだでしょ?
すると、白いブラウスのボタンを上から順番に外していく。 ……な、何してるんですか?
そして少しずつ露わになっていく肌色と肌色と肌……って!?
「ぶべらーーーーっ!?!?!??」
つけてなかったんかーーーーい!!!!??
どうりで、さっき抱き付いた時にやけに柔らかいなと思ったよ!!!
な、なあお袋……他に水色の物って、本当に何もなかったのか?
そこまでして用意してくれた厚意は素直に嬉しいが、ちょーっと身体の張り方を間違ってると思うぞ?
「うんしょ、うんしょ~っと」
急いで後ろを向いた俺の背後で、一生懸命ナニかを持ち上げているような声を出しているお袋。
それが何なのかは考えてはいけないし、けっこう重そうだなーとか考えるのもいけない。
「ありがと~ジャスちゃん♪ 助かったわ~」
ぎゅっと後ろから抱き締められて、なでなでされる俺。
うん。 この感触が正しいんだよ……このくらいが精神的にちょうどよろしい。
やっと落ち着いたよ。
「じゃあ、次に行きましょうね~。 『くろ』~」
「く、くろー」
「くお~っ!」
――その後は、何事もなく進んでいきましたとさ。




