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そだ☆シス  作者: Mie
学童編(夏)
488/744

454 期間限定、と言われると弱いよね

挿絵(By みてみん)





 月末も近づいてきた精霊の日。

 セミもフルメンバーが揃って大合唱という感じで、今日も順調に暑くなりそうである。

 そんな夏の朝、ふと二階の窓の外から聞こえてくる謎のダミ声。



『オォーーーイ……ッスゥゥゥ!』



「おうっ!?」


 思わず俺の肩が跳ね、それを見たるーちゃんが朱い目を細めて笑う。


「ふふ……ジャス君、まだ慣れないんだね」


 涼しげなキャミソール姿である。 笑って震える小さな肩のラインは丸く、いつもながらどこからどー見ても立派な男の娘だ。

 この世界でもやはり男よりも女の子の方が多少は露出度が高いので、今の季節だとそっちの方が涼しくて楽なんだとか。


「いや、どうしても身体が自然に……ね」


 勉強中の手を止めて、窓の外を見る。 ……また、「オーイッス」とセミが鳴いた。

 そう。 セミの中に、そーゆー声で鳴く種類がいるのである。

 数の少ないセミのようで、不意打ちのようにごくたまーに聞こえてくるからなおさらビックリする。

 なかなか慣れないよ。 ダメだこりゃ。


「わたしも、たまに『えっ?』て思うことはあるけどね」


「わたしは気にしないの~」


 エミーちゃんとセーレたんも手を止めて話に加わる。 二人とも生地の薄いワンピースを着ているけど、色の濃淡が対照的だ。

 スカートの丈がちょっと短くてエミーちゃんが恥ずかしそうにしていたが、エルネちゃんからのお下がりなので仕方がない。

 似合ってるよとほめてあげると、嬉し恥ずかしといった感じでもじもじしていた。

 そして……まんま「呼びゼミ」という名前の声にもまったく動じない我が妹様は、さすがである。


《とってもキレイなセミなのにねー? 声はオジサンみたい》


 小さな身体には槍のように見える鉛筆を器用に操りながら、ニアちゃんが笑った。

 最初はガタガタだった文字も、今や意外と達筆である。 ……ヘタをすると、崩しまくっている俺の方が字が汚い。



「二人とも、今ごろ頑張ってるんだろうなぁ」


 窓枠に切り取られた、四角い青空を見上げながら呟く。 とりあえず、己の字の汚さには目を瞑って。

 今この部屋にいるのは五人だけ。 ニコとくりむちゃんはちょうど、学校で武術の検定試験を受けている真っ最中のハズである。

 二人はいつものようにエルリアさんの引率でみんなと一緒にココへ来て、俺達から応援の言葉をもらってから再びエルリアさんに連れられて行った。


 ちなみに、ニコは中距離の六級で……くりむちゃんは少し迷っていたが、格闘六級を受けることになった。 短槍の扱いは剣術よりも格闘に近いので、妥当だと思う。

 格闘といっても、別に素手じゃないとダメっていうルールはないもんね。


「ニコ、ガチガチだったわね」


「だな」


 もはやエミーちゃんのクセとなった苦笑いに、俺もうなずく。

 このメンバーの中ではくりむちゃんも緊張しがちな方ではあるけど、全力を出す方へ意識のスイッチを切り換えると強い。 でも、ニコはイイトコ見せようと余計な力が入りやすいからなぁ。

 あいつの場合、むしろ逆境に立たせた方が火事場の馬鹿力的なパワーを発揮するのだ。 だからこそ俺もエミーちゃんも、あいつにはややスパルタ気味にして勉強や武術を教えている。

 もちろん、それで結果を出したら思いっきりほめてあげるけどな。


「それにしても……ふふふっ」


 送り出したときのことを思い出したエミーちゃんが、口元を押さえて笑う。

 ニコのカーチャンからも「絶対合格してこい!」と発破をかけられたらしいけど……だから俺も、ニコに活を入れておいたのだ。




************



 ――玄関の外で、エルリアさんの左右にニコとくりむちゃんが立っている。 それぞれ半ズボンとミニスカスパッツ姿である。

 で、俺達はお見送りだ。 敷地内だが、家の前はけっこうな大人数になっている。

 お袋はエルリアさんにお願いしますと頭を下げて、アナさんとエルネちゃんも加わったメイドさん四人組(カルテット)も見送りに出てきていた。

 わん子ちゃんは「いつも通りやれば大丈夫だから」と声をかけてニアちゃんと一緒に頭をなでてあげると落ち着いたが、ニコはまだ硬くなっていた。

 普通の学校のテストならともかく、検定は実技試験もあるからなあ。 六級だから軽ーく「型」を見せる程度でいいらしいんだけど……緊張するのもムリはない。


 そこで、リラックスさせるために俺が肩を叩いて一言。



「もし落ちてきたらお前、女装してメイドさんな」



「えええーーーっ!?」

『ぷふっ!?』


 ニコは驚きの声を上げたが、俺の後ろからは何人かの噴き出す声。 まあ、誰と誰と誰と誰と誰なのかは言うまでもないだろう。 もちろん、お袋とセーレたんは含まれない。 お袋の肩に留まっている我が娘も除かれる。

 ヒントは――ひとりだけ幼なじみで、あとは全員メイド服。


「そんな……ムリっ! 絶対ムリだよー!」


 ……そのムリを、俺は実際にやったんだがなー。 家族や、この国の神様と呼ばれるヒト達の前で。

 激しく首を横に振る視線の先には、これぞ女装の究極と言えよううさ耳のお姫様。 そのカノジョが俺とニコの間にぴょんと出てきて、イタズラっぽく桃色の唇を吊り上げる。


「ふふ。 もしかしたら、すごく似合うかもしれないよ?」


「え……ホント?」


 いやニコ。 そんなカンタンに釣られるなよ……。 しかもなんか、ちょっと嬉しそうだし。

 まさか、()る気なのか?


「いや……るーちゃん、本気で言ってる?」


「もちろん冗談」


「……」


 思わずドキッとするような、とても爽やかな笑顔だった。

 ニコは顔だけなら確かにカワイイ系だが、家の仕事の手伝いで鍛えられたニコの身体は六歳なりにそこそこガッチリとしている。

 なので、女装したらなんともビミョーなメイド君になることだろう。 ……高校の文化祭辺りだったら、いいネタになりそうだが。


「えー。 ぼく、似合わないの……?」


 そしてニコは、なぜかちょっと残念そうにしていた。

 似合えば着る気なのか。


「でも、ジャス君だったら本当に似合いそうだよね……?」


「……」


 俺よりも少し背の低いるーちゃんは、急に妖しい笑みを浮かべると、俺に身を寄せて朱い瞳で見上げてきた。

 俺の隠しごとを見透かすような、心の中に染み込んでくるような視線。 微妙にキャミソールの胸元にすき間があるのが目に映るが、俺の目はそれ以上にこの子の朱い瞳へと吸い込まれていく。


「うんっ♪ もちろん、お兄さまはすっごく――ぅんむ~!」


 すると、例のごと俺の左にいた妹様が腕にしがみつきながらトンデモないことを言いかけたので、我に返ってすぐにそのお口を塞ぐ。 やや反応が遅れて焦った……。

 しかも「お兄様」が再び!


「な、なんでもないよー?」


「……ふぅん?」


 ああ、その確信に満ちたような笑み……このコのお姉さん、リティシアさんを思い出すよ。

 あの人のことをよく知っているわけじゃないけど、だんだんと似てきているような気がする。


「んむ~♪ ん~む~む~~~~♪」


 俺がゾクゾクしているのをよそに、俺に後ろから抱きしめられて口を塞がれているセーレたんが嬉しそうにくねくねしている。

 なんで嬉しそうなんだ。 塞いでいる手を離そうとすると、その手を上から押さえて離せないようにしてくる始末。 息も少し荒いし。

 ……ちょっと、この子の将来が心配になってきた。


「うんうん、分かるよ。 動けなくされて喋れないようにもされると、ぞくぞくってするよね。

 もちろん、相手にもよるんだけど」


「んむ~♪」


 分かるのか。 しかもそれが正しいらしい証拠に、セーレたんが青い目を細めてるーちゃんにこくこくと首を縦に振っている。

 分からん……。 俺には分からん。

 というか、解ってはいけない気がする。



「えと……ぼくは着なくていいの?」


 見ると、ニコが自分を指差して首をかしげていた。 ……主役をそっちのけにして、すまない。


「着なくていい。 というか、落ちる気なのかお前は?

 そんなコトはあり得ないから、さっさと合格してこい」


「うん!」


 もう一度肩を叩く。

 でもまあ、いい感じに力が抜けたようで、なによりだ。




************



 そのときのことを思い出し、部屋が明るい空気に包まれる。

 エミーちゃんは口に手を当てて品よく笑い、テーブルの上のニアちゃんは鉛筆を両手で抱え持ったままにぱーと笑顔をこぼす。

 セーレたんは両手を胸元で合わせてまたくねくねしており――。


「ねえ、ジャス君」


「……な、なに?」


 るーちゃんはテーブル越しに、また妖しい笑みを浮かべていた。

 明るい外からの光に、ボブカットの髪と朱い瞳をキラキラさせている。


「ぼくも、見てみたいな」


「な、ナニを……」


「ふふ♪」


 言わなくても分かっているでしょ? ……という瞳。


「い、いやあ、貴殿がナニをおっしゃっているのか、(それがし)にはサッパリ……」


 その魔眼から目を逸らせて、なかば無意識に左側へと目を向けると。


「お兄さま……♪」


「……」


 ナニかを期待されている、満天の星空のように煌めく蒼い瞳。

 しまった。 とっさに左を見たのが間違いだった……。 テーブルに目を落としても、《またやるのー?》と無邪気に小首をかしげる大きな瞳があるし。


「ねえ、見せて? ジャス君の、メイドす・が・た♪」


「い、いや……」


 だんだん魔眼の力を強めてくるお姫様。 俺の耐えられる範囲内で止めてくれたけど、それでもキツイ。

 こ、ここは、我らが幼なじみーズのおっかさん的なこの人に頼るしか――!


「ふふふっ。 もう無理だと思うわよ?

 だって……」


 だが、現実は無情だった。

 エミーちゃんがドアの方に目を向けたとほぼ同時に聞こえたノックの音。

 そして、セーレたんの返事によって開けられたその先には。



「はーい! みんな、ジュース持って来たわよ♪

 もっちろん、ジャス君はお茶ね?」


 ミニスカートから出ている白い脚が眩しい、ワインレッドのメイド服に身を包んだお姉ちゃんがいた。

 そういえば、さっき飲みもののリクエストを聞きに来たんだっけ……。



「……」


 ああ、見える。 包囲殲滅される俺の姿が。

 部屋の様子を見て、手にお盆を持ったエルネちゃんが「どうしたの?」と首をかしげているその先のやり取りがどうなっていくのか、俺の並列思考が正確に予測していく。


「えっとね――」


 エミーちゃんは苦笑いを浮かべて無言でいてくれているが、るーちゃんがこの機を見逃すわけもなく。

 たとえそうでなくても、我が妹様が素直に答えないワケがない。 もしまた口を塞いだとしても、今度は物理的に塞いでも意味のない我が娘が話すことだろう。

 しかも、トドメには――。



「ほんとっ!? やったぁ♪

 これは、思いがけない誕生日プレゼントになるねっ!」



「……」


 明日、エルネちゃんの誕生日なんだよねー。

 そう言われてしまうと、俺も絶対に嫌だとは言いにくい。


「なんで、そんなに僕の女装を見たいかな……」


「ふふ。 だって、女の子の格好が似合いそうなのって、今だけじゃない?」


 髪とうさ耳を揺らし、首を傾けるキャミソール姿のるーちゃん。

 君はたとえ十年後でも、フツーに似合うと思います。


「大きくなったら、あの服が着られなくなっちゃうの~」


 うん。 セーレたんがそう言うのも正しい。 学校の特等席だって、もう少ししたらワンサイズ上にしても良さそうな感じだし。


「そうそう、今だけの特権なんだよ! それに……むふっ♪

 早く終わらせないと、ニコ君とクリムちゃんが帰ってきちゃうよ?」


「うぐっ」


 ムフフと笑うエルネちゃんに言われて時計を見ると、確かに思った以上に時間が経っていた。

 今ならまだ、ささっと終わらせてしまえば十分昼前には元に戻れるだろう。


「で、でもなあ……」


「ジャス」


 それでもためらっていると、エミーちゃんが声をかけてきた。

 ――お姉ちゃんと、よーく似た笑みを浮かべて。



「きっと、マールさんたちも喜ぶと思うから、きっとジャスが思っているよりも時間がかかると思うわよ?」



「よし女装()ろう」


 そういえば、今日マールちゃんは休みの日なんだけど、外の日射しが強いからって家でのんびりしてるんだよね……。

 親父も今日は午後には帰ってくるらしいし、目撃者は少ないに越したことはない。

 もはや、一刻の猶予も残されてはいなかった。


「やったぁ♪ じゃあ、すぐにマール先輩を呼んでくるね!」


 わーいわーいと部屋が喜びに包まれる中、エルネちゃんはお盆をテーブルに置くとすぐさま立ち上がり、座っている俺の目の前で髪とスカートをひるがえして出ていった。


《エルネちゃん、服は赤いけど――》


「ニアちゃん、言わなくていいから」


 ワザと見せようとすることはあるけど……無意識にやっちゃうくらいに嬉しかったのか。




 明日はセーレたんとエミーちゃんを誘ってお菓子でも作ろうかと思っていたが、どうやら誕生日プレゼントはコレになりそうだ。 ならばと、俺も腹を括った。

 男は女装だ! ……じゃない、度胸だ。


「着替えはここでするのよね? ……るーもセーレも、下に行こう?」


『は~い♪』


《ニアはここにいるー!》


 エミーちゃんが主導してテーブルを片づけ、二人を連れて部屋を後にする。 ニアちゃんには前にも着替えシーンを見せているから、別に構わない。


「……」


 せめて、ニコとわん子ちゃんが帰ってくるまでに終われるよう、頑張ろう。





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