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そだ☆シス  作者: Mie
学童編(春の使節祭・つづき)
425/744

391 俺がすごいと言われる理由(わけ)

挿絵(By みてみん)





 初めての著書。

 お袋達に見せたらすごく喜んでくれて、帰ってきたばかりの親父に至っては「職人に専用のケースを作らせる!」と夜遅くに街へと走っていこうとする始末。

 そんな親父をセラさんが一撃入れ、お袋が投げ飛ばし、セーレたんがにこにこするという黄金のコンビネーションで眠らせて、事なきを得た翌日の朝。


「今日もお世話になりますね」


「いえいえ、こちらこそ」


 今日も、るーくん家(ち)のエルリアさんが幼なじみーズを引率してきてくれた。 いつもわざわざ俺の部屋まで来て、俺に頭を下げてくれるのだ。

 なお親父は「ちょっと痛いなぁ」と言って首をひねりながらも、今朝もフツーに起きてきた。 相当にヤバイ角度で壁にぶつかっていたように見えたんだが……親父にとっては、その程度だったらしい。


「よろしくねっ」


 その横で、今日はエルリアさんと同じくワインレッドのメイド服を着てきたるーちゃんがぺこりとお辞儀をした。

 わずかに魔眼を開放して瞳を朱く淡く光らせるうさちゃんは、相変わらず犯罪的に可愛らしい。


「うん、よろしくなー」


 でも、パーティであったあのお姉さんに比べれば、このくらいはなんでもない。

 るーちゃんや妹のリリちゃんの魔眼はじんわりと心の中に染み込んでくるような感じだが、リティシアお姉さんのは眉間から脳の奥まで直接突き刺さるというか……抵抗する暇さえないんだよな。


「えへっ♪」


 俺が平然と挨拶を返すと、るーちゃんは嬉しそうに笑った。

 ……どっちかというと、その笑顔の方が危なかったよ。


「ジャス君、ひさしぶりー!」


「おう!」


 るーちゃんがスカートとピンクの髪をなびかせながら連結してあるテーブルに向かって歩いていき、既に座っているセーレたんの斜め横に腰を下ろすのを見送る。 そして続くニコとはお互いに片手を出してタッチを交わす。

 童顔のクセして、身体を触ってみると意外とガッチリ……というギャップを作りつつある鍛冶屋さんの次男坊は、そのタッチもなかなか力強かった。 うまいこと手のひらどうしがぶつかり、イイ音が鳴り響いた代償として手が痛くなる。

 手をプラプラ振りながら、苦笑いを向け合う。


「痛ったたたたたあ~」


「痛っつ……。 ちょっと、当たり所が良すぎたな」


「あはははー」


 でも、こんなおバカなやり取りができる男友達は貴重だ。 るーちゃんが相手では、とてもできないし。

 ニコは笑いながら、俺が座る予定の斜め横――エミーちゃんが座っている隣にあぐらをかいた。 なお、エミーちゃんの逆隣にはるーちゃんが座っている。


「わたしもたっち……」


 で、最後に立っているのはくりむちゃん。 いまだ見上げるくらいの身長差があるわんちゃんは、ミニスカートに薄いレギンスを穿いてきていた。 七歳とは思えないくらいに脚が長くてキレイだから、生脚を隠してくれているのは非常に助かるよ。

 オシリの後ろから黒くて大きなしっぽが出ていて、ふぁさりふぁさりと上下に振っている。

 くりむちゃんは可愛らしい両手を開いて、こっちに向けてきた。


「ごめん。 まだちょっと手がひりひりするから……代わりにこうな」


「あうっ」


 手を合わせるのも悪くないんだけど、俺はなんとなくわん子ちゃんの両手を握ってみた。

 軽く驚いた様子で、耳としっぽをぴくりと動かしたけど……嫌ではないようだ。 むしろ、くりむちゃんもそっと握り返してきた。

 しっぽの振り方が、さっきよりも大きくなった。


「この前は中止になっちゃったから、今日はその分も頑張ろうな」


 前回といえば精霊の日、パーティの当日だったからな。

 仕方なかったとはいえ、俺の都合で中止にしてしまったのだ。 今日はその分、授業も張り切る予定である。


「……うん」


 わん子ちゃんははにかみ笑顔を見せ、握り合った両手を上下させた。




「――で、るーちゃんのお姉さんにも会ったよ」


「へえーっ」


 勉強会を始めて、すぐの授業こそは順調だったものの。

 自習時間になった途端にニコから「お城はどうだったのー?」という質問が飛び出すと、みんなも聞きたそうにそわそわし始めたので勉強どころではなくなってしまった。


「るーのお姉さんって、確か社長なのよね?」


「うん」


 エミーちゃんからの質問に、うさ耳のいも――弟ちゃんがうなずく。 垂れ下がった耳が前後に揺れるのが、また可愛らしい。


「おねえさんって、どんな人?」


「んー」


 次にくりむちゃんが質問をすると、るーちゃんは折り曲げた人差し指を瑞々しい唇の下に当てて、首を傾けた。

 アズミーリ先生と会ったことも話したのだが、みんなにとってはさほど興味を引かれる話題ではなかったようだ。 まあ、三組のみんなにはあまり接点のない先生だもんな。

 るーちゃんは一組だけど、武術の授業では基礎組だから会わないし。


 みんなとテーブルを挟んだ反対側には私服姿のメイドちゃんズもいるが、二人はテーブルの上でノートに単語の書き取り練習をしているニアちゃんを眺めながら話を聞いているようだ。

「パパ」とか「ママ」とか「セーレ」といった家族の単語を、小さなニアちゃんにとっては丸太のように大きい鉛筆を持って一生懸命に書いている姿は、見ていて自然と頬が緩む。


「姉さまは……すごい人、かな?」


 リティシアさんも言っていたが、ラピヨーネ家女性陣の魔眼の力は、家族にさえ影響を及ぼすという。 だからだろうか、るーちゃんの返答には疑問形が混じっていた。


「すごい……?」


「うん。 すごくて、あこがれちゃうな」


 小首をかしげるわん子ちゃんに、るーちゃんは首を縦に振る。

 ところでるーちゃんよ、具体的にはどこに憧れているんだ? それが能力面を指すなら問題はないのだが、もしあの、健全っぽくありながらもちょっぴりアダルトな感じもする、とてもフレッシュなお色気とプロポーションのことを言っているのだとしたら――。

 俺は全力をもって説得しなければならんぞ。 具体的には土下座で。


「と、ところで……リティシアさんって、るーちゃんのいくつ上になるの?」


「んと、十コ……九コ上、かな」


「ふーん。 けっこう離れてるんだなー」


 って、ちょっと待て? 九つ上ということは……十五歳!? チャロちゃんの二つ下になるのか! それで大会社の社長って……。

 メイドちゃんズもビックリして顔を上げた。


「十五歳っ!?」「わたしよりも年下ですかっ!?」


「うん。 姉さまは、大学院のときから仕事のお手伝いをしていたみたい」


「手伝い」っていっても、それって会社の経営だったり商品開発だったりするんでしょ? 手伝いのレベルが違いすぎる……。

 るーちゃんのお口から淡々と語られる衝撃の内容に、幼なじみーズもさまざまなリアクションを見せていた。

 エミーちゃんは「す、すごいわね……」と目を丸くし、ニコは「ほへー」と口を開け放つ。 くりむちゃんは大きな目をパチパチさせていた。


《ふに? いったいどーしたのーっ?》


 ニアちゃんは書き取りの手を止めて大きな頭をかくんと傾けているが、それはまあ仕方のないことだろう。 というか、この子は生まれからしてそれ以上にトンでもないし。

 しかし天才って、いるところにはいるもんだなぁ。


「はあ~……」


 あまりのすごさに、俺もただただ感嘆のため息をつくばかりだ。

 ところが――。



「でも、お兄ちゃんもお仕事してるよね~?」



 我が妹様は眉一つ動かさず、透き通った蒼い瞳をまっすぐ俺に向けて微笑み、何気ない様子で言った。


『……』


 次の瞬間、部屋が沈黙に包まれた。

 みんなの視線が一斉に俺に向けられ、俺は間の抜けた声を漏らす。


「……そういえば、そうだねえ?」


 言われてみれば、俺は既に「御使い」という職業と立場を持っている。 まあ、これ自体は半分形式的なものだが。

 でも、アルヴィちゃんからもらった守護者証書(グリーンカード)には俺の触手能力に対する調査・研究が義務として課せられていて、そのための研究費兼給料ということで毎月お金をもらっている。

 それに加え、参考書の出版もするわけで……。


 俺って既に、複数の仕事を持ってることになるのか?

 仮に俺の名刺を作りでもしたら、かなりご大層な肩書きがつきそうな気がする。


「だよね~♪」


 セーレたんが嬉しそうにうなずく。

 次に、ぼーっと俺を見つめていたマールちゃんが、はっとしたように声を上げた。


「そ、そうですよ! ジャス様はニアちゃんの御使い様ですし、もうすぐご本も出される作家様でもいらっしゃるじゃないですか!」


「るー君のお姉さまもすごい方ですけど、ジャスさまはもっとすごいお方でした!」


 チャロちゃんもすぐに追い風になるようなことを言い、幼なじみーズの向けてくる視線に光が宿り始める。


「そうよね……ジャスって、もっとすごいのよね」

「わう……すごい」

「さすがジャス君だー!」


「い、いや……」


 ものすっごい尊敬されてるっぽい感じだけど、それは他の人のお膳立てだったり、「前世の記憶」という反則的なものを持っているせいなわけで……。

 決して堂々と胸を張っていいものではない、と思ってるんだけど。

 更に、セーレたんが昨日もらったばかりの参考書の完成品を棚から出してみんなに見せ始めると、その出来映えにみんながわいわい騒ぎながら俺のことを一層ほめ始める。



 まるで、俺一人だけがスゴイスゴイと言われているようで。



「……」


 みんなのくれる純粋な目差しが重く、胸に痛かった。




 ――勉強会の途中で、俺はトイレだと言ってその場を抜け出した。

 実際にトイレに行ってからリビングにいたお袋を見つけると、気がつけば俺はお袋を誰もいないリソ君の部屋に連れ出していた。


「だから、僕がすごいんじゃないんだけどな……」


 もちろん、いくら衝動的だったとはいえ前世のことは話していない。 そこのところは隠したまま、俺は柄にもなく胸の中のモヤモヤを吐き出していた。

 今はセラさんが使っているベッドの端に二人で座り、お袋は俺の言うことに相づちを打つ以外は何も言わず、ただただ静かに受け止めてくれる。


「そう。 ジャスちゃんは、そう思っているのね」


「……うん」


 ひざの上に置かれた、お袋のキレイな手に目を落とす。 その手がゆっくりと動き出し、俺の方に伸びてくるとそっと抱き寄せられた。

 お袋の温もりと匂いに包まれて安心感を覚える一方で……俺はまだまだガキなんだなぁとも思って、鼻で笑いそうになる。


「確かに。 ニアちゃんを授けてくださったのは聖母様で、本のお話もツェリさんが持って来てくださったものよね」


「うん」


 優しく頭をなでられながら、その上から春の日差しのような温かい声が注がれる。


「でも、ね?」


「……え」


「でもそれは。

 ジャスちゃんが、いつもセーレちゃんやママやみんなのことを考えて、いっぱい、いっぱい……頑張ってくれているからだと思うわ」


「……」


 頑張ってない、なんて謙遜はしたくない。

 俺は俺なりに、精一杯やっているつもりだから。



「だから、ママもみんなも、ジャスちゃんにいろいろしてあげたくなっちゃうの。


 だから……ジャスちゃんはすごいのよ~♪」



「んもぅ!?」


 優しく真剣な声色から一転、おどけるように明るい調子になって強く抱きしめられた。

 お袋のマシュマロ山脈に顔全体を押しつけられ、なんとか離してもらおうとするが……とっさに掴んだ腰も柔らかくてビックリするくらい細くて、三児の母親と思えないスタイルの良さに余計にあたふたしてしまう。


「んぐーっ!」


「ああんっ♪ くすぐったいわあ~」


「……むぐっ」


 そ、そんな声を出されたら、動くに動けないじゃないか……。


「うふふふふふ~♪」


 大人しくなった俺を、お袋はますます楽しそうに抱きしめて頭や背中をなでさする。

 深いタニマのおかげで、なんとか息こそできるものの……五感から伝わってくる何もかもが、甘くて甘くて仕方がない。

 だけど。




「ジャスちゃん。 話してくれて、ありがとうね」




「……うん」


 心臓こそ、いまだバクバクいってはいるが。

 俺の感じていた痛みは氷のように融かされ、次第に落ち着いていった。





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