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そだ☆シス  作者: Mie
学童編(春・つづき)
366/744

337 勝って負けて負けて勝って

挿絵(By みてみん)





「しかし、両方使えるとはな……。 それに、活性化はまったく分からんかった」


 自分で起き上がったレイグさんが、お尻をパンパン叩いてついた草や土を払いながら言う。


「あ、うん。 僕のは魔力が完全に中で回ってるから外に漏れないんだ」


「なんつー厄介な……」


「あはははは」


 そりゃまあ、何の前触れもなくいきなり高速機動だもんな。

 苦笑いの叔父さんに頭をぽんぽんと叩かれ、俺は観戦していたお袋達のもとに歩いて戻る。

 晴れやかな空の下、活性化の反動からくる心地よい疲労感に包まれながら歩いていくと、三方向からまた違う心地よいものに挟まれた。


「お兄ちゃあ~ん♪」


「すごいよ、ジャス!」


《すっごーーーい♪》


 左からはセーレたん、右からはエミーちゃん。 そして正面からは飛んできたニアちゃんである。

 両腕に抱きつかれて更に顔面にもくっつかれてしまい、俺は動けなくなってしまった。 特にニアちゃん、呼吸しづらい……。

 構わずにむふーっと息を吐き出すと、お腹に息が当たった我は娘がぴくぴくと震えた。


「お兄ちゃん、かっこよかったの~!」


「勝っちゃうなんて、すごいよ!」


「ありがと。 ……でもまあ、ほとんど不意打ちだけどな」


 鼻の上にニアちゃんを持ち上げ、ようやく喋れるようになった。

 初回だから勝てたけど、叔父さんがちゃんとした得物を持っていれば次からはもう通じないんだろうなあ。

 そう考えると微妙な気持ちだけど、レイグさんにちゃんとした得物を持たせられるくらいの実力はあるんだと思っておこう。


「お兄ちゃん……」


「そんなこと、ないよ」


 ほっぺに息が当たるほどの近さでくっついてくる二人。 視界の隅に二人の瞳がキラキラしているのがぼんやり見えているんだけど、どちらにも首を動かすことができない。

 近い、近いよ。


《よいしょ、よいしょ》


 なんかニアちゃんは、俺の顔面を崖に見立てたのか登り始めたし。

 でも……ハニーはともかく、最近のエミーちゃんとしては珍しいな。



「相変わらず、常識に囚われない戦い方ね……」


 俺にかけられた声に気づくと、目の前で細いあんよがぷらぷらしているその向こう側でセラさんが生温かい笑顔をしていた。

 左右の二人も後ろを振り向く。 ……セーレたん、目を閉じかけていたけど何をするつもりだったのか。


「うふふふっ。 それが、ジャスちゃんのいいところよ~♪」


 お袋は、いつも通りの女神様スマイルで俺を見つめている。 懐の深さはさすがだ。


「それにしても、動きに安心感が出てきたわね。 相手のことをよく見ているし、動きにもムダや淀みが少なくなってきたわ」


「あ、ありがと」


 そう言って、セラさんの笑みが柔らかいものに変わる。 ……さすがのご慧眼(けいがん)

 以前は奇策頼りの行き当たりばったりなところが多かったけど、並行思考で動きながらでも十分に相手の観察ができるようになったので、精神的にも楽に動けるようになった。

 特に今回のいちばんの収穫が、活性化と並行思考との相性の良さだ。

 活性化を使うと身体能力が劇的に上がるけど、その一方で頭の回転が早くなるかというと……これがそれほどでもない。 いや、なることはなるんだけど、それ以上にターボのかかった身体に振り回される傾向があるのだ。 走って曲がるだけでも一苦労。

 しかし並行思考なら、身体の制御だけなら特に問題がなかった。 気分は複座型の戦闘機乗りである。 あいはぶこんとろーる。

 そのおかげで、活性化中でも細かい動きができるようになったのだ。


「特に……活性化を使ったのは、レイグを持ち上げる瞬間だけよね?」


「う、うん」


 そこまで見抜かれてたんだ……。 木刀に魔力を込める前に、もういらないなーと思って活性化を解いてたからな。

 オン・オフがしやすくなったのも今回の大きな収穫だ。 アイドリングオフで魔力節約……非常にエコである。


「そこまで活性化を細かくコントロールできる人は、大の大人でもなかなかいないわよ。

 ……この一年で、余程のトレーニングを積んだのね」


 話しながら庭のテーブル席を立ったセラさんは、俺の前に来てしゃがむと、手を伸ばして――視線をさ迷わせて、結局俺の胸に置いた。

 ごめんセラさん。 今の俺、なでられる場所がない。

 頭の上にはニアちゃんが乗ってるし、肩は妹様とエミーちゃんが密着してるし、ほっぺは……。


「セーレちゃん、そろそろいい?」


「んぅ~……はふぅ♪」


 俺の頬から骨伝導で声を伝えてから、マイシスターはやっと顔を離してくれた。

 それと。


「いや、気持ちだけで嬉しいから」


「……」


 で、顔を赤くして目を閉じかけていたエミーちゃんも止めておく。 いや、そんな悲しそうな顔をしないでくれよ……。


「な?」


「……う、うん」


 感謝の思いを込めてできる限りの優しい笑みを浮かべてみせると、エミーちゃんは消えそうな声で返事をして顔をそむけた。


「か、勝てる気がしねぇ……」


 後ろの方で叔父さんが弱々しく呟いているのが目に入ったけど。

 いや、それは奇策で勝ちを拾った俺のセリフだから。



「――じゃあ、次はセーレちゃんの番だね」


 やっと二人が離れてくれて、俺は妹様の方を向いてその小さな肩を叩いた。

 ちなみにニアちゃんは、俺の頭の上で完全にぺたりと腰を据えてしまっている。 俺の髪を掴んで立てようとしているみたいだけど、残念ながら俺の毛はニアちゃんみたいなアンテナにはならないからね?


「うんっ!」


 悟りでも開いたような穏やかな笑みをたたえて俺の顔を見ていたハニーだったが、その言葉で我に返ったみたいに瞳の輝きを取り戻した。


「ぐぁ……そうだった!」


 頭の上で腕を交差させて伸びをしていた、叔父さんの顔が引き攣る。

 みんながテーブルの周りに集まって、もうおしまいになったような空気が流れていたけど……肝心な大トリがまだだ。


「さあ、頑張っておいで」


「うんっ♪ クレイグさん、よろしくおねがいします~」


 叔父さんにはかなりお疲れっぽいところ悪いんだけど、もうひと頑張りお願いしたい。

 セラさんはにやりと口角を上げながら、息子の背中を叩いた。


「ほら、可愛い甥と姪の頼みよ?」


「あ……お……おぅ」


 レイグさんはぎこちなくうなずき、肩を落としたまま庭の真ん中へと歩いていく。 対して、足取りの軽いセーレたんが後についていく。

 叔父さんの背中は、哀愁に満ちていた……。




 俺も密かに楽しみにしていた最終試合――試合?

 レイグさんvsセーレたんは、意外な展開を見せた。


「にゃああああ~!」


「ほっ!」


 タイミングを掴ませない急な動きからくる瞬歩や、回転を多用する変幻自在の動きで攻めまくる妹様。 とても張り切っていた。

 しかし対する叔父さんは、まるで逆に自分が挑戦者であるような真剣な目で、両手とも素手になってハニーの猛攻を受け流していた。


「はううううう~っ!」


「……見える! 見えるぞッ!」


 少し動きの固かったレイグさんは、セーレたんの動きを見て攻撃を捌いていく内、だんだんと生き生きとしてきた。 はためくスカートから不規則に飛び出してくる蹴りを、レイグさんはものともしない。

 片や妹様はツインテールをなびかせてくるくる回りながら、ちょっと必死になっているように見える。


「すごい……」


「これは意外」


 俺の右にいるエミーちゃんが驚きのため息を漏らす。

 俺もつい失礼な言葉が衝いて出てしまったが、レイグさんのは単に三戦目で身体がほぐれて油断もなくなったから……という以上の動きのキレを見せていた。

 どう見ても、レイグさんの動きは明らかに慣れていた。 ……とはいっても、テンションの高い声に反して表情に余裕はなさそうだが。


「ああああ~ん!」


「ハアッ!」


 前後左右からまとわりつこうとする小さなセーレたんを、叔父さんは受け流して大柄な自分が優位に立てる間合いを見事に保っている。 やっぱり、「解っている」動きだ。

 ところで、この人は格闘もできるのかーと思ったが、手刀の使い方からすると剣術の応用らしい。


「はあっ、はあっ……たああ~っ!」


「その手には乗らないぜぇ!」


 目まぐるしく位置や場所が変わる二人。 次々と繰り出される攻撃がお互いに当たらない様子は、息の合った殺陣(たて)でも見ているようだ。

 しかし体格差が体力差となり、ついにはセーレたんの息が切れてきた。

 何かが吹っ切れたようにテンションが上がってきたレイグさんは、新体操のリボンのように飛んでくる密かに目つぶしを狙っているらしいツインテールさえも見破ってかわし、着実に妹様の体力を削っている。

 客観的に見れば、小さな女の子に対して大の男が大人げないように感じなくもないが……そうして油断をすれば次の瞬間にどうなるかは、予想にたやすい。

 レイグさんだって受け流す合間に手刀を頻繁に振るっているんだけど、セーレたんはすべて回避してすぐ次の自分の攻撃に繋げているのだ。


「はあ、はあ……にゅわんっ!」


「おおっと!?」


 身体全体を横ではなく、縦に回転させて繰り出したかかと落としもレイグさんは腕でガードして弾き返し、後ろに空中回転して着地したセーレたんはとうとう動きが止まってしまった。


「はあ、はあ、はあ」


「……ふぅ」


 妹様は肩を上下させて息を切らしてしまったけど、叔父さんは若干息を弾ませている程度だ。 さすがに鍛えているだけある。

 やがてセーレたんが「まいりましたぁ~」と降参を宣言し、勝負アリとなった。

 大人相手に稽古しているときにはよく見かける光景ではあるんだけど……正直言って驚きだ。


「はぅ……」


「ま、よくやったよ」


 しょぼんと悲しそうに肩を落とす妹様の頭を、レイグさんはぽんぽんと優しく叩いてなでた。 うん、俺もよく頑張ったと思うぞ?

 俺はエミーちゃんと一緒に駆け寄り、二人でなでなでして健闘をたたえた。

 エミーちゃんや俺のときはソフト剣が大きなハンデになったのに対して、セーレたんはそれがなかった分ハンデは少なかったと考えていい。 というかハンデなし。

 それでほぼ互角と言っていい勝負をしたんだから、十分すぎる結果だよ。


「お、お兄ちゃあん……」


「よしよし」


《セーレちゃん、すごかったよー?》


 火照った体を受け止め、俺は優しく頭をなでなでしてあげた。 エミーちゃんは後ろからセーレたんの肩や背中を語りかけるように叩き、ニアちゃんも俺の頭の上から励ましの言葉をかける。

 ……そうしていると、叔父さんはテーブルで観戦していた家族に向かって得意げに拳を握って見せた。



「どうだ、姉貴! お袋ッ!

 俺は遂に、お袋達の武術に勝ったぜーッ!!」



「……」


 お、大人げねえ……。

 俺の胸の中でハニーが弱々しい声を上げたので、少し強めに抱きしめてあげた。

 でも、これで叔父さんの動きのキレの秘密が分かった。 きっと、小さいころから二人に稽古で翻弄されまくってたんだろう。


 とはいえ、大人げないことには変わりなく。

 堂々と言い放たれちゃったお袋とセラさんも顔を見合わせ……ため息を返した。


「レイグちゃん……」


「歳の差を考えなさいよ、まったく」


「――あ」


 今気づいた! という顔をして気まずそうにするレイグさん。

 セーレたんとの歳の差は、十歳である。




「す、すまん」


 叔父さんは、落ち込む姪に頭を下げた。


「……叔父さんは、セーレちゃんが強すぎてついつい本気になっちゃったんだよ。 ね?」


「お、おう」


 口下手な叔父さんの言葉の不足を俺が補ってあげる。

 普段は大人には勝てなくてもそうそう落ち込むことはない妹様だけど、エミーちゃんと俺が善戦した直後とあって今回は少し塞ぎ気味だ。


「お兄ちゃんは……弱いわたしを、きらいにならない?」


「なるもんか! それに、セーレちゃんはとっても強いぞ? お兄ちゃんが保証する。

 ……だから、元気を出してくれるか?」


「……うんっ! わたし、もっとがんばるっ♪」


 蒼く潤む瞳をじっと見て説得すると、ハニーの顔にようやく笑みが戻った。

 俺の周りでおろおろしていただけのレイグさんは……武術の腕はすごいけど、女の子にはとことん弱かった。


 



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