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そだ☆シス  作者: Mie
学童編(入学)
249/744

222 家族サービスは大事です

挿絵(By みてみん)





 朝の温かい太陽の光が降り注ぐ。

 いたずらっ子のような突然に吹く風は、散り始めた桜の花びらをかき回して爽やかな香りを辺りに振りまく。 花びら達は、学校帰りの子供達のように賑やかに空へと消えていき、昨日の余韻と、明日からの生活への期待をかき立てた。


「ほらセーレ、行くよ。 ……じゃあね」


「お兄ちゃん、行ってくるね~」


 エミーちゃんとセーレたんが、手を取り合って仲良くリソ君の部屋から出て行く。 俺はにっこり微笑んで手を振り、二人の後ろ姿を見送った。

 今日は風の日。 今のところは予定もなく、のんびりとした時間を過ごす。

 最近のアナさんはチャロちゃんの教育係もお役御免となり、今度は我が子と妹様の家事の先生となっている。 俺もちょこっと興味はあるんだが、出版の仕事などがあってなかなか参加できない。 今は専ら彼女達の練習台となっている。

 教えられた振るまい方に気をつけながら、自分が入れたお茶の味を気にしながらもじもじと立っている二人の様子は、いつ見ても可愛らしい。



「うふふふふっ♪ 楽しいわね~」


「おーま、おーま!」


 スライムをこねて作ったお馬さんに、お袋とリソ君が二人(またが)って部屋の中をかっぽかっぽしている。

 さすがに室内で等身大はムチャなので、前世でいうポニー以下のサイズだ。 お袋は軽く膝を曲げて、足が絨毯につかないようにしてくれていた。

 今回は練習も兼ねて、図鑑を見ながら造形にもこだわってみたけど……出来はお察しである。

 俺はフィギュア職人よりも、埴輪職人の方が向いているらしい。 室内で半透明の馬型埴輪に跨る美少女と幼児……冷静に見てみると、かなりシュールな()ヅラであった。


「ジャスちゃんも、とても上手に形を作れるようになってきたわね~」


「そうかな……って、こらこら。 食べちゃダメだってば」


「はむはむ。 おーま、おいちー♪」


 お袋にもちゃんと見えるようにと、けっこう密度を高めにしているお馬さん。 実はかなりの量を注ぎ込んで作っている。

 たてがみと呼ぶにはイマイチさらさら感の足りないそれを、弟くんは顔をなでられながらもワイルドにかじり取った。 密度が高いせいか、リソ君はご満悦である。

 少々硬いくらいでは、逆に歯ごたえが楽しくなって更に食べられてしまうだけであった。 とても歯が丈夫になってきましたよ。

 これも練習だと、俺は目を凝らしてマナの粒子を見ると、集まれ~集まれ~と念じてゆっくりとかじられたたてがみにマナを吸い寄せた。 非常にゆっくりとではあるけど、歯形が埋まっていく。


「……さすが、だな」


 でも、部屋の中に生じているマナの流れは二つ。 そのもう片方は、テーブルに畳んで置かれたハンドタオルの上に向かって渦を巻いて流れていた。

 占いの水晶玉のように、そこに鎮座するニアちゃんである。

 ヒスイのような、表面に透明感のある碧のボディ。 淡く光りを明滅させながら、我が娘は周囲のマナを集めて体内に取り込んでいる。 どうやら最近になって、自力でもある程度の食事ができるようになってきたらしい。 マナだけじゃ全然足りないみたいだけどね。

 身体をわずかに上下左右に動かしている様子が、もぐもぐと食べているように見えて可愛い。


「ニアちゃん、美味しい?」


 もちろん喋れるわけじゃないけど、見ていれば何となく分かる。

 碧の球体の表面に、雲に似たあいまいな模様が出てきて、それがもやもやと、何ともハッキリしない動きをしている。


「つまり、微妙だと。 ……あんまり味がないとか?」


 そうだと言わんばかりに、ぴかぴかと点滅するニアちゃん。 マナの味なんて、俺には想像がつかないけど。

 つるつるしているけど少し柔らかい感じのする表面をなでていると、光の色が柔らかい黄色に変わってきて点滅もしなくなる。 だけど表面の雲模様はますます増えて、雲海と化していた。


「えっと、口直しがほしいのかな?」


 なでている指先からオドを出してみると、途端に雲海が一気に晴れて全体が強く光り始める。

 そして「待ってましたー♪」とちゅーちゅー吸い取り始めた。 快感にも似たゾクゾクがかすかな脱力感と共に指先から逆流してきて、俺は背中を震わせる。

 な、なんというか……吸血鬼に血を吸われている乙女って、こんな感じなんだろうか?



「あらあら~。 リソちゃんもニアちゃんも、美味しそうね~」


「……ママはダメだよ?」


 埴輪に跨る美少女ママが(なま)めかしい手つきで、自分の腰を覆っている触手の安全ベルトを触っている。 「乙女とユニコーン」と題したいところだが、現実はあまりにかけ離れていた。

 俺がすぐに却下すると、お袋はリソ君の後ろで今度は馬のボディをなで回し始めた。


「ええ~っ? 少しくらいいいでしょう? ……ね♪」


「うっ」


 わざと子供っぽい顔を作って、おねだりしてくるお袋。 まったく母親に見えないものだから困る……。 セーレたんにおねだりされているような気分だよ。

 ちなみに触手を食べられるのは、今のところ妹様と弟くんと、お袋だけである。 特にマールちゃんは興味津々だったけど、実際に食べてもらったらかじった瞬間に気化――つまりはマナ化してしまって、体内には取り込めなかったようだ。

 それでもマールちゃんは、マナ化したのをほんのわずかに吸引できたのか、浸るように目を閉じて全身を震わせてたけど。

 まあとにかく、すぐに酔ってしまうお袋には――。


「お願いだから、ちょっとだけ~……ねっ?」


「……本当にちょっとだけ、だよ」


「ええ~♪」


 サファイアの瞳をうるうるさせるお袋の表情に負け、泣く泣くOKする。 その表情は反則だ……。

 俺は、馬の手綱の形にしている手元の触手から枝を作って、お袋の口元にみゅ~っと伸ばしていく。


「うふふふっ、ありがとう~♪ ……ぱくっ」


 すぐに先端を捕まえたお袋は、濡れた唇を開いて口の中に入れた。

 そこだけ見るとちょいエロな感じだけど、全体的には筒状のビニールの中に入ったフルーツ味のシャーベットをちゅーちゅーしているような、前世の子供時代を思い出す光景であった。 ……俺も夏場には、よく食ったもんだよ。

 見ていると、お袋はじょじょに頬をピンクに染めてうっとりとした瞳を閉じて……って、危ない危ない!


「ああっ! ……いじわるぅ」


「いや、もうダメだから」


「ダメじゃないもの~! 私、まだ酔ってませんからね~?」


 ちゅぽんと音が聞こえそうな勢いで引っこ抜くと、お袋は不満そうな上目遣いを見せてくる。

 だが明らかに酔い始めていて、それは見事なまでに酔っぱらいの言い訳であった。


「もう、ジャスちゃんにはちゅうちゅうさせてあげませんからね~?」


「ちゅーちゅー?」


 お袋はそう言って、前にいるリソ君を抱きしめてその後頭部を自前の柔らかいクッションで挟み込んだ。

 弟くんはきょとんとした顔で真上を見て、お袋を見つめている。


「いや、もう卒業してますから!」


「ふぅ~~~ん? ……リソちゃんは、まだ卒業しないわよね~♪」


「そつぎょー?」


 お袋は、抱かれて喜んでいる弟くんの頭をなでる。 少し拗ねたような顔をしていたお袋も、すぐに笑顔になった。

 ……でもね、リソ君もとっくに卒業の時期だから。 ちょっと遅くなってるだけだからね?


「わたしは、まだまだほしいんだよー!」と言ってるみたいに光るニアちゃんにご飯をあげながら、俺はお馬さんをぐるぐると歩かせていた。




 ――そして夜。

 親父も夕食前に帰ってきて、全員で食卓を囲む。 久しぶりに俺といっぱい遊べたおかげか、リソ君はもりもりと肉と野菜の炒め物を食べている。 ……その分、こぼす量も多いんだけど。


「あぐあぐあぐあぐ」


「ん? なんか、すごい勢いで食ってるな」


「ええ~、今日はジャスちゃんといっぱい遊びましたから~♪」


「うん、そうかそうか……よし、俺もいっぱい食うか!」


「うふふふふふ~♪」


 仕事疲れで少しぐったりしてた親父も、息子の食べっぷりを見て元気が出たようだ。 リソ君の横で、親父もガツガツと食べ出した。

 ちなみにお袋も、触手を食べたせいか肌のツヤがいい。


「わたしも、お兄ちゃんと遊びたかったなぁ」


「今日はいっぱい頑張ったもんなー」


 ツインテールにしたままの妹様が、俺の隣で羨ましそうに呟いた。

 今日はエミーちゃんと一緒に、チャロちゃんに見てもらいながら庭の掃除と草木の手入れをしたらしい。 俺も部屋の窓から見てたぞー?

 チャロちゃんが料理で使う、キレイな桜の花びらを集めてから残りの掃除。 肥料になるものは庭の隅に積み上げておいて、腐葉土になったものは草花を植えてあるところの土に混ぜ、水をやる。 そして、新しい花の種を植える作業もやっていたみたいだ。

 そして午後はダイニングで、アナさんに教わりながら取り込んだ洗濯物の片づけ。 セーレたんが魔導具のアイロンをかけて、それをエミーちゃんが畳んだらしい。


「よし! 今日は寝る前に、なでなでしてあげようね」


「うんっ♪」


「えっ!」「ええっ!?」


 セーレたんの頭をなでながらそう言うと、メイドちゃんズが驚いたようにこっちを見た。

 特にチャロちゃんは、耳をくたっと倒して本当に残念そうだ。

 

「なんだ? ……お前達、本当にジャスに撫でられるのが好きだなぁ」


「ええ~♪ ジャスちゃんの手でなでてもらうと、とても気分がいいのよ~」


 親父が呆れたように我が家の女性陣を見回す。 そりゃそうだろう。

 だって、ここで言ってる「寝る前のなでなで」って――触手かスライムを使ったマッサージのことなんだから。


「わたし、今日は特にガンバりましたよね……?」


「そ、そうだね……じゃあ、チャロちゃんも寝る前に体操しよ?」


「はいっ♪」


「私は……うぅ」


 仕上げのスライムマッサージが付いたヨガ、決定。

 マールちゃんが悲しそうにしてるけど、今日が本来の休みだったから一日出かけてたもんね。 今回はごめんなさい、かな?

 うーん……。



 明日からは、とうとう学校の授業が始まる。

 ……今日は俺も、チャロちゃんと一緒にヨガってから寝ようかね。


「お兄ちゃん、わたしも体操する~♪」


 うん、みんなでやろうね。





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