15 空気嫁る人
前回のあらすじ。
ベイビー ミーツ ガール。
以上。
「……エルネスタ! 何でアンタがここに……」
本当なら、手を頭の所にやりたいところなんだろうが。
俺を抱えている為、右腕を一瞬ビクッとさせただけで、深い溜息と共に頭をカクンと落とすだけに止めるアナさん。
「ふふーん♪ だって学校は秋休みだし、最近ずっとここに遊びに来れなかったんだもの。
……大丈夫よ、あの子はちゃんとお隣に預けてきてるから!」
得意満面の笑みのピースサインで答える、エルネスタと呼ばれた女の子。
恐らく……というか、間違いなくアナさんの娘さんだな。 雰囲気がよく似てるわ。
その後ろで、後から追いついたマールちゃんがとても申し訳なさそうに深々とお袋に頭を下げている。
「そういう事じゃ! ……それもあるけど……はぁー。
――――誠に申し訳ございません、セフィア様。
娘のご無礼、何卒お許しを……」
お袋の方へ振り返ると、アナさんはお袋に向かって振り向き姿勢を整えると、その場で跪いて謝罪した。
場の空気が俄に重くなる。
「ふふ……いえ、良いのですよエリアナ。 気にしないで。
エルネちゃん。 来てくれるのは嬉しいけれど……。
――レディなんですから、もっとお淑やかにいらっしゃいね~」
一見、いつも通りに微笑んでいるように見えるが、すーっと細めた目の奥に宿る光が違うお袋。
真っ直ぐに背を伸ばして立っている姿とか……気品というか貫禄? みたいなプレッシャーを感じさせる。
「…………ぁ!
も、申し訳ありませんでした! 気をつけます……」
仁王立ちしていた足を閉じると、母親に倣うように跪こうとして―― 途中でミニスカートに気付いたのだろう―― 動きを止めると、深く頭を下げる事で謝罪する女の子。
「うふふふふ……♪ ええ、許します。
――さあ~、エルネちゃん。 そんな所にいないで、こちらへ入っていらっしゃ~い♪」
いつものほわんとした笑顔を女の子とマールちゃんに向けた途端、重かった空気がふっと元に戻る。
すると、彼女も子供らしい笑みを取り戻し、軽く会釈したメイドちゃんと共に部屋へ入ってきた。
最後までぽかーんとした表情をしていたのは、幼い兄妹だけである。
……うわー。
なんか、ここが日本じゃないんだって事、改めて思い直したわ。
いつも親しげでアットホームな雰囲気を醸し出していた皆だが、それはあくまで『許されていた』からこそであり、本来であればもっと厳格な身分の差があるんだな。
それに、いくら許しているとは言っても、メイドが呼び止めようとするのも聞かず、更にノックもしないで人の部屋を開けるというのは……子供であっても、無礼にも程があると。
そこで、わざと身分差を強調して、母親は主人に謝罪して見せた訳だ。
で、お袋もそれに応えた、と。
子供の躾の為と思って。
こういった部分って、俺も成長すれば必ず引っかかる……というか、元日本人だからこそ尚更注意すべきだと思う。
直接言われたのはエルネちゃんだったけど、俺も大事な事を教わったわ。
すぐ気付いたエルネちゃんも偉いけど……。
お袋達、すげー。