155 とりゃーっ、はっぴー!
まるで銃の射撃場のような魔術練習場……まあ、用途は同じようなもんだから自然と似るんだろうけど。
まずはワクワクが止まらないセーレたんから練習開始だ。 俺は隣のブースから妹様の後ろ姿をウキウキしながらウォッチング。
「――ん。 問題なし、と」
セラさんが風の魔導具の確認をして、セーレたんにハイと手渡す。 長さは五〇〇ミリのペットボトルくらいだけど、子供用なのでグリップ部分は太くない。 持つだけなら片手でも大丈夫だろう。
それをちっちゃな両手で胸に抱えて腰を左右にくねらせながら、妹様は蒼い瞳を輝かせてセラさんを見上げている。 まさにお預け状態だ……かぁーいいなもう♪
「……それじゃあ、ここに立って?」
「はいなのっ!」
ようやく次の指示が出て、セーレたんは可愛い顔に大輪の花を咲かせた。 床に赤いタイルで引いてある線の手前に立つ。
あまりに嬉しそうなその様子に、セラさんもニヤニヤしている。 「ああもう、可愛いんだから~っ♪」って、わざとじらしてない?
「ほら、もうそろそろ落ち着きなさいなー」
「はうっ!? ……す~~~~っ。 はああぁ~~~~~~っ」
腰近くまで流れる光の髪をしっぽのように揺らす妹様。 その頭の上にぽんぽんと手を置きながら苦笑する。
セーレたんは何度か深呼吸して、いつもの落ち着きを取り戻した。
「はい、もういいわ。 それじゃあ、それをそのまま真っ直ぐ前に……あ、まだ指はつけちゃダメよ?」
肩幅に脚を開かせて、両手に持った魔導具を的に向かって構えさせる。 グリップ部分にある魔力注入口に親指を添えないのは、銃の引き金のそれと同じだ。 安全のため。
セラさんは膝や肘に服の上から手を添え、軽く曲げて力を入れすぎないように指導している。
ただ、発射時に多少の反動があるようで、しっかり握るように注意させた。 セーレたんは細かい指導に対して、ひとつひとつ無言でうなずいている。
「次は、安全カバーを左にずらして、親指を……そう。
それからゆっくり魔力を込めて。 ゆっくりよ……はい、止めて!
……ほら、先が光ったでしょ?」
チラリと俺を見たセラさんが、少し妹様から離れて見やすいようにしてくれた。 懐中電灯型の魔導具、その先の太い輪になっている部分の先端が赤く光っているのが分かる。
本来は必要のない機能だけど、入門用のそれには魔力が満たされたサインと周囲への警告の意味で、発射できる状態になると銃口に当たる先端部分が光るようになっているのだ。 その色にも意味があって、赤いのは攻撃魔術であることを表している。
「じゃあ、しっかり握って……撃っていいわよ」
「……はいっ!」
妹様が、少し緊張しているらしい声色で返事をする。 直後、赤い光が一瞬強くなり、ビクンと腕が震えるのと同時にうっすらと赤い光を纏った球状の風の渦が飛び出した! 子供の腕だと抱えるくらいだろうか、思ったよりも大きい。
セーレたんと横に立っているセラさんの髪が軽く浮き上がり、風の球がすーっと的に向かって真っ直ぐ飛んでいく。 速さは下手でボールを放ったくらいだ。
子供には遅いとは言えないスピードだけど、安全のために色もついているし離れていれば十分に避けることはできるだろう。
風の球は的の中心からやや右上に当たって散り、その場所に赤い光がアザのように灯った。 ……それは的の方の機能だ。
「うん♪ いい感じよー」
「えへへ~♪」
これでどうと言わんばかりにセラさんの方を見たセーレたんに、強くうなずいて応えた。 妹様の表情が明るくなる。
許可を与えて一人で練習し始めた妹様を見てから、セラさんはテーブルに置いてあった鞄から光の魔導具を取り出して俺の方に歩いてきた。
「次はジャス君の番ねー」
「うん!」
そして先ほどと同じように、魔導具の設定を確認する。 具体的に言うと、懐中電灯型の先端部分を外して中の魔石を見ている。
「……はい、お待たせ。 じゃあ撃ってみて……分かるわよね?」
「はーい」
にこやかに告げるお姉様。
うん、天晴れなほどに説明がないね! 見てたから分かるけどさー。
俺は魔導具を受け取って、自分のブースの赤いラインの手前に立った。
「そっちの方は反動はないから、気軽に撃っちゃっていいわー」
「ほいなー」
さっきの緊張感の欠片もなく、非常にフランクな感じで手順は進む。
立つ、構える、狙う、魔力を込める。 先端が赤く光って――ファイア!
「おおっ!?」
映画やアニメなんかとは違って、いたって静かな発射。 反動もない。
キレイなルビー色の光球はソフトボール大で、風球よりも若干速い。 直線軌道を描いて的の中心のやや下に当たったそれは最後まで音のないまま、フラッシュのように光を爆発させた。 俺の視界にまんじゅうのような残影を残し、すぐに消える。
光が赤いので、十メートルも離れれば眩しくはない。 もし直接食らっても目がチカチカする程度じゃないだろうか。
焼きついた残影もじきに消えた。
「すっげー……」
CGのようなエフェクトが目の前でリアルに起こり、思わずテンションが上がる。 おもしれーっ!
「ふふふふふふ……面白いでしょう?」
「うんっ! ……もっとやっていい?」
後ろのセラさんに振り返って聞いてみると、お袋のような笑顔でうなずいてくれた。
きっと俺も、新しいオモチャを手に入れた子供のような、無邪気な笑顔を見せていることだろう……って、まんまか。
「ええ、好きなだけ撃ちまくっていいわよー」
「やっほーい♪」
汚物は消毒だー! という、もはやお約束なセリフを実際に吐きながら撃ちまくる。 魔導具として連射速度にも限界があるようで、前世の時間換算でせいぜい毎秒一発くらいだけど。
反動がないのをイイコトに、片手で持っていろんなポーズを取ったり左右で持ち替えてみたりする。 気分はすっかりヤンマーニ。
……命中率はお察しだ。
「こら、もう……あんまり無茶なポーズはダメよ?」
「はーい!」
後ろでくすくす笑い声が聞こえてくるけど、気にしないぜー!
「お兄ちゃん、は~い♪」
「おう、交換なー! ……おっと、こうやって相手に渡そうね」
「んゃ? わかったの~」
飽きることなく延々と撃ちまくっていたが、セーレたんがやって来たので魔導具を交換する。 刃物なんかと同じように、こういう危険な物は柄の方を相手に向けて渡すのがマナーだ。
色は異なるが、デザインはあんまり変わらない二つの魔導具。 属性を表しているのか、光のは白で風のは緑色だ。
「じゃあ、またいっぱい練習しような」
「は~い♪」
お互いの手を合わせて打ち鳴らし、再びそれぞれのブースへ。
俺の手には緑色の魔導具……アレも良かったが、撃った反動を感じられるコイツも楽しみだ。
その反動の強さを確認するために、最初は両手で普通に構える。 ……なんか、適当に技名とか叫びたくなるね。
『ウィンド・ブレーカアァァァァァァーーーーーーゥッ!!』
フィラスタ語ではなんか雰囲気が出ないので、英語で叫んでみた。 なお「上着じゃねぇか!」というツッコミは受け付ける。 俺もそう思ったし。
先が赤く光って風球が飛び出し、その大きさはなかなか迫力がある。 前髪がぶわっと持ち上がった。
だけど反動は意外に軽く、空のペットボトルを上に放ってキャッチするくらいしかない。 それでも子供の腕力だとわずかにブレるが。
決して遅いわけじゃないんだけど……光球に比べるとやっぱり遅く感じるスピードで飛んでいき、的に当たった。 慣れてきたのでほぼ中心だ。
「……ふむ、いいね」
当然ながら光よりも重量を感じるので、よりリアルな手応えが心地良い。 前のがオモチャのレーザーガンとすると、こっちはガス銃か?
似ているようで、全然違う楽しさがある。
「ダーン、ダーン、ダアアァァァァァーーーーン!!」
光球と同じくらいの連射速度で、次々と撃ちまくる。 さすがに前みたいな無茶なアクションは怖くてできないが、しっかり持てば片手でも大丈夫だ。
両手でしっかり撃つのがベストだけど、実戦だとそんな余裕はないだろう。 フェンシングスタイルでやってみるとやっぱりミリ単位でブレてしまい、光よりも狙いがずれやすい。 その分は球の大きさでカバーする形になる。
本物の銃はもちろん撃ったことないけど……これでこんなに難しいなら、マグナムなんて到底当たる気がしないな。 それ以前に反動で吹っ飛ぶだろうが。
俺とセーレたんは時間の経つのも忘れ、また何度か魔導具も交換してひたすら撃ちまくった。
果たして俺達は、一体何発撃ったのだろう? 二人合わせて四ケタは確実にいってると思う。
それは昼をとっくに過ぎて、セラさんにストップをかけられるまで続いたのだった。
すっごく楽しかったけど、疲れた……。
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可愛くて優秀すぎる私の孫達が、覚えたばかりの戦闘用魔導具を撃ち続けている。
設置されている時計を見ると、もう六時前――始めてから、かれこれ二時が経っていた。
「はあ……」
すっごく楽しそうなのはいいんだけど、とんでもない集中力と魔力量ね。
出力と連射速度の限界など、いろいろ試しながら二人は休みなく夢中になって撃ち続けている。 消えてはまたすぐに作られる、命中を示す的の赤い斑点も、今はほとんど中心ばかり。
更にはジャス君だけでなくセーレちゃんも構え方をあれこれと試すようになったが、それでも後ろから見ていて不安感は全くない。 これなら、実戦でも同じように使うことができるだろう。
リミッターを外してあげられるようになる日は、思っていたよりもずっと早くなるのは間違いないわね。
学力についても、今まで見た限りは既に初等学校二学年レベルかそれ以上あるだろう。
本当に、これから先が楽しみな子達だわ。 特にジャス君は……どう成長するのか、見当もつかない。
「よく続きますね……」
「そうねぇ」
後ろから職員の男性に話しかけられる。 もう四回か五回目になるから振り返らなくても分かる。
今まで他の利用者や職員の方がちらほらと見物に来ていたが、皆最初は驚くものの、それはやがて溜息に変わっていった。 この男性もその一人だ。 もはやコメントする事は何もないみたい。
「申し訳ないんですけど、もうすぐ閉めますので」
「あ、そうだったわね……ごめんなさい」
既に他に人気のなくなった練習場。
私達もそろそろ帰るべく、今だ撃ち続けている孫達に声をかけた。
……チャロちゃんが朝のうちに用意してくれていたタルトは、明日のおやつに持ち越しね。




