番外編3 セーレ、悪の道をひた走る
今回のお話は、 エイプリルフール的なネタです。
本編とは関係ありません……たぶん。
あ、あたいの名前はセレスティア。 家の中じゃあ、いい子のセーレたんで通っている人気者さ。
だがしか~し! それはあくまで表の顔。 裏のあたいは、この家を恐怖のズンドコに陥れるアクマなのさっ!
今日もこのあたいが、いっぱい悪いことをしてみんなを困らせてあげるんだからねっ。
――たとえ冬でも、あたいの朝は早い。
あたいの悪の活動は、お空が明るくなり始める前から始まるのだ。 夜討ち朝駆けは奇襲の基本だって、おにぃが言ってたもんね♪
あたいは眠い目を擦りながら、寒いのをガマンしていっしょうけんめい起きるのさ。
「ふわぁぁぁ~っ」
隣にはあたいのおにぃが、すごくかっこい……こほん、まぬけなお顔で眠っている。 いい気味だ!
あたいは、そのすてき……くない、おバカなお顔をじ~っと見てみる。
「……」
「くー」
「……」
「すー」
……はっ!? あ、あたい、いつの間にか見とれ……じゃない!
えっと、えっと……よく眠っていやがるぜ! いい夢見ろよ! で、できれば、セーレの……♪
「ぶるんぶるん」
い、いけない。 このままでは時間が過ぎるばかりだ。 さすがはおにぃ、その寝顔さえ凶器になるなんて……。
あたいは隣のおにぃを起こさないように気をつけながら、ゆっくりとベッドを降りる。 あんたとの決着は後回しだ。
朝はすっごく寒いんだから、首から下を冷やしてカゼを引かないように、ちゃんと毛布をかぶって待ってろよっ!
「しゃ、しゃむい……こわい……」
魔導具のカイロでお手々をあっためながら、あたいは寒くて暗い廊下に出て、こっそり階段を下りる。
キシキシって、ほんのちょっとだけ木の階段のきしむ音が聞こえる。 こ、怖くなんて、ないんだからねっ!
これがウワサの『ウグイスバリィ』なのね……でも、あたいにかかれば、こんなトラップなんてへっちゃらだもん!
「ほっ」
果てしなく長い道のりを経て、あたいはリビングにたどり着いた。 いつも明るくてあったかいこの部屋も、まさに火の消えたように暗くて冷たくなっている。
「……くすん」
あたいだけを残して、みんながいなくなっちゃったのを想像したら、さび……な、なんでか分かんないけど、目から水が出そうになっちゃった。
な、泣いてなんか、ないもん! ……お、お空がちょっとだけ明るくなってきてるから、急がないと。
目的地はさらに奥のキッチン。 リビングのイスを引きずりながら行ってみると、コンロの上には大きなお鍋が置いてあった。 しめしめ。
イスをコンロの前に置いて、よいしょと上って中をのぞき込む。 暗くて見えないので光の球を出すと、鍋の中に鳥さんのお肉が入っていてお水が黄色っぽくなっていた。
「えへへへへ~」
きっと今日の朝ご飯は、鳥さんのおダシのきいたスープに違いない! 朝ご飯のメインディッシュの情報は、このあたいがいただいたぜ! 早く食べたいな~。
情報を制する者は世界を制するって、おにぃも言ってたし……これで、今日のお当番のマールちゃんは完全にあたいに負けた。 あとは、おいしくいただくだけだ。
「うんしょ」
イスをまた引きずって、あたいはその足でキッチンの隅へ。
そこの壁は赤いレンガになっていて、足元にはまっ黒で四角い穴が空いている。 暖炉だ。
「ふふふふふ~」
あたいはすかさず暖炉の前にイスを置くと、また上って暖炉に魔力を入れるところに手をつける。 そして、あたいの魔力を入れ始めた。
暖炉はいっぱい魔力を使うって聞いてたけど、あたいの魔力だったら全然へーきだもん♪ ちょっとだけ疲れるけど。
「できたぁ」
下の四角い穴から、赤い光が漏れてきているのを確認する。 しばらくしたら、このキッチンと、ママとリソ君の居るお部屋と、今日はいないけどパパとママの寝ているお部屋と、それからセーレとおにぃのお部屋があったかくなるハズ。
これで、チャロちゃんの朝一番のお仕事がなくなったぜ! せっかく早く起きたのにすることがなくて『サンモンの得』じゃなくなっちゃうのだ。 もう一回寝ちゃえ~!
ああ……あたいって、なんて悪い子なんだろう♪ 悪すぎて怖いっ。
「……あっ」
おおっと、お空がまたちょっと明るくなってる。 早くお部屋に戻らないと。
あたいはイスをリビングに戻して、そ~っと二階のお部屋に戻った。
「ぅぅん……」
「おにぃ、よく寝てるの~」
こっそりベッドに上がると、おにぃはまだよく寝ていた。 あたいがどんなことをしてたかなんて、知りもしないで。
……そしてあたいは、最後の仕上げに入る。
「くー」
「……」
のんきに寝ているお、おにぃのお顔。 ま、ま、まぬけ過ぎて、おムネがどきどきする……。
こんなお顔……チャロちゃんにも、マールちゃんにも、ママにだって、見せてあげないんだから。
「すー」
「おにぃ……」
あたいはおにぃのお顔に近づいて、その寝顔をあたいだけのモノにした。
**********
――何か、温かいものが唇に触れたような気がして、俺の意識が暗い底からゆっくりと浮かび上がってくる。
なんか、ついさっきまで変な夢を見ていたような気がするんだが……思い出せない。 ま、いっか。
肌に感じる空気に刺すような鋭さはなく、かすかに暖かい。 最近の朝はすっかり冷え込んでいたのに、珍しいな。
「んん……」
まぶたに感じる光はごくわずか。 重さに逆らって目を開けると、ぼやけた視界に笑顔いっぱいのセーレたんの顔が映った。
先に起きてるなんて、珍しいな。
「あっ♪ おはよう、おにぃ!」
「うん、おはよ」
俺が起きたのに気づくと、その笑顔が更にあふれ出した。 毛布から手を出してほっぺを触ってみると、赤みがかっている割にはちょっと冷たい。
いつから俺の顔を見てたんだろう? ……というか、俺の寝顔なんか見てて楽しいか?
「えへへへ~、ひゃあん♪」
「ほれほれー、ほっぺ冷たいぞ~」
もう片手も出して、両手でほっぺを擦りまくる。 ちょっと面白い顔になってるが、擦っているとだんだん温かくなってきた。
「んみゃふわむあう~」
「あはは」
「ふにゅう~」
「……ほら、寒いからもうちょっと中に入りな」
「うんっ」
面白い顔と心地良い柔らかさを堪能してから手を離すと、毛布を開けて妹様を中に入れる。 お腹にカイロを入れていたとはいえ、その身体はすっかり冷たくなっていた。
つーかカイロまで用意して、いつから起きてたんだか……。
「こらセーレちゃん、すっごい冷たくなってるぞ~」
「ふぁああぁぁぁあぁ~」
毛布に包んで、更に腕や背中などを擦って全身を温めてやる。
「また風邪を引いたらどうするんだ……気をつけるんだよ?」
「うん」
「よしよし」
「えへ~」
しばらくじゃれて遊んでいると、ノックの音がしてマールちゃんが入ってきた。
「おはようございます――あら、お二人とも起きてらっしゃったんですね……」
「うん、おはよー」
「おはよ~なの♪」
何故か、少し残念そうな顔をしているマールちゃん。
それとは対照的に、セーレたんは終始ご機嫌だった。




