12 やっとタイトルらしい事を
暑さのピークは過ぎたが、まだ残暑厳しい昼下がり。
白いシーツの四角いジャングルで対峙するは、可愛い子猫と、猫の皮を被ったヘンタイ。
他には誰もいない。 観客も……レフェリーさえも。
ルール無用の、闇のデスマッチである。
一方は鼻息荒く眼をギラつかせ、もう一方はただじっと様子を窺っている。
両者の間に一陣の微風が吹き抜けるが、どちらも動かない。
……頬を一筋の汗が流れ、伝い落ちる。
そして、一瞬にも無限のようにも思える刻が過ぎてゆく。
遂に片方が、獣のように身を屈め、地を這うが如く一歩を踏み出した!
迎え撃つ側は一見ノーガードのように見えるが、果たして。
――戦いの火蓋は、切って落とされた。
ちょ……待てよ!?
なんだこの描写は! なんで殺し合いみたくなってんだ!?!?
つーか、「猫の皮を被ったヘンタイ」って何だよ!!!?
誰がウマイこと言えと。 しかもルビまで振りやがって……。
こんな紳士を捕まえておいて、失敬だなキミ!
っておい!? またルビ振るなぁーー!!??
とまあ、くだらない一人芝居はこのくらいにしておいて……。
俺が何をしようとしているか、というと。
遂に妹を教え導く時が来た、という事である!!
フン、もう俺は突っ込まんぞ。
……無意識に一人漫才してしまう俺が虚しいや。
今までの修行の成果により、ようやく妹様にも身体の動かし方教えてあげられるようになったので。
今日から俺が、セーレたんを手取り足取り教えていこう、という事なのですよ。
気分は理学療法士である。 リウマチかっ!
……。
さて、取り敢えず最初の目標としては……。
妹に初めて喋ってもらう言葉は『おにぃ~たん♪』である!
一生の思い出となる妹の「はじめて」は、俺が美味しくいただく!!
……うむ、我ながら危険な言い回しである事は承知しているが、わざとなのでこれは譲れない。
だがしかし、最初の言葉としては少々難しくなかろうか……?
――おぉ、そうだ!
もっと簡単で良いフレーズがあるではないか!!
『にーにー』
これだっ!!
幼児語として、難易度も適当ではないか。
そんな風に呼んでもらえた日には――――。
『リアルにーにーキターーーーーーーーーーー!!!』
と叫びながら、庭に飛び出してモーレツな勢いで金属バットを振り始めること請け合いである。
当然、Aの逆さまの顔文字付きで、だ。
……俺の初めての言葉が、ソレにならないように気をつけねば。
さすがにそんな「初めて」は嫌すぎる。 黒歴史確定である。
俺の「初めて」は、セーレたんに捧げると決めているのだ!
さーてと、そろそろ始めますか!