10 第三者接近遭遇
春はあけぼの。
今日も今日とて手足の運動。 そして同時に発声練習。
うむ……まるで、アイドルの卵のようではないですか。
全国の高校生プロデューサーさん、ここにイイコがいますぜ。
おひとつ、いかがですかい?
……それにしても、俺は生まれてどれくらい経ったんだろうね?
ほとんど寝てるから分からん。
あと、トレーニングの効果って本当にあるのだろうか?
隣の妹様と比べて、まあ確かに動きや声の出し方は多少違うような気はする……。
俺にハッキリとした意識があるせいもあるだろうが。
妹様が転生チートなのかどうかはまだ分からないが、妹を教え導ける兄になる為には、妹に負けないようにリードし続けなければいけないのだ。
追い抜かれてしまったらダメ兄貴になる。
『もうっ! お兄ちゃんったら、仕方ないんだからぁ……』
『そ、そんなんじゃあ…私、いつまで経ってもお嫁に行けないじゃない……♪』
『……ち、違うもんっ!?
私、こう見えてけっこうモテるんだからねっ!!』
『お兄ちゃんさえしっかりしてくれれば、すぐにでも結婚できちゃうんだからっ!!!』
『だ、だから……ね、お兄ちゃん。』
『ずっと、そのままのお兄ちゃんでいてね…………。』
――――ぐはああぁぁぁっっっっ!!!!!!
ヤ、ヤバイ。 妹ヤバイよ。 まじでヤバイよ。
しかもツンデレとか、マジヤバイ。
萌えっぷりが酷い、もう酷いなんてもんじゃない。 超酷い。
『それもアリじゃね!?』とか、一瞬本気で思ったぞ……。
――だ、だが、それではダメだ。
妹、一生結婚しなくなりそうそうだし。
妹を本当に幸せにするという意味では―― これはこれで幸せそうだが―― 違うと思う。
妹の足枷になるような兄貴ではダメなのだ!
――ま、これは第二希望という事にしよー♪
と、俺が相変わらずアホな妄想大スペクタクルを繰り広げていたら――――
コンコン。
馴染みのないノックの叩き方に、ふと目をドアの方にやってみる。
「おはよーーございまーーーーす……」
すると、何故かウィスパーボイスで、一人の青年がドアを開け覗き込んできた。
……懐かしの寝起きドッキリか?
*********
今日も夜勤明けで遅くなってしまった……。
時間は昼夜を問わず、また規律は厳しい。
任務は常に困難を極める。
しかし、とても名誉ある仕事なのだ。
誇りにこそ思えど、不満なんぞ有る筈もない。
だが……矢張り、愛しい我が子らになかなか会えないのは寂しいものだ……。
*********
ドアの隙間から覗く目と、俺の目が合う。
目を見開き硬直する青年と俺の視線が交わる時、男達の物語が――。
「……ぉ」
「ぉ?」
「……ぉぉぉ」
「ぉぉぉ?」
「ぉおおおおおオオオオオオオオーーーーーーーーーっ!!!??」
ビクッ!「おおぉ!?」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「……ぅぉお!!??」
びくっ!「ふぇ…………!」
な、なんだ!? 変身か? 変身でもするのか!?
つーか俺達『お』しか言ってねぇ! なんだこの会話!?
しかも急に叫ぶんじゃない!!
妹がビックリして起きちゃったではないか! つーか涙目!?
更にドアを蹴破らん勢いで飛び込んで来るっ!?
しかも動きがスムーズだ!! 無駄がない!
慣れてるのかっ?
どこかの連邦捜査官なのかっ!!??
「おおお……会いたかったぞぉ!! 二人ともーーーーーーっ!!」
――――がしっ!!
「ぉああああああーーーー!?!?!?」
「ぅやっ!? ……ふぇぇえええぇえぇえええ~~~~~~~~~~~ん!!!」
内心で怒濤のツッコミを入れながら大混乱する中、妹と一緒に捕獲、抱き上げられてブンブン振り回される俺。
とうとう泣き始めた妹様。
「……なっ!? だ、旦那様っ!!? どどどどうされたんですかっ!?!?」
「うわっ! ……旦那さま、ゴランシンですかー?」
「あら、あなた~? お帰りなさ~い♪」
騒ぎを聞きつけ、駆け込んできたメイドちゃんズ&お袋。
俺達を抱え上げて、ふしぎな踊りを踊る男。
それを見て慌てふためくメイドちゃんズ。
のほほんと見つめているお袋。
――何だ、このカオス。
これが、親父との三度目の邂逅であった。
……結局混乱はなかなか収まらず、その日も親父の名前は聞けなかったとさ。
追伸。
親父はその後、出勤してきた乳母さんに。
『いい年齢した大の大人が、何朝っぱらから大騒ぎしてんの!!
近所迷惑でしょうがっ!!』
――と、正座で説教されていた。
親父ェ~……。
おしまい。