0 天使達の微睡み
開いていただき、ありがとうございます。
書籍版は完全リメイク、こちらは連載当初のオリジナル版そのままです。
(書籍版・1巻の試し読みはこちら→ http://seiga.nicovideo.jp/book/series/171497?track=watch_page_341280_upper)
作者の成長の跡がうかがえるかと……。(^_^;)
――春の暖かな日差しが降り注ぐ。
静かな部屋の中に、赤ん坊の高く小さな笑い声が響いていた。
長身の成人男性二人分はあるだろうか、高く白い天井には染みひとつなく。
南の壁には大きな透明のガラス窓。 掃除は細かい所まで行き届いており、埃や指紋は一切見当たらない。
内側に少しだけ開けられた窓から、暖かな微風が室内に吹き込むと、窓を覆う白いレースのカーテンがゆらゆらと揺れる。
窓のすぐ外には、瑞々しい青葉を茂らせる木が一本。
風が吹くたびに動く葉っぱやカーテンが、窓ガラスを通る午後の陽光を通したり、さえぎったり。
すると、白い壁やベージュ色の毛深い絨毯の上に、複雑な陰影を描く。 それに赤ん坊の声が重なり、まるで光と影の妖精達が楽しげに歌い踊っているかのようだ。
室内には本棚や大小様々なぬいぐるみ、ソファー等があるが、それでも全く窮屈さを感じない程に広い。
そして部屋の中央には、通常の倍はあろうかという大きさの、特注ベビーベッド。
柔らかく白いシーツの上には、その声の主である二人の赤ん坊が仲良く並んで寝かされていた。
ほぼ同じ大きさの身体に、よく似た顔立ち。 浮かべる笑顔は無邪気で、とても可愛らしい。
生まれてさほど日数は経っていない様子だが、それでも整った容貌は将来の美しい成長を期待できるだろう。
非常によく似た所の多い二人。 しかし、髪と瞳の色は対照的である。
金髪に蒼い瞳と、銀髪に翠の瞳。
金髪の赤ん坊が銀髪の子の手を取って、きゃっきゃと笑っている。
一方で、銀髪の子は大人しく手を取られたまま、静かに笑みを浮かべている。
もしも、この姿を名のある画家が描いたならば、きっとこのようなタイトルを付けたことだろう。
――『天使達の微睡み』と。
「お坊ちゃま、お嬢様、失礼致します……あら」
部屋のドアがほとんど音もなく開かれると、落ち着いた雰囲気の少女が顔を覗かせた。
頭には白いホワイトブリム、そして身を包んでいるのは紺色と白のエプロンドレス。
使用人服に身を包む少女は中に入ることなく脚を止め、その光景を見ると同時にふっと頬を緩ませた。
「ふふふっ。 お坊ちゃまたら、もう立派なお兄様になられて。
お嬢様も、とても嬉しそうにされて。
せっかくの兄妹水入らず、お起こししてはいけませんね……また後ほど伺いましょう」
再び静かにドアを閉じる。
かちゃりと完全に閉まるまで、赤ちゃんの笑い声が彼女の耳をくすぐっていた。
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うっはーーーーーっ!?
い、今のは誰だ……って、あ、アレ? 声が出ないぞー? なんでだ? なんで?
つーか、身体も動かないって、どういうコト? ねぇ、ちょっと。 ねえ? 誰かー。
何なんだよ、この状況ぉぉぉおおおーーーーっ!?
……いや、ね。 なんかもう、ワケ分かんねぇって! 何なのよ、もうっ!!
笑うか? なあ、笑う? もうこれ、笑うしかないよな?
うはははははははーーーーーっ♪ って。
ワケ分かんねぇぇぇぇえええええーーーーーっ!!
*********
――銀髪の天使は、目を限界まで見開いて声なき叫び声を上げた。