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魔王少女と呼吸の生徒会  作者: インク


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07

 少女が少女に口づけをしている。

 それがどこか神秘的な儀式のように映ったのは、僕が少女ではないからだろうか。

 唇を合わせた二人は、どちらも動く気配がない。

 魔王が少しだけ顔の向きを変えた。唇の感触を楽しんでいるようにも見える。

 もう一度、魔王は顔の向きを変えた。相手に烙印を押しているようにも見える。

 それからゆっくりと魔王は村娘から唇を離した。

 口は少し開いたまま、ゆっくりとまぶたを開けていく。

 魔王は人さし指で自分の唇を拭うと、その指をそのまま村娘の唇に運んで、少女にも同じことをした。

 その一つ一つの動きが、嫌になるくらい美しかった。

 村瀬は唇を奪われた瞬間からずっと、大きな瞳を見開いたまま固まっていた。

 茫然自失なんて言葉はこの少女のために作られたのではないかと思えるほど、茫然としたまま自分を失っていた。

「……な」少女の口から微かに声がこぼれる。「な……なに……を……するんですか……生徒かいちょう……」

 文字の欠片を必死で集めながら、何とか言葉にしている。そんな声だった。

「やだ……わたし……女の人にキス、された……はじめてだったのに……わたしのはじめて、せんぱいに……もらってほしかったのに……」

 すぐそばにいるのに、村瀬が何を言っているのか僕の耳には届いてこない。かすれた声で目からは涙をこぼしている。相当ショックだったのは考えるまでもない。

 これはもう悪ふざけで許される範囲をこえている。

「生徒会長、いくらなんでもやりすぎです。村瀬にあやまって下さい」

「どうして?」あっけらかんと彼女は言った。「ここにそんなことは書いてないわよ」

 ゲーム画面を見せつけてきた。

『まおう の こうげき まおう は むらむすめ を りょうじょく した』

 よかったですね。大成功ですよ。クラッカーでも鳴らしましょうか?

 喉の奥からあふれてくる皮肉をなんとか飲み込んで、「とにかく早く村瀬にあやまって下さい」と語気を強めた。

「……わかったわよ」

 つまらなそうに鼻から息をもらして、生徒会長は村瀬に歩み寄った。

「村瀬さん」

 魔王は泣きじゃくっている村娘と向き合った。

 そして再び少女の唇を奪った。

「──な」それ以外の言葉が出てこなかった。

 村瀬は何が起きたのか理解できない様子で、目を()いている。

 また唇を奪った。しかも今度の魔王はそこで終わらなかった。

 唇を合わせたまま、右手は少女のスクールシャツの上から胸を掴んでいる。

 左手はプリーツスカートの上から強引にその先を押さえている。

 単純に、それは(はずかし)めだった。

 魔王が村娘を陵辱していた。

 村瀬は強くまぶたを閉じて必死に何かに抵抗しているようだった。

 僕はそれを黙って見つめていた。

『たすける』という選択肢は浮かんですらこなかった。

 たぶん見ていたかったのだろう。

 まるで目で味わうシロップのような、どうしようもなく甘美な光景を。

「もうやめて下さい!」

 村瀬が両手で生徒会長を突き飛ばした。

 離れていく二人の口から光をまとった線が伸びて、すぐに消えた。

 勢いで二、三歩後退した生徒会長に村瀬が勢いよく近づいて、手のひらを彼女の頬にぶつけた。肌を打つ音が生徒会室に響いた。

「いい加減にして下さい!」

 それから村瀬は僕の胸に飛び込んで声をあげて泣いた。

「助けて下さい先輩。会長おかしいですよ。私、女の人と──そういう興味なんてありませんから」

 残念ながら、たぶん生徒会長も同性に性的な興味は持ち合わせていない気がする。

 彼女はただ、ゲームに忠実なだけなのだ。

 メッセージに少女を陵辱しろと書いてあったから、それを実行したにすぎない。

 仮に、魔王は村娘に勉強を教えたと表示されていれば、今ごろ村瀬は一つ賢くなっていたことだろう。

 問題はなぜ生徒会長がここまでゲームにこだわっているのかということだ。

 正直、見当がつかない。

 そして黙って襲われている姿を見ていただけの卑怯者の僕は、生意気にも助けを求めてしがみついてきた少女の肩を静かに抱いているのだった。

「何もぶたなくてもいいのに」

 叩かれた頬をさすりながら、こっちに向かってくる。

 村瀬は悲鳴を上げて、僕の背中に回った。完全に怯えている。無理もない。

「あらあら、嫌われちゃったわね」

「あたりまえですよ。何考えてるんですか」

 すると彼女は何やら思考を巡らせる素振りを見せたので、もしかしたら謝罪の言葉でも考えてくれているのかと思った。

 もちろん、そんなわけなかった。

「ねえ、村瀬さん」

 生徒会長は僕の背中で震えている少女に向かって語りはじめた。

「そこにいると危険よ」

 村瀬は聞く耳を持たない。

 僕はその言葉の意味を考えた。

「私がどうしてあなたにあんな酷いことをしたかわかる?」

 僕は考えた。わからなかった。

「あのね、あなたが今しがみついてるその人に命令されてやったことなの」

「──は?」

 想像を絶する言葉が飛んできて、僕は声を上げた。

「ふざけないで下さい!」

 間髪入れず僕の背中から村瀬の声が飛ぶ。

「先輩が──先輩がそんなことするわけないじゃないですか! 先輩にそんなこと言うのは許しませんよ!」

 自分が陵辱されたことよりも、僕が侮辱されたことのほうが許せないといった勢いだ。

「あらあら、きみって慕われてるのね」

 うらやましいわ、という目で彼女は僕に微笑みかける。そして何かを思い出したように両手を鳴らす。

「ああ、そうか。そういえばあなたはあの事故で彼から命を助けてもらってたのよね」

「そうですよ。私だけじゃありません。あの事故で何人もの人が先輩から命を救われたんです。先輩はみんなのヒーローです」

 僕を間に挟んで、二人の会話はつづく。すぐ耳元で自分を賞賛する言葉を叫ばれ、どこかこそばゆい。

「そうね、それは否定しないわ。彼はみんなのヒーローよ。でもヒーローだってあやまちはおかすものよ」

「そんなことはありません」即座に否定する。

「どうかしらねえ」

「思わせぶりないい方はやめて下さい。証拠もないくせに」

「証拠ならあるわよ」

「……え?」

「……え?」

 僕と村瀬が同時に、同じ声をこぼした。

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