彼の新年会
◇
日辻さんも参加の新年会だ!
俺はこの日を待っていた!
車は会社に置いたまま、魚柾へと歩く。
営業の面々は金曜日の残業が多い。
開始は7時半だが4分の1は遅れるだろう。
俺はぎりぎり間に合いそうだ。
魚柾に着くと予想通り、営業が4分の1ほど来ていない。
課長と主任は来ているので、時間になったら始まる。
待っていたらいつになるかわからないし、店にも迷惑がかかるからだ。
女性社員がビールを全員についでまわり、課長の乾杯で宴会が始まる。
酒好きが多いのか宴会好きが多いのか、本当に強い人以外、最終的には皆べろんべろんだ。
乾杯のビールを飲んだら早速日本酒に入る。
いつもならビールばっかりなのだが、この店の日本酒は良い品揃えと評判なのだ。
飲まなきゃ損だろ。
果実酒やカクテルも充実しているので、女性はそちらをメインに飲むようだ。
日辻さんも果実酒を飲んでいる。
日辻さんてロックグラスが似合うよなぁ。
こっそりうっとりしていると、隣に江藤さんがやって来た。
あああ捕まったorz
「ふふ、飲んでますぅ?」
「飲んでるよ」
日本酒のグラスを掲げる。
江藤さんがやって来たことで謀らずともこの前のメンバーが揃ってしまった。
江藤さんは要らん。
「美味しいですねー」
「そうだね」
小鉢、御造り、串もの、どれも旨い。
次いで揚げ物、茶碗蒸しがやって来た。
お、天ぷら8種類もある。豪華だ。
キスと大葉、好きなんだよね。
「若、」
「はいはい」
日辻さんが刑部から海老と茄子を受け取る。
「海老と茄子、好きなの?」
「海老は好物ですけどねー、茄子は若が嫌いなだけで」
もぐもぐと美味しそうに咀嚼している。
「この塩うまー」
天プラには塩が添えられており、天つゆと好きな方を使えるようになっている。
日辻さんは塩派か。
と思ったら茄子は天つゆらしい。
「ねぇ貫田さぁん、彼女とゆりな、どっちがかわい?」
一人称変わってるし、しな垂れかかって来るし、酔っぱらってる?
胸当たってるよー。
ま、俺おっぱい星人じゃないけどね!尻派でもなく脚派だし!
「ははは、そりゃあ彼女に決まってるでしょ。江藤さんもかわいいけど、彼女には愛があるし、欲目っていうか」
「ぶぅ」
唇を尖らせて、腕をぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
俺は脚派です。大事なことなので2度言いました。あ、古いか?
こんな俺らの遣り取りを冷めた目で見てる刑部。
日辻さんは無表情なのでわからない。
あーあーあー呆れられてたらどーしよ。
江藤さん一生恨む。
「ゆりな、酔っぱらいすぎよ。お水のむ?」
「だーいじょうぶぅ!ねーぇ、ゆりな、二次会は貫田さんのおうちに行きたいなぁ」
甘えるように上目遣いで。
刑部の目がますます冷たい。
俺にというより、江藤さんに?
「ちょっとゆりな・・・」
「あ、でもあたしも貫田さんの家、興味あります」
「え?」
「前に主任に聞いたんです。貫田さんの家って彼女の趣味全開だって」
「ああ、そういうこと。そうだよ、彼女が何か色々作るの好きみたいで」
「いいなぁ、見てみたい」
「いつでも見に来れば良いよ。会社の人間割と来るし」
「じゃあ今日、行きましょー!」
江藤さんが日辻さんを誘う。
日辻さんが一人で来るなんてありえないから、江藤さんがいると本当に来るかも。
「えーと、貫田さんの都合が悪くないなら、是非」
っしゃ、きたぁ!しかも笑ったし!
「大丈夫、大丈夫。山下さんと刑部も来るよね?」
江藤さんと日辻さんだけだと、確実に江藤さんだけ残る気がするし。
「ゆりなの面倒みないとだし、お邪魔するわ」
「はぁ・・・仕方ないですよね・・・」
刑部がうんざりと江藤さんを見る。
空気読んでくれてありがとう、刑部・・・。
◇
帰りにコンビニに寄り、適当にアルコールやつまみを買う。
最後の釜めしが結構来たので軽いものにする。
大半が釜めしまで行き着いてなかったのに、日辻さんは軽く2杯は食べていた。
酒も割と飲んでたのにけろりとしてるんだからすごいよなぁ。
俺の部屋は店から徒歩で10分ちょっとのマンションだ。
ストーカー防止のためにセキュリティ万全のところにしてある。
その3階の真ん中あたりに俺の部屋。
「どうぞー」
俺、今日で運使い果たしたんじゃね?
っていうかこれ前も言った?