彼の上機嫌
◇
ちょーっとムカツクことはあったけど、行って良かった!
っていうか来てくれて良かった!
っていうか今が幸せ!
車通勤で良かった・・・!
立地が駅から5分と良いこともあり、來海には駐車場がない。
会社に車を止めたままだった俺は、店を出てすぐに別れた。
江藤さんから「送って行ってほしい」ってオーラをびしばし頂いたけど。
まぁそれをスルーして会社に戻ろうとしたら、なんと!
日辻さん、ジムの日のみ、スクーターで通勤しているらしい。
だからいっつもパンツスーツなのかな。スカート穿いてるの、見たことない。・・・脚綺麗そう。
江藤さんと山下さんは電車、刑部は徒歩で方向違いということで、俺と日辻さん、2人きり。
あーもー、マジで死ねる。
カミサマ、ありがとう!
俺無宗教だけど!
「日辻さん、來海には良く行くの?」
「そうですね、美味しいし、駅近いし便利なんでよく行きますよ」
「へぇ。俺もよく行くけど、会ったことないよね」
「あたし大体サークル帰りなんで・・・火曜と金曜の割と遅めしかいかないです」
「あぁ、なるほど。俺あんまり遅くには行かないなぁ。サークルって、スポーツ?」
「はい。男女混合のバレーボールで。刑部も入ってるんですよ」
「へぇ、意外」
「あたしがですか?刑部がですか?」
「刑部。・・・インドアっぽいっていうか」
「あーそうですね。でもアイツ、かなり運動神経良いですよ」
「それこそ意外だ」
10人中10人が意外っていうと思う。
「意外といえば、日辻さんと刑部が仲が良いのもだけどね」
「そうですか?」
「何か対極っていうか・・・アウトドアとインドアっていうか」
「あぁ・・・それよく言われますけど、あたし結構インドアです」
「そうなの?」
「活字中毒でネット中毒なんで」
「え・・・」
「あ、引きました?別に引いてもらって全然構いませんけどね」
それ言外に俺になんてどう思われても良いって言ってる?
っていうか俺もネット中毒だし、引かないけど。
「吃驚しただけだよ。俺もかなりネット中毒だし」
「そうなんですか?」
えー何か不審そう。
合せてるだけだろ、って顔に書いてるし!
俺は確かに八方美人なとこあるけどさ。
「うん、ブログつけてるし、小説読んだり、動画見たり」
事実だ。
俺ネット中毒基ニ○厨だし。
「へぇ、それこそ意外」
って、笑った!
日辻さんに笑い掛けられたのって初じゃね?
アガッた。
俺今運全部使い切ったわ。
「どんな小説読むんですか?」
「言ってもわかんないかもなー有名処だと2●時09分の地図とか、白○城とか・・・」
「ぶはっ」
「え?」
「す、すいません・・・両方分かります、っていうかファンタジー好きなんですか?」
「あ、両方知ってるんだ?うん、恋愛込みのファンタジーが好きかな。本は全然読まないんだけど」
「あたしは恋愛は別に要らないけど、ファンタジーが好きなんです。面白い小説あったら教えてください」
「いいよ。どういうファンタジーが好きなの?」
趣味が合うって好感度上がったんじゃね?
一応マニアックすぎないサイト名出してみたんだけど。
あんまりマニアック過ぎると引かれちゃうかもしんないしね。
会社に着くまでの10分間は至福だった。
帰り際も笑ってくれたし、この分なら義理チョコもらえるかも。
浮かれて家に帰って、ノートを起動する。
日課のブログを書き込むためだ。
今日分のブログを書き込んで、前日分のコメントに返信する。
ブログには、自作の弁当や夕飯、レシピなどをうpしている。
そう、料理が好きで得意なのだ。
大学時代の彼女に「女として立つ瀬がない」と振られた過去を持つ。
それ以来、彼女はいない。
しかもその上カーテンやテーブルクロスは自作である。
ミシンを使って何かを作ることや編み物も好きなのだ。
が、これは流石に家族以外誰も知らない俺の秘密。
その後ストーカー紛い事件が数件あり、予防策として半同棲の彼女がいるということにしたのだ。
この見るからに女の趣味って感じの部屋だと、どう考えてもそう誤解される。
俺はその誤解に便乗しただけだ。
それにそういう設定じゃないと、友達を部屋に上げられない。
これはちょっと不便なのだ。明らかに怪しいっていうか。
そしてもう一つ。
俺の小説の趣味は、恋愛込みのファンタジーではない。
それも好きだけど、一番好きなのは恋愛小説なのである。
それこそ自分で書いてみるくらいには。
絶対に言えない俺の秘密。
日辻さんに対する思いの丈を込めた恋愛小説だなんて。
俺マジキモイ。
投稿型小説サイトの方は、コメントや感想はほとんどない。
週末になると必ずコメントや感想をくれるのは”晴羊”さんくらいだ。
小説サイトからブログに飛んだ人で、小説サイトには週末、ブログにはほぼ毎日携帯からコメントをくれる。
底辺の俺に感想くれるとかマジ神だよな。
コメント返して、書き掛けの小説を修正する。
あー、今日は日辻さんと話せたし気分アガって進みそうだな。
これを機に日辻さんと仲良くなれっかなー。
珈琲淹れてによによ上機嫌、キーボードをたたく。
まずは明日、話しかけるぞー!