彼のホワイトデー
◇
「もしかして、日辻さんのこと狙ってる?」
「よく分かったね」
いや俺結構分かりやすいか。
志村さんにもバレバレだったしな。
「えー!日辻さんみたいな人がタイプなんですかぁ!?」
「うん。めっちゃど真ん中」
事実だ。
元々凄い好みのタイプな上に、仕事振りとか色々見てて本当に惚れたのだ。
「う~・・・それじゃ私、全然好みじゃないってことですよねぇ」
「ははは、そうだねぇ」
江藤さんと日辻さんは大分タイプが違う。むしろ真逆。
「でも私、2人が付き合うまで諦めませんから!」
「あ、戻って来るわよ」
日辻さんが席に戻ると江藤さんと山下さんがガン見する。
バレるからやめてくれw
「どうかした?」
「日辻さんは彼氏作らないの?」
「は・・・作らないんじゃなくて出来ないっていうか」
「ふぅん。ね、貫田さんはどうなの?」
「は?」
本人の前で聞くか普通!
これであり得ませんとか言われたらマジ泣きするぞ。
「山下さん、何聞いてるの。日辻さん困ってるよ」
「、そうだよ!日辻さんはそういうの苦手だもんね!」
冗談でも貫田さんなら全然OKですよ、みたいなこと言わないだろうし。
いやないです、って言われたら凹む。
「ま、そろそろでましょうか。明日も仕事だし」
折角の初デートは邪魔が入ったし、クッキーも貰ってないし、家に誘ってみた。
まだ9時半だし・・・いつも平日でも11時は余裕で過ぎるから大丈夫だろうと踏んで。
よし二人っきりタイム来た!
今日は酔ってないから変なことはしませんよ!
珈琲を入れて、炬燵で寛ぐ。
3月も中旬だが、夜と朝はまだまだ寒い。
「あの、これ・・・普通の味で申し訳ないんですが・・・」
おずおずと差し出してくるそれを受け取る。
顔がにやけそうだ。
「ありがとう」
日辻さんの手作り!ヒャッフーw
ホワイトデーっていうのが微妙だけどw
「日辻さんは今いいなぁって思う人とかいないの?」
日辻さんが固まった。
俺からこんな話題が出るとは思わなかったんだろうな。
恋愛の話とか苦手そうだし。
「えー・・・あー・・・」
何その煮え切らない返答!
いるってことか!?
ここは俺であってください!お願いします!!
「会社の人?」
「何でいるの前提になってるんですか・・・」
「はっきり言わないってことはいるんだろうなって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・黙秘」
残念。
でもあんなことがあった後も部屋に来るってことは、俺に気があるとしか思えないんだけど・・・。
自信過剰すぎるかな。
それとも本当になかったことにしてるとか!?
あり得る。だって日辻さんだし。
「その人とは付き合わないの?」
「・・・付き合う付き合わないって自分の意思だけの問題じゃないですからね」
要は相手次第ってことか?
前は全然いない感じだったし、出来たのが最近なら俺の可能性すごい高いと思うんだけどなぁ。
「それはそうだけど・・・相手にその気はなさそうなの?」
「・・・どうなんでしょう。そもそも女扱いされてないと思います」
女扱いしない。
志村さんと刑部しか思い当たる人間がいない。
まぁ日辻さんの交友関係を知っているわけじゃないんだけど。
少なくとも俺は女扱いしてるし。
「・・・日辻さんを女扱いしないだなんて、見る目のない奴だね」
手を伸ばして、彼女の髪に触れる。
さらりとして気持ちが良い。
「そんな奴やめて、俺にしなよ」
髪に触れていた手を頬に移動させる。
首筋を撫でる。
「ッ、酔って、ます?」
「酔ってないよ」
そのまま引き寄せて、口付けた。
抵抗はない。
それを良いことに何度も繰り返す。
「・・・は、・・・」
そのまま押し倒し、体に触れる。
炬燵だとやり難い。
日辻さん背中大丈夫かな。
一応厚手のラグだし、クッションもあるけど。
服の上からではなく、直接肌に触れても抵抗もなく、嫌がる素振りもない。
これはイケる!
日辻さんの想い人が元々俺なのか、俺にしておこうと思ったのかはわからない。
が、このチャンス、逃す訳がない。
まずは体から、陥落してもらおうじゃないか。