彼女と彼
◇
貫田雄大。
気に食わない。
「ね、貫田さん、偶には飲みに行きましょうよ」
「ごめんね、彼女が夕飯作って待ってるから」
社内ナンバーワン(心のマドンナ)・江藤ゆりなちゃんのお誘いを、さらりと断るこの男。
貫田雄大こそ、あたしの天敵、恋敵。
とは言っても別にあたし、レズビアンではない。
ただかわいい女の子が好きなだけだ。
その証拠に過去、男と付き合ったことはあるし、女の子に欲情したことはない。
貫田雄大、28歳、独身。
半同棲中の彼女あり。
営業2課の有望株。来期主任だという噂。
顔も整っていて、背も高い。さわやか系で仕事も出来るので女性社員に人気。
人当たりもよく、面倒見もよく、先輩は立てるので男性社員にも慕われてる。
隙がなさ過ぎて、ムカツク。
あたしのゆりなちゃんの誘いを断るだなんていい度胸。
夜道に気をつけろよ、イ○ポ野郎。
しっかし、ゆりなちゃんに見向きもしないだなんて、彼女ってどんだけ美女なんだろ。
気になる。
◇
日辻椿、25歳、独身。
大学はストレートだったので、入社3年目。
3年間同じ部署なのに、中々親しくなれない。
今時珍しい黒髪で、カッコイイ系の美人。
ちょっと変わっている人で、クールっていうかドライっていうか。
口も意外と悪い。
本が好きだって聞いたことがあるけど、ジム通いもしているって話で、インドアなのかアウトドアなのかよくわからない感じだ。
飲み会には出席するけど、少人数の集まりには参加しているのを見たことがない。
よく話しているのは刑部と1課の志村先輩。
何の話してるのかな。
内勤の社員の中でいうと、仕事は出来る。
だけど男性社員からの人気はあまりない。
きつめの顔立ちだから、取っ付き難いせいだろう。
人気がない方が、俺としては都合が良い。
そう、俺は彼女が好きなのだ。
とある理由により、彼女がいると偽装している。
そのため彼女に表だってアプローチが出来ないのがツライところだ。
まぁどちらにせよイバラの道。
だって俺は彼女に嫌われてる。
あれかな、ナンパヤロウは嫌い、的な?
江藤さんとかに囲まれてると必ずと言って良いくらい、睨まれる。
”仕事しろよ”って感じなんだろうな。
真面目な人だし・・・。
あーあ・・・。
◇
これは、貫田雄大と日辻椿の、恋愛の物語である。